不老不死、自分が過去に設立した組織に加入する。   作:RGN

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セカンドライフの終わりの始まり

「俺達で守ってみようぜ、この世界」

 

 何百年前の話だったか、私がそう言いだしたのは。

 黎明期───複数の異世界の融合が起こり、あらゆる法則が入り乱れ、世界が混乱していた時期であったのは間違いない。

 当時は思いがけず強大すぎる力を得てしまったが故に起こる凄惨な事件や、その能力を悪用した大犯罪が横行しており、それに危機感を覚えた私が、とにかく強そうな連中に声をかけまくって作り上げたのだ。

 今にして思えば私のこの行動も、不老不死という強大すぎる力を得て調子に乗っていた若者の愚行であったことには変わりなかったのだろう。

 まぁ、結果としてはこうしてうまくいったので、良かったと言えるのだが。

 

「……しかし、いやはや、随分と時の流れは速いものだ」

 

 テレビに映る映像を眺めながら、ふと思う。

 当時は10人しかいなかったはずの組織が、今や世界間をも飛び越える巨大治安組織になっているのだから凄まじい。

 そんな組織の隆盛の基礎ともいえる部分に関わることが出来た私も、実に鼻が高いというものだ。

 

「……ふぅ」

 

 しかし現在。私がその組織に所属しているのかと問われれば、そうではない。

 簡単な話、私は既に引退し、隠居する身なのだ。

 幾ら不老不死であり、何をされようが死なず、終わらないこの肉体を持つ私であっても、私が集めた9人の仲間たち……今となっては『上位種』と呼ばれる括りに分類される彼ら彼女らの実力には到底及ばず、まして彼ら彼女らでさえ手こずるような相手になど敵うわけもなかった。

 

 だからこそ、私は私が足手まといになる前に組織を去ったのだ。

 彼ら彼女らは私の引退を惜しみ、強く引き留めてくれたが、私はそれを拒んだ。

 怖かったのだ。彼ら彼女らも、そして私も、永くを生きることが出来るからこそ。

 いつか彼ら彼女らの信頼や友情が薄れ、私に愛想を尽かせてしまう事が。

 

 要するに、ただの我儘だ。

 どうせ去る事になるのなら、思い出は楽しく美しいままがいい。辛く苦しい思い出にしたくない。

 私の実力不足を建前に、私はそんな自分勝手な考えを覆い隠して、盛大な送別会の後に彼ら彼女らの元を去った。

 

「俺たちみんな、どうせ気が遠くなるほど長く生きるんだ。きっとどこかで再会できる」

 

 そんな言葉を残して。

 そうしてそれから……何百年だろうか。

 もうどれだけ経ったか良く分からないが、こうして私は故郷である地球の山の中で、静かに慎ましやかに暮らしているわけである。

 

「……さて、と」

 

 ソファから腰を浮かせて向かうのは、私の農場だ。

 私のやることは、そこまで多くはない。

 ……まぁ、不老不死なわけだから、極論すれば何もしなくてもいいわけだが。しかしいつか彼ら彼女らと再会したときにがっかりされないようにと、最低限の努力は毎日続けている。

 

 農業だってその一環だ。

 人間の作り出すトレーニング用の道具は人間にとって非常に効率的であるので、同じく人間である私が揃えても得しかないのだが、しかしそれらを買うためには金が要る。だが金を稼ぐためには労働が必要である……ものの、不老不死とかいう能力が下位種にして短命種たる人間にとって如何なる劇薬であるかなど、当事者である俺が最もよく知るところである。

 そのため、あまり市井に出ずに稼げる職を探し、その結果として辿り着いたのがこの農家という職業だったわけだ。

 

 時代の変遷と共に、農家がマイナーかつ不人気な仕事になったというのも大きかった。

 私が生まれた当時は大体の人間が農家とかいう、メジャー中のメジャー職だったのが、よくもまぁここまで変化したものである。

 

 ……そうだ、変化と言えば、農業の在り方の変化も凄まじい。

 最近の科学技術の進歩は農業の場面でも革命的躍進を引き起こしており、当時の農業とは効率が段違いすぎるのである。

 私の畑にもそう言った最新技術は多分に含まれており、おかげで最近は収入も───

 

 と、私が自らの畑に入ろうとした、その瞬間のことであった。

 周囲がいきなりフッと暗くなったかと思えば、上空から超巨大な何かが降ってきたのだ。

 丁度、私の畑を覆うように。

 

「……………………は?」

 

 あまりの事態に数秒ほど我を忘れて呆然とし、一体何事だと天を仰いでみてみれば、そこにいたのは巨大な怪獣。

 天を覆い尽くすような巨体を誇り、大地を震撼させるような咆哮を上げるそいつが犯人であることは、考えるまでもなく自明であった。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐く。

 私は不老不死である。

 既に数百年以上の時を生きた、人間最高齢と言ってもいいであろうお爺ちゃんである。

 この先も何百年どころか、何千何万年と生きるであろう人間である。

 だからたったこれしきの事で腹を立てたりはしない。

 そう、決して腹を立てたりはしない。

 あくまで冷静、冷静沈着である。

 

「さて、殺すか」

 

 怒ってなどいない。決して怒ってなどいない。

 ただちょっとあの野郎を生かしておくわけにはいかないという、それだけである。

 

 

 ■

 

 

 ○○県○○市山間に出現した怪物。

 そのほど近くの空中では、一人の少女がメルヘンで可愛らしい衣装を身に纏いつつも、全く可愛くない轟音を響かせながら怪獣への攻撃を続けていた。

 

「ちょっと、マズいかも……!」

 

 超世界治安組織、『ガーディアンズ』の仕事には、当然だが怪獣災害の対処も含まれる。

 そしてフロスと呼ばれる彼女は弱冠15歳にしてその才覚を見出され、ガーディアンズ地球支部に加入、当初から周囲の期待に応え、今では立派な戦力として数えられるれっきとした魔法少女であり、そんな彼女が近くに出現した怪獣災害の対処に駆り出されるのも、また当然であった。

 しかし。

 

「流石に、硬すぎる……ッ!」

 

 事実、彼女の攻撃、その悉くが怪獣の表皮を突破できず、大したダメージを与えることが出来ていない様子だった。

 しかし、それは別に倒せないというわけではない。

 大したダメージが入っていないだけであって、全くダメージが入っていないわけではないため、時間を掛ければ怪獣を倒すこともできるだろう。

 怪獣が彼女を恐れ、彼女を殺したがり、それができないとわかるや否や逃げ出した事からも、それは明らかだ。

 だが、このままでは。

 

「倒しきる前に、街が……!」

 

 栄に栄えた現代日本だ。

 そこら中に街があり、当然そこには人が住んでいる。

 怪獣が押し入り、幾つかの足跡を作れば、その下で何十何百もの人間が死ぬだろう。

 そして今回の怪獣が発生したのは幸運にも山間部だったが、どちらの方向に怪獣が進んでも街はある。

 このままであれば、大きな被害が出る。

 

「早く、来てよ……!」

 

 彼女が今待ち望んでいるのは、応援の到着だ。

 ガーディアンズ地球支部に所属するエージェントは彼女一人ではない。

 この日本だけでも数百人の仲間がいる。

 そしてその中には、この怪獣を倒すに足る超火力の持ち主だっていた。

 そうでなくとも、もう一人彼女のサポート役がいるだけで話は大きく変わる。

 街に被害が出る可能性も、グンと低くなるだろう。

 

「…………もう、無理……!」

 

 しかし、非常なことに。

 数分ほど粘っても応援は来ず、怪獣は今まさに街へ足を踏み入れようとしていた。

 もはや応援が来ても間に合わない。

 そう判断したフロスは、被害をゼロに抑えることから如何に失われる命を減らすかにシフトしようとしていた。

 その次の瞬間である。

 

「…………え!?」

 

 ズドン。

 痛々しい音を立てて怪獣の顎……で、あろう部位が跳ね上げられ、ひっくり返った怪獣が地響きを立てながら山腹に沈んだ。

 

「一体、何が……!?」

 

 まさか応援が間に合ったのだろうかと思ったフロスだが、しかし彼女の魔力検知には覚えのある反応が引っ掛からない。

 その代わり、妙な反応が一つだけ、怪獣の付近から発生していて……その反応が膨れ上がった瞬間、怪物の腹が大きく抉れた。

 

「誰!?」

 

 空を駆け、仰向けに倒れ伏す怪獣の近く、妙な反応の持ち主の元へ急ぐ。

 すると、彼女の目に飛び込んできたのは、どこからどう見ても一般人にしか見えない、Tシャツ姿の青年であった。

 そんな青年が拳を振るうごとに、怪獣は苦悶の声を上げ、その命をすり減らしてゆく。

 

「強ッ……!?」

 

 思わずその場に浮遊しながら、呆然と見入ってしまう。

 こんな世界だ。そこら辺に野生の強者が転がっていても、全くおかしくはない。

 彼女だって、そうしてガーディアンズに拾われた身だ。

 しかしそうであるにしても、彼はあまりにも圧倒的過ぎた。

 

「…………あっ」

 

 彼の拳が怪獣の頭部を完全に破壊し、怪獣の肉体がぐったりと弛緩する。

 その様子に彼女はハッと我に返り、再び空中を蹴って彼の元へ急いだ。

 

「ん?」

 

 彼の目が、飛来するフロスを捉える。

 訝し気に細められた彼の目に薄ら寒いものを覚えながら、彼女は怪獣の上、男の眼前に降り立った。

 

「あー……どちら様で?」

 

 男の声を聴いて、フロスは驚く。

 あの荒々しい攻撃の主とは思えないほどに柔らかく、落ち着き払った声だったからだ。

 

「……あの」

「……あっ、すみません。私はガーディアンズ所属の、フロスと申します」

「ああ……成程」

 

 胸元に輝くバッヂを見せながらそう言えば、彼は納得したような表情を見せた。

 細かい説明など必要ない。ガーディアンズとは、そういう組織なのだ。

 

「……申し訳ない。私の畑を荒らされたもので、ついつい手が出てしまった。こういう場合、何かまずいことがあるだろうか」

「い、いえいえ、こちらこそ、危なかったところを協力していただき、ありがとうございました。あのままでは多くの死傷者が出ていたでしょうし……」

「だとしても、規則は規則だろう。何かまずいことがあるのなら、出頭することも辞さないが……」

「えーっと……」

 

 フロスは困ってしまった。

 何故なら、どうすればいいかわからなかったからだ。

 いやまぁ、そりゃあ規則の一つや二つは存在する。

 普通に考えればガーディアン所属でもないのに暴力目的で異能を行使するなど違法行為だ。

 ……だが、この辺には正当防衛的行使を始めとして様々な特例が存在するものであり、当然ながら15歳の少女であるフロスにその辺の複雑なことが完全に把握できているわけではない。

 

「その、えっと、その……良く分からないので、とにかく一緒に来てもらっても……いいですか?」

 

 だからまずはとりあえず、この金の卵を確保するところから始めることにした。

 

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