『プロセカ世界に転生したのに音痴だった俺が、壊れかけの少女たちを救うまで』 作:krowknown
3人で祭りの余韻に浸りながら商店街を歩いていると、祭りのざわめきの中に、明らかに違う音が小さくだが混ざっていた。
それとともに大きな歓声。
ただの盛り上がりじゃない。もっと切羽詰まった、何かに縋るような声。
「……なんか、すごくない?」
瑞希が足を止める。俺も同じ方を見ていた。人の流れが、一点に吸い寄せられている。
「行ってみるかい」
俺たちが足を止めると、類が促してくれる。、
三人で人混みをかき分け、ライブ会場へと足を踏み入れる。受付には本日観覧自由と書かれていた。
近づくにつれて、空気が変わる。
熱い。
ただの気温じゃない。
音が、空気ごと押し寄せてくる。
鼓動みたいなリズム。
胸の奥を直接叩かれる感覚。
視界が開けた。
年季の入ったステージ。
でも、そこにある熱は、そんな言葉で片付けられない。
光。
音。
歓声。
その中心に——
一人。
歌っている。
いや、違う。
“燃えている”
そう思った。
声が、音が、全部が。
削って、削って、出してるみたいに。
そこまでしなくていいだろ、ってくらい。
でも、やめない。
止まらない。
観客の誰もが、それを分かってるみたいに。
ただ、目を逸らさない。
「……なに、これ」
瑞希の声が、少し震えていた。
類は、何も言わない。
ただ、じっとステージを見ている。
——どこかで、知っている。
そんな感覚があった。
記憶の奥が、引っかかる。
けど、はっきりとは思い出せない。
最近、少しずつ増えてきている。
転生前の記憶が、霞む感じ。
重要なところだけ、抜け落ちていくみたいな。
それでも。
これは、分かる。
分かってしまった。
「……今日だったのか」
無意識に、呟いていた。
ラスト。
最後のライブ。
あの言葉が、頭に浮かぶ。
『RAD WEEKEND』
RADerの凪の人生最後のライブであった。まさかその勇姿を見ることができるなんて、俺はなんて幸せなんだ。もし今日お祭りにいていなかったら、この時間帯に商店街を歩いていなかったら……考えただけでも恐ろしい。
胸の奥が、ざわつく。
目の前の光景が、やけに鮮明になる。
ああ、そうだ。
この人が——
全部、燃やし尽くす日。
歌が、少しだけ掠れる。でも、止めない。
むしろ、強くなる。
無理してるのは、誰が見ても分かる。
それでも、続ける。
どうしてそこまでやる。
そんな疑問が、一瞬浮かぶ。
でも、すぐに消える。
——やらないと、終われないからだ。
そんな顔をしていた。
「……やばいな」
気づけば、呟いていた。
何がやばいのか、自分でも分からない。
ただ、このまま見てるだけじゃダメだって。
そんな焦りだけが、残る。
でも。
今は、何もできない。
ただ、見ていることしか。
最後の一音が、空に溶ける。
一瞬の静寂。
そのあと、爆発みたいな歓声。
誰もが叫んでいる。
拍手が鳴り止まない。
でも、ステージの上のその人は——
少しだけ、揺れた。
ほんの一瞬。
でも、確かに。
「……っ」
息が詰まる。
次の瞬間には、もう何事もなかったみたいに立っている。でも俺の弱点発見には、今にも消えそうな火が揺らいで見える。
それでも、その女性は笑っている。
やりきった顔で。
でも。
それが、逆に。
終わりを、はっきりさせていた。
「……帰ろうか」
不意に、類が言う。
珍しく、静かな声だった。
瑞希も、何も言わない。
ただ、もう一度だけステージを見て。
「……うん」
小さく頷く。
帰り道。
さっきまでの賑やかさが、嘘みたいに遠い。
誰も、すぐには口を開かなかった。
頭の中に、さっきの音が残っている。
消えない。
消えないまま——
「……なあ」
歩きながら、口を開く。
二人が、こっちを見る。
「さっきの、どう思った」
自分でも、なんで聞いたのか分からない。でも、聞かずにはいられなかった。瑞希は、少しだけ考えて。ぽつりと言う。
「かっこよすぎるでしょ、あれ」
少しだけ笑う。
でも、その目は真剣だった。
「でもさ」
続ける。
「ちょっと、怖かった」
その言葉に、何も返せなかった。
類は、静かに目を細める。
「……あれが、“本気”というものだよ」
誰に向けたわけでもない声。夜風が、少しだけ冷たい。俺は、もう一度だけ振り返る。会場は、もう見えない。
でも。
あの光景だけは、焼き付いて離れなかった。
——間に合うのか。
そんな言葉が、頭をよぎる。何に、とは言わない。
言えない。
ただ。
「……」
拳を、少しだけ握る。
まだ、何も決めてない。
でも。
あの瞬間を知ってしまった。
命を削るみたいに、誰かが“本気”で音を鳴らす姿を。
だからもう。
前みたいに、何も知らない顔ではいられなかった。
読んでいただきありがとうございます。同じプロセカ好きとして、嬉しく思います。
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