もうお隣さんですらなくなってしまった壁ドンおじさん
一般人視点だとなんで?どうして?となることが多いのは仕方ない
「うそだろ……」
あのコラボライブから少し経ちかぐやいろPチャンネルから出された情報は思わず魂が飛びだすかと思う程の大事件であった
「推しが卒業しちまう……」
かぐやちゃん、まさかの電撃引退
嘘だろ?まだ
もっとこれから
とにかく考えるよりも先にファンとして卒業ライブのチケットは応募し当日の有給申請をもぎ取った
SNSでフレンド達やかぐやいろPチャンネル関連の様子を見てみればどこもかしこも阿鼻叫喚、悲鳴と嘆きの大合唱。まぁ、俺もその1人なんだが
とにかく本当に早すぎるお別れの発表に皆驚きと哀しみに暮れてるわけだ
それでもこの短い期間、最後まで応援は全力でする、してみせる
だからチケット当たってくださいマジで!!
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祈りが届いたのか当選したチケットを表示し客席に座りペンライトを装備する
KASSENのフィールドに作られたライブ会場なんてのは初めてだがこれもトップを飾ったライバー、かぐやちゃん引退への手向けのサービスというやつものだろうか
これが推しを見れる最後の機会だと思うと涙が出そうになるがこのライブの間は我慢だ。最後までかぐやちゃんのライブをしっかり目に焼きつけて後でおもいっきり泣く。いつも楽しそうにしてたあの子には最後も笑顔で送り出してあげたいから
かぐやちゃんが天守閣に現れるとそれに続くようにKASSENの登場形式で空から桃に入っていたいろP、まみまみ、LOKA、黒鬼の3人と計6人がKASSENのステージへと現れた
関係が深かったコラボ相手の友情出演、ライブの演出…なのか?
けれどそれを気にする暇もなくかぐやちゃんの笑顔と共に音楽が流れライブが始まる
それと同時にKASSENの敵陣営に現れたのは七福神を想起させるどこか幻想的な姿のエネミー達
かぐや姫に因んでの月からの遣いということだろうか
あのコラボライブの時にも現れたぼんぼり頭も大量に引き連れ現れたそれらといろP達との戦いが始まった
ああ、くそっ!視点が2つほしい!パソコンみたく2窓させてくれ!
キラキラと煌めいて全力で楽しむかぐやちゃんのライブも、鬼気迫る雰囲気で月の遣い達相手に抵抗するいろP達の戦いもどっちも目を離したくない
幾つも表示されている大画面には映されてはいるものの今は分身ができるヤチヨがうらやましい気分だ。俺も2人に増えて片方ずつに集中して見たい
歌が響く、戦いの火花が散る
歌が進むにつれていろPや黒鬼達がどんどんと押され削られていく
最後のライブを最高に楽しむかぐやちゃん、決死の表情で彼女を守ろうと戦ういろP
正反対の表情を浮かべながら全力を尽くす2人の姿に何故だか我慢していた涙が、我慢しなきゃいけなかったそれが勝手に溢れてしまう
これは演出だ。演出だとわかってる。そのはずなのにこれまでの彼女らの思い出と共に頑張れと応援したい気持ちが溢れだしてくる
そんな折にKASSENのステージで表示される黒鬼の3人のチートモードの警告
(演出の為にそこまでするのか!?)
KASSENでもトップクラスの違法行為なチートモード
負けそうになった時の最後の切り札ともとれるがプロゲーマーで人気もトップクラスの黒鬼がそれを使うのは色んな意味で洒落にならない。正式な試合以外であろうとそれを使ったという烙印が押されてしまえば炎上はもちろん、大会への出禁だってありえる
なのにそれを惜しげもなく使い月の使者達への抵抗を強める3人に本当に演出なんだよな?という疑念が湧いてくるがそれについて考えるのは後だ
歌が終盤に入りかぐやちゃんの元へと一番大きな月の使者が向かう
それを追いかけるいろPだったが彼女を阻むように天守閣の前へと壁となって現れる大量の使者達
かぐやちゃんの歌が終わり月の使者が彼女の元へとたどり着く
いろPは天守閣の前で囲まれ立ち尽くしただ見ていることしかできない
お別れの時間が来てしまったんだとわかった
俺達だけじゃない、いろP…いろはちゃんともお別れしてしまう時間が
でなければあの子はあんな顔をしない。あんな表情を浮かべない
ここを卒業したとしても現実で"またね"を言えるくらいのお別れならあそこまで哀しい顔になるわけがない
かぐやちゃんが、かぐや姫が天に昇ってゆく
月の使者達と共に、最後の笑顔で感謝とお別れを言って消えていった
そうしてかぐや姫が光に消えていったことで卒業ライブは終わりを告げた
周りの観客達が演出を褒めたりすごかったと感想を喋り始める中で俺は叫ばずにはいられなかった
「あ゛りがとおおおお!!いつか、いつかまたがえっできてぐれぇぇぇぇ!!」
/
ドン!!
\
「ァ、ゴメンナサイッ!」
しまった、ついリアルでも叫んでしまっていた
初めての壁ドンされこんな驚くものなのかと思い自分の過去の罪を思い出していろPへの罪悪感がまた吹き上がってくる
意識をツクヨミに戻せば周りの人も突然叫んだ俺に対してびっくりしたりうんうんと頷いたりしてる
気まずくなって周りの人に小さく謝罪をしてその場を去ると感想会を約束していたフレンド達の元へ行く
どうやら先程の俺の叫びを聞いていた者も何人かいたようでからかわれながらもフレンドのホームで感想会に
かぐやちゃんの歌も踊りも最高だった、演出のいろPや黒鬼達の戦闘ヤバかったと皆が思い思いの感想を言い合う
感想は卒業ライブのものからいつの間にかかぐやちゃんといろPの思い出話に変わっていった
最初の動画はあんなだったのにこんな成長して…とかずっと楽しそうに配信してたよなとかたった数ヶ月の間に残していってくれた鮮烈過ぎる思い出を皆で語り明かす
そんな中で1人が呟いた
"帰ってきてくれないかな"
その一言につい返してしまった
"いろPが多分一番それを思ってるよ"
俺の一言でその場にいた全員が口をつぐんでしまった
かぐやちゃんが去っていく時のあのいろPの顔を見た者も、見れてはいなかった者も全員なんとなくわかっていたことだ
かぐやちゃんの卒業で一番辛かったのはずっと一緒にいたいろPだと
ただのファンでしかない自分達ではわからない程の想いを彼女はきっと抱えていただろう
多分リアルでも別れなければならない程の事でもあったのだろう
彼女らの事情を何も知らない自分は想像しかできない
けれど隣の部屋であんなにも楽しそうに過ごしていた2人が離ればなれになったということを考えるとまた涙が溢れてしまってきていた
「なに泣いてんすか、ぐすっ、こっちまで泣きたくなるじゃないすか」
「うああああん!かぐやちゃぁぁぁん!!」
「どぼしで月にいっぢまうん゛だよおおおおお!!」
泣いてしまった俺を皮切りに感想会は大号泣の嵐に
なにせここにいるのは揃いも揃ってかぐやちゃんファンの古参組
まだ無名の頃から彼女に入れ込み追っかけてきたガチファン共
最推しの卒業からここまで我慢してきたものが決壊し泣き出し感想会は涙に溢れていく
それを止める者は誰もおらず夜もふけ漸く涙の止まった面々からログアウトし最後のかぐやちゃんのライブの感想会は終わりを告げたのだった
「ぐすっ……あー、やば。涙でスマコン浮きそ」
目を開けると現実でも俺の目からは涙が溢れていた
鏡を見ればすでに泣きはらしたあとまである
ひどい顔だなと思いつつも明日、いや日付的には今日の仕事の為にも布団に横になる
いくら嘆いても仕事は無くなってはくれない。むしろ今日休む為に別の日の休みを潰したのだ。コンディションを整える為にも眠らなくてはいけない
そう思って目をつむっても心のもやもやや喪失感が意識が落ちる邪魔をして余計に目がさえてしまう
結局その日、俺は一睡もすることはできなかった
それからしばらく俺の世界からは彩りが消えたようだった
いや、正確には元の灰色に戻ったとも言うべきか
ツクヨミへのログイン回数は減り目をそらす為に仕事にうちこみボロアパートに帰ってくる日々
かぐやちゃんの過去の動画や配信を見ても余計に彼女はもう卒業してしまったのだと、彼女の新しい動画は来ないのだという事実が胸にこびりつき見るのが辛くなってしまう
「これがロスってやつか……」
推してるものが終わったり卒業したりした後に感じる喪失感
○○ロスとかで表すそれが今の自分の状態なんだと思考の鈍くなった頭でも理解できた
これまで推しと言える程のものはなかった
あそこまで毎日が楽しく思えたことはなかった
だからこそだろう。落ちるとき人は低い所より高い所から落ちた時の方がダメージは大きい
(まさか我が身で体験することになるとは思ってなかったな)
かぐやちゃん達にハマる前に戻っただけのはずなのに今の世界はあの頃よりももっとくすんで見えた気がしてそれでも今まで集めた彼女らのグッズも捨てられず毎日なにか投稿はないかとチャンネルやアカウントを見てしまう
そんな毎日を続けていく中である日、待ち望んでいたアカウントに動きがあった───
・壁ドンおじさん
推しの電撃引退にかぐやロス状態に
・かぐや
かぐや姫は最後まで全力で楽しく過ごし自分の運命に従った
・酒寄彩葉
歌を届けた、秘密を知った、やりたいことができた
・ヤチヨ
もうこれで終わってもいいと思ってたのに
ここからはBadend、Goodend、Happyendの3つのルートとなります