もし一乗寺治にパートナーがいたら(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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1999年8月2日その6

夕方になりそろそろ帰らなければならない時間帯だということで、約束どおりお台場海浜公園にふたたび集合した選ばれし子供達。1日がかりで調べた芝浦の8人目探しはヴァンデモン勢力との戦闘はあれど、空振りに終わったという結果がすべてだった。

 

ここでも僕は新顔と対面する。お台場小学校5年生の石田ヤマトと三軒茶屋に住む小学校2年生の弟の高石タケルだ。軽く自己紹介をしていると、泉がみんなにデジヴァイスを貸してくれといいだした。私物のノートパソコンにはゲンナイさんからもらったデジモンアナライザーという名前のデジモンの図鑑があり、データを更新をしたいという。

 

夏期講習のためここにはいない城戸丈を除いた6人分のデジヴァイスが順番にケーブルで繋げられていく。ダウンロード画面を広げながら、泉はゲンナイさんから貰った新しいプログラムを別画面で展開しはじめる。おふざけのプログラムも入っているがいたって真面目なプログラムもある。

 

「デジタルバリアは便利だな、とっさにコマンドを思い出せなくて東京タワーではつかえなかったが覚えていて損はない」

 

僕の言葉にきょとんとした顔で選ばれし子供達がみてくる。

 

「なんだそりゃ」

 

「なん......?なんで先にデジヴァイスを使ってるお前たちが知らないんだ?暗黒の力を封じる結界の中に入れば隠匿機能が働くって説明書にあるじゃないか。敵から逃げるには必須のプログラムだろ?」

 

「えええっ!?デジヴァイスの説明書だあ!?そんなのおれ達もらってないぞ?なあ、みんな?」

 

「ええ、初めて聞いたわ」

 

「そんなの聞いたことなーい」

 

「ゲンナイさんがくれた新しいプログラムを後から渡した一乗寺さんのデジヴァイスにはインストールされてるだけじゃないですか?その場合は、今からみなさんのデジヴァイスにデジタルバリアのプログラムダウンロードしなくちゃいけないですけど」

 

「いや、それはおかしい。暗黒の力を封じるのがお前たちの旅の目的だろう?ならデジタルバリアは初期に絶対入っていなければならないプログラムだ。これは暗黒の力を封じる結界機能の応用だからな」

 

「それもそうか......じゃあなんで教えてくれなかったんだろう、ゲンナイさん」

 

「僕は普通にゲンナイさんからもらったぞ?」

 

メールの添付ファイルを八神にみせるとあのジジイ!と叫び声をあげた。泉が僕の携帯を見るなりケーブルに繋いで転送させてくれとお願いしてくるものだから、僕は泉にかしてやった。ついでに選ばれし子供達の自宅の連絡先と泉のノートパソコンのメールアドレス、携帯の番号とメールアドレスを登録してもらえることになった。これで少しははやく動けるようになるだろうか。僕の隣でずっとぶつぶついっていた八神がとうとう不満を爆発させる。

 

「知ってたらおれ達、もっと冒険が楽になってたのに!」

 

12時から13時の1時間、つまりデジタルワールドの60日の漂流生活を強いられたという八神をはじめとした選ばれし子供達の切実な叫びである。携帯電話は泉に貸しているため、僕は頭に叩き込んだデジヴァイスの説明書について先人に説明会を開くというよくわからない状況になってしまったのだった。みんな一通りはコマンドのやり方を取得したので、今日は解散ということになった。

 

八神達がシーリアお台場の高層マンションに向かっていくのを見届けて、僕はお台場海浜公園駅に向かおうとした。ふたり、居残り組の影が伸びる。

 

「石田は高石の送迎か?」

 

「ああ、まあな。そういう一乗寺はどこまで乗るんだ?」

 

「僕は田町駅近くのマンションに住んでるから、ゆりかもめで新橋までいって、JR山手線で乗り換えるから、だいたい30分くらいだな」

 

「そうなんだ?じゃあ僕も新橋までいくルートにしようかな、お兄ちゃん」

 

「乗り換え二回になるけどいいのか、タケル」

 

「うん、だってそっちの方が早いし。僕、途中まででいいよ?お兄ちゃん。夜も遅いし」

 

「いや......送らせろよ三軒茶屋まで」

 

「......うん、わかった、ありがと」

 

僕は聞かないふりをした。無言で少しだけ先を歩く。4年前の光が丘爆弾テロ事件で一家で引っ越すのではなく、石田がお台場、高石が三軒茶屋に引っ越した時点で両親の離婚により子供がひとりずつ引き取られたと考えるのが自然だ。しばらくの沈黙ののち、ありがとな、と石田からお礼をいわれた。

 

「そうだ、治さんって賢くんっていう弟がいるんだよね?何年生なの?」

 

「2年生だ」

 

「僕と一緒だ!」

 

「おれ達と同じ歳の差の兄弟なんだな」

 

「まあな」

 

「じゃあ、賢くんも選ばれし子供なのかな?」

 

「いや、今はまだ違うらしい」

 

「まだ?」

 

「ああ、ゲンナイさんが力を借りるときがくるとはいってたが、いつになるかは教えてくれなかった」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「ああ。僕もジャザードモンのパートナーになるのはもう少し先だったらしいが、こうして会えたのも縁だろうってデジヴァイスを渡してくれた」

 

「デジタルワールドの危機ってそう何回も起こるものなのか、予言の書ってやつもどこまで本当のことがかかれているのかわかったものじゃないな。ああ、そうだ。一乗寺、有楽町からジャザードモンのデジタマ抱えて光が丘に行ったんだよな?家族はそのこと知ってるのか?」

 

ヤマトの言葉に今の今まで目を逸らし続けてきた現実を突きつけられてしまい、僕は気まずそうに目を逸らした。

 

「おい、大丈夫なのか?」

 

「......たぶん大丈夫ではないな。電波障害で連絡がとれなかったと言い訳はできるが、今日の塾をサボったことは母さんに連絡がいってるはずだ」

 

「えっ、治さん、丈さんと一緒で塾にいってるのにサボったの!?大丈夫?怒られない?」

 

「怒られるだろうな、母さんにも、父さんにも、塾の先生にも。でも僕は後悔してない。それだけ4年前からずっと僕はカプリモンにまた会いたかったんだ」

 

「そっかあ」

 

「わかる気がするな」

 

「うん」

 

僕はうなずいた。もうほとんど衝動的なものだったから、ゲンナイさんはジャザードモンのパートナーが僕だと気づいたのだろうと思う。

 

本音をいえば、天才少年ともてはやす周りには辟易しているところがあった。ほんとは普通の子供みたいに思いっきり遊びたかったし、好きなことをしたかった。でも生まれ持った才能に目をつけた周りの大人達ははやく大人になれとばかりに勉強やサッカー、チェスやプログラミング、フランス語、ドイツ語、英語と僕の才能を見つけるたびに才能を伸ばすことを強要してきた。おかげで夏休みだというのに家族団欒の時なんてほとんどない。母さんは僕の世話焼きに一生懸命で賢のことは放置気味なのが歪な家庭環境を象徴しているようだった。それでも僕はがんばるしかないのだ。僕が僕であるためには大人たちの期待に応え続けるしか、僕は他に方法を知らないから。

 

そういうわけだから僕には親しい友達が一人もいない。つくれない。つくる時間もない。そういう意味では選ばれし子供達は初めてできた同年代の友達といっていいのかもしれない。だから僕は石田たちと話すのが少し楽しかった。

 

「ヴァンデモンにやられてたって話だしな......ジャザモンが死ななくてよかった。一乗寺のおかげだな。でも、あのジャザードモンが負けるんだ。やっぱりヴァンデモンは相当強いな......気をつけないと」

 

「そうだね、お兄ちゃん」 

 

僕らはゆりかもめに乗り、一路、新橋を目指すのだった。

 

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