ほむら「女神以外、万象塵芥」   作:Red_stone

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2話

 

「っなんてこと――」

「マミさん。さやかちゃんは……」

 

 二人が慌てている。

 少し武器を調達しに行ったらこれだ。しかし、大体の事情は分かっている。ほむらは何回も繰り返してきたのだ。

 こういう風に慌てている。そして、この時期となるとおかしの魔女だろう。美樹さやかが結界に囚われ、それをこの二人は救いに行こうとしているはずだ。

 さやかが危険な場所に残ったのは、幼馴染が近くにいたから――だったか。そこはどうでもいい。

 今やるべきこと。それは。

 

「今回は手を引きなさい。巴マミ」

 

 この黄色い魔法少女に死地に臨ませないこと。彼女が弱いわけではなく、いやまあ自分に比べたら弱すぎるのだが、一般的に見て才能があり努力も怠らないと言う才媛だ。これは単に相性が悪く、それに精神状態が少々ハイになってしまっているというだけのこと。

 

「あなた……いったいどういうつもりで」

 

 警戒度が上がっている。私が強くなった分、脅威度は上がるのは当然だが、どうもそれだけではないような――ほむらは首をかしげる。

 

「ほむらちゃんも、さやかちゃんの心配をしてくれるの?」

「いいえ、まどか。私はあなたの心配しかしていない。けれど、あなたが心配しているというのなら、美樹さやかの一人や二人は救ってきてあげるわ」

 

 隠すことではないから、表情を変えずにほむらは言う。

 

「……え?」

 

 そして、その本気に首をかしげるまどか。なぜそこで自分が出てくるのか――彼女と会ったのは今日が初めてのはずなのに。この初めて会った気がしない少女がなぜ自分を気にかけるのかわからない。

 

「待ちなさい。なんであなたはそこまでまどかさんにこだわるの? あなたの本当の狙いは何?」

 

 そして、マミはわけのわからないほむらにさらに警戒心を募らせることになる。

 

「すべてはまどかのために。――それだけ」

「疑わしいわね。正直に言って、怪しすぎる。なにか企んでいるようにしか見えないわ」

「そうかしら? なら、白い着ぐるみでも付けてれば疑いは晴れたかしら?」

 

 ほむらはニタリと笑う。それはむしろ自嘲でしかなかったが、見ているマミには自分を馬鹿にしているようにしか見えなかった。

 

「いい加減になさい」

 

 だから、リボンで縛りつけた。銃を使わなかったのはやはり甘さなのだろう。もっとも――

 

「巴マミ。あなたは魔法少女の本質がわかっていない。言ったわよね? 『あなたは魔法 少女の本質を知らない。だから、私には勝てない――絶対に』」

 

 べきべきと、自らの骨を折って抜け出した。

 

「よくあるわよね? こういうマジック。まあ、私には肩の骨を外すなんて真似はできないから折ったけれど。確か、縄抜けとか言ったかしら。骨折は欠損じゃないから、治癒にそれほど魔力は使わない。魔法少女だもの――傷も痛みも魔力の消費でしか測れない」

 

 なんでもないことのように話すほむらにマミは恐怖を覚える。魔法少女であっても自分は人間だ――などと思っているから.

 自暴自棄でなく本当に痛みを気にもしない人外じみた精神性に恐怖する。

 

「――あなた、それでも人間……?」

「もちろん違うわ。あなたもね」

「私は――!」

「私たちは魔法少女。人間ではないのよ。化け物が人間に関わるべきではない。あなたはそれをとっくに学んだものではなかったのかしら」

「違う。――違う!」

 

 銃撃。ぶるぶる震える手から発砲されたマスケット銃の弾丸はあらぬ方に飛び、コンクリートを抉る。

 

「どこを狙っているのかしら? ここの魔女のグリーフシードはあげるから大人しくしていなさい」

 

 そう言って、ほむらはマミに近づく。それは勘違いで、実際はまどかに近寄ったのだが――得体のしれない魔法少女が近づいてパニックになってしまった。

 更に最悪なのはマミが歴戦の魔法少女であり、戦いというものに精通していたこと。戦場ではパニックになって前後不覚になった者から死ぬ。そして彼女は頭が沸騰していても、冷静に戦闘活動を行える戦士だったこと。

 

「――っ!」

 

 頭の中は真っ白。しかして身体は適切な位置をとるために動く。すなわち、一方的に敵をうちのめすことのできる位置へと。

 

「まずは距離を……!」

 

 後退し、銃撃。効いたならばこのまま連射し続ける。効かなくても牽制にはなる。後続のマスケット銃を召喚し、鷹のように鋭く敵を観察する。

 

「巴マミ。あなた……!」

 

 なぜだか激昂している。その意味を考えることはできない。傷はない。――制服のままなのに。だが、それなら牽制の後に大きな一撃を加えればいい。

 マスケット銃が火を噴く。いつのまにか魔法少女に変身していたほむらが受け止める。マミは気付いていなかった――というより気付きなどできるような状態ではなかったが、まどかは気付かざるを得なかった。ほむらは攻撃をかわさないのではない――かわせないのだ。弾道がふらふらと揺れるマミの攻撃からまどかを守るためには、そうするしかないということを。

 

さすがに――ふらふらと弾道が揺れるのが、でたらめな動きをする魔女を相手にしてはセオリー通りに狙っていては当たらないからだとまでは気付けなかったが。マミの戦闘技術は対魔女に特化している。人間の理では測れない。

 

「いい加減になさい、巴マミ! あなたは今、自分が何をやっているのかわかっているの!?」

 

 その言葉は魔弾をばらまく暴風と化したマミには届かない。正確な狙いで魔女を殺害する精密機械と化し、魔獣のごときステップを刻む。

 この瞬間にも無数の魔弾が降り注ぐ。防御など考える暇もない。とりあえずまどかに当たりそうな弾に体を当てていく。いくらなんでも異常な強度だった。魔女どころではない防御力をほむらは有している。

 コンクリートを穿つ一撃を何の痛痒も感じることなく跳ね返す。何発も急所に当たっているというのに、弾丸が目に直撃してもまばたきすらしない。

 それでもマミは動き続ける。思考は止まったままだから、あまりの戦力差に呆然とすることもない。撃ち続ける。ただひたすらに。どこまでも。

 

「ティロ・フィナーレ」

 

 そして、ほむらが体勢を崩す。まどかの盾になっている以上、動かざるを得ない。ならば、銃による衝撃が通じずとも転ばせるくらいは可能。そこに最大の一撃を叩き込んだ。

 

「――いい加減になさい!」

 

 そして、ほむらがキレた。

 ずしん、と空気が重くなる。彼女の内に秘められていた膨大というには大きすぎる魔力があふれ出す。そして――

 

「つぶれろ」

 

 腕を振り下ろした。と、同時……マミの最大の一撃がこともなげに押しつぶされる。込められた魔力の暴発ですら押さえつけられ、紅炎が地を舐める。

 

「――っ?」

 

 マミもさすがに動きを止めた。驚いた、というよりもほむらが使ったアレには打つ手がない。あれを使わなかったのはおそらくは単に手加減していたからで、どうやってやったのかもわからない。手を振るのに合わせて飛んだとしても、間に合わない。

 使われたら、ただ潰される。対抗手段は――ない。

 

「あなたは、まどかごと私を殺そうとでもいうの!?」

 

 次はほむらがキレていた。手加減なしの、むしろ子供の癇癪の拳。全力で振り回しただけの型もなにもないパンチだが、こめられた力が異常だ。こんなもの、魔女ですら殴り殺せるだろう。いわんや、魔法少女など西瓜のように破裂する。

 

「くぅ――っ!」

 

 のどから声が漏れる。絶望的なこの状況で、マミの頭はまだ冷めていない。それは幸いだった。今までもずっと肉体の反射だけで戦っていて、だから今も反射で攻撃に対応する。

 

 避ける? ――無理。

 

 受ける? ――無理。

 

 諦める? ――そんなものは知らない。

 

 だから、ここで生き残るための方法を身体が選択する。

 腕をクロスして盾……いや、クッションに。潰されるだろうがそれでいい。それがいい。この場合、砕けた方が胴体には損傷が少なくなる。

 潰させるのは右肺。心臓は全身に血を送り出す器官だから守らなければならない。反して、肺なら右が機能しなくても左がある。生きていれば、魔法少女だからなんとかなる。 そして、衝撃が貫通するように体から力は抜く。

 ほむらの爆撃のごとき一撃がマミを防御の上から紙のように吹き飛ばした。

 

「――」

 

 肺が潰されて口から空気が漏れた。視界はぐるぐると回り続けて、聴覚はわんわんという羽音しか聞こえない。手どころか足まで感覚がない。どくどくと冷たいものが体から頭に上って来る。

 

「巴マミ……あなたは――」

 

 ほむらが歩を進める。その顔には、なんとも言い難い表情が浮かんでいる。

 

「……やめて!」

「まどか」

「もう、やめてよ。なんで魔法少女同士で争うの? 皆、仲良くできれば――」

「知らなかったかしら? これが魔法少女よ」

 

 にべもなく冷たく突き放した。

 

「――ほむら、ちゃん」

 

 衝撃を受けてまどかは伸ばした手を引っ込めることもできずに、さりとてマミに差し伸べることもできずにうろうろさせる。

 

「でも、この場はあなたに免じて巴マミは見逃してあげる。ああ、そういえばあなたの友達――美樹さやかが結界に囚われているという話だったわね」

「え? うん、そうだけど――」

「なら、助けてあげるわ。あなたはそこで巴マミの看病でもしていなさい」

「……ホント?」

「嘘はつかない。それに、あなたにも彼女にも――魔法少女になられては面倒よ」

「……あの、ありがとう」

「お礼を言うくらいだったら、魔法少女は諦めてくれた方がうれしいわ」

「……うん、そうだね」

 

 その言葉を聞き終えると、ほむらは奥へと歩き出した。

 

 

 

「……ふふ」

 

 今、ほむらは縦に落ちている。通常では考えらないスピードで魔女の結界を踏破する。それも、一重に罠があろうが待ち伏せだろうが、純粋な防御力のみで全てを破壊する。

 

「あーはっはっはっは!」

 

 気分がいい。あの巴マミですら自分は歯牙にかけなかった。ああ、こんなことならもっと前のループでやっておけばよかった。あんなに簡単なことだったのだ。今の自分ならワルプルギスなど敵ではない。そう確信できるから。

 

「――あなたにとっては、むしろここで死んだ方が幸せかもしれないわね。美樹さやか。けれど、死なせてはあげない。まどかの幸せにはあなたの生存も含まれているのだから」

 

 




ほむらの装甲の元ネタはブリーチの破面です。初期の剣八あたりも似たようなことをしていましたね。要するに莫大な魔力が漏れ出て、それが盾の役割を果たしています。
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