もし一乗寺治にパートナーがいたら(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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1999年8月2日その7

「ただいま」

 

「お、おかえり、兄さん!母さん、お母さん、兄さんが帰ってきたよ!」

 

「治ちゃん!」

 

一目散に走ってきた母さんに強く強く抱きしめられる。事前の連絡もなく急に行方不明になるのは光が丘爆弾テロ事件の事件現場で倒れていたとき依頼だからだろうか。母さんは僕を見るなり涙を拭って目を釣り上げた。さすがに怒っているようだ。

 

「よかった、ほんとうに無事でよかった。怪獣騒ぎで巻き込まれてやしないか心配していたのよ、治ちゃん。東京交通会館からいきなり飛び出したきり、連絡もよこさないでなにをしていたの。お母さん、ほんとうに心配したのよ」

 

「電波障害で兄さんの電話通じないし、びっくりしたんだよ、僕たち」

 

「ここじゃなんだから入りましょうか、治ちゃん。なにか食べてきた?」

 

「いや、なにも」

 

「よかった、サンドイッチまた買っておいたの、牛乳出すから食べてね。お母さんたち先に食べたから」

 

賢は僕の無事を確認するとべったりになりはじめた母さんを寂しそうに見つめていたが先にリビングにひっこんだ。テレビをつけて今日あった怪獣騒ぎや女性の連続急性貧血事件についてニュースをみはじめる。テレビの音が聞こえてくる。とうとう急性貧血で意識が戻っていなかった女性がひとり、亡くなってしまったそうだ。

 

僕は母さんに連れられてリビングにいく。キッチンと繋がっていて僕の席からはテレビがみえる。母さんが僕のマグカップに牛乳をいれてくれたので、そのまま準備してあるハムサンドやカツサンドを食べ始めた。食べ終えるとマグカップを洗って食洗機に入れておく。

 

「治ちゃん、ここに座って」

 

いつになく真剣なまなざしで母さんが僕にリビングのテーブルにまた座るよううながしてきた。僕が突然行方不明になって夜になるまで戻らないなんて初めてだったからだ、母さんは心配と静かな怒りが混ざった表情をしている。

 

「お話をしましょう、治ちゃん」

 

僕は観念して真向かいの椅子を引いて座った。

 

「こんな時間までどこでなにをしていたの?塾の夏期講習まで休んだそうじゃない。塾の先生からお電話があったわ。今までそんなことする子じゃなかったのに、いったいどうしてそんなことをしたの?教えてちょうだい」

 

「心配かけてごめん。でも僕もたまには一人になりたかったんだ。今日のパスポートだって本当は僕一人で行く予定だったじゃないか、それが急にみんなでいくことになったからイライラしてたんだよ」

 

「え?」

 

「前から思っていたけれど、僕は習い事ばかりで自由になる時間、一人になれる時間が全然ないじゃないか。確かに全部僕からやりたいと言って通わせてもらっているけれど、夏休みに入っても僕に自由は全然なかった。それを考え出したら止まらなくなってしまって、母さんたちにひどいことをいいそうになったから逃げたんだ。ずっと頭を冷やすために芝浦あたりをうろうろしてたんだよ」

 

さすがにデジモンのことや選ばれし子供達のことを話して別の意味で心配させるわけにはいかないため、僕は話をそらすことにした。

 

「もうしない。出かけるときは事前に連絡する。約束する。ごめん」

 

一気にまくしたてると母さんは驚いた様子で固まってしまう。賢が驚いた顔でこちらの様子をうかがっているのがわかる。周りの大人達の期待を一心に集めておきながらなにをわがままなことをいってるんだといいげなかおだ。僕は放置気味な賢の方がうらやましいけどな。

 

「わがままなのはわかってる。でも、僕になにも聞かないでテレビや雑誌の取材やイベントのオファーをいれて事後承諾を求めるのはもうやめてほしい。僕だって習い事以外に何も考えないで遊びたい日もあるんだ。友達と遊びたい日だってある」

 

母さんは固まったままじわっと涙があふれてくる。僕はいいたいことがいえてすっきりしたので立ち上がる。そのとき、携帯にメールの着信音がしたので開いてみると、ゲンナイさんからだった。

 

僕は目を疑った。外は夜の7時だ。夏とはいえさすがに外は真っ暗で、吸血鬼が活動するには格好の時間であるといえる。

 

ゲンナイさんからのメール内容はこうだ。ヴァンデモンがフジテレビを拠点として8人目がお台場近くに住んでいると踏んだのか、お台場全体に霧の結界をはり、人々を拉致し始めたのだという。電波障害が発生しており、外部との通信手段が完全に絶たれている。大人は人質だろう。子供を集めて紋章の反応を見て8人目を探す強硬手段にでたらしかった。泉は結界の中心をたたけば霧が晴れると踏んでいるようでフジテレビに今から向かうと連絡が入ったようで、応援を頼む依頼だった。

 

「賢、ちょっと来い」

 

「えっ、なに、兄さん」

 

「いいから」

 

僕はテレビを勝手に消すと賢の腕を掴んで部屋に連れ込んだ。気まずそうに入り口あたりで立っている賢の前で僕はパソコンを起動する。泉から届いたメールを開き、デジタルバリアのプログラムをダウンロードしはじめる。

 

「なにこれ、ゲーム?」

 

「違う。でも、大事なプログラムだ、勝手にさわるなよ」

 

「うん、わかったよ、兄さん」

 

居心地悪そうな賢に僕は言った。

 

「賢、今から僕はお台場に行く」

 

「えっ、今から?」

 

「ああ、テレビでやってるだろ、怪獣騒ぎ。今日の家出でできた友達が危ない。助けてくれってメールが来た」

 

「大丈夫なの?」

 

「大丈夫、すぐ帰る。だから賢に頼みたいことがある」

 

「なに?」

 

「お台場から田町は遠いから心配のしすぎだとは思うが、怪獣がお台場の人たちを襲ってるらしい。もし怪獣がうちに来たら、僕の部屋に母さんと逃げ込むんだ。このプログラムは怪獣から見えなくするバリアだから。しゃべるなよ、音までは消せないからな」

 

「兄さん、今日できた友達って誰なの?普通じゃないよね」

 

「全部終わったら話す」

 

「約束してくれる?」

 

「ああ、おまえにも話さなきゃいけないことがあるからな。約束する」

 

「じゃあいいよ。なにかあったら母さんと兄さんの部屋に逃げればいいんだね、わかった」

 

いつになく真面目に話をしたからか、意味はわかってないにしても納得はしてくれたようだ。僕はリュックを背負いなおし、部屋から出ることにした。母さんに呼び止められる声がしたが無視した。今はそれどころじゃない。深い濃霧が立ち込めているのなら、お台場に行くゆりかもめも橋も船も交通見合わせで使えないだろう。なら直接行くしかない。僕はリュックをあけた。

 

「フジテレビに行くぞ、ジャザモン」

 

「わかった」

 

ジャザモンがジャザードモンに進化する。僕はその背中にのり、一気に空に駆け上がったのだった。

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