二度とないこの世界で〜君がくれた温もり〜 作:Sabs(S)
頑張って書いてみました
病院の硬いパイプ椅子の感触で、目が覚めた。
夢の中で夏江さんの声を聞いた気がする。それは甘い誘惑ではなく、僕の背中を強く叩くような、彼女らしい「喝」だった。
(.....そうだ。今度は僕が、彼女に返す番なんだ)
スマホの画面が明るくなり、不在着信を告げる。
あの震災の日に出会ったボランティアの男性からだった。身寄りのないあの赤ん坊を、引き取ってくれないかという相談。
「なぜ、僕なんかに」
自問自答しなかった訳ではない。けれど、あの子のカーディガンのポケットから見つかった「詩織」という名前が書かれた小さな紙片を見たとき、運命を感じずにはいられなかった。この子の母親が最後に遺した祈りを、途絶えさせてはいけない。
夏江さんに教わった看護の基礎、命との向き合い方。それが僕の唯一の武器だった。
ミルクの温度、おむつを替える手つき。最初はぎこちなかった指先も、夏江さんの寝顔に報告を重ねるうちに、いつの間にか迷いは消えていた。
「あー、うー」
無邪気に笑い、僕の指を握りしめる詩織。
首が座り、寝返りを打ち、やがて僕の後を追って病院の廊下をよちよちと歩くようになる。その成長のすべてを、僕は夏江さんのベッドの傍らで見守り続けた。
生活は、綱渡りのような毎日だった。
昼はバイトを掛け持ちし、夜は夏江さんの入院する病院で看護助手として働く。睡眠時間を削り、自分の食事を簡素なものにしても、詩織には清潔な服を着せ、夏江さんの枕元には常に季節の花を飾った。
「見ててよ、夏江さん。僕はちゃんと、あなたの教えを守ってるから」
反応のない彼女の手を握り、心の中で何度も叫んだ。詩織が初めて「パパ」と呼んでくれたあの日、僕の頬を伝ったのは、絶望ではなく希望の涙だった。
詩織との生活は、吹き荒れる嵐の中で、一本の小さな蝋燭の火を守り続けるような日々だった。けれど、その小さな灯火こそが、僕をこの世界に繋ぎ止めていたのだ。
月日は流れ、僕は二十歳になった。介護士の資格を取り、ようやく自分の足で「命を支える仕事」に就いた。五歳になった詩織は、今ではすっかりおしゃべりになり、僕たちの日常は少しずつ賑やかさを増していた。
あの日も、いつものように詩織を夏江さんの隣に寝かしつけ、僕も深い眠りに落ちていた。
不意に、頬に柔らかな温もりを感じた。
泣きたくなるほど懐かしく、慈愛に満ちた、あの「手」の感触。
瞼を開けると、夕暮れの斜光が差し込む病室で、夏江さんが僕を見つめていた。
「.....和寿君。良かった、無事で」
掠れた、けれど確かに聞き覚えのある声。五年前と変わらない、透き通った瞳。
「……っ、夏江さん......!」
声にならない叫びが喉を突く。隣で目を覚ました詩織が、不思議そうに僕たちを見上げた。
「パパ、泣いてるの?......かーか、ねんね、おわ
り?」
「......うん。ほら詩織、かーかだよ。おはようって言おう」
キョトンとしていた詩織が、少し照れくさそうに、けれど誇らしげに胸を張った。
「んー、うん。あたち、しおり!はじめまちて!」夏江さんの口元が、柔らかく綻ぶ。
「初めまして、詩織ちゃん。詩織ちゃんの『かーか』だよ」
と、夏江さんは笑っていた。
それから夏江さんは順調に回復し、現在では歩けるようにまで回復した。
深い水のそこから僕達はようやくは上がったのだ。降り注ぐ光の中、新しく刻み込まれる三人の足とを聞きながら僕は誓った。
この温もりをもう二度と離さないと。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
小説書くよりも妄想のほうが勝ってしまうため文章力等が皆無のため読みにくかったり分かりづらい所が多いかと思います。
少しずつでもこれから投稿していこうかと思いますのでぜひ読んでいただけると幸いです。