転生したらヒトカゲだった。しかも色違い 作:リザードン大好きマン
森は静かだった。
昨日と何も変わらないはずなのに、空気のどこかに薄い違和感が混じっている。
その違和感の正体を確かめるように、俺は木の陰に身を潜め、そっと前方を覗き込んだ。
――見つけた。
黒いキャップを目深にかぶった男。その後ろには、捕獲銃を肩に担いだ金髪の男。足元にはコラッタとアーボ。
そして、二人はまだこちらに気づいていない。
風向きは悪くない。コラッタの鼻先も、今のところ別の方向を向いている。
(……気づかれてない。背後をとってる)
頭の中で状況が静かに組み上がる。コラッタの索敵、網の射線、アーボの初動、逃げ道。全部見える。ここで仕掛ければ一気に崩せる。
………先輩、あいつは出さないすか?
………もう出してる。
………え、どこにいるんすか?
………無駄口を叩くな。静かにしてろ。
会話をして油断しているあいつらの背後から、ジリジリと奇襲を仕掛けるために近寄っていく。
20メートル
10メートル
5メートル
(……今ならいける)
勝てる。
そう判断した瞬間、体はもう前に出ていた。足音を殺して一歩、さらに踏み込もうと重心を落とす。
そのまま一気に距離を詰める。
「カゲェッ!!」
――その時、上から何かが“落ちてきた”。
「ビイイイッ!!」
風が押し潰される音。視界が一瞬だけ暗くなる。反射的に体が止まり、次の瞬間、目の前を黒い影が掠めた。
「――っ!?(何だ!?)」
理解が追いつかないまま、地面が抉れる。土と落ち葉が弾け飛び、遅れて耳に刺さるような羽音が叩きつけられた。
速い。でかい。針みたいな影。
頭の中でバラバラの情報がぶつかって、遅れて一つに繋がる。
(……虫、飛んでる……針……スピアー……!)
背筋が冷える。見てなかった。完全に上だ。
考えるより先に、もう一度影が動く。今度は真っ直ぐこっちに来る。
避けるしかない。
地面を蹴って横に飛ぶ。直後、さっきまでいた場所に針が突き刺さり、土が抉れた。掠っただけなのに、風圧みたいな衝撃が体を揺らす。
「ヒトカゲだ!」
金髪の声が飛ぶ。コラッタが反応して跳ね、アーボが身を巻く。網銃が持ち上がる。全部見える。でも、その全部より一瞬だけ遅れている。
(……空に待機していたのか!)
理解が追いつく頃には、もう形は崩れていた。さっきまでの優位性は消えている。奇襲は完全に潰された。
スピアーが旋回する。空気を裂く音が頭上で鳴り、次の軌道が読めない。
帽子の男が叫ぶ。
「スピアー、どくばり!」
(来る。今度は正面だ)
踏み込む代わりに、地面を蹴って低く滑る。体勢が崩れるのも構わず、そのまま転がる。直後、背中の上を風が走り抜け、木の幹に鋭い音が叩きつけられた。
遅れて、痛みが来る。腕に熱い感覚。掠った。浅いが、確実に入ってる。
(チッ……!)
立て直す暇もなく、コラッタが突っ込んでくる。避けきれない距離。反射で腕を振るが、完全には止められない。体を押し飛ばされ、地面に叩きつけられる。
息が抜ける。
その上から、網銃の照準がこっちを向く。
「動くなッ!」
無理だ。
地面を蹴って強引に転がる。次の瞬間、さっきまでいた場所に網が叩きつけられた。葉が巻き上がり、視界が一瞬だけ塞がる。
その隙に、アーボが距離を詰めてくる。低い姿勢、巻き付く気だ。
(……最悪だな)
上はスピアー。正面はコラッタ。横からアーボ。後ろは網。
全部、揃ってる。
完全に囲まれてる。
呼吸が荒くなる。でも、頭だけは妙に冷えていた。
奇襲も、主導権も、全部消えた。
今あるのは――
(……クソ)
逃げ場も、余裕もない、ただの戦場だった。
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「ラタッ!!」
たいあたり
俺は踏み込む。コラッタの突進に合わせて半歩だけ軸をずらし、そのまま体を捻る。尾の振り抜きで勢いを乗せ、腕を叩き込む。
ひっかく
鋭い爪がコラッタの側面を裂く。浅い。だが、それで十分だった。突進の軌道がわずかに逸れ、背後に一瞬だけ隙間が生まれる。
そこへ、肺の奥の息を叩きつける。
「カゲェェェッ!!」
なきごえ
空気そのものが震えるような衝撃が前方へ走る。
「ラタッ!?」
「アボッ!?」
音じゃない衝撃が前に走り、アーボの起こりが一瞬だけ遅れる。コラッタも踏み込みが鈍る。その一拍で地面に息を吐く。
えんまく
――ぼぉっ!!
黒い煙が一気に膨らみ、視界が潰れる。自分の位置も相手の位置も曖昧になるが、さっきのズレは覚えている。煙の中を滑るように横へ抜け、コラッタの死角に回り込む。いける。
ひっかく
「ラタッ!!?」
踏み直して、撃ち込む。今度は深い。手応えが残る。だが、押し切る前に空気が裂けた。
「スピアー、どくばり!」
羽音。上。
反射で体をずらす。直後、煙が真っ二つに割れ、針が地面を抉る。スピアーだ。煙の外から見ている。こっちの隠れるが通じない。
(……厄介だな)
立ち上がる間もなく、コラッタが煙を突っ切ってくる。迷いがない。アーボも低く滑り込み、左右から挟む形を作る。
正面はコラッタ、横からアーボ、上にスピアー。
全部来る。
一瞬だけ、呼吸を詰める。次に動く順番を決める。コラッタをズラす。
踏み込む。あえて正面に出て、ひっかくの構えを見せる。コラッタが食いつく。来る。直前で軸を切り替え、肩から体当たり気味にぶつかって進路を歪ませる。
コラッタに意識を向けるとアーボが噛み付いてこようとするのは想定内。
「カゲェェェ!!!」
なきごえ
衝撃でアーボの頭がぶれる。完全には止まらないが、噛みが浅くなる。腕に擦れる痛み。牙だ。だが毒は注入されていない。
(浅い。まだいける)
そのまま後ろへ滑る。だが上から来る。羽音が近い。見なくても分かる速度。
みだれづき
転がる。地面に体を叩きつける勢いで低く逃げる。針が背中の上を掠め、熱が走る。浅い。だが回数が増えている。
(……じわじわ削られてる)
煙はもう薄い。位置は割れてる。呼吸が荒くなり、踏み込みのキレが落ちているのが分かる。
それでも止まれない。
えんまくをもう一度吐く。だが量が足りない。広がる前に、上から裂かれる。スピアーが煙ごと押し潰してくる。
(チッ……!)
横に逃げるが、その先にコラッタがいる。読まれてる。いや、数で潰されてる。
踏み替えた瞬間、足裏がわずかに滑る。踏み固められていない柔い土だった。ほんの一瞬、軸がズレる。
(……やばい! 滑った!)
その遅れを、コラッタが逃さない。想定より半拍早く踏み込んでくる。ひっかくを合わせるつもりだった腕が、わずかに間に合わない。
衝撃が先に来る。
たいあたり
「カゲッ…!」
息が抜ける。地面に転がる。すぐに起き上がろうとして、足に力が入らない。ほんの一瞬だけ、遅れる。
その遅れに、全部が重なる。
コラッタがもう一度踏み込む。アーボが巻き付きに来る。上からスピアーが落ちてくる。
(……まずい!)
頭は動く。対応しきれない。
なきごえを撃つ。衝撃でコラッタの踏み込みがわずかに鈍る。だが止まらない。ひっかくを合わせるが、タイミングが半拍遅い。浅い。止めきれない。
衝撃。
今度は踏ん張りが効かない。体が大きく崩れる。視界が揺れる。
上から影。避ける余裕がない。
(……何か、ないか)
無理やり体をひねる。完全には避けられない。針が肩を掠め、焼けるような痛みが走る。毒の気配がじわりと広がる。
呼吸が乱れる。足が重い。視界の端が狭くなる。
それでも、まだ動ける。
(……まだ、終わってない)
コラッタが詰めてくる。今度は確実に取りに来ている。網銃の気配も背後にある。全部重なる。
「ラタッッ!!」
ダメだ。間に合わない。
その瞬間、空気が弾けた。
でんきショック
――バチィッ!!
視界の横で光が爆ぜる。コラッタの体が跳ね、焼けた匂いが一気に広がる。
時間が一拍止まる。何が起きたのか、一瞬だけ分からない。
遅れて、黄色が目に入る。
小さな体。まだ不安定な足取り。それでも、確かに立っている。
(ピカチュウ……!!)
「……ぴか」
かすれた声。でも、その目は逸れていない。
こっちを見ている。
ーーーーーーーー
電気の残滓がぱちぱちと空気に残る中、コラッタの体が完全に崩れ落ちた。焦げた匂いが広がる。
視線の先に、ふらつきながらも立つ黄色――ピカチュウがいると理解するのと同時に、助けられた事実が遅れて落ちてくる。
ピカチュウ。
助けられた――その事実が、遅れて胸に落ちてくる。一瞬だけ、体を締めつけていた圧が緩んだ。詰まっていた息がようやく通る。
そして、そのわずかな余裕が、今まで見えていなかった戦場の変化を浮かび上がらせた。
「ピカッ!」
「……カゲッ!(……上等だ!)」
短い鳴き声が一つ。あいつは前を見ている。なら俺も止まらない。意識を引き戻し、視線を戦場に戻す。まだ終わっていない。
「……アーボ。そっちだ。お前はそいつを抑えろ」
短い指示。それだけで、戦場の流れが一気に変わった。帽子の男の低い声が、森の静寂を切り裂く。鋭い視線は俺から外さないまま、さらに続ける。
「お前もだ。ピカチュウを優先しろ」
金髪の男が即座に網銃の向きを変える。照準の先にいるのは――ピカチュウ。
同時に、アーボも低く地面を滑るように進路を変え、一直線にそちらへ向かった。
(……分断か)
理解した瞬間には、もう次の攻撃が始まっていた。
――ブゥンッ!!
反射で横に飛ぶ。針が地面を抉り、土が跳ねる。距離を取ろうとした瞬間、進路の先に帽子の男が立っている。
帽子の男は動いていない。最初からそこに立っていたみたいに、自然に進路の先にいる。
偶然じゃない。逃げる方向を選ぶ前から、そこに置かれている。
(逃げ道を潰されてる。こっちは…こっちで仕留める気だな)
スピアーが頭上を旋回する。羽音が途切れることなく耳にまとわりつき、視界の外から何度も鋭い針が襲いかかってくる。
(上……!)
羽音と風の揺れだけを頼りに軌道を読む。体を沈め、飛び込み、転がる。何とか致命傷は避けているものの、肩や腕には浅い傷が増えていく。
反撃しようと踏み込んでも、スピアーは一瞬早く上昇する。爪は空を切り、その隙を帽子の男が逃さない。半歩動くだけで進路を塞ぎ、こちらの逃げ道を奪っていく。
(削られてる……!)
えんまくで視界を遮り、強引に包囲を抜けようとする。だが、その煙すら読まれていた。
「スピアー、ダブルニードル!」
煙の中へ突っ込んできた連撃を、辛うじて避ける。だが二撃目は腕で受けるしかなく、鈍い衝撃が骨まで響いた。
体勢を崩したその時、横で放電音が弾ける。
ピカチュウがアーボに向かってでんきショックを放っていた。だが傷のせいか威力が足りず、アーボは動きを止めない。
その後ろでは、金髪の男が網銃を構えている。
(まずい……!)
そちらに意識を向けた、その一瞬だった。
頭上からスピアーが急降下する。
反応が遅れ、脇腹を針がかすめた。熱い痛みが走り、足が止まる。
直後――
パンッ!
乾いた発射音。
視界の端で、広がる網がピカチュウへと迫っていく。
(……間に合わねぇ!)
踏み出そうとするが、傷だらけの体は言うことを聞かない。
頭上にはスピアー。
前には帽子の男。
横にはアーボと網銃。
完全に追い詰められていた。
それでも、まだ倒れてはいない。
(……ピカチュウはギリ避けれたか)
動ける限り、終わりじゃない。
だが、ピカチュウが加わった今でも、戦況は依然として最悪だった。
【名前】???
【種族】ヒトカゲ
【性格】おくびょう
【特性】りょうげんのひ
【持ち物】無し
りょうげんのひ:自分のHPが1/2以下になるまで、ほのお技を使えない。HPが1/3以下になると、ほのお技の威力が2倍になり、「すばやさ」のランクが1段階上る。
【技】
・ひっかく
・ひのこ?
・えんまく
・なきごえ