転生したらヒトカゲだった。しかも色違い   作:リザードン大好きマン

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第十五話 「子ども達のキラキラとした目が辛いんだが……」

 

 

 

――リザァァァァッ!!

 

 腹の底から怒りを叩きつけるように、俺は咆哮した。研究所の中にいた全員の視線が、一斉にこちらへ向く。

 

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 

 俺の目に映ったのは、ただ一人。床に倒れているレッドだけだった。

 

 制服は埃まみれで、頬は赤く腫れている。小さな体は痛みに耐えるように丸まり、それでも腕の中にはモンスターボールを抱きしめていた。

 

(こいつらが、ロケット団がレッドをこんな目にッ……!)

 

 その姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。胸の奥で、怒りがぐつぐつと煮えたぎる。

 

 俺はレッドの前に立ち、ロケット団を睨みつけた。

 

「……リザァ」

 

 喉の奥から漏れるのは、低い唸り声。ただ怒りが頭の中を支配していた。

 

「な、なんだこのリザード!?」

「野生のポケモンだと!?」

 

 ロケット団の動揺とした声がザワザワと聞こえる。

 

 その中で、かすれた小さな声が耳に届いた。

 

「……リザード……?」

 

 それは、レッドの声だった。恐る恐る顔を上げたレッドと、一瞬だけ目が合う。

 

 大きな赤い瞳が、ゆっくりと見開かれていく。信じられないものを見るような表情。

 

 そして、その瞳にじわりと涙が浮かんだ。

 

「……来て、くれたの……?」

 

 か細い声だった。けれど、その一言に込められた気持ちは痛いほど伝わってくる。

 

 驚きと安堵。そして――また助けに来てくれた、という喜び。

 

 あの日、森でポッポに襲われた時と同じように。自分が一番苦しい時に、俺が駆けつけた。

 

 レッドはボロボロになりながらも、ぎゅっとモンスターボールを抱きしめたまま、小さく唇を震わせる。

 

「……っ、よかった……」

 

 今にも泣き出しそうな声だった。その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。

 

(遅くなってごめんな。少し待っていてくれ)

 

 だが、今は振り向かない。まずは、目の前の敵を叩き潰す。

 

「チッ、アーボック! かみつく!」

「シャアァァァッ!」

 

 紫色の巨体が、牙をむいて突っ込んでくる。

 

(遅いッ!)

 

 体を半歩ずらし、アーボックの牙が鼻先をかすめて空を切る。すれ違いざまに、右腕を振り抜く。

 

「――リザァッ!」

 ひっかく

 

「シャアアッ!?」

 

 鋭い爪が、アーボックの胴を深く切り裂いた。アーボックが悲鳴を上げて体勢を崩した隙に、喉の奥へ力を込める。怒りに呼応するように、体の奥から力が溢れ出す。

 

「――リザァァァッ!!」

 りゅうのいぶき

 

 口から放たれた青白い奔流が、アーボックを真正面から飲み込んだ。

 

 次の瞬間、アーボックの巨体が宙を舞い、研究所の壁へ叩きつけられる。

 

 ――ドガァンッ!!

 

 アーボックが壁際に崩れ落ちた瞬間、研究所の中に重苦しい静寂が広がった。

 

 誰もが息を呑み、目の前の光景を信じられずにいた――だが、その沈黙を破ったのは、ロケット団の怒鳴り声だった。

 

「なにボサッとしてやがる! 一斉にやれ!」

 

 四人の団員たちが一斉にモンスターボールを投げる。

 

「ラッタ!」

「ゴルバット!」

「マタドガス!」

「ベトベター!」

 

 白い光とともに現れた四体のポケモンが、研究所の中にずらりと並んだ。どいつも荒々しい気配をまとっている。

 

(さすがに四体同時か……しんどいな)

 

 だが――引くつもりはなかった。

 

「……リザァ!」

 

 俺は吠え、床を蹴った。

 

 最初に飛び込んできたのはラッタだった。鋭い前歯を剥き出しにしながら、ものすごい勢いで突進してくる。

 

「――リザッ!(速いが、動きが一直線でわかりやすい!)」

 ひっかく

 

 真正面から迎え撃つ。振り抜いた爪がラッタの横腹を切り裂き、その小さな体を吹き飛ばした。

 

 だが、次の瞬間。頭上からゴルバットが急降下してきた。

 

「ゴルァァ!」

 

「――っ!」

 

 翼が顔をかすめる。

 

 そのまま体勢を崩したところへ、マタドガスが口から紫色の煙を吐き出した。

 

「ガスゥゥゥ!」

 どくガス

 

「……リザッ!」

 えんまく

 

 俺もすぐさま黒煙を吐き出す。黒い煙と紫色の毒霧が入り混じり、研究所の中は一気に視界を失った。

 

「どこだ!?」

「見えねえ!」

 

 焦る声を聞きながら、俺は煙の中を駆け抜けた。

 

(まずは、ベトベターだ)

 

 足元からぬるりと迫ってきた紫色の塊を見つけ、勢いよく爪を薙ぎ払う。

 

「――リザァッ!」

 

「ベタッ!!?」

 

 ベトベターが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。その直後にゴルバットの翼が背中を打ちつけた。

 

「ぐっ……!」

 

 体が前のめりになる。そこへ、体勢を立て直したラッタが飛びかかってきた。

 

「ッ……!」

 

 ラッタの鋭い牙が左腕に食い込み痛みが走る。ラッタを振り払った瞬間、今度はマタドガスのヘドロばくだんが腹に直撃した。

 

「がっ……!」

 

(まだだッ!こんなところで倒れるわけにはいかない)

 

 爆発とともに体が吹き飛び、床を転がる。俺は歯を食いしばり、すぐに立ち上がる。

 

「リザードっ!?」

 

「しぶとい野郎だ!」

「まとめてやっちまえ!」

 

 四体が同時に襲いかかってくる。

 

 ラッタの脇腹に突き刺さる牙。

 ゴルバットの頬を掠める翼。

 マタドガスの肺を蝕む毒ガス。

 ベトベターの脚に絡みつくヘドロ。

 

 攻撃をかわし、爪で斬りつけ、煙で撹乱し、隙を見て反撃する。だが、相手は四体。一撃を防いでも、次の攻撃が飛んでくる。

 

 体のあちこちに痛みが積み重なっていく。息は荒くなり、視界が揺れる。

 

 それでも、俺は倒れるわけにはいかない。なぜなら、背後にはレッドがいるからだ。

 

「……リザァァッ!」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「……リザァァッ!」

 

 リザードが、わたしを守るために戦っている。

 

 何度も攻撃を受け、そのたびに床へ転がる。

 

 それでも、リザードは倒れない。

 

 荒い息を吐きながら、ふらつく足で立ち上がる。そして、傷だらけの体で再びわたしの前に立ちはだかった。

 

 まるで、「絶対に守る」と言うように。

 

 尻尾の炎は激しく揺れ、背中にはいくつもの傷が刻まれている。腕からは血がにじみ、呼吸のたびに肩が大きく上下していた。

 

 それでも、その背中は一歩も退こうとしない。

 

「……どうして……」

 

 どうして、そこまでしてくれるの。

 

 どうして、こんなに傷ついてまで――。

 

 気づけば、かすれた声が漏れていた。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。苦しくて、悔しくて、涙で視界が滲んだ。

 

(また……守ってもらってる。わたしは、いつも助けてもらうだけ)

 

 リザードが吹き飛ばされるたび、胸が痛んだ。傷つくたびに、息が苦しくなった。それなのに、わたしは見ていることしかできない。

 

 そんな自分が、たまらなく悔しかった。

 

(……このままじゃ嫌だ)

 

 もう、守られているだけは嫌だ。

 

 わたしも、この子を助けたい。

 

 わたしも、リザードの力になりたい。

 

「……っ」

 

 震える腕に力を込め、床に手をつく。

 

 お腹も背中も痛い。足はがくがくと震え、立ち上がるだけで視界が揺れた。

 

 それでも、歯を食いしばってゆっくりと体を起こす。

 

「レッドちゃん! だめよ、無理しないで!」

 

 先生の声が聞こえる。

 

 けれど、わたしの目にはリザードの背中しか映っていなかった。

 

 何度倒れても立ち上がり、傷だらけになっても戦い続ける、その背中。

 

 小さいのに、誰よりも大きく見えた。

 

 その時――

 

「ぴちゅううううッ!!」

 

 研究所の入口から、聞き慣れた声が響いた。

 

 はっと振り向く。そこには、肩で息をしながら立つピチューの姿があった。

 

 小さな体は汗で濡れ、息も荒い。きっとここまで全力で走ってきたのだろう。

 

 それでも、黒い瞳はまっすぐにわたしを見つめていた。

 

「……ピチュー」

 

「ぴちゅ!」

 

 短い鳴き声。たけど、その声には不安よりも強い意志が込められていた。

 

 ――わたしも戦う。

 

 そう言っているようだった。

 

 その瞳を見た瞬間、胸の中の迷いがすっと消えていく。わたしは涙をぬぐい、小さく頷いた。

 

「……お願い」

 

 震える声で、それでもはっきりと伝える。

 

「……リザードを、助けよう」

 

「ぴちゅうううッ!」

 

 ピチューの頬袋から、ばちばちと激しい音が弾けた。

 

 黄色い火花が飛び散り、研究所の空気がぴりぴりと震える。

 

 わたしはまっすぐ前を見据え、叫んだ。

 

「ピチュー! でんきショック!」

 

 まばゆい電撃が、一直線にロケット団へと放たれた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ピチュー! でんきショック!」

 

「ゴルバァッ!!?」

 

 突如、後方から放たれた電撃がゴルバットを焼き堕とした。バッと振り返ると、ピチューの頬袋からばちばちと電気と出していて、そのすぐ後ろにレッドが立っていた。

 

「……リザード。わたし達も戦う」

 

「ぴゆっ!ぴちゅ!」

 

 ロケット団に暴行され床に転がっていたレッドが、まっすぐ俺を見つめている。

 

 頬は赤く腫れ、服も埃だらけだ。今にも倒れそうなくらい傷ついている。それでも、その瞳にはもう怯えの色はない。代わりに、強い意志の光が宿っていた。

 

 無理をするな、と言いたかった。だが、レッドの表情を見た瞬間、その言葉は喉の奥に消えた。

 

 もう、この子はただ守られるだけの存在じゃない。自分の意思で立ち上がり、俺と一緒に戦おうとしている。

 

「……リザ」

 

「っ! うん!」

 

 短く鳴いて頷くと、レッドの口元がわずかに緩んだ。

 

「このクソどもめ……!お前ら、まとめて片づけろ!」

 

 ロケット団の男が顔を歪めつつ短く指示を出した。ラッタ、マタドガス、ベトベターが一斉に動き出した。

 

「ピチュー!ラッタに、もう一回!」

「ぴちゅうううっ!」

 

「ラタァ!?」

 

 電撃が走り、ラッタの体を直撃する。体を痙攣させ、その場に倒れ込む。

 

 だが、マタドガスが口から紫色の煙を噴き出し、ピチューに攻撃をする。

 

「……リザ!」

 

 俺はすぐに前へ出て、レッドとピチューを庇う。毒ガスが体を包み込み、目と喉が焼けるように痛む。

 

「リザードっ!?」

 

 レッドの悲鳴が聞こえた。だが、この程度で止まらない、俺は毒ガスを浴びる前に息を吸い終わっていた。

 

「リザァァァァァッ!」

 なきごえ

 

 音の衝撃で、体を包んでいた毒ガスを吹き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

 ロケット団たちが慌てる隙に、レッドの声が鋭く響いた。

 

「ピチュー、ベトベターにでんこうせっか!」

「ぴちゅっ!」

 

「ベトォッ!?」

 

 小さな黄色い影が駆け抜ける。ピチューの体当たりを受け、ベトベターが大きくのけぞった。

 

(良い判断だ。これで邪魔が入らずに、マタドガスをやれる)

 

 俺は地面を蹴りマタドガスの懐へ飛び込む。

 

「――リザァァッ!!」

 ひっかく

 

 鋭い爪を振り抜く。マタドガスの体が大きく揺れた。さらに至近距離から、喉の奥に力を集中させる。

 

「――リザァァァッ!!」

 りゅうのいぶき

 

 ゼロ距離で放たれた一撃がマタドガスを吹き飛ばし、壁へ叩きつけた。

 

「マタドガス!?」

 

(残るはベトベターのみだ)

 

 紫色の泥のような身体を震わせながら、なおも俺たちを睨みつけている。だが、その背後ではロケット団の連中が顔を引きつらせていた。

 

「ば、馬鹿な……!」

「ガキと野生のポケモン相手に……!」

 

 俺は荒い息を吐きながら、ゆっくりとベトベターへ向き直った。全身が痛む。腕も足も鉛のように重い。それでも、まだ倒れるわけにはいかない。

 

 その時だった。

 

 ふと、レッドと目が合った。

 

 頬を腫らし、涙の跡を残しながらも、その瞳にはもう怯えはなかった。あるのは、強い意志だけ。

 

 ――一緒に戦う。

 

 言葉はなくても、それだけで十分だった。

 

 俺は小さく口元を吊り上げる。レッドも、こくりと頷いた。

 

「……リザ」

 

「……ピチュー。いくよ」

「ぴちゅ!」

 

 ベトベターが不気味な叫び声を上げながら、どろりとした腕を振り上げる――だが、もう遅い。

 

 

「ピチュー! でんきショック!!!

「ぴちゅうううっ!!」

 

「――リザァァァァッ!!」

 りゅうのいぶき!!!

 

 

 ピチューの頬袋から放たれた稲妻が、一直線にベトベターへと走る。同時に、喉の奥で膨れ上がった青白いエネルギーを、一気に吐き出す。

 

 電撃と竜の奔流が、寸分違わず同時にベトベターへ直撃した。

 

「ベトォォォォッ!!?」

 

 激しい閃光が研究所を白く染め上げる。

 

 電気が泥の身体を焼き焦がし、竜のエネルギーがその巨体を容赦なく吹き飛ばした。

 

 ベトベターは悲鳴を上げながら宙を舞い、ロケット団ごと壁に叩きつけられる。

 

 ――ドガァァァン!!

 

 大きな音とともに煙が舞い上がった。やがて煙が晴れると、ベトベターはぐったりと倒れ込み、ぴくりとも動かなくなっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 研究所の中が、しんと静まり誰も声を出せない。

 

 倒れているのは――ロケット団のポケモンたち。

 

 立っているのは――俺と、レッドと、ピチュー。

 

 そんな研究所の光景を見たレッドが、震える声でぽつりと呟いた。

 

「……勝った」

 

「ば、馬鹿な……!たった2匹に、全員やられた…だと」

 

 ロケット団たちの顔が青ざめる。俺はレッドとピチューの前に立ち、低く唸った。

 

「……リザァ(まだやるのか)

 

「くっ……覚えてやがれ!」

 

 怒りを宿した視線に射抜かれ、男たちは一歩、また一歩と後ずさる。そして、捨て台詞を吐き慌てて研究所の外へ逃げ出した。

 

 その背中を見届けた瞬間、全身から力が抜ける。膝が折れ、その場に崩れ落ちた。

 

「……リザ……(流石に、骨が折れた…)」

 

「リザード!」

 

 レッドが駆け寄ってくる。そして、小さな手がそっと俺の頬に触れる。

 

「……ありがとう」

 

 顔を上げると、レッドの瞳からぽろぽろと涙がこぼれていた。その声は震えていた。

 

「来てくれて……ありがとう」

 

「ぴちゅ……」

 

 ピチューも心配そうに俺とレッドに寄り添う。

 

 俺は少しだけそっぽを向きながら、小さく鳴いた。

 

「……リザ」

 

 当然だろ。

 

 その言葉に、レッドは涙を流しながら笑った。

 

 その笑顔を見た瞬間、胸の奥に広がっていた怒りは、静かに消えていった。












【名前】???
【種族】リザード
【性格】おくびょう
【特性】りょうげんのひ
【持ち物】無し

りょうげんのひ:自分のHPが1/2以下になるまで、ほのお技を使えない。HPが1/3以下になると、ほのお技の威力が2倍になり、「すばやさ」のランクが1段階上る。

【技】
・ひっかく
・ひのこ?
・えんまく
・なきごえ
・りゅうのいぶき
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