ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】   作:尾松成也

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初めまして、尾松成也です!
ハーメルンでは初めての投稿となります!
『カクヨム』や『小説家になろう』でも連載しておりますので、よろしくお願いします!


プロローグ〈前編〉

 大型海上輸送船内に人間の死体が所狭しと転がっている。四十フィートコンテナにもたれかかった死体の手には火炎放射器が握られており、種火が血の海を照らしていた。

 

 その死体達に群がっているのは目も鼻もない、つるりとしたノーフェイス。脇腹あたりから人のような長い腕――左右合わせて八本あり、関節部分は黒光りするフレームと赤い筋肉が剥き出し――が生えており、死体を軽々と持ち上げて頭部を喰らった。

 

 それらは食事をする時だけ顔に大きな亀裂が入り、唾液を溢れさせながら、指一本残さず胃の中へ収めていった。

 

「機械が人間を食べるだなんて吐き気がする……」

 

 私、ソフィア・ロズヴァイセはレジスタンス組織の一員として活動していた。今は敵に見つからないよう、双子の姉であるアメリア・ロズヴァイセと共に、コンテナとコンテナの間に隠れて身を潜めている最中。

 

 次の死体に手を伸ばした敵は口を大きく開けた後、チューブ状の管を使って人間の頭蓋に差し込み、ストローの要領で脳をジュルジュルと啜り始めた。

 

 目の前の光景を見て私は吐きそうになった。

助けを呼べる仲間は近くにはいない。この状況でどう立ち回れば良いのだろう。分からない。

 

 さっきからこの繰り返しだった。

 

『ミンナ、ドコニイルンダ!? イマカラ、ミンナデ、ハンゲキニデルゾ!』

 

 突然の大きな声に私は肩が飛び跳ねるくらい驚いてしまった。今朝方、ちゃんと飯を食わないと大きくならないぞ! と私達姉妹に声をかけてくれたバリーの声そのものだった。

 

(良かった! まだ生きてる仲間がいたんだ!)

 

 私は声がした方へ向かおうとした。

だが、アメリアにジャケットの裾を掴まれて止められてしまう。少し苛立ち気味に振り返ると、アメリアが泣きそうな顔で頭を左右に振っていた。

 

「違う……。あの声はバリーじゃないよ……」

 

 歯をガチガチと鳴らして震えているアメリアを見て、ハッと我に返る。すると、大きく亀裂の入った口に赤いジャムを塗りたくった横顔が露わになった。

 

『ミンナ、ドコニイルンダァ?』

 

 私は恐怖で声が漏れそうになった。

 

 アメリアが止めてくれなかったら、今頃、私の頭と胴体は離れ離れになっていただろう。想像してしまった私はブルッと身体を震わせた。

 

『ニンゲン、ミツケタッ!』

「うわっ……。た、助け――」

 

 不自然に声が途切れた後、ボリボリと骨を砕く音が響いてきた。

 

 私達は暫く喋れなかった。

恐らく、私達以外の仲間はたった今、死に絶えてしまった。

 

「ソフィアちゃん、大丈夫……?」

「なんとかね……」

 

 嘘だ。本当は大丈夫じゃない。

アメリアを怖がらせない為に私は強がるしかできなかった。私は長めに深呼吸を繰り返す。

 

「私達が今、やらなきゃいけない事、分かってるわよね?」

 

 そう問いかけると、アメリアは「勿論」と返事をした。

 

「南極で発掘された新型機の強奪だよね」

「そう。その後、上空で待機している本隊と合流。この輸送船を沈没させるまでが私達の仕事よ」

 

 頷き合った私達は辺りを警戒しながら、目的地に向かって駆け出した。しかし、すぐに敵に見つかってしまう。

 

『ニンゲンッ! フタリ、イルッ!』

 

 私は舌打ちしながら更に走るスピードを上げる。

すると、コンテナの天辺に攀じ登った敵の一体が先回りし、私達の前に飛び降りてきた。

 

 ズシンと大きく縦揺れし、バランスを崩した私達は尻餅を着く。崩れ落ちたコンテナの中からドラム缶が転がり落ちてきた。

 

『カンリデータ、ショウゴウチュウ……。ガイトウシャナシ、ホショクモードヘ、イコウスル』

 

 敵は全ての腕を蠍の尾のように硬質化させ、足元に転がったドラム缶を全て薙ぎ払った。

 

 ドラム缶は紙のように真っ二つになり、黒くてドロリとした粘性の液体が尾に伝う。その一部が私達にもかかってしまった。

 

「うわっ、足に付いちゃった!」

 

 アメリアが嫌そうな顔で肌に付かないようにパンツの裾を引っ張った。

 

 一方の私は石油のような臭いに顔を顰めた。

もし、この狭い船倉内で引火して爆発なんてしたら、私達の身体はバラバラに吹っ飛んでしまうだろう。

 

 想像するだけでゾッとした。

だが、同時に良いアイデアも思い付く。

 

「お姉ちゃん、逃げる時間を稼ぐから先に新型機のシステムを起動させておいて。私は後から合流するから」

 

 アメリアの表情が固くなった。

 

 私は返事を聞かずに一人で行こうとすると、手を掴まれ、「待って!」と泣かれてしまった。

 

「そんなこと言って僕だけ逃すつもりでしょ!? 嫌だよ、絶対に嫌! 僕、ソフィアちゃんと一緒じゃないと絶対に行かない!」

 

 それにね! とアメリアは泣きながら続ける。

 

「この作戦は僕達二人が揃って初めて成功する作戦だって、ソフィアちゃんが一番分かってるでしょ!?」

 

 涙で潤んだ大きな水色の目には戸惑っている私の顔が映っていた。

 

「私がやろうとしてるのは、とても危険な行為なのよ」

「それでも一緒にいるっ!」

「……死んじゃうかもしれなくても?」

「二人で死ねたら本望だよっ!」

 

 それを聞いた私は苦笑いした。

 

「敵を足止めしようと思ってるの。人工筋肉で覆われた機械達を――」

「火を使うんだね!」

 

 どうやら、全て説明しなくても私の考えがわかったようだ。

 

「まだ走れる?」

「吐いてでも走るよ!」

 

 ゲホッと咳き込んだアメリアは無理やり口角を上げた。

 

 格納庫の入口を目指して走り抜けるしかない。

それに火を着ける事なく逃げ切る事ができるのであれば、その方が良いに決まっている。

 

 頷き合った私達は踵を返し、別のルートから格納庫に向かって再び駆け出した。

 

 真っ先に別の個体が私達を足止めをしようと、コンテナを投げ付けてきた。ゴォンッ! と鈍い音が船倉内に響き渡り、耳の奥がキーンと痛くなる。

 

 更に別の個体は私達を捕食しようと手を伸ばしてきた。髪の毛を掴まれた時はヒヤッとしたが、私はナイフで迷わず髪を切り落とす。

 

「い、入口はっ!? 入口はどこにあるのっ!?」

「このコンテナの区画を抜けたら辿り着くはずよ!」

 

 腕に着けたデバイスを見ながら走っていると、格納庫へ続く入口が見えてきた。安堵で自然と頬が緩む。

 

 だがしかし、ここで私達は致命的なミスを犯した。入口近くで待ち伏せしていた敵の存在に気付くのが遅れてしまったのだ。

 

「あっ……」

「お姉ちゃんっ!?」

 

 一瞬の事だった。コンテナから顔を出した敵がアメリアの足を掴み、逆さ吊りにした。

 

 パニックになった私は知っている限りの汚い言葉を喚きながら敵を殴った。何度も何度も必死に殴った。拳から血が出るまで殴った。

 

 けれど、ただの人間である私の力が機械相手に通用する筈もなく、グシャリと嫌な音が船倉内に響いた。

 

「ああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 私の喉から獣のような叫びが漏れた。

 

 敵は握り潰したアメリアと絶望する私を交互に見た後、何を思ったのか血塗れのアメリアを私の目の前に差し出してきた。

 

「そふぃ……あ、ちゃ……」

「喋らないでっ!! あ、あぁっ、どうしようっ! どうにかしないと、お姉ちゃんが!!」

 

 両足が完全に握り潰されている。出血が多い。助からない。直感的に理解してしまう。それでも、私は冷たくなっていく自分の片割れを抱き寄せることしかできなかった。

 

「お姉ちゃん、しっかり……。しっかりして……」

 

 聞こえていた声も聞こえなくなった。

 

 私は絶望した。目の前の敵を憎悪を込めて睨め付け、胸ポケットからオイルライターを取り出した。

 

 床一面に撒き散らされた燃料は敵も浴びている。予定外の爆発が起きれば、上空で待機している仲間もトラブルが起こったと気付くだろう。

 

 もう作戦は遂行できない。けれど、こんな状態になったアメリアを一人置いていけない。私達は生まれる前から二人だった。それなら死ぬ時も一緒だ。

 

「全員、道連れにしてやる……!!」

 

 感情的になった私はライターの蓋を弾き、火を灯した。

 

 今まで感情の欠片も見せなかった機械が、火を見た瞬間、顔の亀裂を大きく歪ませる。驚愕したかのようなその表情が視界に入った直後、轟音と熱波に飲み込まれた。

 

(来世ではお姉ちゃんと一緒に幸せになりたいなぁ……)

 

 そう願いながら、私は真っ赤に燃える炎の中で目を閉じた。

 

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