不老不死、自分が過去に設立した組織に加入する。   作:RGN

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原点回帰

 怪獣に畑をぶっ潰されたので腹いせに怪獣をぶっ殺したら、なんか妙にフリフリした衣装の少女……魔法少女、とか言うんだったか? に連れられ、私はガーディアンズ地球支部の日本部署に訪れることとなった。

 

 しかしまぁ、何ともやってしまったものである。

 苦労して育て上げた畑を潰されたことは、予想以上に私の冷静さを奪っていたようだ。

 私としては冷静でいたつもりだったのだが……いやはや、怒りとは恐ろしい。

 いずれこのような怒りもコントロールできるようにならなければな。

 

 ……いや、彼ら彼女らは感情的な所も良いところ、とか言っていたか?

 まぁ確かに人間は感情の起伏があってこそのものだとは思うが……ふぅむ、いかんせん彼ら彼女らの価値観が分からんな。

 

 と、そんなことを考えていると、不意に少女……フロスが足を止め、前方を示した。

 

「あの建物ですね」

「ふむ……デカいな」

 

 とは言ってもまぁそれは地球基準であり、異世界基準で見るのなら全然小さいほうではあるのだが……しかし今ここで文字通り住んでいる世界の違う話をしても仕方があるまい。

 少なくとも国会議事堂よりは大きいんだから、相当デカい建物だと言える。

 

「本当に大きいですよね、あれ……」

「大きいというのは、やはりそれだけで迫力も違うものだからな。テレビでは実感できないことの一つだ」

「実際に見るのとじゃ、全然違いますからね」

 

 本当に便利なんだがなぁ、テレビ。

 しかしやはり、そういう実感に欠けるところはあの道具の欠点だと思う。

 かつての仲間の記録を収めた映像とかもたまに流れるのだが……全くダメだな。

 実際にあの隣で彼ら彼女らの活躍を見ていた俺にしてみれば、あんな映像では彼ら彼女らの凄さ、素晴らしさなど百分の一も伝わらない。

 その辺りもうちょっと頑張ってもらいたいものである。

 こういった道具とかの技術面では人間が圧倒的なのだから、本当にぜひ頑張ってほしい。

 

「えーっと、ではまず中に入って……」

 

 そう言って建物内部に入る。

 内装はかなり近未来的なもので、外装からも想像できる通りとんでもなく広い。

 所々においてある様々なオブジェは……防犯用の装置のようだ。

 そういう術式が刻まれている。

 

「こっち……ですね」

 

 いかにも関係者以外立ち入り禁止と言わんばかりのゲートの方へ歩いて行くと、電子音と共に自動的に開いた。

 電子ロック……というよりは、魔力ロック、とでも言うべきだろうか。

 どうやらバッヂに刻まれた魔法刻印に反応して扉が開く仕掛けであるらしい。

 中々にハイテクだ。

 

「えーと、ここで少々お待ちください。今、上に相談しますので」

「了解した」

 

 応接室、と書かれた部屋の中に取り残される。

 広い部屋。上等なソファに上等なテーブル、その他様々な上等な装飾品……と、防犯用の物騒な魔道具の数々……よく見たら呪具もあるな。どれだけの事態を想定してるんだ。

 いやまぁ、こんな異能だらけの世界なんだから、備えなんていくらあってもいいけれども。

 

「……で」

 

 壁に掛けられた、少々大きめのサイズの肖像画。

 描かれているのは、一人の女性だ。

 

「リーナ……か」

 

 かつて私が様々な異世界を駆けずり回って集めた九人の仲間。その一人。

 私が名前を与えた、元・名も無き上位種だ。

 紺色の長髪、優し気な微笑みを浮かべた顔、白い手、服の上からでも曲線を感じ取れる体。

 細部の細部に至るまで、画家が精一杯その美しさを表現しようと努力した様が伺えるが……

 私から言わせてもらうと、ダメだな。

 

 いやまぁ、本当によく描けてはいる。画家の腕が確かだったことは認めよう。

 絵としての評価は100点と言っていい。

 ただ……彼女の魅力って、絵で表現できるものじゃなくてだな……こう、何て言うのだろうか。雰囲気というか佇まいというか。

 だから正直、彼女を絵に描こうって発想している時点でもう失敗していると思う。

 

「───美しいお方でしょう」

 

 と、そんなことを考えていると、背後から声がかかった。

 振り返ってみれば、そこにいたのは何とも渋い中年の男であった。

 ……テレビで見たことのある顔だ。彼が日本部署の責任者、という話だったか。

 成程、こうして見ると、かなり強そうだ。

 

「……あぁ、とても美しい人物だ」

「彼女のことは、御存知で?」

「リーナ・ザフキエル。ガーディアンズ九の創設者が一人」

「その通りです」

 

 彼は鷹揚に頷くと、私の隣へ移動し、彼女の肖像を眺めた。

 

「いやはや、お恥ずかしながら一目惚れ、というヤツでしてな。幼い頃に彼女の活躍をテレビで拝見した時から、どうにも心を奪われてしまいまして」

「まぁ……気持ちはわかる、とだけ」

 

 いや本当に。

 ()()()()()を知っている俺ですらコロッといきそうになったのだ。

 無垢な子供にとってはあまりにも強すぎる毒だったろう。

 

「まぁ、今となっては叶わぬ恋と知り、諦めましたがな。この絵は、未練のようなものです」

「……そうか」

 

 そりゃあまぁ、無理だろうな。

 彼女は上位者で、彼は人間だ。

 文字通りの意味で、格が違い過ぎる。

 

「申し遅れました。私はガーディアンズ地球支部日本部署責任者の、大城(オオシロ)と申します」

「しがない農家をやらせて貰っている。九道(クドウ)だ」

 

 差し出された手を握り返す。

 ……成程、鍛えられたいい手だ。

 それに、直近でも鍛錬は欠かしていないらしい。

 どうやら責任者を任せるに足る、ストイックさと責任感を兼ね備えた人物であるようだ。

 

「ではどうぞおかけください九道さん。このような場所で立ち話をするわけにもいかないでしょう」

「おっしゃる通りだ。では、座らせていただこう」

 

 上等なソファに腰かけ、対面する。

 

「では改めて。私はガーディアンズ地球支部日本部署責任者の大城(オオシロ)です。事情はあらかたフロスより聞いております。怪獣討伐に助力いただけたとか」

「まぁ、そういう事になる……のだろうか。お恥ずかしい事に、少々冷静さを失ってしまってな。ついやってしまったが……やはりマズいのだろうか」

「そうですな。マズいと言えば、マズいでしょう。そういう法律だってあるわけですからな」

 

 ガーディアンズのような特別な組織以外は、暴力目的で異能を使う事が固く禁じられている。

 当然と言えば当然の話である。民間人にそんな事が認められるのなら、じゃあガーディアンズという組織は何のために存在するんだという話になってしまう。

 

「まぁ、普通に考えるのならば裁判にかけられ、有罪判決が下るでしょうな。いくらそれが英雄的であろうと、私刑的な異能の行使を認めるわけには行きますまい」

 

 そりゃあそうだ。

 私刑を認めてしまっては法律も裁判所も要らないのである。

 

「ふぅむ……」

 

 さて、面倒な事になってしまった。

 まぁ別に、実刑を喰らうくらいなら全く問題はない。

 何せ私は不老不死なので、人間レベルの実刑判決を食らったところで、別に問題はないのである。死刑であってもそれは同様だ。

 心残りとなるのは家と畑くらいのものであるが……後者はもうないし、前者にしても私は不老不死であるので、どうにでもなってしまう。

 が……鍛錬ができないのはどうにもなぁ。

 

「しかし、どうにかする事は出来ます」

「ほう。と言うと」

「簡単な話です。あなたがガーディアンズに所属すればいい」

 

 ……ふむ?

 

 

 

 ■

 

 

 

 大城大毅(ダイキ)

 20年以上ガーディアンズ地球支部日本部署で働く彼は、過去は最前線で護国のために戦う英雄として、そして一線を退いた現在は部署の責任者として、身を粉にして組織に尽くす偉丈夫。

 今までに幾度となく物理的にも精神的にも強大な壁に立ち向かい、打ち勝って来た彼の心身は、相応に鍛え上げられていた。

 しかし、そんな彼であっても……否、そんな彼であるからこそ、目の前に居る青年に不気味なものを感じずにはいられなかった。

 

(これは、何の冗談だ?)

 

 彼はフロスから最初に話を聞いた当初、その人物を『強い異能を持っただけの素人』なのだろうなと評価していた。

 普通に考えればそれで正解のはずなのだ。

 いくら異能が蔓延る現代においても、一般人が戦闘を行う場面というものはまず無く、幾らかの護身術や武術を習っていたとしても、それが命のやり取りでない以上、経験値ではガーディアンズ所属のエージェントには敵わない。

 また、それだけ強力な異能であるのなら、鍛錬する機会も非常に限られるはずである。

 

(どうせ強い異能を使ういい機会だとでも思ったのだろう)

 

 そう当たりをつけ、調子に乗ってしまったのであろう若者を驚かせつつ、鼻っ柱をへし折ってやろうと、彼は軽い気持ちで応接室の扉を開けた。

 しかし、蓋を開けてみれば、飛び出して来たのはとんでもない怪物であった。

 

 ()()()()。あまりにも。

 一目見た時からヤバい事は理解できたが、握手した時の感覚でハッキリと確信した。

 この目の前に座る青年は、間違いなく自分よりも練り上げられている達人である、と。

 

 そう理解した次の瞬間には、大城の思考は彼を調子に乗らせない事から、いかに彼を仲間に引き入れるかにシフトしていた。

 

「ご存知の通りであるとは思いますが、ガーディアンズには異能の行使が非常に高いレベルで許可されています。事後承諾的な形にはなりますが、あなたがガーディアンズに所属していた事にすれば、もちろん怪獣退治も違法ではなくなります」

「ふむ……まぁ、それもアリと言えばアリ、なのだろうか……?」

 

 考え込む素振りを見せる九道。

 これはもう一押しだろう。

 そう確信し、大城は一気に勝負を決めにかかる。

 

「安心してください。ガーディアンズの仕事は大変かつ危険ではありますが、きちんと個人の事情も尊重します。学校に通いながら、あるいは会社へ通勤しながら活動を行っている者もいます。もしあなたが望むのでしたら、農家を続けながらでも構いません。勿論、今の仕事を続けずとも、我々の方から相応の金額をお支払いします。住居や食品、家具やその他様々な道具に至るまで、我々が援助しましょう」

「ほう……それはそれは、非常に興味深い。……一応聞いておきたいのだが、訓練場やトレーニング設備などは……」

「勿論自由に使っていただいて結構です。元々そのためにあるものですので。地球最新鋭のものから異世界で作成されたものまで、あらゆるものが揃っています」

「ふむ!」

 

 好感触だ。大城は勝利を確信する。

 

「成程、成程………分かりました。是非ともその話、受けさせていただきたい。まぁ、刑務所に入れられるのも嫌なのでね」

「おお! それは有り難い。是非とも歓迎しましょう。これからよろしくお願いします、九道さん」

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

 

 ■

 

 

 再び差し出された大城さんの手を握る。

 

 ……過去に自分が作り上げた組織に新米として加入するのは何というか、こそばゆい気分ではあるが。しかしまぁ、どうせやる事もないし、身体を鍛えるいい機会だ。

 

 それに、世界を守るというのは俺の原点でもある。

 まぁ、そもそも俺が第一線を退いた理由は、敵が強すぎて足手纏いになりそうだったから、というだけだしな。

 あの生活も、戦いが嫌になったわけでは無く、単純にちょっと疲れたから少し休憩しようというのが長続きしてしまっただけだし。

 何より地球産の弱い怪獣なり犯罪者なりならば、弱い俺でも何とかなるだろう。

 だったら、俺が動かない理由もないというものだ。

 

 隠居生活のセカンドライフはもういい加減終わりにして、原点回帰だ。

 これから俺の、サードライフを始めるとするか。

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