「……ついにやってきた、か。なぜここに居るか聞いてもいいものかしら?」
ぎろり、と二人を睨む。まどかは避難所へ行ったことは確認した。あとはワルプルギスの夜を倒せば終わり。
キュウベえも手を打ってこなかった。美樹さやかを魔女に変えるくらいはやってくるものかと思ったけど彼女は杏子とともにここにいる。――さては目につくキュウベえを片端からミキサーにかけて、エサにしてゴミ屑を延々と伸ばしたのが効いたのかしら。
「お前が信用できないからだよ、転校生」
「いや、まあ――成り行き?」
さやかは不信と対抗心をむき出しにして吠え、杏子はばつが悪そうに頬をかいている。
「私が信用できないから何かしら? あなたにできることはない。せっかく幼馴染が助かったのだから、彼をどこか他のところへ避難させてあげたらどうかしら」
そしてほむらは容赦なく役立たずと断ずる。
「てめ……」
「おい、さやか。もうやめときなって」
「杏子、あなたはいいけれど――さやか。あなたは使い魔を相手にしてすら敵わない」
「あたしだって戦えるって……!」
「ほら、もういいだろ。行こうぜ、ワルプルギスなんてものこいつに任せときゃいいんだ。あたしらが戦う理由なんてなにもねえよ」
「杏子、あなたがそこまで肩入れするなんて意外ね――助けたいんなら、とっとと連れていくことね」
「よくも言う……っ! マミさんをどこにやったか言えよ。あんたなんか絶対ぶっ倒してやるんだから」
「わかった。わかったから、ここはもう行こう、な?」
杏子がさやかの首根っこを掴んで腕力で引きづって行く。
「なあ、あんた――魔法少女の真実ってのは酷いもんだと思わないかい? ――まどかの奴から聞いたよ」
そう、ほむらにだけ聞こえる音量で呟いて、去って行った。
「さて、邪魔者はいな――あった」
「邪魔者とはひどいね」
「キュウベえ、今更邪魔をしに来たのかしら?」
「僕は一度だって君たちの邪魔をしたことはないよ」
「そう思っていればいい。どこまでも感情がないことを言い訳にしていればいいのよ。――ところで、何の用かしら?」
「少し説明が必要かなと思ってね」
「話し終わるまで生きることを許可してあげるから、さっさと吐いて死ね」
「何度も言っているように、無駄な肉体の消費はやめてほしいのだけど」
「私のストレス解消には役立っているわ。地団太を踏む程度にはね」
「さっさと話さないと、それはそれで無駄な肉体を消費しそうだから本題に入るよ」
「ええ。そうして頂戴」
「魔女は人を喰って力を得る。それはいいよね?」
「ええ。それは使い魔も魔法少女も変わらない。下種な当てこすりね」
「そんなつもりはないよ。君は魔法少女の身の上で人を喰うという前例がないことをやらかしたわけだけど、前例がないという意味ではワルプルギスの夜も同じことをしたんだ」
「ワルプルギスの夜の発生は偶発的なもので、アレはあなたたちのコントロール下にはないと?」
「その通りだよ。そもそも外宇宙に出てこないなら僕たちにとっては対策自体必要がないからね。勝手に生まれて勝手に暴れているだけ――僕らが関与してはいない」
「関与していないってことは、見捨てたってことね。その魔法少女はあなたのことを信頼していたでしょうに。けど、あなたが魔法少女を助けようなんて気持ちが微塵もないことはとっくに知っているから、そんなことは言わなくていいわ」
「なにか見解の相違があるようだね。けれど、現段階では支障はないから誤解を解くのは次の機会にでもしておくよ。ワルプルギスはね――魔女を喰ったんだ」
「魔女が魔女を喰う……?」
「そう。まあ、元は人の魂だから不思議はないのかもしれないけどね。彼女は7人の魔女を喰らって現在の姿となった。無作為の破壊を繰り返すのは、膨大な魔力を操れていないからかもしれない」
「つまり、8人分の魔女を同時に相手すればいいってことでしょう? なるほど、何度繰り返しても結局は5対8だから勝てなかったのね。数の暴力ってことか――さて、5000万対8ではどうかしら」
「暁美ほむら――僕は数が質に勝てるなんて言った覚えはないよ。精々……
潰した。
「【武器も言葉も人を傷つける。順境は友を与え、欠乏は友を試す。運命は、軽薄である。運命は、与えたものをすぐに返すよう求める。運命は、それ自身が盲目であるだけでなく、常に助ける者たちを盲目にする。僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、時に理性を失うことも好ましい。食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし】」
カツカツと足を進める。
「これから――未知の結末を見ましょう」
ビルから足を踏み外す。堕ちる。
一見すれば投身自殺。だが、暁美ほむらが高層ビルの屋上から地面に叩きつけられたごときでは怪我一つ負うことなどありえない。
そして、逆再生するかのように天に堕ちる。重力操作で逆方向に2倍の重力をかけている。
「見えた」
見る見るうちに天に昇る――いや、落ちるほむらがワルプルギスの夜を見つけるのとそれが想像を絶する魔力の根源を見つけたのはほぼ同時だった。
「『グレート・アトラクター』」
「アハハハハハハハハハハ」
ぐるんと――逆立ちをしていたワルプルギスが使い魔を投げつけつつ裏返り、使い魔ともども超重力にひしゃげる。
「思えば、全力で重力を発現させたことはなかったわね。巴マミにすら、加減した重力しか使わなかった。どうかしら? 空間がひしゃげ、光が捻じ曲がるほどの超重力の渦に飲み込まれた気分は――」
「アハハハハハハハハハハ」
「そう。足りないと――そう言うのね」
緩慢にだが、確実にほむらに近づいている。相変わらず投げられた使い魔は帰って来て主人の身体に押しつぶされているが、本体に目立った傷はない。
「『グランドクロス』」
「アハハハハハハハハ」
今度は逆向き。内側に圧潰させる重力から、外側に破裂させる重力へ。主人に投げれた使い魔は明後日の方向へ飛んでいき、重力塊に飲み込まれる。
「【天体が十字に配置され、試練が襲いくる】。つぶれるのが嫌なら、引き裂いてあげる。十字に配置した疑似天体は前後左右から引力を発し、あたかも十字架にかけられた囚人のように四肢をちぎる」
「アハ、ハハハハハハ!」
「――っ! これでも倒れないと言うの?」
真黒な血のようなものが吹き出ているが、いまだにワルプルギスの夜は健在。ただそこにいるだけで竜巻のように周囲に被害をもたらしながら進んでいく。
「持久戦は危険ね。私自身が魔女になる可能性が大きいけど、消耗戦よりは勝率がある」
ざら、と盾からグリーフシードを50個ほど取り出して並べる。魔力量の管理はしてあるとはいえ、2度の大技でソウルジェムは光を通さないほどに黒く濁っている。
1個使い、用済みとなったそれを口に放り込み噛み砕く。
「さあ――時間との勝負と行きましょう」
銃身をかまえ、ワルプルギスに向けるとソウルジェムが一瞬にして真黒になる。それだけの魔力を使っている。
穢れはグリーフシードに吸い取られ、ある程度のところで横の壁に投げ次のを取る。段階的に魔力を貯めるのは無理――制御を離れた魔力がこの町を蹂躙する。ゆえにほむらは次々とグリーフシードを取り換えて魔力を補給し続ける。
ここでグリーフシードを孵化させて魔女を出現させることもできない。別に10匹くらいの魔女なら余波に巻き込まれて死ぬだろうが、結界で照準を狂わされることは防がねばならない。
「まあ、もっとも――できないとは思っていなかったけど」
自信満々に呟くが、実は根拠などないことは自分が一番よく分かっている。
「さあ、正真正銘。全力を超えた極大の一撃。私の愛を耐えられるものなら耐えてみなさい」
不気味に笑い続けるワルプルギスを見る。もう、脅威とは思えなくなっていた。
「超重力が一点に集まり、光すら捉えるシュヴァルツシルトの闇。事象の彼方。時空すら歪み無限大の重力が存在する特異点をご存じかしら?」
撃った。
弾はワルプルギスに当たる直前、自身に込められた膨大な魔力により自壊する。自らの発する引力に押しつぶされ極小になり――ついには特異点となり、空間に黒い穴が開く。
「
「アハ……ハハハハ!」
ワルプルギスの夜はブラックホールに飲み込まれようとしながら、いまだに抵抗を続けている。ガリガリと全身が崩れ落ちていっているが、道化じみた笑いはやまない。
「いい加減に落ちろ!」
飛び蹴りをくわえた。
「――」
もはや道化の笑い声は聞こえない。重力の渦の向こう側に消えてしまった。ビルの上に着地したほむらはワルプルギスが残した風に長い髪をなびかせる。
「中々しぶとい相手だったけど、これで本当に終わり。いえ、まだよね――まどかは潜在的に魔法少女を恐怖するようにまでなっているけれど、油断はできない。キュウベえが美樹さやかを生かしている理由は、危険に晒してまどかの優しい心を利用しようとしているからに違いない」
「――まあ、あいつは見かけたら殺すけど。そもそも今まどかは魔法少女たちとは距離を置いている。巴マミが魔女になり、それを美樹さやかが殺したなんて秘密を抱えていれば当然ね」
「杏子も、さやかのお守りに忙しいみたいだし。彼女、よほど世話焼きだったようね。まあ、魔法少女が不幸にならないなら、それはいいことね。時を止めることはできなくなったけれど、重力操作は使用可能だから魔女狩りなんて私がやればいいし」
「さあ、これからは完全な未知。まどか、あなたにこの未来をプレゼントするために全てを犠牲に捧げたわ。――そして、これからも。あなたを守るためならなんだってしてみせるわ。まどか」
これでこのお話は終わりです。マミは助からなかったけど、ハッピーエンド……かな? やっぱりさやかの恋心は変わらなくて、まどかと杏子がどこまで彼女を救えるかということにかかっていますね。けど、魔法少女の真実を知ってしまったまどかはもう契約なんてできない。ハッピーエンドというよりは、キュウベえにとってのバッドエンドいうことになるかもしれません。
駄文につきあってくれて、ありがとうございました。