ほむら「女神以外、万象塵芥」   作:Red_stone

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1話

 

「――大丈夫ですか?」

 

 心配そうな顔をしているのは早乙女和子。見滝原中学の教師でほむらの担任だ。そんな顔をしているのは病気の悪化で3日学校に来るのが遅れたせいだ。

 もちろん偽装である。良心が痛むが、そんなものは無視する。――お前はあんなことをしておいて、まだ人間面をする気か? など、聞こえるような気もするがしょせんこんなものはちっぽけな暁美ほむらの罪悪感にすぎないから、徹底的に蓋をして聞こえないふりをする。

 

「問題ありません。確かに体調を崩しましたが、昨日の時点で回復していました。先生があと一日ゆっくりしていけとおっしゃったので、従ったにすぎません」

 

「そう? まあ、顔色もいいみたいだから心配はないのかもしれないけど」

 

「では、案内してもらえますか。早くクラスメイトの顔が見たいので」

 

 心にもないことを言った。しかし、顔には一切出さない。はた目からには至って普通に見えるはずだ。普通に、久しぶりの学校に心ときめかす女の子といった顔。

 もちろん、これすらも偽装である。

 

「じゃあ、ついてきてね」

 

「はい。先生」

 

 案内された教室の前でほむらは考え込む。教師は転校生を放って話し込んでいるようだが、考える時間ができたのでちょうどいい。

 

 ――まどかは大丈夫かしら?

 

 ほむらは時間を遡行してからまずまどかに忠告をすることにしていた。なぜ、と言われればまどかが騙されないようにするというのを願いにしているから、真っ先にやってしまったとしか答えようがない。つまりは何も考えずにやった。

 しかし、それは時間の無駄だ。いくらまどかとて、枕元に現れたキュゥベえとそう簡単に契約などしないだろう。それこそ契機がなければ――巴マミが危機に陥らなければ簡単に決心できはしない。

 ちょうど今は魔女との一戦目を終えたあたりだろう。キュゥベえに何を願おうかと考えているかもしれない。

 なら、間に合っているはずだ。“準備”に時間を費やした間にまどかが魔法少女にされていることはない――はず。

 それは今から確かめる。実際に見てみれば魔法少女かどうかはわかる。さて、結果は――

 

「はーい。転校生さん、入ってきてください」

 

 お呼びのようす。と口の端を歪めて教室に入り――

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

 結果はシロ。まどかも、ついでに美樹さやかも魔法少女にされていない。ならば、よし。

 美樹さやかと一緒になってまどかもまた興味深そうな眼を私に向けてくるが――そうか、忠告をしていないから完全に初対面なのか。と納得し、少し悲しく思う。

 そんなことを考えながら、クールな転校生という役をこなす。

 昼休みになったとき――

 

「鹿目まどか、少しいいかしら?」

「え?」

「あなた保険委員でしょう? 保健室まで案内してくれないかしら」

「ええ? あ……うん。大丈夫だけど」

「そう、よろしくお願いするわ」

 

 さっさと歩き出す。そしてまどかがちょこちょことついてくる。かわいいわね。あ、足跡がついてる。時空間から切り離して、盾の中で永久保存したいところだけど――さすがに廊下を切り出すわけにはいかないわね。非常に残念だわ。

 どころか、時間を停止してほおずりすることすらできない始末。――おのれ、キュウベえ!

 

「鹿目まどか」

「――なに? えっと……暁美さん」

「ほむらでいいわ。あなたは、貴女は自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を、大切にしてる?」

「え? それはもちろん大切だよ」

「本当に?」

「本当に決まってるよ。どうして、そんなことを聞くの」

「そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね」

「――え?」

「さもなければ、全てを失うことになる」

「そんな……」

「貴女は、鹿目まどかのままでいればいい。今までどおり、そしてこれからも」

「えっと……」

 

 まどかは戸惑っている。それもそうね。けど、魔法少女の一端を知ってしまったのなら、多少なりともわかるでしょう。

 

「魔法少女になるのはやめなさい」

 

 カツカツと靴音を響かせて去っていく。さて、次は放課後かしら。

 

 

 

 いつもまどかたちが来る喫茶店にほむらが来た。彼女たちが楽しくおしゃべりしている中、空気を読まずに突入する。

 

「少しいいかしら」

「――あなたは?」

 

 巴マミが驚いたような顔をする。魔法少女であるかもしれない、とまどかに聞いていたのだろうがおそらく驚いたのはそれだけではない。

 

「転校生。アンタ、何者? それになんだって私たちを邪魔するのさ」

 

 美樹さやかが憮然とした声を上げる。

 

「あなたには関係ない」

「それはないんじゃないかしら? この子たちは魔法少女の資質を持っている。なら、関係者と呼べるのではなくて」

「巴マミ。無意味に魔法少女を増やすのは感心しないわ」

「あら? あなたには魔法少女が増えて困る理由があるのかしら。――いじめられっ子の理論ね」

 

 魔女を倒すのはメリットがある。それを独り占めしたいと思うのは人の性――とでも思っているのかしら。まあ、結局は想像力が及ばないだけでしょうけど。

 

「あなたこそ、魔法少女を増やしたいのは亡者の理論じゃないかしら。旅は道連れなんて言うけれど、それで地獄行きに付き合わせる気?」

「それ、どういう意味かしら」

「あなたは魔法少女の本質を知らない。だから、私には勝てない――絶対に」

「なら、試してみる?」

 

マミが好戦的な笑みを浮かべ、ほむらは嘲笑で迎え撃つ。あわや一触即発、のところで。

 

「待ってよ! なんで争うの? 二人とも魔法少女でしょう」

「「――む」」

 

 動きが止まる。

 

「そうそう。こんなのどかな喫茶店で剣呑な雰囲気なんて似合わないって。ほら、このさやかちゃんの顔に免じて。今日のところはやめておきましょうよ。ねっ」

 

 さやかが指で口を引っ張って無理やり笑顔を形作りながら言う。

 

「……ええ。この場では矛を収めてあげる。あなたも、無駄な騒ぎはおこしたくないでしょう」

「そうね。それは私にとっても好ましいものではないわ」

「で、この後は二人を連れてパトロールへ行く予定だけど、あなたはどうするの?」

「そうね。ちょうどグリーフシードのストックが切れてるから、10個くらいは欲しいわね。けれど、見滝原だけでは無理かもね」

 

 さらりと言った。ほむらはつまり、1体倒すだけでも命がけの魔女を10体狩ると言っているのだ。それも、コンビニに行くとでも言うように気軽に。

 

「――正気?」

「信じられないのも無理はないけど、独自の情報網があるのよ。悪いけど、人を守るために使えるような情報ではないの。ごめんなさいね、巴マミ」

 

 自分が強い、というのを微塵も疑わない傲慢な態度。魔女を倒すのには居場所が分かれば後は楽勝――と信じている。

 

「確かに魔女は探すだけでも大変だけど……! そういうことを言ってるんじゃないの。正直に言って自殺行為よ、それ。魔女を倒すのがどんなに大変なことか知らないわけじゃないでしょう? あなただって初心者じゃないんだから」

「あなたには、そうでしょうね」

「なんですって……?」

「ストップ。ほむらちゃんもやめて」

「……ちゃん?」

 

 以前と同じ呼び方だけど、この時間軸で初めて会った時からこの呼び方だったかしら。

 

「あ、ごめんなさい。機嫌を損ねちゃった?」

「いえ、別にかまわないわ」

「なら、あんたの持ってる情報とやらも教えろよー、ほむらちゃん?」

「……」

「ヒィっ!」

 

 ほむらの絶対零度の視線を向けられたさやかはちぢこまる。

 

「忠告はした。魔法少女になんてならないことね」

 

そう言って、ほむらは出ていった。

 

 

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