もし一乗寺治にパートナーがいたら(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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1995年3月6日

それは、数年前のことだった

 

僕が初めて、デジタルモンスターに出会ったのは

 

1995年、それは阪神・淡路大震災が1月に発生したことで漠然とした社会不安が世間で蔓延しはじめた年でもあった。連日、あの高速道路が倒壊し、バスが横転し、崩壊した街並みに立ち上る黒煙を僕は忘れることはないだろう。

 

連日連夜繰り返される報道が数ヶ月経過した3月6日月曜日、その日、僕はいつものように4月から始まる小学校の授業に遅れないよう塾に通い、サッカークラブで汗を流して帰ってきたらもう夜だった。中学受験を考えていたから新一年生といえども両親からの期待を一心に受けた僕は立ち止まることは許されていなかった。

 

唯一の息抜きは僕らの部屋にある父さんが買ってきたばかりのWindows95で遊ぶことだった。

インターネットで調べ物をしたり、プログラミングの勉強に夢中になっていた。あまりに熱中するものだから目が悪くなってしまって眼鏡をかけることになった。黒縁のシンプルな眼鏡だ。

 

まだ3歳の弟の賢は意味がわかっていないようで興味津々でよく覗き込んでくるものの、プログラミングのゲームを横で観察してはにこにこしていた。僕はなにもしなくていい無邪気な弟が邪魔で邪険に扱っていたのだが、賢はいつもニコニコしていてよくわかっていないようだった。それが余計僕をイライラさせることに賢は気づかなかった。

 

「にいちゃ、」

 

「今度はなんだよ、賢。今忙しいから後にしろっていって」

 

「これ、なあに?たまご?」

 

「えっ」

 

父さんはプログラマー、母さんは喫茶店のパートタイマー、共働きだ。母さんが帰ってくるまでまだ時間がある。いつものように息抜きのWindows95の画面いっぱいになにやら大きな卵が映っていることに僕はようやく気がついたのだ。なんだこれ。

 

「賢、なにかおしたか?」

 

「ぼく、さわってない。なんにもしてない」

 

「だよな......なんだこれ」

 

一定のリズムで上下するマーブル模様の卵。なんのボタンを押しても反応がない。強制的にシャットボタンを押そうとしても画面が変わらない。僕はいよいよ焦りはじめた。まさか壊れたんだろうか。賢が卵の画像に触れた。波紋が広がる。そして、その卵がぐにゃりとゆがんだ。

 

「えっ」

 

「にいちゃ、たまご!!」

 

なんと僕たちの目の前で卵がWindows95の画面から出てきたのだ。しかもヒビがものすごい勢いで入っていき、きゃっきゃと喜ぶ賢から卵を受け取り戸惑う僕の目の前で卵が孵ってしまったのである。

 

それは小さな小さなネズミのおもちゃみたいな生物だった。マウスとハツカネズミが一緒になったようなデザインが特徴で、光沢がある灰色の丸くてツヤツヤしたフォルムのおもちゃ。でも生きてる。光センサーになっている赤い目を持つ超小型のマシーン。賢が可愛いっておいかけまわすと逃げるようなそぶりを見せて、僕の周りをちょこまかと動き回る姿はとても可愛らしい。落ち着きがないともいうが。そして気づいたことがある。明るい光に反応して動き回る単純なプログラムしか持ち合わせていないためか、机やベッドの下なんかに潜り込んで周りが暗くなると動くことが出来なくなってしまうようだ。

 

なぜか分からないが機嫌の良いときは尻尾の先から電気を放電させている。

 

そして僕は気づいた。こいつの主食は電気だ。Windows95やプリンター、電子辞書、電化製品に潜り込んでは誤作動を起こして次々に故障していく。賢はぴかぴかひかるWindows95や冷蔵庫、テレビに目を輝かせているがこんなに小さいのにやばいのではないだろうかと思い始めた。捕まえたいのにすばしっこくて全然捕まらない。そうこうしているうちに、そいつは僕らの部屋にまた戻ってきてベランダ前にきた。

 

ようやく追いついたとき、そいつの姿ががらりと変わっていた。

 

「おにいちゃ、ねこになった!?」

 

「猫にしては動体ないけどな、頭だけ」

 

金属性の尖ったツノが二本あるヘルメットを被った青と白シマシマのふさふさしたしっぽのレッサーパンダ又はアライグマのような尻尾を持つ小型の生き物になっていた。電気を食べるこいつのことだ、ヘルメットに付いている2本の角の中には、あらゆる電波や音を受信出来るアンテナを持っているのかもしれない。

 

ただ、ネズミの頃とは違って視力が弱いのか、僕らの声に反応はするけど全然違うところを向いていたりする。

 

「わたしはカプリモン、あなたたちはだあれ?」

 

「僕は治、一乗寺治だ」

 

「ぼく?けんだよ。一乗寺賢。治お兄ちゃんはお兄ちゃんで、ぼくは弟なんだ」

 

カプリモンと名乗ったそいつは耳鳴りみたいな音を出した。口から超音波を出して、跳ね返ってくる音波で前方の対象物を認識する、コウモリのような特性を持っているらしい。ようやく僕らの方に正しく向いた。

 

「オサムとケンだね、はじめまして。わたし以外にたまごみなかった?オレンジ色のたまごなんだけど」

 

僕と賢は顔を見合わせた。そして首を振る。

 

「こまったなあ、わたし、誰かに連れ去られちゃったたまごを探しにここまできたのに」

 

しょんぼりしているカプリモンの言葉に僕はたまらず問いただす。

 

「いるだけで電気食べまくるお前みたいなやつが、もう一匹いるっていうのか!?はやくしないと大変なことになるじゃないか!」

 

「うん、そうなの。大変なことになるんだ」

 

「なんでそんな落ち着いていられるんだよ!!」

 

たまらず叫んだ僕である。カプリモンはびっくりしてひっくり返り、賢はちょっと後ろに下がった。

 

「カプリモンていったな、どこら辺にいったかわかるか」

 

カプリモンは首を振った。

 

「わかんない、ここのネットワークを使って誰かが連れて行ってしまったことだけしかわからないんだよ」

 

「ここ団地だからネットにつないでる家なんてたくさんあるんだぞ!?どうするんだよ!」

 

「探すしかないよねえ」

 

「あのなあ」

 

「おにいちゃん、探してあげようよ」

 

「簡単にいってくれるなよ、大体もう直ぐお母さんが帰って......」

 

言ってる側からチャイムがなる。はーいって賢がいってしまう。僕は仕方なくカプリモンを僕たちの部屋に隠すことにした。

 

「なあ、お前、何食べるんだ?」

 

「え?えっとねー、お肉。畑から採れたてのやつが大好き」

 

意味のわからないことを言われた僕は、夜食用にストックしているお菓子の袋を適当にあけてカプリモンに渡した。こぼされたら掃除機をかけなきゃいけなくなるから下に広告を広げておく。

 

「絶対ここからでるなよ、カプリモン」

 

「わかったー、ごはんありがとう、オサム」

 

僕はためいきをついて部屋を後にした。念の為電気を消して鍵をかけておく。

 

「治ちゃんも座って座って。今日は朝から冷蔵庫の調子が悪いみたいだから、修理のお電話したからね。明日の朝には業者の方が直しに来てくれると思うの。お弁当、パンになっちゃうけどいい?サンドイッチにしようと思うんだけど」

 

「わかった、明日の弁当はそれで」

 

「信号とか電光掲示板まで調子が悪いみたいで心配だわ。事故には十分気をつけてね、治ちゃん」

 

「うん、わかった。気をつける」

 

明日も塾とサッカーのローテーションの予定だ。カプリモンのいう誘拐された卵とやらの捜索はさらに後のことになるだろう。僕らは母さんが買ってきてくれた惣菜とパンで晩御飯を終えた。

 

帰ってきたら、カプリモンがさらに大きくなっていた。

 

まずいな、これ以上大きくなられると僕らの部屋に匿えなくなるぞ!?

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