ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】   作:尾松成也

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第十四話 「無人機が勝手に動く!? こんなのアリかよ!?」

「シンラ・イグニス学生、現時刻をもって釈放する」

 

 そう告げて手錠を外したのは、タナカさんの部下だというダレン・ウォーカー軍曹だった。

 

 ダレンという軍人は俺に銃を突きつけて来た軍人の一人。真面目という言葉が似合いそうな黒縁の眼鏡をかけた黒髪の軍人で、スラッした長身の男性だ。

 

 手錠の跡が残る手首を摩りながら、「こんな目に遭うのは二度と御免だ……」と小さく愚痴を零すと、ダレンにジロリと睨まれてしまった。

 

「グラズヘイムのレベルも落ちたもんだな。お前達みたいな規則も守れない奴が数年後に軍に入隊してくると思うと先が思いやられるよ」

 

 嫌味たっぷりな物言いにカチンときたが、俺は言葉を飲み込んだ。タナカさんの尋問(という名の愚痴)のお陰で耐性がついてしまったというのもあるが、たくさんの人達に迷惑をかけたのかを自覚したからだ。

 

「すいません」と素直に謝ると、ダレンはキョトンとした表情になった。

 

「……意外だな」

「今、何か仰いましたか?」

「いや、なんでもない。出口まで案内する」

 

 何を言ったのかは聞き取れなかったが、俺が言い返さなかったのが意外だったらしい。よく分からないけど、深く突っ込まない方がよさそうだ。タナカさんと同様にネチネチ言ってきそうだしな。

 

 ダレンの後ろを大人しくついて歩いてる途中、中央格納庫(セントラル)の入口近くを通ったので、「あの……」と控えめに声をかけてみる。

 

「なんだ?」

「〝グルヴェイグ〟を一目見てから出たいんですけど、駄目ですか?」

「駄目に決まってるだろう。こっちは仕事が溜まってるんだ。厄介者はさっさと出ていってくれ」

 

 ダレンは冷たく言い放ち、スタスタと歩を進めた。

俺は少しムッとしつつも、未練がましく中央格納庫(セントラル)の入口を見つめる。

 

 〝グルヴェイグ〟が移送されちゃったら、どうなっちゃうんだろう。もう二度と父さんに会えなくなっちゃうのか? それは絶対に嫌だ! だけど、引き止める良いアイデアなんてこれっぽっちも思い浮かばない! あ〜、どうすりゃいいんだ!?

 

「何かトラブルが起こってくれたらいいのにな……」

 

 ポロッと不謹慎な独り言が口をついて出た。

 

 例えば、そう――父さんが中で大暴れでもしてくれたら、なんて。

 

 ――ガシャアァンッ!!!

 

 俺は両肩が飛び上がる程、驚いてしまった。

 

 中央格納庫《セントラル》の奥から、金属同士が激しく衝突する凄まじい轟音が響いて鼓膜が不愉快に揺れる。続けて緊急事態を知らせる警報が格納庫内に鳴り響く中、「おいっ! 誰か来てくれっ!」という野太い叫びが聞こえてきた。

 

 声が聞こえた瞬間、俺は反射的に走り出していた。

 

「何をしてる!? こっちへ戻れ!」

 

 ダレンの怒号が飛んできたが、無視して格納庫へ飛び込んだ。

 

「大丈夫ですか――ッ!?」

 

 目の前に広がっていたのは、異常な光景だった。

整備用のキャットウォークを挟み、〝グルヴェイグ〟と〝白いヴァルキリー〟が、互いの手を掴み合うようにして激しく押し合っていたのだ。

 

 パワーは〝グルヴェイグ〟の方が圧倒的に強いらしく、〝白いヴァルキリー〟が火花を散らしながら後退している。強烈な負荷に耐えかねた足が格納庫の床をメキメキと踏み砕き、整備チームの人達が工具を片手に〝白いヴァルキリー〟の足元で蟻のように逃げ惑っているのが見える。

 

『ソフィアちゃんは!? ソフィアちゃんはどこにいるの!?』

『だから、取調中だって何度も説明しただろうが! これ以上、暴れるな! 今はコクピットに誰も乗ってないんだから、無人機らしく大人しくしてろ!』

 

 〝白いヴァルキリー〟の外部スピーカーから幼さの残る女の子の声がした。しかし、俺以外の人間は何を言っているのか分からないらしく、「おい、どうやって動いてるんだ!?」とか「誰が回路を弄ったんだ!?」と動揺が広がっている。

 

 しかし、ヴァルキリー達は人間の動揺なんかそっちのけで、激しい口論を繰り広げていた。

 

『もう五日も離れ離れなんだよ!? 取調べって何を取調べするのさ!?』

『素性が分からない奴を野放しにするわけにはいかないだろ!? これ以上暴れたら、お前のパイロットの立場がなくなっちまうぞ!』

『嘘だ! このままソフィアちゃんと僕を離れ離れにするつもりだろっ!? そういうことなら、僕も黙ってないからな!!』

 

 〝白いヴァルキリー〟の興奮が最高潮に達した瞬間、関節から凄まじい勢いで白い蒸気が噴き出した。爆発的な熱風が来ると直感し、俺は咄嗟に腕で顔を覆って身構える。

 

 だが、感じたのは全く逆のものだった。

 

「冷た……ゲホッ、ゲホッ!!」

 

 肌を刺すような冷気を吸い込み、盛大に咽せてしまった。

たった一口吸い込んだだけで、肺の腑が内側から凍りつくような激痛が走り、激しく咽ぶ。

 

 咳が少し落ち着いた頃に顔を上げてみると、広大な格納庫が一瞬にして極寒の冷凍庫へと変貌していた。〝グルヴェイグ〟の赤い装甲が白い霜で染まり、近くに並んでいた軍用ヴァルキリーまでもが急速に白一色に覆われていっている。

 

「父さんっ!」

 

 俺が駆け寄ろうとした瞬間、『来るな!』と鋭い怒号が降ってきた。

 

『イグニス、まずは近くにいる人間を安全な場所に退避させろ! 後、この白い蒸気は吸い込むな! 触れた瞬間、凍りつくぞ!』

「わ、わかった!」

 

 側にいた整備士さん達も何が起きているのか分からず、ガタガタと身を寄せ合って震えていた。一人は意識がないらしく、「この冷気は吸わないで下さい!」と意識がある整備士達に声をかけ、一緒に運ぶのを手伝う。

 

「ダレンさん、この人達をお願いします!」

 

 現役の軍人であるはずのダレンが呆然と立ち尽くす中、俺はそれだけ叫ぶと、踵を返して猛ダッシュで引き返した。

 

 だが、戻った俺の目に飛び込んできたのは、最悪の戦況だった。

 

 先程まで圧倒的なパワーで優勢に立っていたはずの〝グルヴェイグ〟が、今度は〝白いヴァルキリー〟に押し負けそうになっていたのだ。

 

『あっれー? さっきの威勢はどこにいっちゃったのかなー? おじさん、実はとっても弱弱(よわよわ)!? 天才美少女アメリアちゃんの方が強強(つよつよ)な感じ!?』

 

 〝白いヴァルキリー〟が煽り倒しながら、キャットウォークを豪快に蹴り飛ばし、〝グルヴェイグ〟を力任せに壁へ押し付けた。その影響でいくつかの主要な配線が断裂し、バチチッ! と火花が散っている。誰がどう見てもマズイ状況だった。

 

『ほらほら、早くしないと船に被害が出ちゃうよ〜? おじさん、この船を救った英雄なんでしょ? 早く救ってみせなよ!?』

『うるせぇぞ、クソガキッ! あんまり調子に乗るなっ!』

 

 〝グルヴェイグ〟の強烈な蹴りが、〝白いヴァルキリー〟の腹部に命中した。

 

『うぎゃっ!?』

 

 女の子の口から滅多に聞かないような呻き声を上げながら、〝白いヴァルキリー〟は反対側の壁に深くめり込む。関節部分に通っている水色のエネルギーラインが微かに明滅している事から、完全に沈黙したわけではないようだ。

 

「父さん、大丈夫か!?」

 

 壊れたキャットウォークの上で声を張り上げると、父さんは『あぁ、なんとかな』と返事をし、〝グルヴェイグ〟の手の平に乗るように促してきた。

 

『悪い、イグニス。もうすぐでエネルギーが切れちまうみたいだ。〝グルヴェイグ〟の操縦桿を握ってくれると助かる』

「わかった!」

 

 俺は助走をつけて〝グルヴェイグ〟の手の平に飛び移った。コクピットに入ろうとハッチの外部開閉ボタンを探していると、頭上から父さんの忌々しそうな舌打ちが聞こえてきた。

 

『あのクソガキ、この狭い格納庫内で〝ナンバーズ〟の能力を使ってきやがった』

「〝ナンバーズ〟の能力? それって、さっきの蒸気の事?」

『そうだ。〝ナンバーズ〟と呼ばれる機体には特別な能力があってな。あの白いヴァルキリーは冷気を操れるんだと思う。現に格納庫がこのザマだしな』

「もしかして、〝グルヴェイグ〟もそういう能力が使えたりするのか!?」

『使えるぞ。イグニスの場合、もっと場数を踏んでいかないと駄目だけどな』

 

 開閉ボタンを見つけた俺は、かじかむ手でボタンの霜を力任せに拭い、ボタンを押してコクピットに滑り込んだ。

 

 操縦桿を握った瞬間、両腕の電子回路が指先から腕にかけて赤に染まっていく。それを見て、改めてタナカさんやマリウス先生が言っていた言葉の意味が分かったような気がした。

 

『サンキュー、イグニス! さぁて、今からあの生意気なクソガキをどうしてやろうか――うん?』

「どうしたんだ、父さん?」

 

 〝グルヴェイグ〟のモニターの一部がズームアップされる。

 

 壊れたキャットウォークの上を走り、瓦礫に飛び移って〝白いヴァルキリー〟の元へ向かう者がいた。桃色の髪を頭の高い位置に結い上げた華奢な体型の少女――〝白いヴァルキリー〟のパイロットだった。

 

『ハァ……。なんか面倒な事になりそうだぞ』

 

 父さんの溜息を聞きつつ、俺は緊張の面持ちになる。

モニターの向こうからこちらを強く睨みつけてくる少女を黙って見つめることしかできなかった。

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