『プロセカ世界に転生したのに音痴だった俺が、壊れかけの少女たちを救うまで』   作:krowknown

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8 輝く命の灯

3人で祭りの余韻に浸りながら商店街を歩いていると、祭りのざわめきの中に、明らかに違う音が小さくだが混ざっていた。

 

それとともに大きな歓声。

 

ただの盛り上がりじゃない。もっと切羽詰まった、何かに縋るような声。

 

「……なんか、すごくない?」

 

瑞希が足を止める。俺も同じ方を見ていた。人の流れが、一点に吸い寄せられている。

 

「行ってみるかい」

 

俺たちが足を止めると、類が促してくれる。、

 

三人で人混みをかき分け、ライブ会場へと足を踏み入れる。受付には本日観覧自由と書かれていた。

 

近づくにつれて、空気が変わる。

 

熱い。

 

ただの気温じゃない。

 

音が、空気ごと押し寄せてくる。

 

鼓動みたいなリズム。

胸の奥を直接叩かれる感覚。

 

視界が開けた。

 

年季の入ったステージ。

でも、そこにある熱は、そんな言葉で片付けられない。

 

光。

 

音。

 

歓声。

 

その中心に——

 

一人。

 

歌っている。

 

いや、違う。

 

“燃えている”

 

そう思った。

 

声が、音が、全部が。

 

削って、削って、出してるみたいに。

 

そこまでしなくていいだろ、ってくらい。

 

でも、やめない。

 

止まらない。

 

観客の誰もが、それを分かってるみたいに。

 

ただ、目を逸らさない。

 

「……なに、これ」

 

瑞希の声が、少し震えていた。

 

類は、何も言わない。

 

ただ、じっとステージを見ている。

 

——どこかで、知っている。

 

そんな感覚があった。

 

記憶の奥が、引っかかる。

 

けど、はっきりとは思い出せない。

 

最近、少しずつ増えてきている。

 

転生前の記憶が、霞む感じ。

 

重要なところだけ、抜け落ちていくみたいな。

 

それでも。

 

これは、分かる。

 

分かってしまった。

 

「……今日だったのか」

 

無意識に、呟いていた。

 

ラスト。

 

最後のライブ。

 

あの言葉が、頭に浮かぶ。

 

『RAD WEEKEND』

 

RADerの凪の人生最後のライブであった。まさかその勇姿を見ることができるなんて、俺はなんて幸せなんだ。もし今日お祭りにいていなかったら、この時間帯に商店街を歩いていなかったら……考えただけでも恐ろしい。

 

胸の奥が、ざわつく。

 

目の前の光景が、やけに鮮明になる。

 

ああ、そうだ。

 

この人が——

 

全部、燃やし尽くす日。

 

歌が、少しだけ掠れる。でも、止めない。

 

むしろ、強くなる。

 

無理してるのは、誰が見ても分かる。

 

それでも、続ける。

 

どうしてそこまでやる。

 

そんな疑問が、一瞬浮かぶ。

 

でも、すぐに消える。

 

——やらないと、終われないからだ。

 

そんな顔をしていた。

 

「……やばいな」

 

気づけば、呟いていた。

 

何がやばいのか、自分でも分からない。

 

ただ、このまま見てるだけじゃダメだって。

 

そんな焦りだけが、残る。

 

でも。

 

今は、何もできない。

 

ただ、見ていることしか。

 

最後の一音が、空に溶ける。

 

一瞬の静寂。

 

そのあと、爆発みたいな歓声。

 

誰もが叫んでいる。

 

拍手が鳴り止まない。

 

でも、ステージの上のその人は——

 

少しだけ、揺れた。

 

ほんの一瞬。

 

でも、確かに。

 

「……っ」

 

息が詰まる。

 

次の瞬間には、もう何事もなかったみたいに立っている。でも俺の弱点発見には、今にも消えそうな火が揺らいで見える。

 

それでも、その女性は笑っている。

 

やりきった顔で。

 

でも。

 

それが、逆に。

 

終わりを、はっきりさせていた。

 

「……帰ろうか」

 

不意に、類が言う。

 

珍しく、静かな声だった。

 

瑞希も、何も言わない。

 

ただ、もう一度だけステージを見て。

 

「……うん」

 

小さく頷く。

 

帰り道。

 

さっきまでの賑やかさが、嘘みたいに遠い。

 

誰も、すぐには口を開かなかった。

 

頭の中に、さっきの音が残っている。

 

消えない。

 

消えないまま——

 

「……なあ」

 

歩きながら、口を開く。

 

二人が、こっちを見る。

 

「さっきの、どう思った」

 

自分でも、なんで聞いたのか分からない。でも、聞かずにはいられなかった。瑞希は、少しだけ考えて。ぽつりと言う。

 

「かっこよすぎるでしょ、あれ」

 

少しだけ笑う。

 

でも、その目は真剣だった。

 

「でもさ」

 

続ける。

 

「ちょっと、怖かった」

 

その言葉に、何も返せなかった。

 

類は、静かに目を細める。

 

「……あれが、“本気”というものだよ」

 

誰に向けたわけでもない声。夜風が、少しだけ冷たい。俺は、もう一度だけ振り返る。会場は、もう見えない。

 

でも。

 

あの光景だけは、焼き付いて離れなかった。

 

——間に合うのか。

 

そんな言葉が、頭をよぎる。何に、とは言わない。

 

言えない。

 

ただ。

 

「……」

 

拳を、少しだけ握る。

 

まだ、何も決めてない。

 

でも。

 

あの瞬間を知ってしまった。

 

命を削るみたいに、誰かが“本気”で音を鳴らす姿を。

 

だからもう。

 

前みたいに、何も知らない顔ではいられなかった。

 




読んでいただきありがとうございます。同じプロセカ好きとして、嬉しく思います。
評価、感想もお待ちしております。
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