二度とないこの世界で〜君がくれた温もり〜 作:Sabs(S)
前回の作品とはまた別なんですけど、よかったら読んでいただけたら幸いです。
プロローグ
そこは、深い水のなかだった。
音も光も酸素さえも必要としない、絶望的な静寂。重力に身を任せて、ゆっくりと底へ向かって沈んでいく。伸ばしや指先が何かに触れることは二度とないだろう。
でも不思議な感覚だった。
ただただ落ちていくだけなのに……
手を伸ばしても届く訳ではない、届くわけが無いのだ。
(ああ、これでいいんだ)
やり残したことなんて何ひとつもない。愛してくれる人も、帰るべき場所も轟音とともに全て消えてしまったのだから。ただ冷たい水に溶けていくだけ。
やりたいことも、したい事も何も無い僕にとってはどうでもいいことだからいいか。
悲しんでくれる友達も、家族もみんないないのだ。そうだ……あの日からだ。
第一話 孤独
普通の日常、ただただ学校に行き、授業を受けて友達と遊んで帰る。ただそれだけだった日常。それが当たり前だった。こんな日が続けばいいと思った。そんな日だった。
日常はあまりにもあっけなく無慈悲に裂けた。
突然、緊急地震速報の不協和音が鳴り響き、みんなのスマホのアラーム音がなり始める。
『地震です。地震です』
最初は誰もが、いつもの「揺れ」だと思っていた。だが、世界は一瞬で反転した。
凄まじい衝撃、天井の蛍光灯が弾ける音さえ、大地が割れる怒号にかき消される。
もはや震度7以上だと悟る。
埃が舞い、視界が晴れたとき、僕の目の前には「無」が広がっていた。数秒前まで笑い合っていた、友人も使い古された机もすべてが暗い床下に飲み込まれ僕だけが教室の隅に取り残されていた。
そう、その日……、僕だけが生き残った。
その後のことは覚えてない、ひたすら外を歩いた。救助隊が助けてくれたみたいだがその時既に意識を失っていた。
うっすら断片的に記憶に残っている。
「君、大丈夫かい?」
「生き残りがいた!早く担架を。高校生だ。急げ」
「他にはいないか」
そうして完全に意識を失った。
......
「ここは……」
知らない天井、基、体育館の天井だ。周りがザワザワとしている。
何となく想像はついた。地震や災害等があると避難地区が別れており、その地域の避難地区に連れてかれるため、ここは学校の体育館だ。
「っ……」
体をうごさそうとすると痛みが走る。だが、動けないわけではない。多分打撲程度だと思い、起き上がる。
「良かった、意識が戻ったんだね。名前はわかる?」
そんな女性の言葉でハッとする。
「あ、あぁぁぁぁぁ」
そうだ、僕は目の前で……。
涙と嗚咽が溢れ出す。身体中のありとあらゆる水分が抜けていたのかもしれない。
「大丈夫、大丈夫だからゆっくり呼吸しようか」
背中をさすってくれ、優しい声が耳に残った。
言われるままに従った。
「……」
「落ち着いた?」
うん、と頷く。
「何があったか教えて貰ってもいい?」
教室の床が落ちて、皆が瓦礫の下敷きになってしまったことをつたえる。
不思議と涙は止まっていた。いや、枯れ果てていたと言うべきだろう。
女の人は一言言った。
「そっか、それは辛かったね……。でも君が生きていてくれて良かったよ」
と。なんでそんな事を言ってたのかは分からなかった。
それからというもの体育館にいてもすることもなく、外の景色を観ようと、ふらっと外へとぬけだした。
その光景はあまりにも残酷な景色だった。建物は崩壊し地面はひび割れ、電柱も倒れていた。
「そんな……」
学校どうこうの問題ではない。そもそもこの街の建物がみんな崩壊していた。
家族、唯一の肉親である姉にも連絡がつかなかった。
もう生きる気力なんてものはわかなかった。全てがどうでも良くなったのだ。
救助隊達の目をかいくぐりながら、ひたすらと歩き回った。
どれだけ歩いたのだろう……。あたりはうす暗く、街灯もない。いつもなら明るかった空でさえ、いつもよりも暗く、不気味な空だった。
しばらく歩いていると、1人の女性が泣いてるのを見つける。
昼間の女性だった。
「どうして……。どうしてよ……。ゆうき……っ……っ……」
昼間の優しかったあの人が。ただ、ひたすら泣いていた。
今の僕にはそこまで考える余裕などない……。唯一の家族も友達もみんな失ってしまったのだ。それにこの街も……。もう生きている意味なんてないのだ。電柱の近くに行き、ビリビリとしている電気に手を伸ばす――
「何してるの!」
突然だった。
手を止められ、ビンタされた。
さっきまでそこで泣いていた昼間の女性だった。
「な、なんで止めるんですか、死なせてください」
彼女の手を振ろうとするがなかなか振りほどけない。
「私だって死にたいわよ……」
薄暗い夜の中で女性が零した言葉は僕の胸を抉った。
「でも、それでも、なくなってしまった人の分まで生きていかなきゃ、背負っていかなきゃ行けないのよ」
彼女もまた、最愛の息子を失っていた。
「そんなの知らないよ!生きてる意味なんてないよ」
「あんたの友達や家族をそのままにしておくの!?最後まで見届けなさい。ちゃんと受け止めるの……」
昼間の女性は自分にも言い聞かせるように言っていた。そうか、彼女も。
震える手で僕の手を握り、「生きている人の最後を見届ける責任」を説いた。
どれくらいたったのだろうあたりは真っ暗になっていた。
「そろそろ戻ろっか……」
女性はスマホを取り出しライトをつけた。僕が離れないよう手を握ってくれた。その手は暖かくもか弱い手だった。
あとから聞いた話ではあるが、昼間の女性は、あの時、すでに息子が亡くなっていたが、彼女自信、看護師であるため自分が悲しむことよりも生きている命を優先していたそうだ。
その夜、彼女がそばにいてくれたおかげで眠りにつけた。名前も知らない昼間の女性。
目が覚めると彼女はいなかった。あたりはまだ薄暗く、周りの音は静かだった。トイレに行こうと思い、目を擦りながらトイレと向かう途中でふと体育館のドアの隙間から女性の鳴き声が聞こえていた。あの女性だ……。
「……っ……っ」
嗚咽と涙と……。
僕は近くまで行きそっと抱きついた。
しばらくして、女性は「ありがと」とにっこり微笑んでいた。その微笑みと裏腹に寂しさを同時に感じる。まだ乗り越えてはいないのだろう。
それから何日経ったのだろうか、色んなボランティアの人たちがきては瓦礫などの撤去もそうだし、食事を作ってくれて、色んな物資を暮れたら。それから半年くらいだったのだろう。ようやく僕たちも普通に過ごせるようになり始めてきた。それでも建物は崩壊しているが。
「ねえ、私と一緒に過ごしてみない?」
ふと、そんな事を女性から言われた。
「え……?」
少し考えてみるが、高校生の子供1人だけだと身よりもなく、むしろ生活環境がガラリと変わってしまうため、難しい。合理的ではあり、少なくともありがたい。
「高校生の一人暮らしって言っても行く宛てもないでしょう?それにこんなことになっているから大変でしょ?」
おっしゃる通り。大変だと思う。
「えっと、その、よろしくお願いします……」
こうして女性との共同生活が始まった。
読んでいただきありがとうございます!
前回の作品も進めたいのではありますがなんとなく思いつきで書いてしまったので、今回はとりあえず作ってみました。
読みにくい部分などありましたら教えていただけると幸いです。