もし一乗寺治にパートナーがいたら(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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2000年1月1日その1

ファイル島のすべてが次々に空へ舞い上がる。太一は呆然とそれをみていることしかできなかった。目の前で起こっていることを選ばれし子供たちは、誰ひとりとして理解することができなかったのだ。逃げようにも逃げる先がない。ファイル島だけではなく、すべてのエリアで発生している大災害。かつて子供たちはこの大災害が起こってから12年後の世界を冒険したことがあるだけで、何が起こったのかは生き残ったデジモンたちの言葉でしか知らなかった。だから、当事者であるデジモンたちは絶句する。その言葉を聞いて、子供たちは思い知るのだ。まさか、目の前で、再現されるなんて誰が思うだろう。再構築されて平和になったはずの世界が、再び崩壊していく様を彼らは見ていることしかできなかった。遥か彼方では巻き上げられたすべてが渦を巻き、次第に肥大化していく。ある法則に従って4つの物質に分けられて、無数の手のように絡み合う。円錐状の禍々しい物体が作り上げられていく。

 

 

太一の立っていたあたりがぐらぐらと揺れだした。ぼこぼこと土の塊が引っこ抜かれ、空に吸い上げられていく。お兄ちゃん、と今にも泣きそうな顔をした光が抱きついてきたので、太一は必死でその手をとった。慌てて子供たちは大きな木にしがみつこうとしたが、その木々も地面から根こそぎ引き抜かれた。ものすごい勢いですべてが上昇し始める。悲鳴があがる。振り落とされないように、木の根っこにしがみついた子供たちは、あまりの衝撃に目を開けられない。どんどん高度をましていく大木の風圧に耐えるのに必死で、なにもできない。周囲は振り落とされた名前も知らないデジモンたちの悲鳴がこだました。何も聞こえなくて、よかったのだ。がれきに押しつぶされたり、データの分解にまきこまれたり、一歩間違えれば自分がそうなっていたとわかってしまうから。

 

 

ようやく太一が目を開けると、ファイル島は崩壊の一途をたどっていた。無数の穴が生まれ、その向こうには真っ黒な空間が広がっている。海ではない。海すら空に吸い上げられてしまい、今、眼下に広がるのは闇だけである。東西南北に出現した巨大な螺旋の柱に再構築されていく世界を見渡して、ようやく太一たちはデジタルワールドがダークマスターズによって支配されたころと全く同じ光景が広がっていることに気づくのだ。どうやら太一がいた木は、かつてピエモンがいたエリアに編入されたらしい。傍らには死んでも離すまいと抱きしめていた光がいる。ほっとした太一だったが、みんながいないと気づいて血の気が引いた。みんなの名前を呼んでみるが、返事はない。まじかよ、と太一はつぶやいた。

 

 

なにもない平原に太一と光はいた。太陽が沈んで、雲のない西の空に夕焼けの名残の赤がぼんやりと残る空が広がっている。すぐの黄昏時。何があるのかはぼんやりと確認できる。太一たちは仲間を探すために歩き始めた。

 

 

「デジタルワールドに一体何が起こってんだよ」

 

 

くそ、とデジヴァイスを握り締める手は白む。お互いを探知できるサーチ機能を便りに、ひたすら太一たちは前を進んだ。違和感はあったのだ、この世界に一歩足を踏み入れた瞬間から。現実世界は1999年12月31日、大晦日である。21世紀を目前に控えたカウントダウンが聞こえてきそうな時間帯に、彼らはデジタルワールドにやってきた。もちろん服装は冬服である、はずだった。なぜかデジタルワールドにやってきた太一たちは、8月1日に来ていた服装ともちものに変わっていたのだ。嫌な予感がした。だからアグモンたちが待っているはずの龍の目の湖を目指して、先を急いでいたというのに。

 

 

そもそも太一たちがデジタルワールドにやってきたのは、光子郎のパソコンに届いた一通のメールがきっかけだった。差出人はゲンナイさん。ケンタルモンやもんざえモンといったかつての仲間たちの姿も確認できた。 

 

その内容は、平和になったデジタルワールドに、会いに来てほしいというもの。1999年8月3日のお別れの日に約束していた招待状だった。

大晦日の夜、彼らはデジタルワールドに足を踏み入れたのだ。その矢先、太一たちはこの大厄災に巻き込まれてしまったのである。

 

「お兄ちゃん、あれ!」

 

「あっ」

 

言い合いの声が聞こえた光が指さす先には、奇跡的に生き延びたらしいデジモンたちがいる。種族も属性も世代もばらばらだ。突然わけのわからない世界に投げ出されたらしく、みんなボロボロだった。これからどうするのか相談していたら、喧嘩になったらしい。仲裁しようと近づいた太一の足を止めたのは、突然黒い煙が発生したからだ。あぶない、逃げろて叫んだけど遅かった。あっという間にデジモンたちは飲み込まれてしまう。

 

まるで生きているようにデジモンたちを飲み込んでしまった黒い煙。無防備なデジモンたちの目の色が変わるのが見えた。太一はゾッとした。黒い歯車やケーブルに操られているデジモンたちがしていた目だ。太一たちが呆然とみている目の前で、彼らの言い合いは殺し合い寸前まで発展してしまう。みんなケタケタ笑っている。血の臭いに興奮している。地獄絵図だ。

 

あの煙に飲まれた時点でどうしようもなかった。殺し合いして、最後の勝者が笑いながら死んだ。 今のデジタルワールドはダークマスターズが支配していたときのように、転生システムが死んでしまっている。みんなアポカリモンの餌になってしまう。

 

進化の否定。それが暗黒の勢力の目的だ。はじまりの街が手中に落ちた時点で、この世界にはもはや転生システムは存在しない。死んだら最後、生き返るには世界の再構築をまたねばならず、無念といった負の感情がすべてアポカリモンの糧になってしまう。もしここにアグモンがいても太一にできることは餌になる者たちをダークエリアに送ることだけだろう。

 

「太一ー!」

 

「光!」

 

「アグモン、よかった無事だったか」

 

「テイルモン!」

 

2体は久しぶりに会えたパートナーにだきついた。

 

「いったい世界はどうなっちゃったんだろう、太一!いきなり世界があの時みたいに元に戻っちゃったんだ!」

 

「なにがなんだか私にもわからないんだ、光。いきなり力を奪われたみたいで進化できない」

 

「なんだって?」

 

「進化できないってどういうこと?」

 

「おれ達の格好が夏の時と同じに変わっちまったのとなにか関係あるのか?」

 

「わかんないよー」

 

「とにかく、みんなを探そう!」

 

太一たちはデジヴァイスで位置情報を確認する。まるで太一たちがくるのがわかっていたかのように、みんなスパイラルマウンテンの頂上に分断されてしまっているようだった。

 

「ふっふっふ、また会えましたね選ばれし子供達よ」

 

「その声はピエモン!?」

 

「どうして?あなたはホーリーエンジェモンに異世界に送られたはずなのに!」

 

「冥府から蘇ったのですよ、今回は負けません。手の内はわかっていますからね、先に対策をとらせていただきました。さあ、喰らいなさい」

 

いつか見た白い布をみた太一は光の手を取り走り出す。なぜか進化することができないアグモンたちは、何度かデジヴァイスの光に包まれるのだが紋章が反応しないのだ。グレイモンまでしか進化できず太刀打ちできない。とうとう追い詰められてしまった太一はアグモンにデジヴァイスを託して白い布に消えてしまい、みんな人形に変えられてしまう。

 

アグモンはデジヴァイスを手に必死で逃げ続け、ゲンナイさんのデジタルゲートをみつけて飛び込んだのだった。

 

そこには予言の書の石碑が突然書き換わり、それを翻訳している一乗寺治、ジャザリッヒモンが急にジャザードモン、ミスティモンがウィザーモンに退化してしまったことに困惑するゲンナイさん。そして、デジタルワールドがいきなり崩壊の危機に直面して、急遽選ばれし子供として戦うことになりパートナーのミノモンとあったばかりの賢。アグモンは太一のデジヴァイスをもったままゲンナイさんに泣きついて今までのことを説明したのだった。

 

「今、翻訳できたところは、アポカリモンではなくミレニアモンという存在が世界を崩壊させようとしているという内容に変わったところです。おそらく、今回の戦いの親玉はこいつですよ、ゲンナイさん。心当たりは?」

 

「わからん、わからんが、太一たちの格好が夏のものに変わり、アグモンがグレイモンにしか進化できず、ピエモン達ダークマスターズが復活しているとなると、おそらく敵は時間を操ることができるはずじゃ」

 

「八神たちの冒険がなかったことになったってことですか」

 

「うむ、太一たちが捕まってしまった以上、ここにいる者達で助けに行くしか方法はあるまい。わしは前のようにスパイラルマウンテンをセントラルマウンテンに再構築し、四聖獣様達の復活を急ぐぞ。治達はデビモン、エテモン、ダークマスターズの討伐を頼む」

 

「ゲンナイさん、太一捕まっちゃったから、ボク進化できないよー!」

 

嘆くアグモンにゲンナイさんは新しいデジタルゲートを開いた。そこから1人の治くらいの少年が現れたではないか。

 

「おまえは?」

 

「はじめまして、おれは秋山リョウ。ゲンナイさんに言われてここにきたんだけど」

 

「リョウはどんなデジモン達とも仲良くなれる才能を持つ選ばれし子供じゃ。ほかのパートナーを進化させることもできる。だからアグモンと組んでもらおうと思うのじゃ」

 

「そんなことが可能なんですか!?」

 

「うむ、リョウは不可能を可能にする因子を持っておるのじゃ」

 

「話は聞いてるよ、アグモン。おれも頑張るから太一くんを取り戻そう」

 

「うん!」

 

「そうか......そんな才能があるなら心強いな。僕は一乗寺治、小学5年生だ。よろしく」

 

「おれも小学5年生なんだ。よろしくな」

 

「僕は一乗寺賢、治兄さんの弟です。僕も今回は初めての冒険になります。よろしくお願いします」

 

「あー硬い硬い、タメ口でいいよ、賢くん」

 

「え、あ、うん、よろしく」

 

「だいたいの自己紹介は済んだようじゃな。まずはスパイラルマウンテンをセントラルマウンテンに再構築して、ファイル島を復活させる。デビモンが支配しておるはずじゃから、まずは奪還作戦といこうかの。はじまりの街を取り戻して暗黒の力を弱体化させるんじゃ」

 

治はうなずいたのだった。

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