ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】   作:尾松成也

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第十八話 適合した者の能力

 ソフィアが動かなくなって暫く経った後、マリウス先生を筆頭に数名の軍人がコクピットの中へ入ってきた。今からドラゴン狩りでもするのかっていうくらいに大袈裟な装備を身に付けた軍人達が、俺達に向かって銃口を突き付けてきた。

 

「イグニス君、怪我はない?」

 

 マリウス先生に声をかけられたが、俺は膝を抱えたまま返事をしなかった。さっき目の前で人が死んだのだ。ショックで答える気になれず、真っ白な顔で動かなくなったソフィアを視界の端で見続けていた。

 

「おい、さっさと返事をしないか!」

「よせ、あまり刺激するな。あの子はもう人間じゃないんだ。我々に攻撃してくる可能性もある」

 

 今の軍人達の会話を聞いて、ピクッと瞼が痙攣した。

 

(何言ってるんだ、コイツら? 俺は武器も持たない丸腰の人間だぞ? そもそも重装備で警戒する必要なんてないだろ。もしかして、ソフィアを撃ったのはコイツ等なのか……?)

 

 そう思い込んだ瞬間、怒りの感情が胸の内で渦巻くのを感じた。俺の感情に呼応するように腕が熱くなり、操縦桿を握った時と同じ赤い痣が浮かび上がってくる。

 

 コクピット内の温度が急上昇したのを感じ、マリウス先生以外の軍人達がジリジリと後退し始めた。

 

「イグニス君、少し落ち着こう」

「何言ってるんだよ、マリウス先生。こんな状態で落ち着けるわけないじゃん」

「皆、怖がってる。あんまり殺気立たないでほしいな」

 

 周りにいる軍人達とは対照的にマリウス先生だけは俺に近付いてきた。同じ目線になるように片膝を着き、俺の前髪を掻き分けるように撫でてきた。

 

 この撫で方は俺が悩んだり拗ねてしまった時と同じ撫で方だった。子供扱いするなという意味も含めて、俺はマリウス先生を睨み付ける。

 

「誰がソフィアを撃ったんだよ?」

「僕だよ」

「……は? マリウス、先生が……撃った?」

 

 それを聞いて頬が酷く引き攣るのを感じた。

 

 どうして?

 何の為に?

 そもそも、殺す必要があったのか? 

 

 疑問ばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡る。訳が分からなくなって、俺の頭を撫でていた手を乱暴に払ってしまった。

 

「この死体、邪魔だから早く片付けてくれる?」

 

 マリウス先生が自分の手を見ながら指示を出すと、背後に控えていた軍人達は慣れた手付きでソフィアを死体袋へ収容し始めた。

 

「なんでだよ……」

 

 爪が手の平に食い込み、血が滲んだ。

ソフィアの死体を邪魔扱いした事がトリガーになり、俺は押さえ込んでいた感情が一気に爆発してしまった。マリウス先生を睨み付け、胸の内を渦巻く黒い感情をぶつけ始めた。

 

「なんで殺す必要があったんだよ!? 俺もソフィアと話してみたけど、そこまで悪い子じゃなかったし、話が通じる相手だったじゃないか!!」

 

 先程よりも腕が熱くなり、コクピットの温度が急上昇し始めた。普段、厳しい訓練に耐えているであろう軍人の一人が、慌ててフルフェイスヘルメットを脱ごうとしている。

 

「……どうして殺したか、だって?」

 

 マリウス先生の声音を聞いた瞬間、自然と呼吸が浅くなった。プレッシャーを全身で感じているのか、身体中から汗が噴き出てくる。

 

(なんだよ、この不安感は……)

 

 緊張の面持ちで身構えていると、マリウス先生は柔らかく微笑みながら、俺の両頬に手を添えてきた。

 

 その瞬間、俺はハッと心臓が跳ねる。これは昔、二人で決めた【後で腹を割って話そう】という秘密の合図だ。先生の真意がここにはないことを察し、俺は突き上げかける怒りを強引に飲み込む。

 

「僕はね、もう二度と大切な人を失いたくないんだ。その為なら僕はなんだってやる。例え、君に嫌われてしまっても必ずやり遂げてみせる。だって、君は僕の大切な家族だから」

 

 俺の目を真っ直ぐに見て笑ったマリウス先生は立ち上がって、死体袋に詰められたソフィアを見下ろした。死体袋のファスナーが上がり切ったのを見て、「後はタナカさんに指示を仰いで欲しい」と指示を出す。

 

 軍人達は各々頷き、死体袋を担いでそそくさとコクピットから出て行ってしまった。二人きりになった途端、重苦しい空気が立ち込める。死体袋が消えたあとの床を見つめながら、俺はまだ浅い呼吸を繰り返していた。

 

 しかし、この重圧をあっさりと破ったのはマリウス先生だった。

 

「いやー、まさか格納庫で暴れるとは思わなかったなぁ。立入禁止区域に入った時も思ったけど、君も随分とやんちゃに育ったねぇ。そういうところ、シンラ君にそっくりだよ」

 

 いつもの調子に戻ったのを見て、「ったく、生きた心地しねぇよ……」と呆れたように項垂れてしまったのだった。

 

「マリウス先生。俺、結構本気で怒ってるんだけど? ちゃんと納得のいく説明をしてほしい」

 

 ソフィアを救えなかった事への罪悪感とマリウス先生への割り切れない疑問が胸の奥でチリチリと燻っていた。

 

 マリウス先生が手を差し出してくれたので、不機嫌そうにその手を掴んで引き上げてもらう。

 

「結論から言っちゃうけど、あの子は死んでないよ」

「は……」

 

 俺は困惑した。冷たくなったソフィアの肌。瞬く間に広がった血溜まり。あれは現実じゃなかったのだろうか? 

 

 ――いや、違う。これは現実だ。現に俺の手や服はソフィアの血で染まり、一部は既に乾き始めてカピカピになり始めている。

 

「もう訳わかんねぇ……。あれは致命傷だったはずなのに……。なのに生きてるって言われてもさぁ……」

 

 俺がブツブツと独り言を言っていると、「先ず、僕達〝適合者〟の事から説明しようか」とマリウス先生から提案があった。

 

「僕達は〝ナンバーズ〟の操縦桿を握った瞬間、特殊な電磁波を全身に受けて細胞が作り替えられ始めるんだ。メリットは僕達の身体を強化したり、傷を早く治したりしてくれるところにあるんだよね。例えば、こんな事をしても平気なんだ」

 

 マリウス先生は携帯していた銃を自分のこめかみに当てた。そして、躊躇いなく引き金を引く。俺が止める間もなく、パンッ! と乾いた音が響いて、マリウス先生は笑顔のまま膝から崩れ落ちた。

 

「ハッ……ハッ……」

 

 俺は腰が抜けそうになるのを必死で耐えつつ、頭から血を流して動かないマリウス先生を見つめる。

 

 先程の言葉を信じるなら、頭を撃ち抜かれても生きているはずなのだが、指先一つ動く気配がない。もしかして、何かの手違いで死んでしまったのだろうか?

 

「な、なぁ……。そろそろ起きてくれよ――ッッ!!??」

 

 俺がマリウス先生の身体を揺さぶろうとした瞬間、手首をガッチリと掴まれてしまった。「驚いた?」と戯けて笑うマリウス先生を見て、俺は猛烈に腹が立ってしまい、渾身の力を込めて二の腕にパンチを喰らわせてしまう。

 

「冗談でも止めてくれよっ!!」

「アハハ、ごめんごめん! 実演する方が早いかと思ってさ! でも、ちゃんと生き返ったでしょ?」

 

 マリウス先生は使った銃が本物かどうか調べさせてくれた。結果、本物だった。弾もちゃんと入っているし、ナンバリングもされている。〝グルヴェイグ〟のコクピットにあった銃よりは軽かったけれど、銃特有の重みも感じられた。

 

「これが僕達が恐れられる理由の一つだよ」

「……って事はさ、俺も死なない身体になっちまったのか?」

 

 なんだか自分が本当の化物になってきたみたいで怖くなってきた。俺は赤色に染まった自分の両手を見つめる。すると、マリウス先生は血に塗れた俺の手を躊躇わず握り、首を左右に振る。

 

「いいや、僕達も死ぬ時は死ぬよ。ただ、人よりも遥かに強くて頑丈になっただけ。でも、これだけは忘れないでほしい。僕達は人とは違う身体になったかもしれないけど、心だけは他の人と同じだよ」

 

 マリウス先生が俺の手を力強く握ってきた。

その温もりを感じながら、タナカ大尉や他の軍人達の視線が冷たい理由を改めて理解したのだった。

 

 彼らは俺を嫌っていたわけじゃない。ただ恐れていた。頭を撃ち抜かれても死なない人の形をした別の生き物に。そして、人間と同じ心を持ちながら、人間とは違う身体を持つ存在の仲間入りをした俺の事も。

 

「俺、これからどうなっちまうのかな……」

 

 ポツリと呟いた瞬間、自分の腕に刻まれた電子回路の痣が急に気味悪く感じられた。

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