転生したらヒトカゲだった。しかも色違い 作:リザードン大好きマン
最初は「防御」の修行だった。
ニビジムの裏手にある岩場へ連れて行かれた時、最初に思ったのは「意味が分からない」だった。
広く削られた地面の上に、イシツブテが何体も並んでいる。タケシはその少し後ろで腕を組んだまま俺を見ていたが、特に説明をする気はないらしい。ただ地面を軽く指差し、それだけだった。
「そこに立て」
短い一言。
俺は岩場の中央へ歩いていく。乾いた砂が足裏でざり、と鳴る。その瞬間、嫌な予感がした。
「イシーッ!」
真正面のイシツブテが腕を振り抜いた。次の瞬間、拳大の岩が唸りを上げて飛んでくる。
(は――)
反射で横へ飛ぼうとした瞬間、
「避けるな」
低い声が飛んだ。
迷った、その一瞬で岩が肩に直撃した。
――ドゴッ!!
「がァッ!?」
衝撃で体が半歩浮く。肩が痺れ、そのまま地面へ転がりかける。だが止まる暇もない。二発目。三発目。別方向から次々に岩が飛んでくる。
腕で受ける。腹に当たる。脇腹を抉る。息が詰まり、視界が揺れる。
(クソッ、こんなの真正面から受けてたら――)
また飛んできた岩を今度は両腕で止めようとして、直撃と同時に体ごと吹き飛ばされた。岩肌へ背中を叩きつけられ、肺から空気が全部抜ける。
痛い。というより重い。
イワークの攻撃を食らった時に近い感覚だった。ただ硬い物が当たるんじゃない。質量そのものをぶつけられている。
なんとか立ち上がると、タケシがこちらを見たまま口を開く。
「止めようとするな」
意味が分からない。止めなければ潰される。だが考えている間にも岩は飛んでくる。
もう一発、真正面。
今度は反射的に肩を引いた。岩が腕を掠め、勢いを殺しきれないまま体が後ろへ流れる。
だが、さっきより痛みが浅い。
(……今のは)
次。
腹へ飛んでくる岩に対して、今度は半歩だけ後ろへ跳ぶ。着弾と同時に体を捻る。衝撃が横へ流れ、そのまま地面を滑る。
吹き飛ばされる。
でも、折れない。
「――ッ」
頭の奥で何かが引っかかった。
イワーク戦。
俺はずっと真正面で受けていた。止めようとしていた。だから潰された。
だが今のは違う。耐えたんじゃない。逃がした。
もう一発。
飛来。肩。捻る。流す。
衝撃が背中側へ抜け、そのまま足を滑らせながら着地する。
まだ痛い。普通に痛い。だが立てる。
イシツブテ達は止まらない。角度を変え、速度を変え、容赦なく岩を投げ続ける。最初はどこから飛んできているのかすら追えなかったのに、何度も食らううちに少しずつ見えてくる。
肩から受けると、衝撃は思ったより崩れない。
逆に、真正面で止めようとした瞬間に全部持っていかれる。踏ん張って耐えるより、後ろへ流した方がまだ折れない。
何度も岩をぶつけられるうちに、少しずつ分かってきた。
衝撃には向きがある。
真正面からぶつかれば、そのまま体ごと砕かれる。だから必要なのは耐えることじゃない。まともにぶつからないことだった。
(……イワークのいわおとしとずつきも、同じか)
脳裏に、あの巨大な岩と頭部が浮かぶ。
まともに受けた瞬間、全部持っていかれた。だがもし、あの力を真正面で止めるんじゃなく、流せたなら。
そこまで考えた瞬間、
――ドゴォッ!!
「がァァッ!?」
横から飛んできた岩が脇腹へ直撃し、体が地面を転がる。肺が潰れ、息が詰まる。砂を吐きながら顔を上げると、タケシが呆れたようにこちらを見ていた。
「考えるなら、立ちながらやれ」
「……リザァ」
返事になっていない声を吐きながら立ち上がる。全身が痛い。腕も脚も痺れている。だが不思議と、最初より恐怖は薄れていた。
受け方が少しずつ分かってきている。
いや、正確には、“潰され方”が分かってきている。
真正面は駄目だ。止めようとするな。流せ。
その意味が、ようやく身体に落ち始めていた。
――――――――――
次の修行は「環境利用」だった。
ニビシティの裏山に広がる岩場を前にして、俺はしばらく無言で崖を見上げていた。切り立った岩肌は途中から細く裂け、崩れかけた足場が不規則に突き出している。まともな道なんてない。
「落ちたら最初からだ」
後ろでタケシが短く言う。
どこを見ろとも、どう動けとも言わない。ただやれと言われるだけだ。
爪を引っ掛けて体を持ち上げ、少し高い岩棚へ飛び移ろうとした瞬間、踏み込んだ足場が崩れる。重心が流れ、空中で体勢が浮き、そのまま斜面を転がり落ちた。背中を岩に打ちつけながら地面へ叩きつけられ、肺の空気が一気に吐き出される。
「……っ、ぐ」
痛みより先に悔しさが来た。もう一度登る。
だが次は狭い足場で足を滑らせた。焦って踏ん張ろうとして余計に重心が外へ逃げる。崩れる。落ちる。
三度目は飛び移る距離を見誤った。届かない。
四度目は着地した岩が斜めに傾いていた。
(どうなってるんだこの山。罠しかないじゃないか)
何度も、何度も、落ちる。
岩肌を登るたびに叩き落とされ、その度に体へ傷が増えていく。腕も脚も痛い。爪は削れ、呼吸も荒い。それでもタケシは止めない。イワークも黙ったままこちらを見ているだけだった。
(……違う)
何度目かの失敗のあと、崖の途中でようやく気づく。
俺はずっと、“平地の感覚”で動いていた。
森の中と同じように踏み込み、同じように跳び、同じように避けようとしていた。だから崩れる。だから滑る。岩場では、力任せの動きがそのまま隙になる。
試しに、踏み方を変えた。
強く踏み込むんじゃない。崩れる前に抜ける。
足場へ体重を乗せ切る前に、次へ流す。爪を浅く引っ掛け、壁側へ重心を寄せる。そのまま腰を捻り、横へ跳ぶ。着地と同時に膝を曲げて衝撃を逃がし、止まらず次へ繋げる。
少しだけ、体が軽かった。
そこからだった。見えている景色が変わり始めたのは。
ただの岩山にしか見えなかった場所が、使える地形に見えてくる。崩れそうな足場は、長く乗る場所じゃなく一瞬だけ踏み切る場所。傾斜は邪魔じゃない。重力を使って加速するための道になる。高低差も同じだった。上から落ちる勢いを殺さず、そのまま次の跳躍へ繋げる。
壁を蹴る。飛ぶ。着地する。流れる。
最初は一歩ごとに止まっていた動きが、少しずつ繋がっていく。細い岩棚では腰を落として重心を殺し、崩れる足場では触れるように駆け抜ける。高い場所から飛び降り、その勢いのまま壁を蹴って方向を変える。
今までは、地面を蹴るだけだった。
ここでは岩を使う。
ただそれだけの違いなのに、動きの感覚はまるで別物だった。
ある時、崖の中腹から飛び降りた瞬間、俺は反射的に横の岩壁を蹴っていた。体が弾けるように前へ飛ぶ。落下の勢いがそのまま加速に変わり、空気が一気に後ろへ流れていく。
速い、と思った。
ただ跳んだんじゃない。重力ごと叩きつけるような加速だった。
その瞬間、脳裏にイワークの姿が浮かぶ。
巨大な頭部。高い位置。岩みたいに硬い体。
だが今なら分かる。真正面から力比べをする必要なんて最初からなかった。足場を使い、高さを使い、地形ごと利用して叩き込めばいい。
着地した瞬間、俺はもう一度壁を蹴った。さっきより高く。さっきより速く。
風が頬を裂き、景色が一瞬で流れていく。
背後で、イワークが低く唸った。
その声が、少しだけ楽しそうに聞こえた。
――――――――
次の修行は、自主練だった。
防御を叩き込まれ、岩山を這い回るように登らされ、ようやく「戦う」という行為が少しだけ変わってきた実感はある。真正面から突っ込むだけだった頃より、足場を見るようになったし、相手との位置関係も考えるようになった。だが、それだけだった。
決定打がない。
イワークの岩肌を思い出す。ひっかいても浅い。りゅうのいぶきも効いてはいたが、削るのが精一杯だった。あの巨体を本気で倒すなら、もっと硬い一撃が必要になる。
岩を砕くほどの、硬さ。
ニビシティの外れ、岩壁の上に腰を下ろしながら、俺は何度も自分の爪を見つめていた。リザードの爪は鋭い。だが、鋭いだけだ。イワーク相手では、岩に弾かれて終わる。
(……もっと硬くできれば)
その時、不意に前世の記憶が引っかかった。
――リザードは、メタルクローを覚える。
ゲームの知識。技マシンだったか、レベル習得だったかまでは思い出せない。だが確かに、リザードン系統はメタルクローを使えた。
なら、理屈があるはずだった。
ただの「ゲームだから」で技を覚えられるほど、現実は甘くない。えんまくにも、なきごえにも、ちゃんと感覚と理屈があった。ならメタルクローにも必ずある。
(鋼みたいな爪を作る……? どうやってだ)
答えは出ないまま、数日が過ぎた。
ある日、ニビシティの鍛冶場の近くを通った時だった。
カン、カン、と乾いた音が響いている。熱気の混じった風が流れ、赤く焼けた鉄の匂いが鼻を刺した。人間たちが巨大な炉を囲み、真っ赤になった鉄を打っている。
熱された鉄は柔らかく、叩かれるたびに形を変えていく。そこから水へ浸けられた瞬間、ジュワァァッ!!と白い蒸気が弾けた。
その光景を見た瞬間、頭の奥で何かが繋がった。
(……熱)
炎は、外に吐き出すものだと思っていた。燃やすための力。
だが違う。熱そのものを、操ればいい。
俺はその日の夜から、一人で爪を見つめ続けた。尾の火を見ながら、体内を流れる熱の感覚を探る。ひのこを撃つ時、熱は喉へ集まる。なら、それを爪へ流せないか。
最初は全く上手くいかなかった。
熱を集めようとしても途中で散る。無理やり込めれば、爪が赤熱するだけで終わる。熱すぎて自分の指先が焼け、思わず岩を殴って冷やす羽目になる。
「……ッ、ぐ……!」
熱い。
痛い。
爪の内側から焼かれているみたいだった。
それでも止めなかった。
何度も繰り返すうちに、少しずつ分かってくる。熱を集めるだけじゃ駄目だ。ただ高温にしても、爪は脆いままだ。必要なのは、その後だった。
鍛冶場の鉄みたいに、一気に冷やす。
熱した後、閉じ込める。
体内の熱を爪へ集中させ、一瞬だけ限界まで温度を上げる。そこから無理やり熱を引かせ、急速に冷却する。だが少しでも制御を誤れば、熱が暴走して爪が割れる。
実際、何度も割れた。
岩壁へ爪を叩きつけた瞬間、バキッ!!と嫌な音を立てて爪が砕け、激痛が腕まで突き抜ける。割れた爪の隙間から血が滲み、まともに握ることすらできなくなった。
それでも、また熱を集める。
失敗して、割れて、治って、また繰り返す。
タケシはほとんど何も言わなかった。ただ時々こちらに近寄り治療して去っていく。
だが、それでよかった。
これは誰かに教わる技じゃない。
自分の炎を、どう扱うか。その答えを、自分の感覚で掴まなければ意味がない。
ある夜だった。
岩山の上で、いつものように熱を爪へ流し込む。赤熱する寸前まで温度を上げ、その瞬間、一気に熱を閉じ込めるように引かせた。
――ギィン……
爪同士が擦れた瞬間、今まで聞いたことのない硬い音が夜の岩場へ響いた。
思わず息が止まる。
月明かりの下で、右腕の爪だけが鈍く銀色に光っていた。それには異様なまでの硬質感だけがそこにあった。
爪の内側に、圧縮されたみたいな熱の気配だけが微かに残っている。
(……できた)
ゆっくりと腕を引き、目の前の岩壁へ向かって振り抜く。
メタルクロー
――ガギィッ!!
轟いた音は、今までとは明らかに違っていた。
爪が弾かれない。硬い岩肌へ、銀色の爪がそのまま深く食い込んでいる。
砕けた岩片が足元へぱらぱらと崩れ落ち、その光景を見つめながら、俺はゆっくり息を吐いた。
(リザードはメタルクローを覚えたってな)
静かな達成感だった。派手でも劇的でもない。ただ、できた。それだけだった。
――――――――
砕けた岩片が、乾いた音を立てながら足元へ転がっていく。
俺はしばらくその場に立ったまま、岩壁へ食い込んだ爪痕を見つめていた。右腕にはまだ熱が残っているはずなのに、不思議と感覚は冷えていた。力を込めるたび、銀色へ硬化した爪の奥が鈍く軋み、その感触だけがじわりと腕へ残っている。
背後で、砂を踏む音がした。
「……完成したか」
振り返ると、少し離れた岩場にタケシが立っていた。いつから見ていたのか分からない。腕を組んだまま、砕けた岩壁と俺の右腕を静かに見比べている。
タケシはゆっくり岩壁へ近づき、深く抉れた傷跡へ手を触れた。
「力任せに突っ込むだけだった頃よりは、少しマシな顔になったな」
相変わらず淡々とした口調だった。褒めているのかどうかも分からない。だが、不思議と胸の奥へ残る声だった。
その時、低い地鳴りみたいな唸り声が岩場へ響く。
「……イワァ」
視線を向ける。
岩陰の奥から、イワークがゆっくり姿を現した。巨体が動くたび、地面の小石がかすかに跳ねる。瞳は真っ直ぐこちらへ向いていた。
最初に戦った時と同じ相手のはずなのに、今は妙に空気が違って感じる。
あの時は圧倒されるだけだった。硬さも、重さも、何もかもが上だった。だが今は違う。イワークの視線を受けながらも、不思議と足が竦まなかった。
右腕へ力を込める。
銀色の爪が月明かりを鈍く反射した。
イワークの瞳がわずかに細くなる。そのまま低く唸りながら身を沈める姿は、まるで今すぐにでも飛び込んで来そうな空気を纏っていた。
張り詰めた沈黙の中で、タケシが静かに口を開く。
「……明後日、もう一度戦うんだ」
「……イワァァァ!!」
イワークが大きく吠える。岩山全体が震えたような重い咆哮が響き、空気がびりびりと揺れる。
俺も視線を逸らさなかった。
「……リザァ!」
喉の奥から熱が滲む。
負ける気は、もうしなかった。
夜風が岩場を吹き抜け、互いの唸り声だけが静かにぶつかり続けていた。
【名前】イグニス
【種族】リザード
【性格】おくびょう
【特性】りょうげんのひ
【持ち物】無し
りょうげんのひ:自分のHPが1/2以下になるまで、ほのお技を使えない。HPが1/3以下になると、ほのお技の威力が2倍になり、「すばやさ」のランクが1段階上る。
【技】
・ひっかく
・ひのこ?
・えんまく
・なきごえ
・りゅうのいぶき
・メタルクロー←NEW