星海前進   作:Jefflocka

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君もガネーシャか???????


第9話 古き魂、南より来るもの

第9話 古き魂、南より来るもの

 

 

 

 ——前回までのあらすじ。

 

 アストレア・ファミリア第一部隊、スターライト・ファランクスは、新体制最初の巡回任務として工業区へ向かった。

 

 街は暗かった。

 

 人々は怯え、店先には万引き防止の柵が置かれ、工房には破壊の跡が残っていた。

 

 その中で、エルヴィン・スミスは街を見ていた。

 

 道幅。

 

 避難先。

 

 退路。

 

 子供が逃げ込める場所。

 

 負傷者を運べる道。

 

 帰るための道。

 

 リアという少女に出会ったエルヴィンは、普段よりも分かりやすく、温かい言葉で語った。

 

 怖い時は、怖いと言っていい。

 

 泣くのに、許可はいらない。

 

 笑えたなら、かなりえらい。

 

 リュー・リオンは、その姿を見た。

 

 冷たいだけの男ではない。

 

 そう知った。

 

 その後、「エレン」と名乗る青年の男神が現れた。

 

 四百四十四ヴァリスを盗まれたと大袈裟に騒ぎ立てる彼は、単なる被害者ではなかった。

 

 アストレア・ファミリアの正義を観察する者。

 

 特にリューの怒りと迷いに興味を示す、危険な観察者。

 

 さらに十八階層では、冒険者狩りの痕跡が見つかった。

 

 ヴィトーという男は、命が壊れる瞬間に興味を示し、撤退した。

 

 リューは追おうとした。

 

 だが、エルヴィンは救助を優先した。

 

 全員は救えない。

 

 だから、救える者から救う。

 

 その現実は、リューの胸を刺した。

 

 だが最後に、リューは言った。

 

 誰にも死んでほしくない。

 

 そんな日は来てほしくない。

 

 それを甘い願いだと思った彼女に、エルヴィンは告げた。

 

 その願いを捨てるな。

 

 君の願いは、この家に必要な基準だ。

 

 その瞬間から、リューの中で、エルヴィンへの感情は変わり始めた。

 

 そして今日。

 

 オラリオの影は、さらに深くなる。

 

 

 

 

 

 本編

 

 

 

 アダマンタイト工業区。

 

 そこは、迷宮都市オラリオの中でも特に警備が厳重な区域だった。

 

 一般の魔石工房が並ぶ通りとは違う。

 

 ここで扱われているのは、冒険者の重装備、特殊炉、耐久機構、そして防壁設備に使われる高硬度素材。

 

 アダマンタイト。

 

 超硬度金属。

 

 生半可な刃も、魔法も、衝撃も通さない。

 

 少なくとも、そういう前提で設計された場所だった。

 

 工場の外壁もまた、そのアダマンタイトを含む重防壁で構成されている。

 

 盗むための素材ではない。

 

 守るための壁だった。

 

 そして、その壁が破られていた。

 

 夜明け前の薄い光の下、壁面には巨大な破孔が空いていた。

 

 砕けたのではない。

 

 削られたのでもない。

 

 正面から、叩き割られた。

 

 そんな痕跡だった。

 

 破孔の周囲には、倒れた守備隊。

 

 兜を割られた者。

 

 盾ごと吹き飛ばされた者。

 

 壁際に背中を打ちつけられ、動けなくなった者。

 

 死者は少ない。

 

 しかし、それは慈悲深かったからではない。

 

 殺す必要もないほど、一方的だったからだ。

 

 その場に、二人の冒険者が立っていた。

 

 一人は猫人の青年。

 

 鋭い目つきと、苛立ちを隠さない立ち姿。

 

 アレン・フローメル。

 

 もう一人は、巨躯の猪人。

 

 ただそこにいるだけで空気が重くなる、フレイヤ・ファミリア最強格の男。

 

 オッタル。

 

 アレンは倒れた守備隊を見下ろし、舌打ちした。

 

「第二級が混ざってる守備隊だろ、ここ」

 

「ああ」

 

 オッタルは短く答えた。

 

 彼は倒れている者たちの傷を見ていた。

 

 抜かれかけた剣。

 

 構えきれなかった盾。

 

 避ける前に打ち倒された足運び。

 

「戦闘は長くない」

 

「見りゃ分かる」

 

 アレンは壁面を見る。

 

 アダマンタイトを含む重防壁。

 

 それが、大きく口を開けている。

 

「……何だよ、これは」

 

 声に苛立ちが混じる。

 

「攻城槌でも持ち込んだか?」

 

「違う」

 

 オッタルは破孔に近づいた。

 

 指先で断面に触れる。

 

 金属を含んだ壁面は、熱で溶けたわけではない。

 

 切られたわけでもない。

 

 強引に、押し潰されている。

 

「一撃だ」

 

「一撃?」

 

 アレンの尾が揺れる。

 

「寝言は寝て言え」

 

「私は起きている」

 

「そこに返すな」

 

 アレンは額に手を当てた。

 

 だが、オッタルは冗談を言っていない。

 

 だからこそ、笑えなかった。

 

「一人でこれか?」

 

「痕跡だけなら、その可能性がある」

 

「第二級守備隊を瞬殺。ついでにアダマンタイト混じりの壁を正面から破壊。おまけに中の機構に触って消える」

 

 アレンは鼻で笑った。

 

「馬鹿げてるな」

 

「馬鹿げている」

 

 オッタルは頷いた。

 

「だが、痕跡はそう言っている」

 

「盗まれたのは壁じゃねえよな」

 

「当然だ。壁材そのものは持ち出されていない」

 

「当たり前だ。壁持って帰ったら目立つだろ」

 

「目立つ以前に、重い」

 

「だから、そこ真面目に返すな」

 

 アレンは深く息を吐いた。

 

 アダマンタイトの壁は、盗まれたのではない。

 

 壊された。

 

 中に入るために。

 

 あるいは、中の何かへ到達するために。

 

「単なる強盗じゃねえな」

 

「ああ」

 

 オッタルは工場内部へ視線を向けた。

 

「これは、準備だ」

 

「何の」

 

「まだ分からん」

 

「分からんって言葉、あんたが言うと余計に嫌なんだよ」

 

「事実だ」

 

「事実が一番腹立つ時ってあるよな」

 

 アレンは破孔の奥を睨んだ。

 

 焦げ臭いわけでもない。

 

 魔法の残滓が濃いわけでもない。

 

 ただ、力で破られている。

 

「一人でこれをやったなら、怪物だな」

 

「あるいは」

 

 オッタルは低く言った。

 

「怪物を動かす者がいる」

 

 風が吹いた。

 

 砕けた壁面の隙間から、金属の匂いが流れてくる。

 

 アレンは肩をすくめた。

 

「どっちも最悪だな」

 

「そうだ」

 

 オッタルは短く言った。

 

「最悪の入口だ」

 

 

 

 

 

 暗い地下空間。

 

 そこには、魔石の光と、錆びた鉄の匂いがあった。

 

 広い。

 

 だが、清潔ではない。

 

 湿った石壁。

 

 古い炉。

 

 荷を積まれた木箱。

 

 正規の印が押されていない魔石。

 

 古い交易路から流れ込んできた部品。

 

 そして、中央には奇妙な装置があった。

 

 それは弩に似ていた。

 

 だが、弩ではない。

 

 撃鉄に似た機構。

 

 だが、何を撃つのかは分からない。

 

 魔石を噛ませるための固定具。

 

 高硬度金属で作られた支柱。

 

 耐熱用の被膜。

 

 そして、動力を受け止めるための中枢部。

 

 まだ未完成。

 

 だからこそ、不気味だった。

 

 完成した時、それが何を起こすのか分からない。

 

 その前に、男が立っていた。

 

 オリヴァス・アクト。

 

 彼は装置を眺め、低く笑った。

 

「足りない」

 

 指先で魔石を弾く。

 

「量が足りない。純度が足りない。耐久が足りない。まったく、地上の連中は便利なものを作るくせに、管理が甘い」

 

 背後から、重い足音が響いた。

 

 石床が、わずかに鳴る。

 

 オリヴァスは振り返らない。

 

「戻ったか」

 

 闇の奥に、巨大な影があった。

 

 名は呼ばれない。

 

 顔も見えない。

 

 だが、その存在感だけで、空気が軋む。

 

 厚い肉体。

 

 積み重ねた戦場。

 

 死に損なったような静けさ。

 

 それらを纏った影だった。

 

「工場は?」

 

 オリヴァスが問う。

 

「壁は破った」

 

「守備隊は?」

 

「倒した」

 

「全員か?」

 

「殺す必要はなかった」

 

 オリヴァスは笑った。

 

「優しいな」

 

「違う」

 

 影は短く答えた。

 

「殺す価値がなかった」

 

 オリヴァスは、今度こそ振り返った。

 

「第二級を含む守備隊だぞ?」

 

「届かなかった」

 

「お前に?」

 

「壁にも、目的にも」

 

 オリヴァスの笑みが深くなる。

 

「面白い言い方をする」

 

「事実だ」

 

「お前が言うと、事実でも弔辞に聞こえるな」

 

 影は答えなかった。

 

 オリヴァスは装置に手を置く。

 

「撃鉄は組める。だが、まだ足りない。魔石も、部品も、信仰も」

 

「信仰?」

 

「人は便利だ。自分が運ぶ荷の中身を知らなくても、神の名があれば歩く。善行と信じれば、なおさらだ」

 

 影は沈黙していた。

 

「何を撃つ」

 

 低い声が問う。

 

 オリヴァスは嬉しそうに目を細めた。

 

「世界の背骨を少し叩く」

 

「叩けば?」

 

「揺れる。揺れれば、見る。見る者が増えれば、正義だの秩序だのを掲げた連中が走る」

 

「誘うつもりか」

 

「もちろん」

 

 オリヴァスは笑った。

 

「役者は舞台に上げなければ意味がない」

 

 影がわずかに動く。

 

「正義の女神か」

 

「それもいる。豊穣の女神も、道化の神も、盗人みたいに嗅ぎ回る神もいる」

 

 オリヴァスは、そこで少し声を落とした。

 

「それから、妙な異物が一つ」

 

「異物」

 

「アストレアの眷属。金髪の指揮官。何やら部隊を分け、退路を作り、街の構造を見ているらしい」

 

 影はしばらく黙っていた。

 

 そして言った。

 

「道を作る者は厄介だ」

 

「なぜ?」

 

「壊す前に、逃がされる」

 

 オリヴァスは笑った。

 

「なら、逃げ道ごと潰せばいい」

 

「それでは、見るものが減る」

 

 その言葉に、オリヴァスは一瞬だけ目を細めた。

 

「お前にも、見るものの好みがあるのか?」

 

 影は答えなかった。

 

 オリヴァスは肩をすくめ、装置へ視線を戻す。

 

「まあいい。始めるぞ」

 

 魔石の光が、撃鉄めいた機構の中で鈍く揺れた。

 

「まずは、音を鳴らす」

 

 

 

 

 

 ヘルメス・ファミリアの隠れ家。

 

 表向きは、何の変哲もない商館の一室。

 

 だが、その内側には情報が積まれていた。

 

 地図。

 

 商人名簿。

 

 荷の出入り。

 

 神々の噂。

 

 闇市の金の流れ。

 

 そして、普通なら一つに繋がらないはずの小さな異変。

 

 ヘルメスは椅子に座り、頬杖をついていた。

 

 目の前には、アスフィ・アル・アンドロメダ。

 

 彼女は疲れた顔で報告書を置いた。

 

「最悪の一歩手前です」

 

「出だしから嫌だねぇ」

 

 ヘルメスは苦笑した。

 

「せめて、悪くない話から始めてくれないかな」

 

「ありません」

 

「即答か」

 

「アダマンタイト壁面が破られました」

 

 ヘルメスの指が止まる。

 

「……壁面?」

 

「はい。盗まれたわけではありません。工場の外壁です。アダマンタイトを含む超硬度防壁が、正面から破壊されています」

 

「正面から」

 

「はい」

 

「それは、普通の悪い話じゃないね」

 

「ですから、最悪の一歩手前です」

 

 ヘルメスは目を細めた。

 

「守備隊は?」

 

「第二級冒険者を含む守備隊が、ほぼ瞬時に制圧されています」

 

「殺された?」

 

「死者は限定的です。ですが、戦闘不能にされています。抵抗らしい抵抗はできていません」

 

「加減したのか、必要がなかったのか」

 

「後者に見えます」

 

「嫌な報告だ」

 

「私も嫌です」

 

 アスフィは眼鏡を押し上げる。

 

「フレイヤ・ファミリアも現場に入りました。おそらくオッタルとアレンです」

 

「それなら、向こうも同じ結論に近づくだろうね」

 

「襲撃者は一人の可能性があります」

 

 ヘルメスは笑った。

 

 だが、楽しそうではなかった。

 

「一人でアダマンタイト壁を破るか。オラリオは今日も刺激的だ」

 

「冗談にしないでください」

 

「冗談にしないと胃が痛む」

 

「神に胃痛はありますか?」

 

「気分の問題だよ」

 

 アスフィは次の書類を置いた。

 

「別件です。魔石の裏取引が増えています。量が多く、流通経路が複雑です。商人が複数噛んでいます」

 

「何段?」

 

「少なくとも三段階」

 

「丁寧だね」

 

「悪い意味で」

 

 ヘルメスは地図を見る。

 

「用途は?」

 

「現時点では不明です。ただし、撃発機構、あるいは大型装置に転用可能な部品の流れと重なります」

 

「撃発機構か」

 

「さらに、複数の信徒組織が外部活動を増やしています」

 

「信徒?」

 

「はい。表向きは炊き出し、巡礼、労働支援、孤児救済、地域奉仕。ですが、一部は荷の移動を隠す目くらましの可能性があります」

 

 ヘルメスはゆっくりと息を吐いた。

 

「善行の皮を被せているわけだ」

 

「はい」

 

「厄介な神の匂いがするね」

 

「私もそう見ています」

 

「闇派閥の背後に、神の後ろ盾か」

 

 ヘルメスは笑う。

 

「最悪の玄関前じゃないか」

 

「私は先ほど、最悪の一歩手前と言いました」

 

「君は優しいなぁ」

 

「表現の差です」

 

「いや、僕ならもっと悲観的に言う」

 

 アスフィは少しだけ目を細めた。

 

「それと、アストレア・ファミリアについて」

 

「おや。正義の女神のところかい」

 

「最近、動きが変わっています。三部隊制を導入したようです」

 

「例の金髪の作戦補佐か」

 

「はい。エルヴィン・スミス」

 

「道の人だね」

 

「その呼び名は何ですか」

 

「子供の噂は侮れないよ」

 

「子供の噂を情報網に混ぜないでください」

 

「時々、神より鋭いからね」

 

 アスフィは軽く息を吐いた。

 

「それと、リオンについて」

 

「リオン?」

 

「リュー・リオンです。私の友人です」

 

「ああ、アストレアの疾風か。君、彼女をそう呼ぶんだったね」

 

「はい」

 

「で、そのリオンがどうしたんだい?」

 

 アスフィは少しだけ言葉を選んだ。

 

「最近、エルヴィン・スミスと行動を共にする機会が増えています」

 

「へえ」

 

 ヘルメスの口元が、分かりやすく緩んだ。

 

「仲良く?」

 

「任務上です」

 

「本当に?」

 

「ヘルメス様」

 

「はいはい、続けて」

 

「……リオンの様子が、少し変わっています。以前より、判断に迷いを見せる。ですが、それは悪い変化ではないようにも見えます」

 

「恋かな?」

 

「報告を終了します」

 

「ごめんごめん。冗談だよ」

 

「冗談にしては、かなり楽しそうでした」

 

「神だからね」

 

「理由になっていません」

 

 ヘルメスは笑った。

 

 それから、地図に視線を落とす。

 

「アストレアの子たちは、まっすぐだ。まっすぐすぎる。だから折れる時は派手に折れる」

 

「エルヴィン・スミスは、その折れやすさを補強しているように見えます」

 

「補強か」

 

 ヘルメスは小さく呟く。

 

「なら、壊したがる者も出る」

 

「はい」

 

「哀れだね」

 

「誰がですか」

 

「壊したがる者も。壊されまいと走る者も。そして、善意の名で荷を運ばされる者も」

 

 ヘルメスは、笑みを浮かべたまま目だけを冷やした。

 

「みんな、自分が何の舞台に立たされているのか分かっていない」

 

 

 

 

 

 神々の会合。

 

 と言っても、格式張った神会ではない。

 

 場所は高級酒場の奥部屋。

 

 丸卓。

 

 高価な酒。

 

 外には厳重な人払い。

 

 中には三柱の女神。

 

 アストレア。

 

 フレイヤ。

 

 ロキ。

 

 そして、アストレアの斜め後ろに一人の眷属が立っていた。

 

 エルヴィン・スミスである。

 

 ロキは開口一番、半眼になった。

 

「で、なんでこいつまでおんねん」

 

 アストレアは穏やかに微笑む。

 

「彼にも聞いてもらった方が良いと思ったの」

 

「神の会合に眷属同伴って、真面目か」

 

「真面目よ」

 

「知っとるわ!」

 

 エルヴィンは肩肘張った様子もなく、室内を一通り見てから言った。

 

「他の神の考え方も覚えておいて損はない。アストレア様と違う見方をする相手がいるなら、聞いておきたい」

 

 ロキは片眉を上げた。

 

「おう、神を教材扱いか?」

 

「教材ではありません。参考例です」

 

「もっと悪いわ」

 

 フレイヤが小さく笑った。

 

「あなたがエルヴィン・スミスね」

 

「そうだ」

 

 エルヴィンは自然に答えた。

 

「アストレア・ファミリア、ブラックスター・ヴァンガード所属。作戦補佐をしている」

 

「さっきまでの話だと、もっと堅物かと思っていたわ」

 

「堅くする必要がある場面ではそうする。今は、そうでもない」

 

「ふふ」

 

 フレイヤは楽しそうに目を細めた。

 

「面白いわね」

 

 ロキが酒杯を置く。

 

「フレイヤに面白い言われたら、だいたい厄介やぞ」

 

「厄介かどうかは、相手次第だ」

 

「神相手によう言うわ」

 

 エルヴィンは動じない。

 

 ロキはその態度に、少しだけ目を細めた。

 

 怯えていない。

 

 媚びてもいない。

 

 神を軽く見てもいない。

 

 ただ、相手として見ている。

 

 それが妙に腹立たしく、同時に少しだけ気に入らなかった。

 

 フレイヤは、じっとエルヴィンを見た。

 

 いつものように、魂を見る。

 

 その色。

 

 輪郭。

 

 揺らぎ。

 

 そして、彼女の視線が、わずかに止まった。

 

「……あなた」

 

 その声に、アストレアが静かに視線を向けた。

 

 ロキもまた、フレイヤを見る。

 

「古いわね」

 

 フレイヤは言った。

 

「体は若い。でも魂が若くない。何度も戦場の匂いを浴びて、何度も誰かを置いてきた魂」

 

 室内の空気が変わった。

 

 エルヴィンは、否定しなかった。

 

 ただ、静かにフレイヤを見返す。

 

「分かるのか」

 

「ええ。私には見えるもの」

 

「なら、隠す意味は薄いな」

 

 ロキの目つきが変わった。

 

「ちょい待ち。どういうことや」

 

 アストレアは、何も言わなかった。

 

 ただ、エルヴィンを見る。

 

 責める目ではない。

 

 問う目だった。

 

 エルヴィンは少しだけ息を吐いた。

 

「話しておいた方が良さそうだ」

 

「エルヴィン」

 

 アストレアの声は穏やかだった。

 

「無理に話す必要はないわ」

 

「いずれ必要になる」

 

 エルヴィンはそう答えた。

 

「それに、神の前で嘘を重ねるよりは、一度で済ませた方がいい」

 

「えらい度胸やな」

 

 ロキが言う。

 

「三柱の前で秘密を白状する眷属とか、そうそうおらんで」

 

「なら、記憶に残る」

 

 エルヴィンは淡々と言った。

 

 フレイヤが笑った。

 

「そういうところ、本当に面白いわ」

 

 エルヴィンは丸卓の前へ一歩出た。

 

 アストレアは止めなかった。

 

 ロキも、フレイヤも、黙って見ている。

 

「私は、この世界で生まれた人間ではない」

 

 第一声は短かった。

 

 だが、それだけで空気が変わった。

 

「かつて、壁に囲まれた世界にいた。人類は壁の内側で生きていた。外を知らず、外を恐れ、外へ出る者を愚かだと笑った」

 

 エルヴィンの声は静かだった。

 

 しかし、不思議と耳に残った。

 

「私は、その壁の外を見たかった。世界の真実を知りたかった。そのために兵を率いた。多くを死地へ送った。多くが戻らなかった」

 

 アストレアの指が、わずかに動く。

 

 ロキは黙っていた。

 

 フレイヤの瞳は、深く沈んでいる。

 

「私は英雄ではない。人々のためだけに戦ったわけでもない。私の中には、私自身の夢があった。知りたいという欲があった。その欲を、兵たちの命と同じ天秤に乗せた」

 

 言葉は重い。

 

 だが、飾っていない。

 

「それでも進んだ。進ませた。誰かが前へ進まなければ、死者の意味まで地面に沈むと思ったからだ」

 

 エルヴィンは三柱を見る。

 

「そして私は死んだ」

 

 誰も口を挟まなかった。

 

「死んだはずだった。だが、ここにいる。記憶も、罪も、願いも、消えずに残っている」

 

「……それで」

 

 ロキが低く問う。

 

「今度は何をする気や」

 

 エルヴィンは即答した。

 

「帰る道を作る」

 

 ロキの目が細くなる。

 

「壁の外やなくて?」

 

「外を目指す者は、ここにも大勢いる。ダンジョンへ潜る者、神の思惑に巻き込まれる者、正義を掲げて走る者。だが、帰る道を軽く見る者が多い」

 

 エルヴィンは、言葉を続けた。

 

「私は前の生で、多くを帰せなかった。だから今度は、進むための道だけではなく、戻るための道を作る」

 

 アストレアは静かに目を伏せた。

 

 フレイヤは息を吐くように笑った。

 

「古い魂ね。そして、まだ燃えている」

 

「燃え尽きてはいない」

 

「ええ。だから美しい」

 

 ロキがうんざりしたように言う。

 

「フレイヤの美しいは、信用ならんわ」

 

「失礼ね」

 

「事実や」

 

 エルヴィンはロキを見た。

 

「あなたはどう見る?」

 

「あ?」

 

「今の話を聞いて、ロキ様は私をどう見る?」

 

 ロキはしばらく黙った。

 

 そして、口の端を上げた。

 

「胡散臭い」

 

「妥当だ」

 

「自分で言うなや」

 

「事実だ」

 

「ほんま腹立つな、あんた」

 

 ロキは酒杯を置いた。

 

「けど、嫌いやない。自分の綺麗なとこだけ見せる奴よりは、よっぽどマシや」

 

「評価として受け取る」

 

「褒めとらん」

 

「だが、参考になる」

 

「何がや」

 

「ロキ様は、言葉の表面より矛盾を見る。アストレア様は願いを見る。フレイヤ様は魂を見る」

 

 エルヴィンは自然に言った。

 

「三者とも、見るものが違う。だから、意見を聞く価値がある」

 

 ロキは一瞬黙り、次に大きく笑った。

 

「おもろい! こいつ、神を並べて分析しよった!」

 

 フレイヤは微笑む。

 

「私は気に入ったわ」

 

「奪わないでね」

 

 アストレアが静かに言った。

 

 フレイヤは楽しげに首を傾げる。

 

「アストレアの子でなければ、奪っていたかもしれないわね」

 

 部屋の空気が、また少し止まる。

 

 エルヴィンは落ち着いて言った。

 

「移籍する理由がない」

 

 ロキが噴き出した。

 

「そこも即答かい!」

 

「所属を曖昧にする理由もない」

 

「ほんま、面白い男やな」

 

 アストレアは微笑んだ。

 

 その微笑みは、少し誇らしげだった。

 

 ロキはふと、本題を思い出したように指を鳴らした。

 

「そうや。本題や。アストレア、あんたら最近、孤児院で子供の面倒見たり、商店街の手伝いしたり、孤児らの力まで借りてスープ作って回っとるらしいな」

 

「ええ」

 

 アストレアは頷く。

 

「必要としている人がいるもの」

 

 ロキは心底嫌そうな顔をした。

 

「自己満足の偽善やな。反吐が出るわ」

 

 エルヴィンはロキを見た。

 

 だが、アストレアは怒らなかった。

 

 ただ静かに言う。

 

「そうかもしれないわね」

 

「否定せんのかい」

 

「完全には否定できないもの。誰かを助けたいという気持ちには、自分がそうしたいという満足も混じるわ」

 

 ロキは目を細める。

 

 アストレアは続けた。

 

「でも、それで温かいスープを飲める子がいるなら、私はその偽善を捨てない」

 

 フレイヤが微笑んだ。

 

「私は好きよ。そういうところ」

 

「やろなあ」

 

 ロキは肩をすくめる。

 

「フレイヤは綺麗なもんも、歪なもんも好きやからな」

 

「アストレアの正義は綺麗よ。綺麗すぎて、時々危ういけれど」

 

「せやから、うちは嫌いやねん」

 

 ロキは酒杯を置く。

 

「綺麗な旗ほど、汚したがる奴が寄ってくる」

 

「既に寄ってきている」

 

 エルヴィンが言った。

 

 ロキの視線が動く。

 

「へえ」

 

「工業区、十八階層、アダマンタイト工場。点は増えている。まだ線とは断定できないが、無関係と見るには材料が多い」

 

「さっきより口調が雑になったな」

 

「こちらの方が話しやすいなら合わせる」

 

「いや、合わせ方が怖いわ」

 

 フレイヤが笑う。

 

「あなたは、神の善意をどう見るの?」

 

「善意そのものは否定しない」

 

 エルヴィンはフレイヤを見る。

 

「だが、善意は人を動かす。人が動けば荷も動く。金も動く。情報も動く。だから善意を隠れ蓑にする者が出る」

 

「では、アストレアの善行も危険?」

 

「危険だ」

 

 アストレアは静かに聞いていた。

 

 エルヴィンは続ける。

 

「ただし、危険だからやめるべきだとは思わない。必要なのは、善行をやめることではなく、善行の流れを誰に利用されているか見ることだ」

 

 ロキが目を細めた。

 

「つまり、善意にも見張りを置けってか」

 

「ああ」

 

「嫌な眷属やな」

 

「生き残るには必要だ」

 

 フレイヤは静かに笑った。

 

「あなたは、アストレアの正義を疑わない。でも、その正義が利用される可能性は疑うのね」

 

「アストレア様の正義そのものを疑えば、私はこの家にいる意味を失う。だが、その正義に群がる者を疑わなければ、誰かが死ぬ」

 

 部屋が静かになった。

 

 アストレアの目が、わずかに柔らかくなる。

 

 ロキは酒杯を揺らした。

 

「ええ返しやん」

 

「覚えておく」

 

「何をや」

 

「ロキ様は、嫌いと言いながら見捨てない」

 

 ロキの口元が止まる。

 

 フレイヤが楽しそうに笑った。

 

「言われているわよ、ロキ」

 

「うっさいわ」

 

 その時、部屋の外から、やたら大きな声が響いた。

 

「俺がガネーシャだ!!!!!」

 

 全員が止まった。

 

 ロキが無表情で言う。

 

「出禁や」

 

 フレイヤが微笑む。

 

「出禁ね」

 

 アストレアも困ったように笑った。

 

「今日は……少し声が大きすぎるものね」

 

 エルヴィンは扉の方を見た。

 

「今の声量で、周囲三部屋に会合の存在が漏れた可能性がある」

 

「せやから出禁や言うとるんや!」

 

 ロキは机を叩く。

 

「真面目に追い打ちすんな、道の人!」

 

「その呼称は正式役職ではない」

 

「そこはもうええ!」

 

 会合は、妙な空気のまま続いた。

 

 ロキは、ふと真顔に戻る。

 

「アスフィから聞いた。信徒を大量に動かして、外部活動させとる連中がおる。炊き出し、巡礼、労働支援。表向きは善行や」

 

 アストレアの表情が引き締まる。

 

「外部活動……」

 

「ただの善行ならええ。でも裏で魔石が動いとる。商人も噛んどる。しかも南の方で妙な動きがある」

 

 フレイヤが目を細める。

 

「南?」

 

「オラリオのはるか南方。デタイン」

 

 エルヴィンは、その地名を頭に置いた。

 

 デタイン。

 

 南方。

 

 魔石。

 

 商人。

 

 信徒。

 

 撃鉄装置。

 

 魔石工場。

 

 妖精の森。

 

 大聖樹。

 

 点が増える。

 

 まだ線ではない。

 

 だが、線になるための材料は揃い始めている。

 

「何かを集めている」

 

 エルヴィンは言った。

 

 ロキが彼を見る。

 

「何を?」

 

「現時点では不明だ。魔石、特殊部品、人員、信仰、移動経路。目的は一つとは限らない」

 

「嫌なこと言うなぁ」

 

「楽観材料がない」

 

「ほんま嫌なこと言うなぁ!」

 

 アストレアが静かに問う。

 

「エルヴィン。あなたは、この件をどう見る?」

 

 エルヴィンは少しだけ考えた。

 

「闇派閥の単独行動ではない可能性がある」

 

 部屋が静かになった。

 

「背後に、神がいるかもしれない」

 

 ロキの目が細くなる。

 

 フレイヤは、笑みを浮かべたまま黙っている。

 

「しかも、その神は表に出る気がない」

 

 エルヴィンは続けた。

 

「自分の名ではなく、信徒、商人、善行、流通、工場、遠方拠点を使っている。直接戦うより、構造を作っている」

 

「構造を作る神、か」

 

 ロキは嫌そうに笑った。

 

「最悪やな」

 

「ああ」

 

 エルヴィンは頷いた。

 

「見えない敵ほど、退路を潰すのが早い」

 

 

 

 

 

 同じ頃。

 

 ヘルメスは、別の地図を広げていた。

 

 オラリオから遠く離れた南方。

 

 デタイン。

 

 砂と岩の道。

 

 小さな集落。

 

 古い交易路。

 

 長らく使われていなかった倉庫群。

 

 その周辺で、商人が動いていた。

 

 正規の荷ではない。

 

 魔石。

 

 鉱石。

 

 木箱。

 

 用途不明の金属部品。

 

 夜にだけ動く荷馬車。

 

 祈りを口実に移動する者たち。

 

 慈善を名目に宿を借りる一団。

 

 それらが、少しずつ、同じ方向へ集まっている。

 

「哀れだね」

 

 ヘルメスは地図を見ながら呟いた。

 

 アスフィが隣で眉をひそめる。

 

「またですか」

 

「うん」

 

「今度は誰が哀れなのですか」

 

「集めている者も。集められている者も。自分が何に使われるか知らない者も。知っていて、まだ引き返せると思っている者も」

 

 ヘルメスの指が地図の上を滑る。

 

 魔石工場。

 

 撃鉄装置。

 

 妖精の森。

 

 大聖樹。

 

 デタイン。

 

 商人の裏取引。

 

 信徒の外部活動。

 

 闇派閥。

 

 そして、その背後にいるかもしれない厄介な神。

 

「線が見えてきましたね」

 

 アスフィが言う。

 

「まだ細いけどね」

 

 ヘルメスは笑った。

 

「でも、細い線ほど切れにくい時がある」

 

「どうしますか」

 

「知らせるべき相手には知らせる」

 

「アストレアですか」

 

「彼女たちは走るからね」

 

「走りすぎます」

 

「だから、今は道の人がいる」

 

 アスフィは少しだけ黙った。

 

「エルヴィン・スミスを信用しているのですか」

 

「信用はしていないよ」

 

 ヘルメスは笑う。

 

「でも、彼は道を見る。道を見る者は、罠にも気づく」

 

「気づいた上で進む可能性もあります」

 

「それが一番厄介だね」

 

 ヘルメスの笑みが、薄くなる。

 

「英雄になりたくない者ほど、英雄の真似事をしてしまう」

 

 

 

 

 

 夜。

 

 オラリオの路地は、昼よりも音が多い。

 

 酒場の喧騒。

 

 荷車の軋み。

 

 商人の小声。

 

 どこかで笑う冒険者。

 

 どこかで泣く子供。

 

 その全てを、薄い闇が包んでいた。

 

 リュー・リオンは、一人で歩いていた。

 

 本来なら、単独行動は避けるべきだった。

 

 だが、巡回経路の確認と、昼間の聞き込みで漏れた情報の再確認。

 

 それだけなら、長くはかからない。

 

 そう判断した。

 

 判断したはずだった。

 

「やあ」

 

 路地の先で、声がした。

 

 軽い声。

 

 芝居がかった声。

 

 聞き覚えのある声。

 

 リューの足が止まる。

 

 薄暗い街灯の下。

 

 青年が立っていた。

 

 外套を羽織り、空っぽの手をひらひらと振っている。

 

「また会ったね、リオン」

 

 エレン。

 

 そう名乗った男神。

 

 リューの指が、剣の柄へ伸びた。

 

「……何の用ですか」

 

 エレンは微笑む。

 

「今夜は、四百四十四ヴァリスを盗まれてはいないよ」

 

「なら、去ってください」

 

「冷たいな」

 

「あなたに温かくする理由がありません」

 

「あるよ」

 

 エレンは一歩、闇から出た。

 

「君が、少し変わったから」

 

 リューの目が細くなる。

 

「何を言っているのですか」

 

「君の怒りの色が変わった」

 

 エレンは楽しそうに言った。

 

「裁くだけの色じゃない。守りたいものが増えた色だ」

 

「……」

 

「誰の影響かな」

 

 リューの胸が、わずかに跳ねた。

 

 エレンは、それを見逃さなかったように笑う。

 

「おや」

 

「黙りなさい」

 

「いいね」

 

 エレンは囁くように言った。

 

「やっぱり、君は面白い」

 

 夜風が吹いた。

 

 リューは剣に手をかけたまま、目の前の男神を睨む。

 

 エレンは、ただ楽しそうに立っている。

 

 オラリオの南で何かが集まり始め。

 

 工場では壁が破られ。

 

 神々は互いを疑い。

 

 商人たちは魔石を流し。

 

 闇の背後には、厄介な神の影が差す。

 

 そして、リューは一人、危険な観察者と向き合っていた。

 

 星屑の庭の正義が、再び試されようとしていた。

 

 第9話 古き魂、南方より来るもの 完




あとがき

エルヴィン・スミス

今回、神々の会合に同伴しました。
理由は本人曰く、

「他の神の考え方も覚えておいて損はない」

とのこと。
神を教材扱いするな。
いや、本人は教材ではなく「参考例」と言っています。
もっと悪いです。
しかもフレイヤに魂の古さを見抜かれた結果、アストレア・フレイヤ・ロキの前で前世の話をする羽目になりました。
普通なら、
神三柱の前で前世カミングアウト
なんて人生最大級の緊張イベントですが、エルヴィンはわりと淡々としていました。
この人の中ではたぶん、
必要な情報開示
くらいの扱いです。
胆力が高いのか、感覚が壊れているのか。
おそらく両方です。
あと、「道の人」は正式役職ではありません。
本人は否定しています。
でも多分、次回以降も誰かに呼ばれます。


アストレア

今回も美しい。
しかもロキに、

「自己満足の偽善やな。反吐が出るわ」

と言われても怒らず、

「そうかもしれないわね」

と受け止めました。
強い。
慈愛が強い。
芯も強い。
アストレアのすごいところは、善意に自己満足が混じることを否定しないところです。
でも、
それで温かいスープを飲める子がいるなら、
その偽善は捨てない
と言える。
これは女神。
ロキは嫌そうな顔をしていますが、たぶん内心では少しだけ評価しています。
ただし絶対に口には出しません。


フレイヤ

エルヴィンを見ました。
そして言いました。

「古いわね」

魂鑑定士かな?
いや、フレイヤなので見えるんでしょう。
そしてそのままエルヴィンを気に入りました。
危険です。
フレイヤが「面白い」と言った時点で、だいたい安全ではありません。
今回も、

「アストレアの子でなければ、奪っていたかもしれないわね」

と言っています。
発言が強すぎる。
でもエルヴィンは即答。

「移籍する理由がない」

強い。
眷属の移籍勧誘を、内定辞退みたいに処理する男。
それがエルヴィン・スミスです。


ロキ

今回のツッコミ担当。
エルヴィンが何か言うたびに、だいたいロキが被弾しています。
エルヴィン:
「神にも胃痛があるのか」

ロキ:
「気分や気分!」
かわいそう。
あとガネーシャの、

「俺がガネーシャだ!!!!!」

に対して即座に、

「出禁や」

と判定しました。
判断が早い。
ただし、エルヴィンがそこに、

「今の声量で、周囲三部屋に会合の存在が漏れた可能性がある」

と真面目に追撃したため、ロキの胃痛は増えました。
神に胃痛があるかどうかは不明ですが、ロキにはたぶんあります。


ガネーシャ

出禁です。
以上です。
……いや、登場時間ほぼ一瞬なのに存在感が強すぎます。
扉の向こうから、

「俺がガネーシャだ!!!!!」

と叫んだだけで、三女神会合の空気を全部持っていきました。
出番は少ない。
声量は多い。
たぶん、会合に呼ぶと秘密会談が秘密ではなくなります。


アレンとオッタル

冒頭からアダマンタイト工場の壁面破壊現場を見に来ました。
アレンはキレています。
オッタルは淡々としています。
この二人の会話、だいたいこうです。
アレン:
「寝言は寝て言え」

オッタル:
「私は起きている」

アレン:
「そこに返すな」
オッタル、強い。
物理的にも強いし、返答も強い。
アレンはたぶん毎日大変です。
なお、アダマンタイトは盗まれたのではありません。
壁が破られただけです。
「だけ」と言うには事件が大きすぎます。


オリヴァス・アクト

不穏担当。
何か作っています。
撃鉄装置っぽい何かです。
何をする気なのかは、まだ秘密です。
でも本人が楽しそうなので、たぶんろくでもないです。
あと、名前の出ない巨漢との会話が妙に重い。
オリヴァス:
「優しいな」

巨漢:
「違う。殺す価値がなかった」
怖い。
会話の温度が地下室より低い。


ヘルメス

今回も情報を集めています。
そしてすぐ言います。

「哀れだね」

ヘルメスの「哀れだね」は、だいたいろくでもない情報が繋がり始めた合図です。
アスフィからの報告内容は、
・アダマンタイト壁面破壊
・魔石裏取引
・信徒の外部活動
・デタイン方面の不穏な動き
・アストレア・ファミリアの変化
・リオンの様子が変
多い。
アスフィの仕事量が多い。
そろそろヘルメスはアスフィに休暇をあげてください。
多分あげません。


アスフィ

今回、リューを「リオン」と呼びました。
アスフィとリューは友人です。
なので、リオンの変化にもちゃんと気づきます。
ただしヘルメスに、

「恋かな?」

と茶化されて、

「報告を終了します」

と即終了しようとしました。
正しい判断です。
ヘルメスに恋愛話を渡すと、絶対に遊ばれます。
アスフィは賢い。


リュー・リオン

最後にエレンと単独遭遇しました。
危ない。
本当に危ない。
第8話でエルヴィンに本格的に惹かれ始めたところを、エレンに見抜かれかけています。
エレンはこういうところを見逃さないタイプです。
エレン:
「君の怒りの色が変わった」

リュー:
「黙りなさい」
リュー、頑張れ。
ちなみにリュー本人はまだ、
これは尊敬です。
これは信頼です。
これは任務上の判断です。
で押し通す予定です。
無理があります。


エレン

危険な観察者です。
今回もリューの前に現れました。
四百四十四ヴァリスは盗まれていません。
よかったですね。
でも本人はたぶん、お金よりリューの反応を見に来ています。
やっていることが完全に不審者です。
ただし神なのでさらに厄介です。
エルヴィンが見たら、また警戒対象が一段階上がります。


今回のまとめ

第9話は、ざっくり言うとこうです。
アレン:
キレる。

オッタル:
壁を見る。

オリヴァス:
何か作る。

ヘルメス:
哀れがる。

アスフィ:
働きすぎる。

ロキ:
ツッコむ。

フレイヤ:
エルヴィンを気に入る。

アストレア:
美しい。

ガネーシャ:
出禁。

エルヴィン:
前世を白状する。

リュー:
エレンに捕まる。
情報量が多い。
でも一番重要なのはこれです。
南方デタインで、何かが集まっている。
そしてもう一つ。
リューの恋心も、静かに育っている。
本人は認めません。


次回

次回、リューはエレンとの単独遭遇をどう切り抜けるのか。
エルヴィンは「道の人」という不名誉なのか名誉なのか分からない呼び名を回避できるのか。
ガネーシャは出禁を解除されるのか。
多分されません。
          第9話 古き魂、南方より来るもの 後書き完
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