もし一乗寺治にパートナーがいたら(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
ゲンナイさんと結界に亀裂が入った場所に急行すると、たしかに空間が裂け、ひび割れている。外側の景色が、ちらついている。
燃えていた。球体の周りが燃えていた。穴が空いてはその穴ごと炎に飲まれてしまう。灼熱の炎の向こう側になにかいる。
「直視してはならん、あれば四聖獣様が作り出したファイアーウォールの結界の向こう側からダークマスターズが引き入れようとしておる暗黒勢力の親玉じゃ」
ぱんぱんと手をたたき、僕の視線をそちらに向けたゲンナイさんはいうのだ。
ダークマスターズはあの穴の向こう側にある黒いなにか、デジモンですらない、デジモンの皮を被ったなにかに生み出されたのだという。ゲンナイさんたちはそれを進化を否定する概念と呼んでいる。デジモンは進化することを選び、生きることは進化することという世界の法則を選んできた。進化を否定する概念はそのすべてを否定し、停滞した安寧の世界の到来を望んでいるという。そのためにはデジモンが死んだ時に発生する悲しみや苦しみといった負の感情をかき集め、こねくりまわし、デジモンとして生み出した。それが今回デジタルワールドの時間を狂わせている暗黒勢力の隠れ蓑にして元凶である概念が実体を持つために生み出したデジモンのようなもの。ダークマスターズを倒したらそいつがいよいよデジタルワールドに顕現することになる。それが最終決戦なのだと。
その前に少しでも暗黒の支配下にある存在を増やして賛同者を集め、いざというときの逃げ道にしようと考えているのではないかという。
「ゲンナイの隠れ家は、デジタルワールドのサーバ大陸にあるテンプ湖の底がデジタルワールド側の入り口なんじゃが、セントラルマウンテンに再構築された時にその入り口も組み込まれてしまったんじゃ。おそらくその時にダークマスターズに捕捉されたんじゃろうな」
結界の裂け目から無数の真っ黒な手がこちらに伸びてきた。デジヴァイスのデジタルバリアを展開すると浄化されて消えてしまう。ミスティモンの剣に炎が付与され、勢いよく切り裂いていく。ズタズタになった真っ黒な手が燃えていく。ジャザリッヒモンの光線が真っ黒な手を焼き切っていった。デジヴァイスをかかげてみると画面から鮮やかな光が走り、無数の黒い手を裂け目すれすれまで消滅させた。やはりデジヴァイスのウイルスバスター機能は有効なようだ。
ゲンナイさんが虚空に文字を描く。デジ文字だ。修正のプログラムが組まれ、反映されていく。裂け目は完全に消え去った。僕たちは安心してほっとしたのだった。
「暗黒のチカラがこれ以上強くなると結界が破られてしまうかもしれん。そうなったらわしは毒のせいでろくに動くことすらできんようになるじゃろう。その時はわしのことは放っておいて、おぬしたちは逃げるんじゃ。わしはデジタルワールドのセキュリティ側の存在じゃ、ホメオスタシス様がいればまた復活もできよう。じゃが人間はそうはいかん。死んだら終わりじゃ、気をつけるように」
「ゲンナイさん」
「なんじゃ」
「デジモンは死んだらデジタマに戻るんですよね?今、ファイル島が復活したから、またデジタマに戻るんですよね?なら、その負の感情ってやつは消えないんでしょうか」
「うーむ、それは難しいのう」
「なぜ?」
「それはデジモンにも心があるからじゃ。想いは残る。いいことも、わるいことも、みんなみんなデータとして残ってしまうんじゃ。ならばそのデータからデジモンが生まれても世界の摂理じゃ」
「でも、進化を否定する概念がそれを利用して世界の危機に陥れようとしているなら、デジタルワールドからなんとか受けられる方法はないんですか。そうじゃないと終わらないですよ、戦いは」
「そうじゃなあ......じゃが負の感情の塊と意思疎通するのはなかなか大変じゃぞ、否定しかしてこんからの。あやつらの主義主張を聞けば聞くほど、受け入れるわけにはいかんのじゃ。じゃからわしらはその存在を忘れずに生きていくしか方法はないのかもしれん。あるいはデジタルワールドがさらに広がれば受け入れられる時がくるかもしれんがな」
「デジタルワールドが広がる?」
「うむ、おぬしらの世界とデジタルワールドはインターネットで繋がっておるからな、シームレスに繋がるようになればあるいは......。そう思うぞい」
「なるほど、つまり今はその時がくるまで封印するしか手がないってことなんですね」
「さよう、先代の子供達は5人で四面の封印を施したわけじゃがそれでも足りなかった。だから今回は四面体の封印を施そうと考えておる」
「今のデジタルワールドじゃ、進化を否定する概念と負の感情から生まれたデジモンを分離して転生させてやるだけのチカラがないから」
「そういうことじゃ。じゃが、おぬしと光子郎がスパイラルマウンテンをセントラルマウンテンにしてくれたおかげで、ダークマスターズがほどこした四聖獣様の封印が緩やかになっておる。この調子なら解放することができるやもしれん」
「じゃあさっきの亀裂は......暗黒のチカラが焦ってるってことですか」
「そうかもしれんのう」
僕は選ばれし子供達のためにまたパソコンに向かうことにしたのだった。