ほむら「女神以外、万象塵芥」   作:Red_stone

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3話

 

「うう――」

 

 さやかはガタガタと震えている。

 

「魔女の結界に取り込まれてしまったようだ。さやか、手遅れにならないうちに契約をしてくれないかな?」

 

 キュゥベえの声は耳に入らない。

 どうしてこうなったんだろう。そう思うが、本当はわかっている。役に立たない自分が悪い。孵化しかけのグリーフシードを見つけ、近くに幼馴染が居るからと見張ることにした。――自分にはなんの力もないくせに。

 現に、こうして孵化し魔女が出現してもどうすることもできない。頼りのマミさんはあらわれない。何もできずにこうして震えているしかない。

 

「怖いよ……マミさん、早く来てよ……」

 

 ぐるぐると視界が回る。気持ち悪い――だが、回っているのは視界じゃなく現実だと気付くのにそう時間はかからなかった。結界はそれ自体が蠢き、犠牲者を引き寄せる性質を持つ。

 そして、気付いた時には手遅れだった。

 

「え……? なんで、人形が――」

 

 いつの間にか広い場所に出ていた。辺りを見渡せばお菓子ばかり。しかし、その甘い匂いはむしろ食虫植物を思わせる。

 真ん中には高い椅子に乗ってケーキと思わしき何かをほおばる人形。

 

「……ひ」

 

 こちらを向いた。そして理解した。

 ああ、私はこいつに食われるんだ。と。絶望がひしひしと心に迫る。人形がニタ、と笑う。どう考えてもあの大きさの口で人間一人を丸呑みにできるわけがない。けれど、さやかは己が一口で食われる様を幻視した。

 

「あああああああああああ!」

 

 叫んだ。

 

「見苦しいわね。叫ぶくらいなら魔法少女に関わってこないで」

 

 どん、とほむらが着弾した。

 

「て、転校生? なんで――」

「私の都合であなたには生きてもらうことにしたわ」

「は?」

 

 傲慢すぎる物言いにあぜんとする。

 

「もしかしたら、ここで死なせてあげるのが慈悲かもしれないけど。それに、魔法少女が増えるのはかわいそうだしね」

「え? それって――」

「魔法少女なんてなるものじゃないわ。それこそ生命よりも大切なものがあれば別だけど」

「それって、魔法少女になるより死んだ方がマシってこと?」

「巴マミには言わない方がいいわね、それは。けれど、魔法少女になることは死ぬようなものといった意味なら、それは正しいかもしれない。……あなたはそこで座っていて。アレを壊した後で運んであげるから」

「――」

 

 ほむらは言い終わらないうちに銃を抜く。

 

「時間がなくて、武器は集められなかったけど――」

 

 今、ほむらの武器庫は空に近い。正直、格納しなくてもいいくらいの数しかない。爆弾に至っては0。以前のループだったら、お菓子の魔女に逆に殺される。

 

「“この”私なら問題なく殺せる」

 

 銃弾の強化。それは、やろうと思えば魔法少女ならだれでもできる。巴マミならその応用、弾どころか銃身の創造すらやってのける。

 

「さようなら」

 

 撃った。使われた技術は拙い。繰り返し繰り返し使って1流の域まで磨き上げたが、しょせんは才能のない身。銃の狙い、射撃速度には目を見張るものがあるが華々しいものはない。地道に築きあげられる程度の代物。

 そこに、魔女すら超える魔力が注がれる。ただ一発の銃弾に。

 炸裂した。ただ一発の銃弾が結界を蹂躙し、主たる魔女を消し飛ばした。がらがらと崩れ落ちるお菓子を殴り壊してさやかを守る。

 

「さて、巴マミはどうなったかしら」

 

 ひとりごちるほむら。

 

「あんた――マミさんをどうしたの!? まさか……」

「仕掛けたのは向こう」

「殺したの?」

「彼女は無事よ。魔法少女だもの――死ぬか、それとも無事かしかないわ」

「それ、殺しかけたってこと?」

「魔法少女の間では珍しくもないことよ」

「あなたは、魔法少女じゃない」

「いいえ。私が魔法少女よ」

「――っ!」

「巴マミが人間を引きずっているだけ」

「絶対者のつもり? あんたはそれほど偉いって?」

「あなたじゃないんだから、かわいそうな自分は誰を傷つけてもいいほど偉いだなんて思ったことはないわ」

「――私は!」

「私は願いのために他人を犠牲にすることを厭わない卑しい存在よ。あなたは自分が人間であることに誇りを持ちなさい」

「……」

「さようなら。二度と会わないとうれしいわ」

「…………」

 

 ひざをついた。あたりはいつの間にか正常な世界に戻っている。魔女の結界が壊れたから非日常が消えた。そして、幼馴染のいる病院はいつもとかわらずにそこに立っている。ほむらに視線をもどすと、もう消えていた。

 彼女もまた非日常だとでも言いたげに。

 

 

 

「暁美ほむら。君はいったい何者だい?」

「あなたの知ったことではないわ。インキュベーター」

「……ふむ。そちらの名前も知っていたんだね。そうなると、ますます疑問が深まる」

「魔女について、かしら?」

「そう。君は明らかに魔法少女が魔女の成長段階であることを知っている。君は数えきれないほどの人間の魂を犠牲にしてその力を得た。――魔女と同じようにね」

「ええ、魔女は人間の魂を喰らって力を得る。なら、魔法少女も人を喰らえないという道理はない」

「そうして、君は力を得たというわけだ。――わざわざ海を越えて隣の国にまで行ってね」

「“ここ”でする気が起きなかったのよ」

「しかし、君はどれだけの犠牲を払えば気が済むんだい? 僕も大変に苦労させられたよ」

「あなたたちの都合でしょう? 隠ぺい工作が成功してよかったわね。インキュベーター。私にとっても都合は悪くないわ。どうでもいいけれど」

「おかしいね。君たちは同族を犠牲にするのに罪悪感を覚えるはずなんだけど」

「覚えているわ。けれど、あなたが殺した人数に比べれば些細なことよ」

「僕は君たちのためになることをやっているんだよ?」

「しなくても別に私は困らない。隠ぺいのために殺したのを、私が殺したように言うのはやめてくれないかしら。騒がれたらエネルギーの回収に不都合が出るから、騒ぎそうな人間を片っ端から殺したんじゃない」

「そんな人を冷血な殺人鬼みたく言うのをやめてほしいね。記憶を操作したりして、殺さざるを得なかったのはほんの一握りさ。人類全体の数から見れば大したことはない」

「あら? ありがとう」

「なぜ、君はお礼を言うのかな。あいにく、僕には因果関係がよくわからないのだけど」

「だって、慰めてくれたんでしょう? 私がやってしまったことは、そうたいしたことじゃないってね。……くっくっく」

「そんなつもりはなかったのだけど。で、君はその力をどうするつもりだい?」

「もちろん、すべては私の願いのために」

「とりあえず、気を付けておいてくれ。君の魔力が暴発すれば地球は人類の生きていられる環境ではなくなるかもしれないのだから」

「――そう? 大変ね。あなたも気を付けてくれるかしら。キュウベえ」

「わかったよ。けど、僕は君と敵対関係にあるから、結局は君次第ということになる。それでもいいかい?」

「十分よ。ただのいやがらせだから」

「やはり、君たちの感情というものは理解できないね」

「――ああ、あなたの理由からして理解はしないでしょうね。“感情のない”インキュベーター?」

「僕たちに感情はないのは、ただの生物的特徴だよ。そんなものに理由はない。論理的ではないね」

くるりとほむらは背を向け歩き出す。振り向かずにいう。

「この世の論理には3つしかない。都合のいい論理。都合の悪い論理。そして、皆に認められた論理よ」

とん、と飛び上がって一瞬後には見えなくなった。

 

 

 

 ――同時刻。

 

「キュウベえ。暁美さんは、本当に倒さなきゃならないの?」

「僕の立場からは明言できないね。けれど、何度も繰り返したように暁美ほむらは脅威だ」

 

 二匹目。いや、これまでもほむらは憂さ晴らしにキュウベえを殺していたので2匹目かどうかはあいまいだが、とにかくほむらと話しているのとは別の個体がマミのもとへやってきていた。

 

「だからって……」

「彼女のせいで多くの人命が失われている。次がないとは言い切れない。そして、ここ見滝原で犠牲が出ないとも、もちろん言えない」

「彼女、魔法少女じゃないの?」

「どうやらそうらしい。僕に彼女と契約した記憶はないんだけどね」

「なんで……」

「彼女にはなんらかの目的がある。それが何かはわからないけど、一つ言えることはいくら犠牲を出そうとも彼女はそれに頓着しないだろう、ということだ」

「話し合えないのかしら」

「君の身体の惨状を思い出してみるといい。未だに全快とは言えないじゃないか。暁美ほむらが君に敵意を持っているのは事実だよ」

「まどかさんなら――」

「暁美ほむらを止められるのは君だけだ。君だけが唯一の可能性なんだ。しっかりしてくれ。僕が頼れるのは君しかいないんだから」

「――私なんかじゃ」

「よく聞くんだ、マミ。いいかい――」

 

 夜はふけていく。様々な人の想いを飲み込み、時間は残酷に過ぎていく。キュウベえは暁美ほむらに対抗するための手段を話し出した。




暁美ほむらには魔法少女の才能はないと思います。その代わりに無限の反復練習を積んで取り繕って、強がっているだけ。逆にマミの方は才能にあふれ、更に努力を積んだチート。どれだけでも練習できるという意味ではほむらもチートですが、もらうとしたらマミの才能の方が人気がありそうだと思いました。
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