転生したらヒトカゲだった。しかも色違い   作:リザードン大好きマン

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第九話 「…………疲れたな」

 

 

彼女は夢を見ていた。 

――いや、走馬灯だったのかもしれない

 

森の中を、ただ歩いている。

 

探している。

 

ずっと、探している。

 

小さな足跡。かすかな匂い。折れた枝。

どれも似ているようで違う。

 

近づいたと思えば消え、追えば途切れ、何度も何度も振り出しに戻る。

 

喉が渇く。足が重くなる。

それでも止まれない。

 

止まれば、消えてしまう気がした。

 

――あの小さな温もりを、二度と見つけられなくなる気がして。

 

 

 

ある日、倒木の影に、暗い穴を見つけた。

 

湿った空気が流れ出ている。

ここにいるかもしれない。

 

胸が強く打つ。

 

一歩、近づく。

二歩、踏み込む。

 

覗き込む。

 

暗い。

 

静かだ。

 

 ――いない。

 

空っぽだった。

 

 

 

胸の奥が、少しだけ沈む。

 

気配。

 

振り向く。

 

そこに、いた。

 

尾に火を灯した、小さなトカゲ。

 

見たことがある。

 

 

けれど――

 

色が違う。

 

あまりにも違う。

 

まるで、自分と同じように。

 

 

 

警戒する。

距離を取る。

低く構える。

 

それでも、完全には踏み込めない。

 

敵のはずなのに、どこか違う。

危険なはずなのに、妙に目が離せない。

 

 

 

 ――ぶつかる。

 

 

 

爪と電気。

衝撃と音。

 

痛み。熱。息が詰まる。

 

それでも、その奥にある何かが、わずかに揺れる。

 

完全な敵じゃない。

 

でも、味方でもない。

 

分からない。

 

それでも、目だけは逸らさなかった。

 

 

 

やがて、体は動かなくなり、意識は沈んでいく。

 

暗くなる。

 

終わりに近い静けさの中で――

 

触れられる。

 

運ばれる。

 

守られている。

 

 

 

温かい。

 

 

 

あのトカゲだ。

 

変な色の。

 

奇妙で、理解できなくて、それでも――

 

敵じゃなかった存在。

 

 

 

再び目を開けたとき、そこにいた。

 

近くに。

 

離れずに。

 

 

 

まだ、分からない。

 

それでも、もう牙は向けなかった。

 

 

 

時間が流れる。

 

並ぶ。

 

戦う。

 

共に。

 

 

 

走る。

 

叫ぶ。

 

ぶつかる。

 

 

 

その背中は、小さいのに、妙に頼もしかった。

 

無茶をする。

危ない動きをする。

でも、決して折れない。

 

 

 

変な色だと、何度も思った。

 

どうしてこんな色なのか、最後まで分からなかった。

 

 

 

それでも――

 

その背中を、信じていた。

 

 

 

そして。

 

ついに、見つける。

 

 

 

小さな体。

 

震える声。

 

 

 

 ――我が子。

 

 

 

届いた。

 

間に合った。

 

 

 

その瞬間の安堵は、何よりも強く、何よりも深く、胸の奥に広がった。

 

 

 

すべてが、繋がる。

 

ここまで来た意味が、ようやく形になる。

 

 

 

そして――

 

意識が、落ちていく。

 

 

 

遠くなる音。

 

薄れていく光。

 

 

 

その中で、ただ一つだけ、残るものがある。

 

 

 

小さな体。

 

そして、変な色の友達。

 

 

 

願う。

 

 

 

どうか。

 

 

 

どうか――

 

 

 

あの子が、健やかに生きていけますように。

 

 

 

そして。

 

 

 

あの、変な色の友達も。

 

 

 

どうか、共に。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ――どしゃっ。

 

 軽い音だった。

 

 それだけのはずなのに、その瞬間、世界のすべてが止まったように感じた。風の音も、スピアーの羽音も、ピチューの泣き声も遠ざかっていき、目の前に倒れた黄色い体だけが異様なほど鮮明に映る。

 

 ――ピカチュウ。

 

 さっきまで確かに立っていた。震えながらも退かず、自分の子どもを守るために、そして俺を信じて前に立っていたその背中が、今は血に濡れ、ぴくりとも動かない。

 

 脳裏に、これまでの光景が一気に流れ込んでくる。

 

 森での出会い。いきなり電撃を食らったこと。何度もぶつかり、何度も睨み合い、それでも少しずつ距離が縮まっていったこと。言葉なんて通じないのに、気づけば隣で戦うのが当たり前になっていた。

 

 子どもを探し続けた母親の背中。傷だらけでも折れず、最後の最後まで守ろうとした小さな背中。

 

 その背中が、今。血に濡れて、動かない。

 

(……俺は)

 

 何をしていた。

 

 すぐ目の前で、あいつが貫かれるのを、ただ見ていることしかできなかった。動けなかった。助けられなかった。守れなかった。

 

 胸の奥で、何かが軋む。

 

 悔しさ。怒り。後悔。

 

 そして――

 

 殺意。

 

 帽子の男へ。スピアーへ。ピカチュウを傷つけた、すべてのものへ。

 

 許さない。

 

 絶対に、許すものか。

 

 心臓が激しく脈打ち、全身の奥底から熱が噴き上がる。尾の火は揺れるのではなく、膨れ上がっていた。骨が軋み、筋肉が膨張し、全身が内側から作り変えられていく。

 

 ドクン。ドクン。ドクン。

 

 体の奥底から、熱が溢れ出す。

 

 熱い。苦しい。

 

 それでも視線は、ピカチュウを倒した奴らだけを見据えている。

 

「……カゲ」

 

 喉の奥から漏れた声は、自分でも知らないほど低かった。

 

 次の瞬間、怒りをそのまま叩きつけるように咆哮が迸った。

 

「……ガァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 膨れ上がった炎が爆発するように噴き上がり、眩い光が全身を包む。体が伸び、爪が鋭くなり、尾の炎がさらに大きく燃え上がる。

 

 そして――

 

 光が、収まる。そこに立っていたのは、もう小さなヒトカゲではなかった。

 

 怒りの炎をその身に宿した、リザード。

 

 その瞳には、ただ一つの感情しかなかった。

 

 

 

 

 

 ――殺ス。

 

 

――――――

 

 

 視線の先には、帽子の男。

 

(――殺ス。)

 

 地面を蹴る。以前とは比べものにならない力が足に宿り、景色が一気に後ろへ流れていく。距離が、一瞬で消えた。

 

 だが、その間に羽音が割り込む。

 

 スピアー。

 

(――邪魔ダ。)

 

 吐き捨てるというより、感情がそのまま漏れたような声だった。

 

 ひっかく

 

「キシャァァァ!!?」

 

 振り抜いた爪が外殻を砕き、スピアーの体を大きく弾き飛ばす。だが、それでも落ちない。どくばりが突き出され、針が体を貫く。

 

 関係ナイ。

 

 ひのこ

 

 そのまま掴み寄せ、至近距離で炎を叩き込む。

 

「ギッジャァァァ!!?」

 

 炎が爆ぜ、外殻を焼き、羽音を乱す。それでもなお、スピアーは最後の力を振り絞ってダブルニードルを繰り出してくる。

 

 腕を貫かれる。

 

 それでも止まらない。

 

「――リザァァァァッ!!」

 

 爪を振り下ろす。

 

 一撃。 「ギッシャャャ!?」

 

 二撃。 「ギッ…シャャ!」

 

 三撃。 「ギ………ャ」

 

 形が崩れてもなお、怒りのままに叩き続ける。

 

 その時だった。

 

 ――バチッ

 

 一瞬、スピアーの体が痙攣した。

 

 ――特性《せいでんき》発動……

 

(…………え)

 

 遅れて理解する。

 

 あれは、ピカチュウの最後のでんきだった。

 

 自分が貫かれる、その瞬間まで頬袋にありったけの電気を溜め込み、スピアーの針が体を貫いた瞬間に、触れた相手へすべてを流し込んだのだ。

 

 自分の命と引き換えに、スピアーの動きを止めるために。

 

 我が子の命と、俺の命を守るために最後まで足掻いた。

 

(……あぁ、ピカチュウ……!)

 

 脳裏に浮かぶのは、あの戦い、あの背中、あの一撃。

 

 怒りの中に、別の感情が混ざり込む。

 

 熱がわずかに引き、視界が澄んでいく。呼吸が通り、止まっていた手も静かに下ろされた。

 

 目の前には、もう動かないスピアー。

 

 その向こうには、倒れたピカチュウと、震えるピチュー。

 

(……もう少しだけ、待っていてくれ)

 

 怒りは消えていない。

 

 だが、それだけではない。

 

 まだ終わっていない。

 

 視線は再び、帽子の男を捉えた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 荒れていた呼吸が、ゆっくりと整っていく。

 

 体を支配していた暴走のような熱は、消えたわけではない。ただ芯の奥へ沈み、向けるべき先を持った確かな意思へと変わっていた。

 

 帽子男は逃げていない。逃げられないのか、それとも意地だけで立っているのか。どちらにせよ、その手にはまだ網銃が握られていた。

 

「……来いよ、リザード」

 

 強がる声と同時に、引き金が引かれる。

 

 網が飛ぶ。だが、その軌道ははっきり見えていた。わずかに身をずらすだけで、網は空を切る。

 

 そのまま間合いに入る。

 

 腕を引く。

 

 ひっかくでも、ひのこでもない。

 

(お前は…お前だけは、殺してやる)

 

 胸の奥で渦巻く怒り、殺意、後悔。そのすべてを喉の奥へ集め、一気に吐き出す。

 

「――リザァァァァッ!!!」

 

 りゅうのいぶき

 

 赤黒い衝撃が一直線に走り、男の体を正面から飲み込んだ。

 

「があァァ!!?」

 

 吹き飛ばされた男は地面に何度も叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

 

 完全に、終わった。

 

 戦いの音が消え、森には風の音だけが残る。

 

(……終わった。そうだ、ピカチュウはどうなっ…)

 

 そう実感した瞬間、自然と視線は横へ向いた――

 

 

 ――そこにあるのは、動かない黄色の体。

 

 足が勝手に動く。ゆっくりと近づき、すぐそばでしゃがみ込む。

 

 あり得ないと分かっているのに、どこかでまだ期待していた。

 

 ――もしかしたら

 

 呼吸が戻るかもしれない。

 

 目を開けるかもしれない。

 

「……リザ(……なぁ)」

 

 呼びかけても、返事はない。

 

 震える手で触れる。

 

 冷たい。

 

 呼吸も、鼓動も、体温も、何一つ返ってこない。

 

 ただそこにあるだけの、動かない体。

 

 最後に残っていたわずかな期待が、音もなく崩れ落ちた。

 

「………ァ」

 

 声にならない声が漏れる。

 

 その時、頬に冷たいものが落ちた。

 

 ぽつり。

 

 続けて、もう一滴。

 

 雨だった。

 

 空が暗くなり、森を静かな雨音が満たしていく。雨粒が尾の炎に落ち、じゅっと小さな音を立てる。

 

 炎は揺れる。

 

 それでも、消えない。

 

 どれだけ雨に打たれても、その火は燃え続けていた。強くなった証のように。

 

 その目の前で、ピカチュウの体は静かに濡れていく。

 

 動かないまま。

 

 冷たいまま。

 

 ただ雨に打たれ続けている。

 

(……ピチュー、どうすんだよ)

 

 小さく呟く。

 

 答えはない。

 

 自分は生きている。火も消えない。

 

 それでも、守れなかったものだけが、そこに残っていた。

 

 雨は止まない。

 

 炎も消えない。

 

 そして――

 

 ピカチュウは死んだ。

 

 ただ、それだけだった。









おめでとう! ヒトカゲは リザードに 進化した

【名前】???
【種族】リザード
【性格】おくびょう
【特性】りょうげんのひ
【持ち物】無し

りょうげんのひ:自分のHPが1/2以下になるまで、ほのお技を使えない。HPが1/3以下になると、ほのお技の威力が2倍になり、「すばやさ」のランクが1段階上る。

【技】
・ひっかく
・ひのこ?
・えんまく
・なきごえ
・りゅうのいぶき
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