二度とないこの世界で〜君がくれた温もり〜   作:Sabs(S)

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今度は和寿目線で書いてみました。


〜続〜(和寿編)

神様は残酷だ。

幸せな日々はある日突然に訪れた。

 

そう、震災だった。

 

家族とも友達とも永遠の別れを告げることとなった。

 

僕の心にはぽかんと穴が空いていたようだった。

何も考えないで死にたい。僕もみんなと一緒に行きたい。

そんな考えが過り手を伸ばす。

 

バチバチと電気の通っている電柱。それはまるでこの街の崩壊に涙しているかのような、悲鳴をあげているような音だった。

 

「これで……」

 

がしっと腕を掴まれる。

 

「え……?」

 

「何してるの!?」

 

泣きながら女性は掴んでいる腕の反対の手で目をこすっていた。

 

そう、昼間の女性だった。

 

「死なせてください……」

 

その瞬間だった。

 

パシィンと大きな音が響きわたった。と、同時に頬に痛みが走る。

 

「な……」

 

彼女は泣いていた。

 

「なんで……どうして!!僕はもう生きる希望もないんだよ!!唯一の家族の姉ちゃんだって、友達もみんな死んじゃったんだ!!だから僕も……」

 

彼女の手を振りほどき、電柱の電気に手を近づけようとするが、振りほどけない。

 

「私だって死にたいわよ……」

 

薄暗い夜の中で女性が零した言葉は僕の胸を抉った。

 

と。彼女は僕の胸ぐらをつかみ、それでも……

 

「でも、それでも、なくなってしまった人の分まで生きていかなきゃ、背負っていかなきゃ行けないのよ」

 

さっき彼女が「ゆうき」と、泣いてた事を思い出す。おそらく息子さんか、旦那さんだろうと予想はする。でも……。

 

「そんなの知らないよ!生きてる意味なんてないよ……」

 

でも、それでも失ったものが多すぎるのだ。高校2年生の僕にとっては受け止めきれるほど人間できていない。

でも彼女は必死に叫んだ。まるで自分にも言い聞かせるように。

 

「あんたの友達や家族をそのままにしておくの!?最後まで見届けなさい。ちゃんと受け止めるの……」

 

震える手で僕の手を握り、「生きている人の最後を見届ける責任」を説いた。

 

それが僕と彼女の始まりだった。

 

それからは流れるがままに時は進み、夏江さんの計らいで僕は、夏江さんと同居することになった。

 

夏江さんとの距離は「家族」と呼ぶにはまだまだ余所余所しくけれど「他人」でいるには近すぎる、不思議な距離感だった。

 

「今日からここはあなたのお家よ」

 

「えっと、お邪魔します……?」

 

「違うわよ」

 

「た、ただいま」

 

照れくさそうに、実際ものすごく恥ずかしい……。

 

「おかえり」

 

夏江さんはにっこりと笑い。僕を迎え入れてくれた。それがくしくも、懐かしい反面、寂しいような感じもした。

 

最初はそれはもうよそよそしいだろう。赤の他人同士が一緒に暮らすためだ。そもそも、僕に生活力なんてものはないと断言できるほどだ。

 

でも、夏江さんは違った。

朝からご飯を作ってくれて、僕を叩き起してくれる。昼の弁当、夜のご飯作り置きまでしてくれた。仕事は看護師であるために不定期な勤務だとは思ってたいたが、僕のためか、夜勤に行く日数が月に2、3回程だった。

 

ふと気になったため聞いてみた。

 

「ねえ、夏江さん夜勤に入らないのはどうして?」

 

「うん?変則的だと体壊しちゃうからだよ」

 

そうは言っていたが、20歳ちょいの人がそんなに大変なのかとは疑問には思ったが、今は考えないようにした。

 

「夏江さん、無理しないで……僕もできる限りは手伝うようにするから」

 

「ありがとう。でも平気だよ」

 

まだ少し壁があるのかそれとも……。

とはいえ、流石に色々ご飯や弁当を作ってくれたり掃除とかもしてくれているため、申し訳なくなってくる。

時々でもいいから掃除と料理くらいはしようと心に決めた。

 

最初は不器用すぎた。掃除機をかけるのはいいが、コンセントを入れ忘れるし、ても痛くなった。逆に料理の方は自分の指を切ってしまったり、もはやおかしなレベルの料理と言えない料理だった。

 

「っ……」

 

くそう、また指を切ってしまった。それにおかしい

 

「おかしいな、レシピ通りのはずなのに……」

 

現代ではスマホという便利なツールがあるおかげでわかりやすいはずなんだが、どうも上手くいかない。

 

と、まあ、そんな事を繰り返しては夏江さんに心配され、今度教えるからと料理や家事も教えてくれた。ちなみにこの時くらいから既に災害時の対策や救急時の対応とかも教えてくれた。

 

ある日の午後、二人で部屋の掃除をしていた時だった。

 

「和寿君、あのね」

 

夏江さんが手を止め、窓から差し込む陽光に目を細めた。

 

「私、あなたを助けたつもりだったけど、本当は私のほうがあなたに生かされているんだと思う。独りじゃ、この部屋には耐えられなかったから」

 

その言葉に僕は胸が熱くなるのを感じた。僕たちはお互いの欠けた心を日々の何気ない会話や温かい食卓で少しずつ埋め合っていた。

夏江さんとの共同生活は灰色の世界に少しずつ色をつけてくれた。

 

「和寿君、遅刻するわよ!」

 

「わかってるって夏江さん」

 

そんな何気ない朝のやり取りがどれほど奇跡に近いものか僕は痛いほど知っていた、彼女は僕にとって、失った家族の代わりでなく、新しく見つけた「命の恩人」でもあり、血はつながっていないがしっかりと「家族」といえる存在だった。

 

一年間彼女との生活を過ごしていた。そして僕もまた高校卒業する時だった。

 

ことは起きたのだ。

そう、地震……そして津波……。

もしこの世界に神様がいるなら本当に理不尽だろう。なんでなんで、こんなにも……。ようやく夏江さんと家族に慣れてきたのに。幸せな時間だと思っていたのに引き裂かれてしまうのだろうか。

 

そこにさらに追い打ちをかけるように僕は夏江さんが脳死になっていることを知る。

 

それはようやく幸せが訪れた僕にとっての絶望となった。

 

「夏江さん!夏江さん……ねえ、起きてよ……夏江さん……」

 

目の前が真っ暗になる。やる気も生きる気力も全てがどうでも良くなった。僕はまた1人になった。

 

 

ここは……。

ここは、水の中……?

 

「ダメよ!あなたはまだ、生きてるのだから」

 

走馬灯か、夏江さんの声がする。というか、散々怒られたな。命の重さについて語る時の夏江さんは厳しかったな。

でも、優しかった。僕は彼女に少しでも恩返しができただろうか。一年間、一緒に過ごして、なにかしてあげてたのだろうか。何もできてない。夏江さんならきっと「ちゃんと生きて」っていうのだろうな。

 

そんな夏江さんどの日々を思い出し、生きなくてはいけないと、思う。どれだけ悲しくても、辛くても。それが夏江さんとの約束だから。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
本当は終わらせるつもりだったんですが、せっかく続いてるから書いてみちゃいました(笑)
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