ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】   作:尾松成也

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episode3 A Turbulent School Life
第二十二話 【悲報】俺、体力測定の記録を塗り替えられる


「いいか、貴様等! ソフィア・ロズヴァイセ君は、このS1Aクラス史上初の女子パイロット候補生だ! そんな彼女はパイロット科に入る為の難しい実技テストを満点で通過した秀才でもある! 鼻の下を伸ばしたままだと、足元を掬われるぞ!」

「先生! 俺、妹がいるので女の子には免疫があります!」

 

 リックの幼稚な反論に「貴様の家族構成に興味ないわっ!」と吐き捨てる。クラスメイト達は笑っていたが、ソフィアは緊張しているのか、少し困ったような顔になっていた。

 

「時間がないから手短に伝えるぞ! 今日は貴様の運動量を測る為の体力測定がある! 運動着に着替えた後、演習場へ集合だ! 自己紹介は各自で行うように! では、解散!」

 

 そう言って、先生達は教室から出て行ってしまった。突然、一人にされてしまったソフィアは面食らってしまったのか、パチパチと瞬きをしたまま棒立ちになっている。

 

 しかし、好奇心の塊であるS1Aクラスの生徒達がソフィアを放っておくわけがなかった。あっという間にソフィアを取り囲むように人集りができてしまう。

 

「早速、自己紹介しよーぜ! 俺はリック・オルブライトっていうんだ! 気軽にリックって呼んでくれよな!」

「俺の名前はゼン・ハヤテ! 最近、推しの追っかけをやるのが趣味なんだ!」

「ガイア・ローレンツだ。君は優秀なパイロットと聞いた。また授業かどこかで手合わせを願いたい」

 

 ソフィアは戸惑いながらも、一人一人に丁寧に対応しているようだった。

 

 俺が仲介に入らなくても大丈夫そうだと胸を撫で下ろした途端、「うぇっ!?」とハヤテが大きな声で驚きを露わにする。

 

「ソフィアちゃん、大人気アイドルユニット『Re:VEIL(リヴェイル)』を知らねぇの!?」

「え、えぇ……。私、テレビとかネットを全然見た事がなくて。その……アイドルって何かしら?」

 

 それを聞いたクラスメイト達が一気に騒めき始めた。

 

「マジかよ……。『Re:VEIL(リヴェイル)』を知らないなんて……」

「きっと親がめちゃくちゃ厳しかったんだろうな。テレビやネットを禁止させられて、勉強漬けの毎日を送ってたんだろうよ」

「おいおいおいっ! そんな灰色の毎日を送ってたのかよ、ソフィアちゃん!?」

 

 一連の会話を聞いていた俺は自分にツッコミを入れるかのように、額をペチッ! と強めに叩く。

 

(油断してた……。地球出身のソフィアに時事ネタと流行ネタは駄目なやつ!)

 

 ソフィアは申し訳なさそうにハヤテから目を逸らした後、少し離れた所にいた俺と目が合った。

 

 今までのソフィアからは考えられない程の焦った表情で、『ボサッとしてないで、早く助けなさいよ!』と目で訴えかけてきた。

 

 今の目付きで理解したが、どうやらソフィアは猫を被っているらしい。スン……と我に返った俺は鞄を手に持ち、「おーい、みんなー」と棒読みでクラスメイトに声をかけた。

 

「とりあえず、自己紹介はこれくらいにして着替えに行かねぇ? クロード先生、時間には特に細かいからさ。『Re:VEIL(リヴェイル)』の布教は後にしようぜ」

 

 クラスメイト達が顔を見合わせ、「それもそうだな」と頷き合う。質問責めから解放されたソフィアは唇を尖らせながら、キッと睨んできた。

 

(やっぱり、これから大変なことになりそうだ……)

 

 俺は小さく溜息を吐き、これからの苦労を察して頭を抱えてしまった。

 

◇◇◇

 

 着替えを終えて始まった体力測定でも、ソフィアは注目の的だった。

 

 今は持久走の真っ最中。次々とクラスメイトが脱落していく中、俺と二人きりになった途端、ソフィアが、ここぞとばかりに不満をぶつけてきたのだった。

 

「イグニス君、私のお見舞いにも来ないで一体何をしていたのよ!?」

「だーかーらぁー! 司令官から直々に外出禁止令が出たって説明しただろ!? つーか、今は話しかけてくんな!」

「そんな言い訳が通用すると思ってるのかしら!? 罰として私の生活用品を一緒に買いに行く名誉を与えてあげるわ!」

「絶対に行くもんか! つーか、なんでそんなに上から目線なんだよっ!」

 

 ギャアギャア言い合いながら、俺とソフィアは演習場の外周(八百メートル)に設けられたランニングコースを走っていた。他のクラスメイト達は既に脱落し、全員が息を切らして訓練フィールドでへばっている。

 

(あー、持久力だけなら誰にも負けない自信があるってのに! ソフィアの奴、まだまだ余裕っぽいな……。クソッ、負けてられるかっ!)

 

 負けず嫌いが発動した俺は最終コーナーから全力で走り始めた。すると、ソフィアも追従するように俺のすぐ後ろを駆けてくる。

 

 追い抜かして、抜かれてを繰り返し、二人同時にゴールした。時間を計っていたクロード先生が終了の合図をする。

 

「貴様等、体力測定は始まったばかりなんだぞ。測定とはいえ、体力を温存する事も考えて行動するように。これは仕事をするにあたって必要な判断だ」

 

 息を切らしている俺達に説教をした後、クロード先生は訓練フィールドに向かってスタスタと歩いていった。どうやら、次は砲丸投げに入るらしい。

 

「ハァッ……ハァッ……。持久走で俺について来れる奴は初めてだぜ……」

「あ、当たり前でしょ……。私は負けるわけにはいかないんだから——ゴホッ!」

 

 ソフィアは息を切らしつつも、絶対に弱みを見せないと言わんばかりに強気な姿勢を崩さなかった。

 

 持久走は同着となったが、次の砲丸投げは負けられない! そう思った俺は思いっきり砲丸を投げ、男子生徒の最高記録を塗り替えた。それを見たクラスメイト達が拍手をする。

 

「どうだ、ソフィア! 凄いだろ!?」

 

 ドヤ顔で笑うと、ソフィアは不敵に微笑みながら砲丸を手に掴む。

 

 感触と重みを確かめた後、サークル内に立ち、軸足で踏み込んで全身の力を乗せるように腕を振りかぶった。砲丸は放物線を描き、疑似太陽光に照らされて黒光りしながら、俺の記録を遙か後方に置き去りにして、訓練フィールドの地面へと突き刺さった。

 

「どう、イグニス君? これが私の実力よ」

 

 俺が塗り替えたばかりの記録を、更に数メートル上回る最高記録。ソフィアの勝ち誇る顔を見た俺は、あり得ない……と言わんばかりに暫く開いた口が塞がらなかった。

 

「す……すっげぇぇぇぇっ!!」

「普通にヤバくね!? 本当に同じ人間かよ!?」

「どんな筋トレしてたら、あんなに遠くに飛ばせるんだ!?」

 

 クラスメイト達は目が点になった後、大いに盛り上がっていた。いつも冷静なクロード先生ですら目を見開いていたが、すぐにいつもの厳しい表情へと戻る。

 

「フフッ! なんだかとっても調子良いわ!」

 

 身体を自由に動かせる事が余程嬉しいのか、擬似太陽に向かって手を伸ばし、ソフィアは満足そうに笑っていた。

 

 その日から、一学年に規格外の転校生がやってきたという噂で持ち切りとなり、あっという間に皆の注目を集める存在になった。

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