二度とないこの世界で〜君がくれた温もり〜 作:Sabs(S)
ここは……。
暗い。
冷たい。
深い水の底。
いや、水というよりは、光も熱も奪い去られた永遠の虚無と呼ぶべきかもしれない。
(私は、死んだのね.....)
どこか他人事のように、私はそう思った。
息をしている感覚すらないのに、不思議と苦しくはなかった。
私はゆっくりと沈んでいく。
上も下も分からないまま、ただ暗闇へ落ちていく。
……まあ、どうでもいいか。
息をしている感覚すらないのに、不思議と苦しくはなかった。
未曾有の震災。あの轟音と地割れの中で、私の日常は消滅した。けれど、胸を突き刺すような悲しみはなかった。あるのは、ただ呆気ないほどの虚脱感だけだ。
悲しんでくれる友人もいない。
待ってくれている家族もいない。
だったら、生きていようが死んでいようが同じだ。
生きる意味なんて最初からなかった。
もう疲れた。
何も考えたくない。
人間なんて、どうせ誰も信じられない。神様なんてものはいない。
視界がさらに暗く沈んでいく。
これで全部終わる。
このまま冷たい水の底へ落ちていけば、すべてが消えて楽になれる。
これできっと、終わりーー。
その時だった。
「ここは……?」
ゆっくりと目を開く。
そこに広がっていたのは、暗い海の底ではなかった。
無限に続く黒い空間。
まるで宇宙のような世界。
その中を、無数の光の欠片が漂っていた。
ガラスの破片のようにも見える。
星屑にも似ている。
大小さまざまな欠片が静かに浮かび、淡く輝いていた。
「……綺麗」
思わずそう呟いていた。
すると。
「あら、目覚めたのね」
不意に鼓膜を揺らす声があった。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
長い青髪。
透き通るような白い肌。
年齢は私と同じくらいだろうか。
けれど、その瞳だけは妙に大人びていて、不気味なほど落ち着いていた。
「あの……あなたは……?」
少女は小さく笑う。
フリルのついた、まるで魔法少女のコスプレのような衣装を身に纏っている。けれど、その瞳にはおよそ子供らしからぬ、すべてを見透かしたような冷徹な光が宿っていた。
「名乗る名なんてないけれど、ここでは名乗らない方がいいわね」
そう少女は告げて歩いていく。
「私に合うこと自体が奇跡だから。」
「待って……! ここはどこなの!? 私は――」
問いかけるより先に、少女は振り返らずに答えた。
「次に会うことがあれば話しましょう」
その声はどこか遠く聞こえた。
「もっとも……その可能性は万に1つだけれど」
次の瞬間。
少女の姿は、音もなく消えていた。
「え……?」
周囲を見渡しても誰もいない。
引き留める間もなかった。少女の姿は、まるで最初からそこにいなかったかのように、輪郭を失って空間に溶けていった。
あとに残されたのは、静寂と、冷たく輝く無数の欠片だけ。
「何なの……あの子……」
魔法少女のコスプレ?
いや、そんな軽いものじゃない。
どこか、人間じゃないような――。
「一体、なんなのよ、ここは.....」
死ねると思っていたのに、連れてこられたのはお伽話のような非日常の空間。
私は溜息をつき、目の前を漂う一つの欠片に、拒絶を込めてそっと指先を伸ばした。
シン、とガラスが触れ合うような澄んだ音が響
く。
その瞬間、世界の色彩が爆発した。
「え......!?」
目の前に広がったのは、眩しいほどの鮮やかな緑。どこか懐かしい、けれど決定的に見覚えのある、震災前のあの街の景色だった。
『おーい!何やってんだよ、こっちだよー!』
遠くから、制服を着た少年が手を振って叫んでいる。私を呼んでいる。いや、違う、私を呼んでいるのではない。後ろの女性だ。だが、それよりもその顔に、見覚えがあるような気がして、私が一歩を踏み出そうとした時、再び、暴力的なまでの純白の光が私の視界を塗りつぶした。
気づけば、私はまたあの空間へ戻っていた。
静寂。
漂う欠片。
黒い世界。
「……何、今の」
夢?
いや、違う。
あまりにも感覚が鮮明すぎた。
風の匂いも。声も。空気も。全部、本物みたいだった。
ただの幻覚じゃない。欠片に触れた瞬間、私の中に直接、他人の、あるいは自分自身の「記憶」が泥流のように流れ込んできたのだ。
私はゆっくり周囲を見渡す。
無数の欠片。
その一つ一つに、誰かの記憶が閉じ込められている。そんな気がした。
「この欠片に触れると……記憶が見える?」
自分で口にして、少しだけ震えた。
もしそうなら。
ここは一体何なのだろう。
死後の世界?
夢?
それとも――。
「なんで私が、こんなところに……」
誰にも必要とされなかった私が。
生きる意味なんてなかった私が。
神様は私に何をさせようとしているのだろう。こんな人間不信の私に、誰かの人生を覗き見るとでも言うのだろうか。
「……ふざけないでよ」
吐き捨てるように呟いた瞬間、振り返った私の背中に、別の大きな欠片が不意に接触した。
その時。
「あ――」
瞬間。
眩い光が再び溢れ出す。
視界が白に飲み込まれていく。
抵抗する暇などなかった。視界が上下に反転し強烈な重力が私を引きずり込んでいく。
そして私は――。
新たな記憶の中へ落ちていった。
こうして、生きる意味を失った私の、終わりのない世界の旅が始まった。
欠片編スタートしました。
元々こういうひぐらしのなく頃にみたいな世界線で描きたかったんですけどなかなか難しい。欠片の世界、ひぐらしのなく頃にみたいな感じをイメージしてます。ほぼ似たような感じですけど笑
続けられるように頑張ります!!