ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】   作:尾松成也

30 / 30
第二十六話 二人の共通点

「あ、そうだ。言い忘れてた事があった」

 

 ピザパーティの後、中央格納庫へ向かっている道中、マリウス先生は急に立ち止まり、こちらを振り返った。

 

「僕達は普通の人ではなくなったからね。これからは力のコントロールの仕方を覚えなきゃだめだよ」

「力のコントロール?」

 

 俺が聞き返すと、マリウス先生は鞄から未開封のスチール缶を手に持ち、いとも簡単に目の前で握り潰した。

 

 それを見た俺とソフィアは驚いて固まってしまう。

 

「普通の人間はスチール缶なんて凹ませるくらいがやっとだけど、僕達〝適合者〟が軽く握っただけで、こうなっちゃうから。くれぐれも授業中で力を入れすぎないように」

 

 空き缶をゴミ箱へ捨て、ソーダ水が滴り落ちた手を振りながら、にっこりと笑う。

 

 俺とソフィアは「……はい」と頷くしかできなかった。

 

「君達はもう普通の身体じゃない。特にイグニス君、上級生に絡まれても殴り飛ばしちゃ駄目だからね」

「…………はい」

 

 もう心当たりがありすぎて、マリウス先生の顔が見れなくなった。

 

◇◇◇

 

 中央格納庫に入った後、マリウス先生はキャットウォーク上から整備士達に指示を出していた金髪に白髪が混じった男性に向かって声をかけた。

 

「ジャックさん、少しお時間よろしいですか?」

「おう、マリウスじゃねぇか! ん……もしかして、後ろにいるそいつらが例のガキ共か?」

「えぇ。シンラ・イグニス学生とソフィア・ロズヴァイセ学生です」

 

 マリウス先生が紹介してくれた後、俺は両拳を強く握り締め、深々と頭を下げる。ソフィアも俺に倣って頭を軽く下げた。

 

「迷惑をかけてすいませんでしたっ!!」

「す、すいませんでした……」

 

 ジャック・ホルツマンは俺達を見下ろしながら、無精髭が生えた所をボリボリと掻き始めた。ハァァ……と長い溜息を吐いた後、「顔を上げろ」と声をかけられる。

 

(この人が父さんとマリウス先生の機体を直々にメンテナンスしてくれてる人か……)

 

 マリウス先生の話によると、ジャックの年齢は五十代後半らしいが、実年齢よりも若々しく見えた。整備士らしいオイルが付着した作業着に汗ばんだ肌を見るに、作業を一旦中断して来てくれたようだ。

 

 そんなジャックは険しい顔で腕を組み、俺達を見下ろしているが、その視線は主にソフィアに向けられているようだった。

 

「シンラ・イグニス、お前には礼を言わなきゃならねぇ。部下を救ってくれて感謝するぜ」

 

 どうやら、ヴァルキリーが格納庫で暴れた時に声をかけた整備士達の事を言っているらしい。職人らしい、ぶっきらぼうな言い方だったが、ジャックなりの感謝の表明のようだった。

 

「いえ、俺は何も——ッ!?」

 

 ジャックは大きく息を吸った直後、大きな拳を振り上げた。ゴツン、と鈍い音が格納庫内に響く。なんと、隣にいたソフィアに思いっきり拳骨を落としたのだ。

 

(うわっ、痛そう……)

 

 よく見てみると、俺よりも何倍も大きな手だった。あんなのが脳天に落とされたら、痛みで悶絶するに決まってる。

 

「っ……」

 

 しかし、ソフィアは悲鳴一つ発する事なく、拳を握りしめたまま黙り込んでいた。

 

「これで整備チームからのお咎めはなしだ。お前がここに来た経緯はマリウスと司令官から聞いた。だけどな、俺の部下達に危害が及んだってなると話は別だ。女だからって容赦はしないぜ」

「…………はい、すみませんでした」

 

 謝罪の言葉を口にしながら、ソフィアは顔を上げた。

 

 痛がる素振りも見せず、涙目にすらなっていないのを見た俺は心の内で、すげぇな、コイツ……と感心していたのだった。

 

「お前も大変だな、マリウス。こんなやんちゃなガキ共の保護者になるだなんてよ」

「やんちゃなのはイグニス君で慣れてますから、問題児が一人くらい増えても問題ないですよ。ところで、僕達のヴァルキリーは今どこに?」

 

 ジャックは奥の格納庫に視線を向け、「その二機なら、お前さんのヴァルキリーと一緒の区画にいるぜ」と言った直後、ソフィアは急に走り出していった。

 

「おい、コラッ! 人の話は最後まで聞け! その二機はまだ整備中だから、遠目から見る事しかできねぇぞ!」

 

 俺はジャックさんの静止を無視して走るソフィアの後を追いかけた。

 

「ソフィアッ、ちょっと待てって!」

 

 ソフィアはそれどころではないらしく、キャットウォークを真っ直ぐに走っていく。暫くすると、いろんな線に繋がれて整備されている〝グルヴェイグ〟と〝白いヴァルキリー〟が見えてきた。

 

 それを見たソフィアが「お姉ちゃん!」と悲鳴に似た声をあげた。

 

 やっと追いついた俺が息を切らしながら、ソフィアに声をかけようとする。しかし、いつも強気なソフィアが辛そうな横顔になっていたので、一瞬、声を掛けても良いのか迷ってしまった。

 

「……イグニス君には分からないでしょうね。自分の身近な存在が側にいないだなんて」

「いや、俺も辛いよ」

 

 自分でも、すんなりと弱音を口にした事に驚きつつ、俺は気まずそうに頭を掻いた。〝白いヴァルキリー〟の隣で整備中の〝グルヴェイグ〟に視線を向けながら、「五歳くらいの時かな……」と話を切り出す。

 

「父さんが行方不明になったんだ。父さんは仕事に行く時は必ず、『絶対にお前の元に戻ってくる』って約束してくれてたんだけど、十年後に〝グルヴェイグ〟の姿になって帰ってきてくれた」

 

 俺の発言にソフィアは驚いたように目を丸くしたのだった。

 

「どんな姿であれ、父さんが帰って来てくれて嬉しかった。けど、やっぱりさ。生身で側にいてくれる方がいいよな」

「そうね。寝る前に今日あった事とか、いろんな話をしながら寝たいもの」

 

 ソフィアの発言に俺は深く頷き、「あっ」と声を漏らす。

 

「今思ったんだけどさ! 俺達って意外と共通点多いと思わないか!?」

「……例えば?」

「この状況もそうじゃん! 家族がヴァルキリーになっちまってるし、親がいないだろ? 極め付けはヴァルキリーの操縦が上手いことだ!」

 

 得意気に発言をした俺を見て、ソフィアは「ふぅん」と素っ気なく返事をしたが、頬が少しだけ桃色に染まっているのを見逃さなかった。

 

◇◇◇

 

 暫く、俺達はキャットウォークの手すりにもたれ掛かっていた。整備中のヴァルキリーを見つめながら、「ソフィアはさ……」と話を切り出す。

 

「地球に巣食う人喰い機械を駆逐したいって願いがあるって言ってたけど、俺は父さんの身体を奪った奴を見つけ出したいんだよね」

「お父さんの身体を奪った……? それって、ヴァルキリーが意図的に人の身体を奪ったって事?」

 

 俺の事情を知ったソフィアが驚いたように目を見開いた。

 

「厳密に言うと、〝グルヴェイグ〟には元々、機械生命体が宿ってたみたいなんだよね。まだ分かんねぇ事がたくさんあるけど、俺は父さんの身体を奪った奴を見つけ出したいんだ」

 

 俺の目標を聞いたソフィアは〝白いヴァルキリー〟に視線を向け、「もしかしたら……」と心ここに在らずの様子で胸の内を吐露し始めた。

 

「お姉ちゃんも同じような状況だったかもしれない」

「えっ、そうなのか!?」

「聞いてみなきゃ分からないけど、私が大怪我をして目覚めた時、お姉ちゃんはヴァルキリーの姿に変わってたの。もしかしたら、何かヒントをもらえるかもしれない」

 

 その言葉に俺は期待で胸が膨らみ始めるが、今度はソフィアの方が冷静だった。

 

「でも……あの状況じゃ、コクピットには当分入れそうにないわね」

 

 整備士達はヴァルキリーの表面の装甲を剥がしてメンテナンスを行っていた。コクピットの中に整備士が出入りしているのが見える。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかないので、俺も「そうだな……」と言うしかなかった。

 

「せめて、父さん達の意識をヴァルキリー以外に移せたらいいんだけど。そしたら、一緒に生活できると思わないか?」

「なかなか良いアイデアだと思うけど、ヴァルキリーの複雑なシステムを別の機械に接続するとなると、私達だけで解決できる問題じゃなさそうよ」

 

 二人で唸りながら考えてみたが、現時点では良いアイデアは思い付かなかった。

 

「じゃあ、メカニックに詳しい後輩がいるからさ! そいつに聞いてみようぜ! 何か分かるかもしれねぇ!」

 

 俺の提案にソフィアは頷き、家に帰ってからもアイデアを出し合おうという事になった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

「あるよ」おじさんになりたくて(作者:おっとり塩茶漬け)(オリジナル現代/日常)

「いやいや、まさかそんなのあるわけ」▼「だよねぇ」▼「……あるよ」▼「「え」」▼そんなやりとりがしたい。▼そんな願いを抱えた男が転生して、カフェを開くことにした。


総合評価:9131/評価:8.5/連載:3話/更新日時:2026年04月29日(水) 23:05 小説情報

悪役令嬢の腰巾着に転生した俺、「流石はお嬢様!」と煽てながら全力で生き残る(作者:延暦寺)(オリジナルファンタジー/コメディ)

現代日本、ダンジョン攻略が国力を左右する世界。▼九条財閥の従者の家に生まれた俺は、▼幼い頃の顔合わせの最中、ここが前世でやり込んだRPGの世界であることを思い出す。▼目の前にいるのは、金髪縦ロールを揺らし高笑いする、仕えるべき主――悪役令嬢・九条葵。▼原作の彼女は、突如現れた原作主人公に負け、最後には魔人に堕ちて討伐される、哀れな噛ませ犬だ。▼当然、その横に…


総合評価:8619/評価:7.4/完結:25話/更新日時:2026年06月06日(土) 12:28 小説情報

TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。(作者:パンデュ郞)(オリジナルファンタジー/ノンジャンル)

やあ、おじさんは村娘に転生したよ。▼どうやら村長の一人娘みたいだから、将来子供を産んで村を存続させるのが役割なんだ。▼最初は受け入れがたかったけれど、まあ人生って諦めと妥協の産物だよねってことで受け入れたよ。▼せめて結婚相手は仲良い相手がいいなぁ、と思って幼馴染と親しくしようとしたけれど、あんまりうまくいかなくって。▼その子は村を出ちゃったんだ。▼しょうがな…


総合評価:12363/評価:8.01/連載:38話/更新日時:2026年06月25日(木) 06:03 小説情報

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:異星人アリエン)(オリジナル現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:12753/評価:8.04/連載:40話/更新日時:2026年07月28日(火) 12:02 小説情報

転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします(作者:メスシリンダーガキ)(オリジナルファンタジー/コメディ)

俺は平凡なサラリーマン、ある日なんか異世界に転生して、なぜか女悪魔になってしまっていた。▼だから、せっかくなのでロールプレイを楽しみます。▼なんか天秤の悪魔って呼ばれるようになりました。


総合評価:17967/評価:8.7/連載:31話/更新日時:2026年07月28日(火) 18:19 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>