転生したらヒトカゲだった。しかも色違い 作:リザードン大好きマン
第一話 「カゲェ!カゲェ!(いやぁ!!ハゲになってる!!)」
転生したらヒトカゲだった。何を言っているのかわからないかも知れないが、だが事実なのだからしょうがない。
俺はたぶん死んだ。最後に思い出すのは、夕焼けの光とクラクションの音。道路に飛び出した子どもを身を挺して庇ってしまった。いつもなら、見て見ぬふりをして面倒ごとには関わらずに逃げていたのに、あの時、あの一瞬なぜか体が勝手に動いてた。
ドンッ!という音と衝撃が意識を吹き飛ばし、視界が暗くなってーーーこの意識が目覚めるように芽生えた。
目覚めると周りは緑、緑、緑、つまり森の中にいた。辺りを見渡すと視界が低いことに違和感を覚え、自分の体を見ると人間のそれではなかった。
ぶつかったのは、いや、木にぶつけたのは俺の体から生えている尻尾。しかも尾の先端から火がゆらゆら燃えている。
鏡で自分の姿を確かめる必要もなく理解できる。――――これヒトカゲじゃん。
しかも色違い。
ーーーーーー
いや、いやいやいや。
ちょっと待って、意味わかんない。
「カゲェ!カゲェ!」
自分がヒトカゲになっているという現実を受け入れきれず、森の中を転げ回って大騒ぎすることしばらく。ようやく息を整えた俺は、その場に座り込み、頭を整理することにした。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の不思議な不思議な生き物。
俺はポケモンの世界に、ヒトカゲとして転生してしまった。体はポケモン、心は人間。その名も色違いヒトカゲ!真実はいつも一つ!なんてバカな事を考えながら、ここが何処なのかと辺りを見渡すと…
緑。草。木。森。
(普通の森にしか見えない…)
おそらくポケモンの世界だと思うが、どの地方なのかさっぱりわからない。ゲームで遊んでいた記憶を思い出していく。
俺はポケモンのシリーズ作品は全て遊んでいた。最初に手にしたのがポケットモンスター赤で最新作のZAまで遊んだ記憶がある。
殿堂入りは勿論するが、ランクバトルなどは廃人と呼ばれる人達には遠く及ばないし、昔のシリーズのことははっきりと覚えている自信がない。そして、俺が今いる場所がもしもSVよりも後の世代だとしたら完全にお手上げだ。
あえて予想するなら、俺はヒトカゲだしカントー地方の可能性が高いが根拠としては弱いな。
「カゲェ…」
八方塞がりな状況にため息がでてくる。
うーむ、しかしポケモンバトルねぇ…。ゲームとしてやるのは楽しかったけど、いざ自分がポケモンになって戦うのを想像すると怖い。
ここはゲームの世界じゃない。湿った土の匂い。重たい空気。絡みつくような熱気。五感がここは現実だと訴えてくる……。背中に冷や汗が出てくる。
もしも、俺より強いポケモンに襲われたら…
また、死ぬのか…?
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
そんなの嫌だ。死にたくない。人間に戻れるかはわからないが、せめて寿命まで生きたい。
(……強くなるしかない)
それしかない。ポケモンが強くなるにはレベルアップが必要で、俺には進化が必要だ。
ポケモンの世界はお世辞にも治安が良いとは言えない。襲いかかってくる野生のポケモン、悪の組織、そして俺を捕獲しようとするポケモントレーナーもいるだろう。ヒトカゲのままでは到底長生きできるとは思えない。
戦闘を重ねてレベルアップし、そこら辺のポケモンには負けないぐらい強くなる。そして人間に戻る方法を探す。
(どうせなら、空も飛んでみたいしな)
リザードン。ヒトカゲが最終進化すると、翼が生え体は大きくなりドラゴンのような姿になる。世界的に人気で個人的にも大好きなポケモンだ。しかし――
(リザードンってあんまり強く無いよな…。となると最終的に目指すのはメガシンカだ)
――対戦環境では、あまり日の目を浴びることは無かった。たが、第六世代のポケットモンスターXYからその評価は一気に変わった。
メガシンカ。「進化を超えた進化」と呼ばれるそれはポケモンがパワーアップする。これはX Yから追加された新しい要素であり、種族値が100も上昇させ、時にはタイプや特性も変わる強力なバトルシステムである。
まぁ、メガシンカのことを今考えてもしょうがないか。とりあえずの目標はリザードに進化することだな。今の俺ってどうやって技を使えばいいのかもわからないし、とりあえず自主練でもするか。
さてそう考えた所でさっそく練習しようと動こうとすると、ガサっと背後から草むらを分ける音がした。
「キャピ!」
すぐさまその場を飛び退き、振り返ると一体のキャタピーがいた。
(キャタピーがいるってことは、ここはカントー地方でいいのか?というかこいつデカいな)
俺が小さくて相対的にキャタピーが大きく感じるだけかも知れないが、初めて見る自分以外のポケモンの迫力に驚く。いやでも、よくみたら可愛いか…?もしかしたら仲良くなれるかも――
「ギャピッ!!」
――うん。無理だ。完全に敵として見てる。どうやら縄張りに入って来た部外者を排除に来たようである。
少し怖いが、タイプ的には炎と虫でこちらが有利だ。初めてのポケモンバトルをする。
(俺にやれんのか…?いや、やるしかない。勝つんだ。そして生きる)
ーーーーーー
キャタピーの動きを見極めるために、距離を置くことを優先する。
「キャ!」
いとをはく
開幕の狼煙は、キャタピーの口から放たれる白い糸。
かなりの速さで飛んでくるそれを横に飛び退いて回避する。糸は背後の木に付着し、キャタピーの口と繋がっている。
(危ねぇ。糸に捕まったら厄介だ。ふぅ、次はどう動くっ……!?)
そう考えた次の瞬間、キャタピーが口から伸びた糸をぐいっと引いた。
「キャピ!」
たいあたり
キャタピーが一気に前へ動く、いや飛んでくる。
まるで糸に引っ張られるように、小さな体が宙を滑り襲いかかる。想像していたより遥かに速い。虫ポケモン特有の鈍い動きなんて欠片もない。白い糸を支点に、一直線にこちらへ飛び込んでくる。
(うおっ、そう来るのかよ!?)
慌てて身を引こうとするが、判断が一瞬遅れた。次の瞬間、キャタピーの体当たりが胸元に直撃した。
「ぐっ!?」
見た目以上に重い衝撃が体を揺らす。小さな体が数歩後ろによろめき、危うく尻もちをつきかける。
だが、キャタピーは着地した瞬間に再び糸を吐き出していた。
木。
枝。
地面。
周囲のあちこちに白い糸が張り巡らされていく。俺は糸の結界の中に閉じ込められる。
(こいつ……移動に糸を使ってやがるのか。スパイダーマンかよ!?)
ただ糸で拘束するだけじゃない。糸を張り、引き寄せ、距離を詰める。森という地形そのものを利用した戦い方だ。
ゲームの中ではただの序盤虫ポケモンだったはずなのに、現実で見ると想像以上に厄介だ。
(舐めてた……!)
キャタピーが再び糸を引く。今度は横方向。木々の間を滑るように移動し、死角へ潜り込む。
視界から消えたと思った次の瞬間、真横から気配。
(速っ――!)
反射的に身を低くする。頭上をキャタピーの体がかすめ、そのまま背後の木へとぶつかった。
「キッ!」
すぐさま方向転換。まるで森の中を自在に飛び回るスパイダーマンだ。
(冗談だろ……キャタピーってこんなに強かったのかよ!)
思わす喉が鳴る。ゲームの中では、キャタピーなんて最初の草むらで出てくる経験値だった。たいあたりして、ひのこで焼いて、はい終わり。
――そのはずだった。
だが現実は違う。これがポケモンバトル。いや、生存競争だ。あいつがここのボスかは知らないが、かなり戦い慣れている。対して俺は自分が使える技すら分からない。しかも、前世でも誰かを殴ったことなんて無い。
強くなるなんて決意した所で何の意味もない。それが現実。
(こんなの……どうやって勝てばいいんだよ。ダメだ逃げよう)
このキャタピーは、今の俺では到底敵わない。まずは逃げてから準備をして、また再戦を――
『戦え』
――足が後ろに下がらない。
なんでと考えた瞬間、キャタピーが再び糸を引いた。
「キッ!」
緑の体が弾丸みたいに飛んでくる。さっきより速く見える。慣れてきたのか、それとも俺が追い詰められてるだけか。
(くそっ!)
横に飛んで回避する。だが今度の狙いは俺じゃなかった。キャタピーはすぐ横の木にぶつかり、その反動で軌道を変える。
跳ね返るように、再びこちらへ突っ込んでくる。
「カゲッ!?」
避けきれない。咄嗟に両腕を前に出すと、ドンッと鈍い衝撃とともに小さな体が後ろへ押し込まれ、地面を転がった。
「ッ……!」
痛い。だが、立てないほどじゃない。むしろ――
(軽い?)
見た目より重いとはいえ、致命傷になるほどの威力ではない。そして、一直線に飛んでくる。確かに飛んでくるの速いが、どこに来るかは糸が教えてくれる。
(……あ)
キャタピーの体が傷ついている。頭の中で何かが繋がる。糸の加速した体が着地の衝撃に耐えられていない。つまり――
(突っ込んできた瞬間に一撃を与える)
答えはシンプルだった。ギリギリまで引きつける。そして、当たる瞬間に叩く。問題は、それを実行できるかどうか。
キャタピーが再び糸を張る。白い線が日差しを受けてきらりと光る。
「キッ!」
木を蹴るように、一直線に飛び込んでくる。
(……今度は逃げない)
足を踏ん張る。
心臓がうるさい。
怖い。
だが、目は逸らさない。
ギリギリまで引きつける。
キャタピーの顔が目前まで迫る。
今だ。
左に体をひねる。
突進が頬をかすめる。
俺とキャタピーが交差する瞬間。
(――そこだ!)
ひっかく
地面を強く踏み込み、右腕を振り抜く。
頭の中で「ひっかく」という単語が浮かぶより早く、爪が鋭く伸びるような感覚が走る。力の流れ方が、ただ腕を振るのとはまるで違う。肩から指先まで一直線に繋がり、爪の先に一点へと収束する。
爪が、キャタピーの頭部を捉えた。ザシュッ――という乾いた音。手応えは驚くほど軽かった。
柔らかい外皮を裂き、そのまま節のある胴体に沿って爪が走る。頭から中央の節まで、一直線に深い傷が刻まれる。
「ギッ――!?」
短い悲鳴。キャタピーの体が大きく跳ね、その勢いのまま地面を転がった。二転、三転してやがてごろりと仰向けになり、ぴくりと痙攣する。
……動かない。
森に、静寂が戻る。
「……はっ、はっ……」
勝った。本当に、勝った。
荒い呼吸だけが耳に残る。さっきまであれほど脅威に見えていたキャタピーが、今はただ地面に転がっているだけだ。視線を落とすと自分の爪は、わずかに震えていた。
(これが……ひっかく)
ゲームの中で何度も見た技。威力40の、序盤の基本技。だが現実では、相手の体を確かに切り裂く一撃だった。
喉が、ごくりと鳴る。自分が生き残るために、相手を倒した。頭では分かっていた。
それでも、実際に目の前でその結果を見ると、胸の奥に重たいものが沈む。
(……やった、のか)
安堵と、戸惑いと、ほんの少しの高揚。それらがぐちゃぐちゃに混ざり合ったまま、尾の火が小さく揺れた。
しばらくその場から動けなかった。
荒い呼吸を整えながら、俺は地面に倒れたキャタピーを見つめ続ける。さっきまであれほど素早く動き回り、自分を追い詰めていた相手が、今はぴくりとも動かない。ただそこに横たわっているだけだった。
ゲームなら、画面に「キャタピーは たおれた!」と表示されて終わりだ。経験値が入り、レベルが上がったかどうかを確認して、次の草むらへ進む。それだけのことだった。
けれど現実は違う。
目の前には、確かに自分が傷つけた相手がいる。爪に残る生々しい感触も、鼻先をかすめる鉄の匂いも、何もかもが「これは現実だ」と突きつけてくる。
もし今の一撃が少しでも深ければ、このキャタピーは二度と目を覚まさないのかもしれない。
そう思った瞬間、胃の奥がきゅっと縮こまった。
「……カゲェ……」
喉から漏れたのは、情けない鳴き声だった。
生きるためとはいえ、自分は相手を切り裂いた。その事実が、想像以上に重かった。
だが同時に、別の感情も胸の奥で静かに渦巻いていた。
"喰え"
――安心だ。
勝てた。
死なずに済んだ。
そのことに、確かにほっとしている自分がいた。
(……最低だな、俺)
相手を傷つけたことに罪悪感を覚えながら、それでも自分が助かったことに安堵している。そんな自分に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
けれど、少し考えてから俺は小さく首を振った。
綺麗事だけでは生きていけない。
ここは、ボタン一つでリセットできるゲームの世界じゃない。負ければ「目の前が真っ暗になった」で済むこともなく、本当に命を落とすのだろう。
そして、自分はもう一度死ぬのは絶対に嫌だった。
あの時は、たまたま体が動いた。半ば衝動的に誰かを助けて、そのまま命を落とした。
でも今度は違う。
せっかく拾ったこの命だ。格好悪くても、みっともなくても、泥だらけになってでも生き延びてやる。
そのために戦わなければならないなら、戦うしかない。
誰かを傷つけることに慣れたいとは思わないし、慣れてしまったらきっと何か大切なものを失ってしまう気がする。それでも、恐れながらでも、迷いながらでも、一歩ずつ進むしかなかった。
深く息を吐き、震える足でゆっくりと立ち上がった。
"喰え"
視線の先には、どこまでも続く深い森が広がっている。
ここがトキワの森なのか、それともまったく別の場所なのかはまだ分からない。だが一つだけ、はっきりしていることがあった。
この世界で生きていくためには、強くならなければならない。
そしていつか、リザードンになって大空を飛ぶ。
それはただの憧れかもしれない。けれど、今の俺にとっては確かな目標だった。
尾の火が、ぱちりと小さく弾ける。
その暖かな光を横目に見ながら、口元をわずかに緩めた。
まずは生き残ること。
そして、強くなること。
お腹すいた。
人間に戻る方法を探すのは、その後でも遅くない。
そう心に決めると、キャタピーとの戦いで荒れた地面を後にして、深い森の奥へとゆっくり歩き出した。ここから始まるのが、ヒトカゲとしての新しい人生なのだと、まだ少しだけ震える胸で噛み締めながら。
ーーあ、キャタピー食べなきゃ。
おくびょうな俺と、戦えと叫ぶこの体。のリメイク作品となります。前作よりも読みやすさと雰囲気を明るく?しました。前の作品の〇〇の方がよかった、みたいな感想も大変勉強になりますので、どしどし評価下さい。
あと今後の後書きでは、補足情報などを書きたいと思います。
このキャタピーは、そこら一帯のボスなのでかなり強いです。普通ならとっくに進化しているが、それを選ばなかった特殊個体になります。流石にこんなのが沢山トキワの森にいたら大変なので。
主人公のステータスです。この作品では現実感というのを大切にしたいので、レベルという分かりやすい数字はないです。(経験値管理がめんどくさい)
【名前】???
【種族】ヒトカゲ
【性格】おくびょう
【特性】???
【持ち物】無し
【技】
・ひっかく