不老不死、自分が過去に設立した組織に加入する。   作:RGN

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初仕事

 さて、エーデルワイス嬢と別れた後、フロス嬢の教導の下、パトロールを始めとしたガーディアンズの日ごろの在り方を学んだ私であるが、その過程で私はとある一つの現実を理解しようとしていた。

 

「フロス嬢。今から私は、ともすれば非常に失礼に当たるであろう質問をするが、どうか容赦していただきたい」

「えぇ、まぁ……正直、内容について大体の予想はできますけども……」

「では、遠慮なく聞かせていただく」

 

 オホン、と。咳払いを一つ入れ、私はその質問を口にする。

 

「さてはと思うのだが……エージェント、結構暇だな?」

「はい、その通りです…………」

 

 エージェント───我々のような、現場での戦闘行為などに当たる人員───の勤務実態は、極めて薄味なものであった。

 絶対にやれ、と言われたこととしては、バッヂの常時着用、積極的なパトロール、定期的な報告書の送信、定期的な集会への参加、出動要請への対応と。

 まぁ、実にそれらしいものである。

 が、そのどれもが何と言うか、簡単すぎた。

 

 バッヂの常時着用については外出前に意識すればいいとして、パトロールに特に義務はないし、報告書はほぼ日記レベルだし、定期的な集会は月一だし。

 成程、これなら確かに仕事や学校と両立できるな、と思ってしまうほどの内容の薄さであった。

 

 いや、そりゃあまぁ、出動要請が飛んできた場合はそれはもうハードであろう。

 それこそ以前あったような怪獣災害であれば、自分が無事でありつつ被害を最小限に収めるための努力が求められるわけであるし、異能犯罪であればそこに人の悪意までもが加わるわけであるから、警戒は常に怠れない。

 場合によっては失敗の許されない、世界の危機のような事態に直面することだって、あり得なくはないはずだ。

 

 そういう事態になった時、最も素早く動き、そして最も確実かつ安全に事態を解決することが出来るのが、超世界的組織であるガーディアンズであることに間違いはない。

 何せ実力は保証されている───本来は実力テストがあるらしいが、私は免除された───わけであるし、異能も優秀なものが粒ぞろい。

 それに何より、本気でヤバい時には上位種まで出張って来るんだから、最悪の最悪に至っても結構な確率で何とかなるという点で、他のあらゆる組織よりも安心できる。

 

 ……の、だが。

 

「逆に言えば、ガーディアンズが出張るような緊急時以外の時にやることがほぼない、か」

「はい、異能犯罪とかを除いて大体のことは警察の方が何とかしちゃうので」

 

 どうやらそういう事であるらしい。

 ここには色々とまぁ面倒な話があるのだが、理屈としては簡単である。

 要するに、ガーディアンズはこの国ではあくまでも『異能を用いた暴力が許された一般人』という扱いなんだから、普段は一般市民の範疇を超えない行動をし、いざという時にだけ動け、ということだ。

 

 だから基本的に、ガーディアンズは出動要請が無ければ動けない。

 辛うじて許されるのは現場に居合わせた際の私人逮捕か、怪獣災害など、どっからどう考えてもガーディアンズ案件であろう事態のみである。

 ここから逸脱してしまうと、最悪重大な刑罰が下ることも無くはない。

 

 まぁ……仕方あるまいよ。

 そもそも私の設計した初期のガーディアンズって、警察みたいな組織ではなく、出た杭をただぶん殴るだけの暴力装置的なものであったし。

 っていうかそもそもガーディアンズなんて名前でもなかったし。

 それがこれほどまでに規模を大きくし、公的な治安維持の一端まで担わされるようになってしまったのだから、事業拡大の煽りというか、そういうのを受けていて当然であろう。

 

 しかし、この辺に関しては全体的に私の見通しが甘かったとしか言えんな。

 こうなることが分かっていたなら、裏方として組織に残っておけばよかった。

 まぁ、そんなことを今考えても、それこそ後の祭りというものなのだろうが。

 

「しかし、暇な分にはありがたいですよ? 他のことに集中できますし、何よりこの国が平和だという証拠でもありますから」

「それもそうだな。……ふむ、そういうことなら、私も畑の方に集中してもいいかも知れないな。トレーニング器具に関しては、運んでもらうとしよう」

「ええ、それがいいですよ。何も起きない事が一番で───」

 

 と、そこまで言いかけた彼女の言葉を遮って、胸元のバッヂが警告音のような音を鳴らす。

 

「……まぁ、何。何事も起こるときは急だという、いい教訓にはなった」

「慰めないでください……うぅ……」

 

 赤面しつつバッヂに手をやる彼女に倣い、私もバッヂに触れる。

 すると、魔力を介した音声が聞こえてきた。

 

『○○県所在のエージェントに通達。警察より出動要請。○○市○○における民家で立て籠もり事件。急行可能なエージェントは直ちに現場へ向かってください』

 

 と、そんな文言が何度も繰り返される。

 

「立て籠もり……ですか。これは大変ですね」

「まぁ、大変なのだろうなぁ」

 

 人質は大体の知的生命体にとって、非常に有効な手である。

 まぁ、虫や機械みたいな連中や、我々のような人質にされようが全く問題ない存在には効かないものの、人間にはとことん有効である。

 特に人道だの人権だの、そういう諸々のしがらみのある警察などにとっては、これ以上なく有効であるに違いない。

 とは言っても諸々の戦力差が大きすぎて、最終的には警察に捕らえられるのだろうが……時間稼ぎには最適であると言える。

 

「向かうか? 数十キロほど離れているが」

「私は向かいます。飛べばすぐですので」

「では、私も向かうとしよう」

 

 流石に少女一人を向かわせておいて、私は悠々と散歩など、居心地が悪いからな。

 

「え、だ、大丈夫ですか……?」

「問題ない、飛行くらいは朝飯前だとも。以前は言いそびれて公共交通機関をわざわざ使わせてしまったがね」

 

 この広くなり過ぎてしまった世界を徒歩で征くなど、非効率極まりないどころか普通に無理であるので、私はかつて飛行と高速移動の術を真っ先に取得した。

 特に上位種が住んでいるようなところが徒歩で向かえるわけがない。

 リーナなんか居たのは宇宙空間だぞ、宇宙空間。

 瞬間移動でも覚えなきゃやってられん。

 ……まぁ、ここで披露するつもりはないが。

 

「というかむしろ、私の方が君を置いて行かないか心配だ。どれくらいの速度で飛べる? 合わせよう」

「えっ、そ、それじゃあ、取り合えず最高速度でお願いします! 私のことは置いておいて、先に着いたら警察の方々のお手伝いを!」

「ふむ、了解した」

 

 と、俺は宙に浮かび、飛翔する。

 速度は……まぁ、音速の3倍くらいでいいだろう。

 速過ぎても衝撃波とかが怖い。

 周囲が無人だったなら、もっと速くしてもいいのだが……街だからな。

 突風が吹く程度に調整すべきだ。

 

「わっ、本当に速いですね!」

 

 頭の中に声が響いてくる。

 魔力による会話だ。バッヂのそれと同じようなやつ。

 後ろを探れば、いつの間にやらフリフリとした服装に変身し、手に妙にギラギラしたステッキを携えたフロス嬢が、ちょっとずつ私から離れているのがわかる。

 

「……の、割には、追従できているらしいがね」

「一応これでも、『魔法少女』なので」

 

 ふむ、魔法少女達の力の源である『アダプター』の優秀さは、確かに私も知るところであるが……これは、もう少し評価を上方修正させてもいいらしい。

 

「では、もう少し速度を上げる。是非ともゆっくり着いてくるといい」

 

 と、そう宣言して私はさらにスピードを上昇させる。

 まぁ、この速度でこの距離ならば十数秒やそこらしか変わらないだろうが。

 などと、そんなことを持っている間にも、すぐに現場らしきところへ私は到着した。

 

「少々失礼」

「ん? ……あぁ、もう来たのか。相変わらずお早ぇこった」

 

 少し行き過ぎてから着地し、すぐに引き返して現場責任者であろう人物の下へ。

 なんともまぁ強面の、いかにも厳格な刑事さんという感じの方だった。

 

「……見慣れねぇが、新入りか」

「推察の通り、つい先日免許を取ったばかりの新人にあたる」

「……大丈夫なのか」

「少なくとも、実力は認められているらしい。それで、現在の状況を伺いたい」

「私にも、お願いします……!」

 

 そのタイミングで、フロス嬢も到着したようだ。

 頭の上から声が降って来て……少し遅れて、スタっと私の隣へ着地した。

 

「やっぱりお前さんも来たか」

「はい、お久しぶりです鎌田さん。で、こちらのお方は九道さん。一週間前の怪獣を殴り倒した人です」

「……そうか、アンタが」

 

 と、フロス嬢が挨拶ついでに私を紹介すると、鎌田さんというらしい彼が私の方を驚いたような目で見てきた。

 

「……まぁいい。状況だったな。犯人が立て籠もっているのはあの民家。居直り強盗ってヤツで、家の娘さんと奥さんが悲鳴を上げ、たまたま近くにいた警官が近寄ったところ、それを察知した強盗犯が2人を人質に仕立て上げた。……そら、あの二階のカーテンの奥だ」

「ふむ」

 

 目を閉じ、調べてみれば、どうやら本当に二階のあの部屋に立て籠もっているらしい。

 凶器らしいものは持っていないが……人質であろう二人が何も抵抗できないでいるらしいところを見るに、異能を使えるのだろうが……どれ。

 

「……ふむ、気功か。しかしこの乱雑さだと、自力で習得したらしい。それも外功しか鍛えていないな。アンバランスが過ぎる。まぁ、戦えば雑魚もいいところだが……何も鍛えていない相手にすれば、十分に『反抗の抑圧に足る』範疇だろう。人は殺せるし……銃弾くらいは弾けるのか? 突撃は難しいだろうな」

 

 と、私が感じたままを話せば、二人が何やら驚いたような顔をしていた。

 

「……えっと、わかるん……ですか? そういうの」

「ん? まぁ、魔力感知とかの応用だな。練習しないと難しいが、覚えておいて損はない」

 

 こうでもしないと姿を捉えられない連中とか普通にいたからな。

 何なら私の仲間の2人も似たような感じだった。

 2人とも概念系だったからな。視覚では姿を捉えられないのだ。

 まぁ、私のことを気遣って、人の体を作ってくれてからはそんな必要もなくなったが。

 

「警察にもエージェントの有資格者はいるのだろう? 覚えさせてみてはどうだろうか?」

「………………おい、とんだバケモンだぞ、コイツ」

「いや、まぁ、その……幾つかの異世界に交流があるようで……それ以外はずっと山間の畑を耕していたみたいですし……」

 

 人のことをまるで世間知らずの怪物みたいに言うのをやめてもらおうか……と、言おうとしたが、よく考えれば私の知り合いでこの技を覚えているのは長命種だけであった。

 これはちょっとやらかしたかも知れん。

 よし、誤魔化そう。

 

「ふぅむ……まぁ、異世界由来の技術であることは否定しないとも。それに、練習の時間が幾らでもあったから、というのも大きい。しかし、あったら便利なのは本当だ」

「……そりゃあ、便利だろうよ。車で運ばなきゃならん装置以上の精度が、たったそれだけでわかるんならな」

「……………………」

 

 そういうことはもっと先に言っておいてほしかった。

 

「……まぁ、機械にできることが人間にできない道理もないというものだ。要は反復練習と感覚だとも。うむ」

「……えっと、それはそれとして。それで……犯人はどうしますか?」

 

 見るに見かねたフロス嬢が助け舟を出してくれた。

 本当にありがたい。

 それで、犯人だったな。

 

「私に任せてくれるのであれば、すぐにでも捕まえてくるが」

「人質の場所は掴めたので……保護魔法くらいなら、私でもできます」

「……もうお前らの好きにしろ。どうせ異能持ちの相手は異能持ちがしなきゃ骨が折れる。俺にも免許がありゃあ楽だったんだがな」

 

 どうやら鎌田さんは免許を取っていないらしい。

 まぁ、私は免除されたが、本来は実力テストもあるらしいからな。

 本来の取得過程は私が思っている以上に大変なのだろう。

 

「では、やるか」

「はい」

 

 記念すべき初仕事だが……宣言通り、すぐに終わらせてしまおう。

 保護魔法をかけてくれるのならば、多少、雑にも行ける。

 

「いきます───セット、プロテクト……エグゼキュート!」

()ッ!」

 

 魔法発動を検知と同時に跳躍、からの窓の縁を掴みながら念力で窓を全開にし、侵入。

 筋骨隆々の目出し帽とかいう100%犯人の野郎が未だ何も把握できていないだろううちに睡眠魔法を直接手で触れてぶち込んでやれば、終わりである。

 

「あ、え……?」

 

 人質は……無事だな、よし。

 確か、この後は事情聴取とかそういうのがあるのだったか?

 

「さて、それでは一緒に来てもらおうか。なに、悪いようにはしないとも。安心したまえ」

 

 と、笑顔で手を差し伸べたら悲鳴を上げて気絶された。解せぬ。

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