となりの壁ドンおじさん   作:リョウタロス

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突然出された壁ドンセッションバトルなるものの為に急遽書きました。まさかたった40秒の情報であんな情報を出されるとは……


幕間 壁ドンセッションバトル

休日、突然コンコンと隣の部屋から壁をノックする音が聞こえた

 

おそらくかぐやちゃんだろうがなんだろう。なにかリズムでもとるために叩いたのだろうか

 

コンコン ココン♪コンコンコン♪

 

音はどんどんリズミカルになりふんふふーんと鼻歌まで聞こえてきた。よほどノッてきてるようだ

こんな壁の薄いボロアパートでこれをできるとは流石のかぐやちゃんクオリティーである

 

(お隣から推しの生セッション聞けるとかファンからしたらとんでもない嫉妬案件だよなぁ)

 

しばし隣から聞こえてくるかぐやちゃんの即興ライブに耳を傾けていたがなにやら音が大きくなってきた

 

(いやこれ隣じゃなくても聞こえてくるレベルになってね?ノックとか可愛らしいもんじゃなくなってきたぞ?)

 

最初は小さなノック程度の音が今やドンドンバンバンと部屋そのものを楽器に見立てての爆音ライブに進化しつつある

ど、どうする?隣の部屋にいる俺はファンだし別にいいけど下の角部屋の人がもしいたらまずいぞ

部屋の元々の持ち主であるいろPに苦情がいってかぐやちゃんの活動自粛なんてなったらかぐやちゃん的にも俺の推し活的にもヤバい!

 

(インターホンを押す?いやそれじゃどちらにせよ苦情言いにいくのと変わらない……!こっちから声をかけて……いや、壁越しから知らんおじさんが声かけてきたらキモいわ!)

 

どうするどうすると悩んでいる間もかぐやちゃんの壁ドンライブは止まらない

なんなら俺もリズムに合わせて頭を揺らしてヘドバンみたいな動きをしてしまっている

 

(こうなったらもう、あれをやるしかないのか……!)

 

こっちにも聞こえていると、人がいると教える為にと使える最後の手段、使わないと決めていたあれをやるしかないのか……!!

 

ドン!!

<オワビックリシタァ!?

 

(ごめん、ごめんよ、かぐやちゃん……!)

 

ついに、ついにまたやってしまった。壁ドンを……

 

あの赤ん坊の泣き声が響いた日以来封じていたこれをまた俺はやってしまったのだ

これが最善だったとはいえ推しであり年若い少女にまた壁ドンをしてしまったことへの罪悪感が俺の心にのしかかってくるのを感じる

 

(でもこれで流石のかぐやちゃんも……)

 

罪悪感に苛まれながら仕方なかった、仕方なかったんだとまるで人を殺した後のようなことを呟く俺だったけどこの時の俺はかぐやちゃんを、彼女の発想と行動力を甘く見てたとしか言いようがなかった

 

ドン!ドン!

「ほぁっ!?」

<キョウハソッチヒトインダナー?

<ヨッシャ!バトルシヨウゼカベドンバトル!

「はい?」

 

びっくりした

壁ドンに壁ドンで返す人もいるとは聞いたことはあるが壁ドンバトルとかいう初めて聞く勝負に誘ってくる少女が存在するとは俺も初耳だ

 

<アタシノビートニツイテコレルカナ?

ドッドッドッ!ドドッドン!

 

どうしよう、ほんとに始まってしまった

 

え、これほんとに俺やるの?リズム刻んで壁殴っていいの?

 

<オーイ、ソッチノバンダヨー

 

あ、マジでやる気だ

ラップバトルみたいに攻守交代制なのこれ

 

でもなんだろう、さっきまでの罪悪感が吹き飛んでわくわくしてる自分がいる

正直推しに遊びに誘われてすっごい嬉しい反面大人としての理性がほんとにやっちゃっていいのかという不安でブレーキをかけてくる

 

(ああ、でも……少し、少しくらいなら……)

 

コンコンコン ココッコッコン

 

今の自分の心を表したみたいに小さなノック音

けれど壁ドンとは言えないような小さなそれも壁の向こうには届いたようで

 

<ドウシター?ビートヨワイヨー!

ドンドンコココッ!ドンドドド!

 

こちらを煽るように大きな音で返してくるかぐやちゃん

なんだかそれがおかしくて笑いが吹き出せば悩むのも馬鹿らしくなって気づけば俺も大きな音で返すようになっていた

 

ドッドッドンドン ドンドンドン

 

ドンドンドン ドンドンドンと

壁を挟んでリズムに乗っていつしか2人で一緒に壁を叩いてセッションになっていく

 

それが楽しくて面白くて手が痛くなることも忘れてお互い夢中になってリズムを刻む

 

そうして突然始まった壁ドンセッションバトルだったが当然終わりは訪れる

 

高く登っていた日は傾き赤く輝きはじめ棲みかに帰るカラスの声が聞こえてくる

 

<ソロソロオワロッカー

 

刻んでいたリズムは止まりコンコンと小さなノックと共に遊びの時間の終わりが告げられる

 

それに了承の意味をこめて同じようにコンコンとノックで返せば向こうもわかってくれたようでふはーと息を吐く声まで聞こえてくる

 

<ツキアッテクレテサンキューナー

<コレデカグヤトオトナリサンハマブダチダ、ゼ☆

「はは、なんだそりゃ」

 

なんか推しにマブダチ認定までされてしまった

あれか、拳じゃなくてリズムを交えれば友情が深まるというやつなのか

ともあれ

 

「俺も楽しかったですよー」

 

楽しかった、その言葉だけは伝えたかった

こんなに夢中で遊ぶなんてもう記憶も薄れた子供の頃以来か

日がくれるまで笑って遊んで楽しんだそんな記憶が新しく更新される

 

流石はかぐやちゃんだ

軽々と俺の人生の中での楽しかったランキングを更新してくれる

 

<ンジャ、マタアソボーネー

 

また、か

ヤバいな、ニヤニヤが止まらない

正直壁ドンセッションは今回限りにしといた方がいいとは思うが推しにマブダチ認定されてまた遊ぼうと声をかけられたら大体の人はこうなると思う

 

そして自分がおじさんで良かった。俺はおじさんだから勘違いしてはいけないと自制できるがこれがもっと若い頃なら勘違いしててもおかしくない自信がある。かぐやちゃん、恐ろしい娘……!

 

「とりあえず、シャワー浴びるか」

 

久しぶりに身体を動かしたせいでエアコンをつけててもだいぶ汗をかいてるしとっとと浴びるとしよう

 

このあと帰ってきたいろPとご飯を食べるんだろうな、今日はまたツクヨミでライブもしてくれるのかなと遊び終えてもかぐやちゃん達のことを考えながら俺は汗を流すのだった

 

 

──────────────────────

 

 

~1X年後 ツクヨミ~

 

「かぐやっほー!月からやって来たかぐやだよ!今日はコラボ配信!」

 

「度々おじゃましてます、なぐまりチャンネルの加部垣なぐりと」

「菜出栗 猿毬っす!」

 

「今回のお題は~……だらららららら……これ!壁ドンセッションバトル!!」

「壁ドンセッションバトルだって!?」

「知ってるんすかなぐりさん!?」

「壁ドンセッションバトル、それは二人の音楽家が1つの壁を隔て己の拳のみで奏であう武と踊の2つを比べあう幻の競技……!」

 

>なんで知ってんだよ

>なぐりは雷電だった?

>流石なぐりさんはなんでも知ってるんだな

 

「そ、そんな競技があったなんて……!」

「というのを今考えたよ」

「適当かーい!」

 

>【悲報】なぐりさんは嘘つき

>そんな、一瞬信じたのに…!

 

「あ、実際そんな感じだよー」

「合ってたんすか!?」

 

>【朗報】なぐりさん嘘つきじゃなかった

>これぞ瓢箪から駒

>合ってるんかーい!

 

「これねー、かぐやが昔お隣さんとやったんだー。かぐやが部屋で床とか壁とか叩いてリズムとってたら隣から壁ドンされちゃってね?」

 

「なんだおめーいたのかこのやろー!って殴り返したらそうだ、これでリズム取って一緒に演奏しよ!って思いついたんだぁ」

 

>控えめにいってクソガキが過ぎる

>壁ドンされて壁ドンし返してリズム取って一緒に演奏???

>お隣さんの苦労が垣間見える

 

「したら思いの外盛り上がってね!ドンドンドンドンって一緒に壁ドンセッションしまくったんだぁ」

 

>お隣さん陽キャだった?

>くっそうるさい悪童にこんな対応してくれるのいい人過ぎんでしょ

 

「というわけで!今日はそれをなぐりとやってみようと思います!!この拳でな!」

 

>かぐやちゃんの背中にでっけー拳が!

>これわたすきの時のじゃねーか!

>くっそ懐かしいの引っ張りだしてきたな

 

「それじゃ壁 召喚!!」

「おー、思ったよりでかくて厚いっす」

「いつも殴り壊してる壁とは全然違うね」

 

>遊戯王の石板みたく出てきた

>俺はモノリスを守備表示で召喚!

>ふぅん、ただの壁モンスターか

 

「なぐりはそっち立ってー。んじゃどんな感じかやってくよ」

 

コンコン

 

「ふむ、こんな感じかな?」

 

コンコンコン コッコッコン

 

始まりは軽く

ノックから始まったセッション

叩けばどんな音が鳴るか、叩く強さで、場所でどう音が変わるのか確認しながらリズムをとってゆく

 

(懐かしいなぁ)

 

思い出す、あの10年以上前の日々を

かぐやちゃんと彩葉ちゃんが隣に住んでいたあの数ヶ月を

こうやって壁越しに叩きあってリズムを刻んでマブダチなんて言われた日のことを

 

ドッドッドンドン ドンドンドン

 

気づけば拳はあの日と同じリズムを刻んでいた

あのアパートでの遊びの続きを楽しんでいた

今が配信中であることも忘れて夢中になって壁を叩いて音を鳴らす

 

実況である猿毬さんや視聴者達に見守られながらあの日のリズムも、即興で思いついたリズムも片っ端から鳴らして試して響かせる

 

壁の向こうにいるかぐやちゃんのリズムとはぶつかったり合いの手を入れたり入れられたりと好き勝手に互いの音と自由に遊ぶ拙いセッション

 

けれどやっぱり楽しい時間には終わりがくるもので──

 

「タイムアップの時間が近づいてきたっすー!残りあと10秒!」

 

ああ、もう終わってしまうのか

もっとやっていたかったのにと思う中、かぐやちゃんからリズムではなく声が飛んできた

 

「おしゃー!最後はラッシュ!なぐり遅れんなー!」

「オッケー!」

 

ドドドドドとリズムもなにもないただただ殴るだけのラッシュが始まる

 

壁を挟んでかぐやちゃんと一緒に自分の出せる最高速度の全力で殴って殴ってただ壁を殴り続ける

 

猿毬さんのカウントダウンをどこか遠くに感じながら殴ることだけに集中した最後の10秒、それも今0となり──

 

バゴオオオオン!!

 

──大きな大きな破砕音と共に殴っていた壁が粉々に砕け散った

 

拳を突きだした体制のまま呆然とする俺の前には同じように拳を突きだした姿で笑うかぐやちゃん

 

「これでなぐりともマブダチな!」

 

コツンと突きだしたままの俺の拳に自分の拳を当てた彼女はニッと笑い思わず連られて笑ってしまう

 

「ふふっ、なんですかそりゃ」

 

「僕も楽しかったですよ、かぐやちゃん」

 

そうして2人で笑ってすっかり蚊帳の外になってた猿毬さんにずるいずるいと言われながらこの騒がしすぎた配信は終わったのだった

 

 

…………俺のことバレてないよな?

 




かぐや
現実でやるのもツクヨミでやるのもすっごい楽しかったー!そっちもそうだったっしょ?おとなr、()()()()()()()()()

彩葉
壁ドンセッションバトルってなに!?あとお隣さんほんとうるさくてごめんなさい!!

なぐり
今も昔もかぐやちゃんとの壁ドンセッションバトルくっそ楽しかった。またやりたいし猿毬さんや他のフレンドらともやってみたいな
因みにあの後アパートの大家さんから苦情が来たのは秘密

猿毬
なぐりさんだけかぐやちゃんとマブダチって言われるのもずるいっす!かぐやちゃんもあんななぐりさんに楽しそうな顔させるのずるいっす!!私も混ぜろーっす!!

ヤチヨ
いやー、面白うるさかったねぇ。ヤッチョもマッチョな拳つけてみよっかなー?
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