もし一乗寺治にパートナーがいたら(初代デジモンアドベンチャー) 作:アズマケイ
有楽町にある東京交通会館というショッピングセンター2階にパスポートセンターはある。そこでパスポートを受け取り、僕らは最上階にあるレストラン街に向かった。その前に1階にあるパン屋でハムサンドやカツサンドなどをすでに買ってある。この電波障害の最中だ、いつレジが故障して買えなくなるかわかったもんじゃなかった。ほんとはハンバーグ弁当も欲しかったんだが残念ながらテナントに弁当屋がなかったため、賢の希望で昼ごはんはハンバーグが食べられるレストランになったのだ。
ハンバーグを扱っているかつ最上階の見晴らしがいいレストランを選んで席を探すと、有楽町全体が臨める席があいていたのでそこに座る。目を皿にして眺めてみたがデジモンと思われるバケモノの乱闘騒ぎは拝めなかった。こちら方面にはこないのかもしれない。
どんよりと曇った灰色の昼下がりだった。雨こそ降ってはいないが、空は継ぎ目ひとつなく灰色の雪雲に覆われ、街は隅から隅までたっぷりとその灰色にそめれられていた。目に映るものすべてが灰色だった。まるで地球の終わりを予言するような天気だった。
天気予報では晴れのち一時雨との話だったのだが、昨日から不自然な雨雲が光が丘から広がり始め、電波障害の発生した場所が広がるたびに雨雲も広がり始めている。有楽町もその範囲に入っていることを示すように今にも降り出しそうな曇天が広がっている。
カプリモンは今どこにいるのだろうか。焦りばかりが募ってしまう。
ハンバーグセットが運ばれてきて、機械的に賢や母さんの話に相槌をうちながら外を見つめていた僕の目に、あの日から焼きついて離れないあの青い電気を帯びたロボットみたいな鳥型のデジモンがものすごい勢いで横切るのがみえた。おどろいて硬直する僕の目の前でそのデジモンは急降下して雲に飲まれてしまう。
その雲の一部に穴が開き、蜘蛛の子を散らすように無数の白い布切れが広がった。よく観れば頭からすっぽりと布を被っている幽霊のような化け物の大群が逃げ惑っているのがわかる。あのバケモノ一体ずつがおそらくデジモンなのだろう。カプリモンと思われるデジモンがレーザーを照射して次から次へと爆散させているのがわかる。ド派手な戦闘、場外乱闘が繰り広げられていることに他の人たちが気づき始めたみたいで、あたりが騒がしくなってきた。賢も母さんも気づいたみたいで窓に釘付けだ。
「なんだあれ」
「噂のバケモノじゃないか?」
「攻撃してるのロボットみたいじゃない?」
「じゃあ、あれか?アメリカか自衛隊の新型のロボット」
ものすごい勢いで白い布切れのデジモンを破壊していくカプリモンの真上に影がおちる。
「なんだあれ、コウモリ?」
無数のコウモリが集まってきてカプリモンを攻撃し始めた。レーザーによる抵抗虚しくカプリモンは不自然な体勢で落下していく。僕はたまらず立ち上がる。
「兄さん?」
「どうしたの、治ちゃん」
「母さんたちは先に買い物しててくれ、僕はちょっといってくる」
「えっ」
「兄さん!?」
「治ちゃん、どこにいくの、ねえ、治ちゃん!!」
二人の驚きの声をBGMに僕は一目散に走り出した。あいにくここまでくるのに使った直通のエレベーターは5階のオフィスで止まっている。仕方ないから階段で一気に駆け降りることにした。
1階にまで降りてきて外に出ると曇天がいよいよ落ちてくるんじゃないかってくらい分厚くなり、夏だというのにあたりは薄暗くなり始めていた。まるで産業革命時代のイギリスだ。スモッグではないだろうが、吸血鬼のバケモノの目撃情報がある条件と一致する。あのコウモリはもしかしたら吸血鬼のバケモノの部下なのかもしれない。吸血鬼がコウモリになって空を飛ぶのはダークファンタジーもので見たことがあるから、吸血鬼本人なのかもしれない。どちらにしろ撃墜されたカプリモンが心配だ。
撃墜された高度からだいたいのあたりを目算して人混みの中を走り出す。次第に霧が濃くなってきたのがわかる。
「カプリモン!」
振り返る人混みなどお構いなしで僕は落下地点にほど近い路地に入って叫んでみた。返事はない。
「カプリモン、どこだ、大丈夫か!?いるなら返事してくれ!僕だ、治だ。一乗寺治!4年前にあったことあるだろう?なにがあったかはわからないけど力になりたいんだ。でてきてくれ!」
人に聞かれてもよかった。振り替えられてもよかった。僕は無我夢中でカプリモンを探した。必死で走り回りながらカプリモンを探すが見当たらない。あれは絶対カプリモンだ、見間違えなんかじゃなかった。あのレーザーによる攻撃方法はあの日の夜に超至近距離から目撃したからよく覚えている。
「カプリモン!!」
何度目になるかわからないビルとビルの合間を曲がった先にて。ようやく僕はカプリモンを見つけた。コウモリの大群に襲われたせいか全身がボロボロで0と1になり分解されてしまった翼が痛々しい。その場から動くことすら叶わないのか返事はない。それでも顔を上げることはできるようで僕の方を見た。
「わたしのこと、知ってるの?あなたはだあれ?」
「ああ、知ってる。4年前から知ってる。カプリモンだろ?」
「カプリモンじゃない」
「え、ちがうのか?」
「ちがう、わたしの名前はジャザードモン」
「ジャザードモン」
「だけど、すぐあなたの知ってるカプリモンになる。もう限界みたい」
0と1の光がカプリモン改めジャザードモンを包み込んでいく。
「おまえ、死ぬのか?」
「死なない、わたしにはまだやるべきことがある。成熟期からならデータの転写でまたデジタマにもどれる。このデジタルワールドと一体化しつつある今この瞬間ならきっと」
「デジタマ?」
「デジモンのたまご、略してデジタマ。お願いがあるの、きいてくれない?」
「何をしたらいい?」
「わたしを光が丘につれていってほしいの。今、デジタルワールドとこの世界を繋いでいるのは光が丘だけだから。わたしは帰らなくちゃならない。もっと元気になったら、またみんなのお迎えをしないといけない」
だんだんジャザードモンが薄くなっていく。かわりにいつかみたことがあるデジタマが僕の手の中に出現する。さっきから母さんの連絡なのか携帯電話がうるさい。僕は覚悟を決めて携帯電話をオフにする。この卵を光が丘まで連れて行ってやらなければならない。