転生したらヒトカゲだった。しかも色違い   作:リザードン大好きマン

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第七話 「俺って森に隠れるのに不向きじゃない?とくに色が」

 

 

 森は静かだった。

 

 昨日と何も変わらないはずなのに、空気のどこかに薄い違和感が混じっている。

 

 その違和感の正体を確かめるように、俺は木の陰に身を潜め、そっと前方を覗き込んだ。

 

 ――見つけた。

 

 黒いキャップを目深にかぶった男。その後ろには、捕獲銃を肩に担いだ金髪の男。足元にはコラッタとアーボ。

 

 そして、二人はまだこちらに気づいていない。

 

 風向きは悪くない。コラッタの鼻先も、今のところ別の方向を向いている。

 

(……気づかれてない。背後をとってる)

 

 頭の中で状況が静かに組み上がる。コラッタの索敵、網の射線、アーボの初動、逃げ道。全部見える。ここで仕掛ければ一気に崩せる。

 

 

………先輩、あいつは出さないすか?

………もう出してる。

 

………え、どこにいるんすか?

………無駄口を叩くな。静かにしてろ。

 

 

 会話をして油断しているあいつらの背後から、ジリジリと奇襲を仕掛けるために近寄っていく。

 

20メートル

 

10メートル

 

5メートル

 

(……今ならいける)

 

 勝てる。

 

 そう判断した瞬間、体はもう前に出ていた。足音を殺して一歩、さらに踏み込もうと重心を落とす。

そのまま一気に距離を詰める。

 

「カゲェッ!!」

 

 

 ――その時、上から何かが“落ちてきた”。

 

「ビイイイッ!!」

 

 風が押し潰される音。視界が一瞬だけ暗くなる。反射的に体が止まり、次の瞬間、目の前を黒い影が掠めた。

 

「――っ!?(何だ!?)」

 

 理解が追いつかないまま、地面が抉れる。土と落ち葉が弾け飛び、遅れて耳に刺さるような羽音が叩きつけられた。

 

 速い。でかい。針みたいな影。

 

 頭の中でバラバラの情報がぶつかって、遅れて一つに繋がる。

 

(……虫、飛んでる……針……スピアー……!)

 

 背筋が冷える。見てなかった。完全に上だ。

 

 考えるより先に、もう一度影が動く。今度は真っ直ぐこっちに来る。

 

 避けるしかない。

 

 地面を蹴って横に飛ぶ。直後、さっきまでいた場所に針が突き刺さり、土が抉れた。掠っただけなのに、風圧みたいな衝撃が体を揺らす。

 

「ヒトカゲだ!」

 

 金髪の声が飛ぶ。コラッタが反応して跳ね、アーボが身を巻く。網銃が持ち上がる。全部見える。でも、その全部より一瞬だけ遅れている。

 

(……空に待機していたのか!)

 

 理解が追いつく頃には、もう形は崩れていた。さっきまでの優位性は消えている。奇襲は完全に潰された。

 

 スピアーが旋回する。空気を裂く音が頭上で鳴り、次の軌道が読めない。

 

 帽子の男が叫ぶ。

 

「スピアー、どくばり!

 

(来る。今度は正面だ)

 

 踏み込む代わりに、地面を蹴って低く滑る。体勢が崩れるのも構わず、そのまま転がる。直後、背中の上を風が走り抜け、木の幹に鋭い音が叩きつけられた。

 

 遅れて、痛みが来る。腕に熱い感覚。掠った。浅いが、確実に入ってる。

 

(チッ……!)

 

 立て直す暇もなく、コラッタが突っ込んでくる。避けきれない距離。反射で腕を振るが、完全には止められない。体を押し飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 息が抜ける。

 

 その上から、網銃の照準がこっちを向く。

 

「動くなッ!」

 

 無理だ。

 

 地面を蹴って強引に転がる。次の瞬間、さっきまでいた場所に網が叩きつけられた。葉が巻き上がり、視界が一瞬だけ塞がる。

 

 その隙に、アーボが距離を詰めてくる。低い姿勢、巻き付く気だ。

 

(……最悪だな)

 

 上はスピアー。正面はコラッタ。横からアーボ。後ろは網。

 

 全部、揃ってる。

 

 完全に囲まれてる。

 

 呼吸が荒くなる。でも、頭だけは妙に冷えていた。

 

 奇襲も、主導権も、全部消えた。

 

 今あるのは――

 

(……クソ)

 

 逃げ場も、余裕もない、ただの戦場だった。

 

 

 

----------

 

 

「ラタッ!!」

 たいあたり

 

 俺は踏み込む。コラッタの突進に合わせて半歩だけ軸をずらし、そのまま体を捻る。尾の振り抜きで勢いを乗せ、腕を叩き込む。

 

 ひっかく

 

 鋭い爪がコラッタの側面を裂く。浅い。だが、それで十分だった。突進の軌道がわずかに逸れ、背後に一瞬だけ隙間が生まれる。

 

 そこへ、肺の奥の息を叩きつける。

 

「カゲェェェッ!!」

 なきごえ

 

 空気そのものが震えるような衝撃が前方へ走る。

 

「ラタッ!?」

「アボッ!?」

 

 音じゃない衝撃が前に走り、アーボの起こりが一瞬だけ遅れる。コラッタも踏み込みが鈍る。その一拍で地面に息を吐く。

 

 えんまく

 

 ――ぼぉっ!!

 

 黒い煙が一気に膨らみ、視界が潰れる。自分の位置も相手の位置も曖昧になるが、さっきのズレは覚えている。煙の中を滑るように横へ抜け、コラッタの死角に回り込む。いける。

 

 ひっかく

 

「ラタッ!!?」

 

 踏み直して、撃ち込む。今度は深い。手応えが残る。だが、押し切る前に空気が裂けた。

 

「スピアー、どくばり!

 

 羽音。上。

 

 反射で体をずらす。直後、煙が真っ二つに割れ、針が地面を抉る。スピアーだ。煙の外から見ている。こっちの隠れるが通じない。

 

(……厄介だな)

 

 立ち上がる間もなく、コラッタが煙を突っ切ってくる。迷いがない。アーボも低く滑り込み、左右から挟む形を作る。

 

 正面はコラッタ、横からアーボ、上にスピアー。

 

 全部来る。

 

 一瞬だけ、呼吸を詰める。次に動く順番を決める。コラッタをズラす。

 

 踏み込む。あえて正面に出て、ひっかくの構えを見せる。コラッタが食いつく。来る。直前で軸を切り替え、肩から体当たり気味にぶつかって進路を歪ませる。

 

 コラッタに意識を向けるとアーボが噛み付いてこようとするのは想定内。

 

「カゲェェェ!!!」

 なきごえ

 

 衝撃でアーボの頭がぶれる。完全には止まらないが、噛みが浅くなる。腕に擦れる痛み。牙だ。だが毒は注入されていない。

 

(浅い。まだいける)

 

 そのまま後ろへ滑る。だが上から来る。羽音が近い。見なくても分かる速度。

 

 みだれづき

 

 転がる。地面に体を叩きつける勢いで低く逃げる。針が背中の上を掠め、熱が走る。浅い。だが回数が増えている。

 

(……じわじわ削られてる)

 

 煙はもう薄い。位置は割れてる。呼吸が荒くなり、踏み込みのキレが落ちているのが分かる。

 

 それでも止まれない。

 

 えんまくをもう一度吐く。だが量が足りない。広がる前に、上から裂かれる。スピアーが煙ごと押し潰してくる。

 

(チッ……!)

 

 横に逃げるが、その先にコラッタがいる。読まれてる。いや、数で潰されてる。

 

 踏み替えた瞬間、足裏がわずかに滑る。踏み固められていない柔い土だった。ほんの一瞬、軸がズレる。

 

(……やばい! 滑った!)

 

 その遅れを、コラッタが逃さない。想定より半拍早く踏み込んでくる。ひっかくを合わせるつもりだった腕が、わずかに間に合わない。

 

 衝撃が先に来る。

 

 たいあたり

 

「カゲッ…!」

 

 息が抜ける。地面に転がる。すぐに起き上がろうとして、足に力が入らない。ほんの一瞬だけ、遅れる。

 

 その遅れに、全部が重なる。

 

 コラッタがもう一度踏み込む。アーボが巻き付きに来る。上からスピアーが落ちてくる。

 

(……まずい!)

 

 頭は動く。対応しきれない。

 

 なきごえを撃つ。衝撃でコラッタの踏み込みがわずかに鈍る。だが止まらない。ひっかくを合わせるが、タイミングが半拍遅い。浅い。止めきれない。

 

 衝撃。

 

 今度は踏ん張りが効かない。体が大きく崩れる。視界が揺れる。

 

 上から影。避ける余裕がない。

 

(……何か、ないか)

 

 無理やり体をひねる。完全には避けられない。針が肩を掠め、焼けるような痛みが走る。毒の気配がじわりと広がる。

 

 呼吸が乱れる。足が重い。視界の端が狭くなる。

 

 それでも、まだ動ける。

 

(……まだ、終わってない)

 

 コラッタが詰めてくる。今度は確実に取りに来ている。網銃の気配も背後にある。全部重なる。

 

「ラタッッ!!」

 

 ダメだ。間に合わない。

 

 その瞬間、空気が弾けた。

 

 

 

 でんきショック

 

――バチィッ!!

 

 視界の横で光が爆ぜる。コラッタの体が跳ね、焼けた匂いが一気に広がる。

 

 時間が一拍止まる。何が起きたのか、一瞬だけ分からない。

 

 遅れて、黄色が目に入る。

 

 小さな体。まだ不安定な足取り。それでも、確かに立っている。

 

(ピカチュウ……!!)

 

「……ぴか」

 

 かすれた声。でも、その目は逸れていない。

 

 こっちを見ている。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 電気の残滓がぱちぱちと空気に残る中、コラッタの体が完全に崩れ落ちた。焦げた匂いが広がる。

 

 視線の先に、ふらつきながらも立つ黄色――ピカチュウがいると理解するのと同時に、助けられた事実が遅れて落ちてくる。

 

 ピカチュウ。

 

 助けられた――その事実が、遅れて胸に落ちてくる。一瞬だけ、体を締めつけていた圧が緩んだ。詰まっていた息がようやく通る。

 

 そして、そのわずかな余裕が、今まで見えていなかった戦場の変化を浮かび上がらせた。

 

「ピカッ!」

 

「……カゲッ!(……上等だ!)」

 

 短い鳴き声が一つ。あいつは前を見ている。なら俺も止まらない。意識を引き戻し、視線を戦場に戻す。まだ終わっていない。

 

「……アーボ。そっちだ。お前はそいつを抑えろ」

 

 短い指示。それだけで、戦場の流れが一気に変わった。帽子の男の低い声が、森の静寂を切り裂く。鋭い視線は俺から外さないまま、さらに続ける。

 

「お前もだ。ピカチュウを優先しろ」

 

 金髪の男が即座に網銃の向きを変える。照準の先にいるのは――ピカチュウ。

 

 同時に、アーボも低く地面を滑るように進路を変え、一直線にそちらへ向かった。

 

(……分断か)

 

 理解した瞬間には、もう次の攻撃が始まっていた。

 

 ――ブゥンッ!!

 

 反射で横に飛ぶ。針が地面を抉り、土が跳ねる。距離を取ろうとした瞬間、進路の先に帽子の男が立っている。

 

 帽子の男は動いていない。最初からそこに立っていたみたいに、自然に進路の先にいる。

 

 偶然じゃない。逃げる方向を選ぶ前から、そこに置かれている。

 

(逃げ道を潰されてる。こっちは…こっちで仕留める気だな)

 

 スピアーが頭上を旋回する。羽音が途切れることなく耳にまとわりつき、視界の外から何度も鋭い針が襲いかかってくる。

 

(上……!)

 

 羽音と風の揺れだけを頼りに軌道を読む。体を沈め、飛び込み、転がる。何とか致命傷は避けているものの、肩や腕には浅い傷が増えていく。

 

 反撃しようと踏み込んでも、スピアーは一瞬早く上昇する。爪は空を切り、その隙を帽子の男が逃さない。半歩動くだけで進路を塞ぎ、こちらの逃げ道を奪っていく。

 

(削られてる……!)

 

 えんまくで視界を遮り、強引に包囲を抜けようとする。だが、その煙すら読まれていた。

 

「スピアー、ダブルニードル!

 

 煙の中へ突っ込んできた連撃を、辛うじて避ける。だが二撃目は腕で受けるしかなく、鈍い衝撃が骨まで響いた。

 

 体勢を崩したその時、横で放電音が弾ける。

 

 ピカチュウがアーボに向かってでんきショックを放っていた。だが傷のせいか威力が足りず、アーボは動きを止めない。

 

 その後ろでは、金髪の男が網銃を構えている。

 

(まずい……!)

 

 そちらに意識を向けた、その一瞬だった。

 

 頭上からスピアーが急降下する。

 

 反応が遅れ、脇腹を針がかすめた。熱い痛みが走り、足が止まる。

 

 直後――

 

 パンッ!

 

 乾いた発射音。

 

 視界の端で、広がる網がピカチュウへと迫っていく。

 

(……間に合わねぇ!)

 

 踏み出そうとするが、傷だらけの体は言うことを聞かない。

 

 頭上にはスピアー。

 

 前には帽子の男。

 

 横にはアーボと網銃。

 

 完全に追い詰められていた。

 

 それでも、まだ倒れてはいない。

 

(……ピカチュウはギリ避けれたか)

 

 動ける限り、終わりじゃない。

 

 だが、ピカチュウが加わった今でも、戦況は依然として最悪だった。

 

 

 

 







【名前】???
【種族】ヒトカゲ
【性格】おくびょう
【特性】りょうげんのひ
【持ち物】無し

りょうげんのひ:自分のHPが1/2以下になるまで、ほのお技を使えない。HPが1/3以下になると、ほのお技の威力が2倍になり、「すばやさ」のランクが1段階上る。

【技】
・ひっかく
・ひのこ?
・えんまく
・なきごえ
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