転生したらヒトカゲだった。しかも色違い 作:リザードン大好きマン
――リザァァァァッ!!
腹の底から怒りを叩きつけるように、俺は咆哮した。研究所の中にいた全員の視線が、一斉にこちらへ向く。
だが、そんなことはどうでもよかった。
俺の目に映ったのは、ただ一人。床に倒れているレッドだけだった。
制服は埃まみれで、頬は赤く腫れている。小さな体は痛みに耐えるように丸まり、それでも腕の中にはモンスターボールを抱きしめていた。
(こいつらが、ロケット団がレッドをこんな目にッ……!)
その姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。胸の奥で、怒りがぐつぐつと煮えたぎる。
俺はレッドの前に立ち、ロケット団を睨みつけた。
「……リザァ」
喉の奥から漏れるのは、低い唸り声。ただ怒りが頭の中を支配していた。
「な、なんだこのリザード!?」
「野生のポケモンだと!?」
ロケット団の動揺とした声がザワザワと聞こえる。
その中で、かすれた小さな声が耳に届いた。
「……リザード……?」
それは、レッドの声だった。恐る恐る顔を上げたレッドと、一瞬だけ目が合う。
大きな赤い瞳が、ゆっくりと見開かれていく。信じられないものを見るような表情。
そして、その瞳にじわりと涙が浮かんだ。
「……来て、くれたの……?」
か細い声だった。けれど、その一言に込められた気持ちは痛いほど伝わってくる。
驚きと安堵。そして――また助けに来てくれた、という喜び。
あの日、森でポッポに襲われた時と同じように。自分が一番苦しい時に、俺が駆けつけた。
レッドはボロボロになりながらも、ぎゅっとモンスターボールを抱きしめたまま、小さく唇を震わせる。
「……っ、よかった……」
今にも泣き出しそうな声だった。その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。
(遅くなってごめんな。少し待っていてくれ)
だが、今は振り向かない。まずは、目の前の敵を叩き潰す。
「チッ、アーボック! かみつく!」
「シャアァァァッ!」
紫色の巨体が、牙をむいて突っ込んでくる。
(遅いッ!)
体を半歩ずらし、アーボックの牙が鼻先をかすめて空を切る。すれ違いざまに、右腕を振り抜く。
「――リザァッ!」
ひっかく
「シャアアッ!?」
鋭い爪が、アーボックの胴を深く切り裂いた。アーボックが悲鳴を上げて体勢を崩した隙に、喉の奥へ力を込める。怒りに呼応するように、体の奥から力が溢れ出す。
「――リザァァァッ!!」
りゅうのいぶき
口から放たれた青白い奔流が、アーボックを真正面から飲み込んだ。
次の瞬間、アーボックの巨体が宙を舞い、研究所の壁へ叩きつけられる。
――ドガァンッ!!
アーボックが壁際に崩れ落ちた瞬間、研究所の中に重苦しい静寂が広がった。
誰もが息を呑み、目の前の光景を信じられずにいた――だが、その沈黙を破ったのは、ロケット団の怒鳴り声だった。
「なにボサッとしてやがる! 一斉にやれ!」
四人の団員たちが一斉にモンスターボールを投げる。
「ラッタ!」
「ゴルバット!」
「マタドガス!」
「ベトベター!」
白い光とともに現れた四体のポケモンが、研究所の中にずらりと並んだ。どいつも荒々しい気配をまとっている。
(さすがに四体同時か……しんどいな)
だが――引くつもりはなかった。
「……リザァ!」
俺は吠え、床を蹴った。
最初に飛び込んできたのはラッタだった。鋭い前歯を剥き出しにしながら、ものすごい勢いで突進してくる。
「――リザッ!(速いが、動きが一直線でわかりやすい!)」
ひっかく
真正面から迎え撃つ。振り抜いた爪がラッタの横腹を切り裂き、その小さな体を吹き飛ばした。
だが、次の瞬間。頭上からゴルバットが急降下してきた。
「ゴルァァ!」
「――っ!」
翼が顔をかすめる。
そのまま体勢を崩したところへ、マタドガスが口から紫色の煙を吐き出した。
「ガスゥゥゥ!」
どくガス
「……リザッ!」
えんまく
俺もすぐさま黒煙を吐き出す。黒い煙と紫色の毒霧が入り混じり、研究所の中は一気に視界を失った。
「どこだ!?」
「見えねえ!」
焦る声を聞きながら、俺は煙の中を駆け抜けた。
(まずは、ベトベターだ)
足元からぬるりと迫ってきた紫色の塊を見つけ、勢いよく爪を薙ぎ払う。
「――リザァッ!」
「ベタッ!!?」
ベトベターが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。その直後にゴルバットの翼が背中を打ちつけた。
「ぐっ……!」
体が前のめりになる。そこへ、体勢を立て直したラッタが飛びかかってきた。
「ッ……!」
ラッタの鋭い牙が左腕に食い込み痛みが走る。ラッタを振り払った瞬間、今度はマタドガスのヘドロばくだんが腹に直撃した。
「がっ……!」
(まだだッ!こんなところで倒れるわけにはいかない)
爆発とともに体が吹き飛び、床を転がる。俺は歯を食いしばり、すぐに立ち上がる。
「リザードっ!?」
「しぶとい野郎だ!」
「まとめてやっちまえ!」
四体が同時に襲いかかってくる。
ラッタの脇腹に突き刺さる牙。
ゴルバットの頬を掠める翼。
マタドガスの肺を蝕む毒ガス。
ベトベターの脚に絡みつくヘドロ。
攻撃をかわし、爪で斬りつけ、煙で撹乱し、隙を見て反撃する。だが、相手は四体。一撃を防いでも、次の攻撃が飛んでくる。
体のあちこちに痛みが積み重なっていく。息は荒くなり、視界が揺れる。
それでも、俺は倒れるわけにはいかない。なぜなら、背後にはレッドがいるからだ。
「……リザァァッ!」
――――――――
「……リザァァッ!」
リザードが、わたしを守るために戦っている。
何度も攻撃を受け、そのたびに床へ転がる。
それでも、リザードは倒れない。
荒い息を吐きながら、ふらつく足で立ち上がる。そして、傷だらけの体で再びわたしの前に立ちはだかった。
まるで、「絶対に守る」と言うように。
尻尾の炎は激しく揺れ、背中にはいくつもの傷が刻まれている。腕からは血がにじみ、呼吸のたびに肩が大きく上下していた。
それでも、その背中は一歩も退こうとしない。
「……どうして……」
どうして、そこまでしてくれるの。
どうして、こんなに傷ついてまで――。
気づけば、かすれた声が漏れていた。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。苦しくて、悔しくて、涙で視界が滲んだ。
(また……守ってもらってる。わたしは、いつも助けてもらうだけ)
リザードが吹き飛ばされるたび、胸が痛んだ。傷つくたびに、息が苦しくなった。それなのに、わたしは見ていることしかできない。
そんな自分が、たまらなく悔しかった。
(……このままじゃ嫌だ)
もう、守られているだけは嫌だ。
わたしも、この子を助けたい。
わたしも、リザードの力になりたい。
「……っ」
震える腕に力を込め、床に手をつく。
お腹も背中も痛い。足はがくがくと震え、立ち上がるだけで視界が揺れた。
それでも、歯を食いしばってゆっくりと体を起こす。
「レッドちゃん! だめよ、無理しないで!」
先生の声が聞こえる。
けれど、わたしの目にはリザードの背中しか映っていなかった。
何度倒れても立ち上がり、傷だらけになっても戦い続ける、その背中。
小さいのに、誰よりも大きく見えた。
その時――
「ぴちゅううううッ!!」
研究所の入口から、聞き慣れた声が響いた。
はっと振り向く。そこには、肩で息をしながら立つピチューの姿があった。
小さな体は汗で濡れ、息も荒い。きっとここまで全力で走ってきたのだろう。
それでも、黒い瞳はまっすぐにわたしを見つめていた。
「……ピチュー」
「ぴちゅ!」
短い鳴き声。たけど、その声には不安よりも強い意志が込められていた。
――わたしも戦う。
そう言っているようだった。
その瞳を見た瞬間、胸の中の迷いがすっと消えていく。わたしは涙をぬぐい、小さく頷いた。
「……お願い」
震える声で、それでもはっきりと伝える。
「……リザードを、助けよう」
「ぴちゅうううッ!」
ピチューの頬袋から、ばちばちと激しい音が弾けた。
黄色い火花が飛び散り、研究所の空気がぴりぴりと震える。
わたしはまっすぐ前を見据え、叫んだ。
「ピチュー! でんきショック!」
まばゆい電撃が、一直線にロケット団へと放たれた。
――――――――――
「ピチュー! でんきショック!」
「ゴルバァッ!!?」
突如、後方から放たれた電撃がゴルバットを焼き堕とした。バッと振り返ると、ピチューの頬袋からばちばちと電気と出していて、そのすぐ後ろにレッドが立っていた。
「……リザード。わたし達も戦う」
「ぴゆっ!ぴちゅ!」
ロケット団に暴行され床に転がっていたレッドが、まっすぐ俺を見つめている。
頬は赤く腫れ、服も埃だらけだ。今にも倒れそうなくらい傷ついている。それでも、その瞳にはもう怯えの色はない。代わりに、強い意志の光が宿っていた。
無理をするな、と言いたかった。だが、レッドの表情を見た瞬間、その言葉は喉の奥に消えた。
もう、この子はただ守られるだけの存在じゃない。自分の意思で立ち上がり、俺と一緒に戦おうとしている。
「……リザ」
「っ! うん!」
短く鳴いて頷くと、レッドの口元がわずかに緩んだ。
「このクソどもめ……!お前ら、まとめて片づけろ!」
ロケット団の男が顔を歪めつつ短く指示を出した。ラッタ、マタドガス、ベトベターが一斉に動き出した。
「ピチュー!ラッタに、もう一回!」
「ぴちゅうううっ!」
「ラタァ!?」
電撃が走り、ラッタの体を直撃する。体を痙攣させ、その場に倒れ込む。
だが、マタドガスが口から紫色の煙を噴き出し、ピチューに攻撃をする。
「……リザ!」
俺はすぐに前へ出て、レッドとピチューを庇う。毒ガスが体を包み込み、目と喉が焼けるように痛む。
「リザードっ!?」
レッドの悲鳴が聞こえた。だが、この程度で止まらない、俺は毒ガスを浴びる前に息を吸い終わっていた。
「リザァァァァァッ!」
なきごえ
音の衝撃で、体を包んでいた毒ガスを吹き飛ばした。
「なっ!?」
ロケット団たちが慌てる隙に、レッドの声が鋭く響いた。
「ピチュー、ベトベターにでんこうせっか!」
「ぴちゅっ!」
「ベトォッ!?」
小さな黄色い影が駆け抜ける。ピチューの体当たりを受け、ベトベターが大きくのけぞった。
(良い判断だ。これで邪魔が入らずに、マタドガスをやれる)
俺は地面を蹴りマタドガスの懐へ飛び込む。
「――リザァァッ!!」
ひっかく
鋭い爪を振り抜く。マタドガスの体が大きく揺れた。さらに至近距離から、喉の奥に力を集中させる。
「――リザァァァッ!!」
りゅうのいぶき
ゼロ距離で放たれた一撃がマタドガスを吹き飛ばし、壁へ叩きつけた。
「マタドガス!?」
(残るはベトベターのみだ)
紫色の泥のような身体を震わせながら、なおも俺たちを睨みつけている。だが、その背後ではロケット団の連中が顔を引きつらせていた。
「ば、馬鹿な……!」
「ガキと野生のポケモン相手に……!」
俺は荒い息を吐きながら、ゆっくりとベトベターへ向き直った。全身が痛む。腕も足も鉛のように重い。それでも、まだ倒れるわけにはいかない。
その時だった。
ふと、レッドと目が合った。
頬を腫らし、涙の跡を残しながらも、その瞳にはもう怯えはなかった。あるのは、強い意志だけ。
――一緒に戦う。
言葉はなくても、それだけで十分だった。
俺は小さく口元を吊り上げる。レッドも、こくりと頷いた。
「……リザ」
「……ピチュー。いくよ」
「ぴちゅ!」
ベトベターが不気味な叫び声を上げながら、どろりとした腕を振り上げる――だが、もう遅い。
「ピチュー! でんきショック!!!」
「ぴちゅうううっ!!」
「――リザァァァァッ!!」
りゅうのいぶき!!!
ピチューの頬袋から放たれた稲妻が、一直線にベトベターへと走る。同時に、喉の奥で膨れ上がった青白いエネルギーを、一気に吐き出す。
電撃と竜の奔流が、寸分違わず同時にベトベターへ直撃した。
「ベトォォォォッ!!?」
激しい閃光が研究所を白く染め上げる。
電気が泥の身体を焼き焦がし、竜のエネルギーがその巨体を容赦なく吹き飛ばした。
ベトベターは悲鳴を上げながら宙を舞い、ロケット団ごと壁に叩きつけられる。
――ドガァァァン!!
大きな音とともに煙が舞い上がった。やがて煙が晴れると、ベトベターはぐったりと倒れ込み、ぴくりとも動かなくなっていた。
――――――――――
研究所の中が、しんと静まり誰も声を出せない。
倒れているのは――ロケット団のポケモンたち。
立っているのは――俺と、レッドと、ピチュー。
そんな研究所の光景を見たレッドが、震える声でぽつりと呟いた。
「……勝った」
「ば、馬鹿な……!たった2匹に、全員やられた…だと」
ロケット団たちの顔が青ざめる。俺はレッドとピチューの前に立ち、低く唸った。
「……リザァ(まだやるのか)
「くっ……覚えてやがれ!」
怒りを宿した視線に射抜かれ、男たちは一歩、また一歩と後ずさる。そして、捨て台詞を吐き慌てて研究所の外へ逃げ出した。
その背中を見届けた瞬間、全身から力が抜ける。膝が折れ、その場に崩れ落ちた。
「……リザ……(流石に、骨が折れた…)」
「リザード!」
レッドが駆け寄ってくる。そして、小さな手がそっと俺の頬に触れる。
「……ありがとう」
顔を上げると、レッドの瞳からぽろぽろと涙がこぼれていた。その声は震えていた。
「来てくれて……ありがとう」
「ぴちゅ……」
ピチューも心配そうに俺とレッドに寄り添う。
俺は少しだけそっぽを向きながら、小さく鳴いた。
「……リザ」
当然だろ。
その言葉に、レッドは涙を流しながら笑った。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥に広がっていた怒りは、静かに消えていった。
【名前】???
【種族】リザード
【性格】おくびょう
【特性】りょうげんのひ
【持ち物】無し
りょうげんのひ:自分のHPが1/2以下になるまで、ほのお技を使えない。HPが1/3以下になると、ほのお技の威力が2倍になり、「すばやさ」のランクが1段階上る。
【技】
・ひっかく
・ひのこ?
・えんまく
・なきごえ
・りゅうのいぶき