ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】 作:尾松成也
「イグニス君。この生徒会ってどういう意味?」
次の日、学校で組まれているカリキュラムを済ませた後、俺とソフィアはメカニック科に所属している後輩に会う為に生徒会に向かっていた。
ソフィアは学校に通った事がないらしく、〝ママ〟と呼んでいた人物から勉強を教わっていたらしい。だから、見るもの全てが新鮮に見える様子だった。
「簡単にいえば、学校で行う行事や式典の予算を決めたり、規則違反をした生徒達を先生の代わりに指導したりしてるんだ。後は生徒同士の決闘も取り仕切ってるらしいぜ」
「決闘? もしかして、何かを賭けて戦ってたりしてるの?」
「そうだな。生徒会長様曰く、昔はヴァルキリーを強化する為に行われてたらしいけど、俺達は喧嘩をふっかけられた時に決闘を使ってるな——あだっ!?」
いきなり背後から頭を軽く小突かれた。勢いよく振り返ってみると、少し呆れた表情をしているヘリオスの姿があった。
「決闘システムはこの学校の伝統だって説明したつもりだったんだが、そういう認識だったとはな。ま、文字通り缶詰状態になってたから、記憶から抜け落ちてても仕方ないか」
ヘリオスは少し嫌味っぽく笑う。どうやら、俺が長期休暇中に謹慎処分を受けていた事を知っているようだ。
「で? その隣にいるのが噂の転校生か?」
「あぁ、そうだよ。名前は——」
「ソフィア・ロズヴァイセさんだろ? 父から話は聞いてる。俺の名前はヘリオス・シュヴェルトライテ。イグニスよりも一つ上の学年で、第二学年だが生徒会長をやらせてもらってる。学校で何かあったら、いつでも頼ってくれ」
ヘリオスは手を差し出すと、ソフィアは「あぁ、司令官の息子さんね」と手を握り返したのだった。
「ありがとう、ヘリオスさん。貴方のお父様にはお世話になってます。気軽にソフィアって呼んで下さい」
「そうさせてもらうよ。俺の事も呼び捨てでいいし、敬語じゃなくていいから。これからよろしく頼む」
「わかったわ、ヘリオス。ところで、この学校はいろんな事を学べるのね。驚いたのは学生なのにパイロット科の生徒の専門知識が——」
俺を差し置いて二人だけで話が進んでいく。初対面同士とは思えない親し気な会話に、何故か俺は胸がザワザワしてしまった。
(なんなんだよ、この落ち着きのある会話は!? 俺なんか初対面の時、腹に蹴りを入れられたんだぞ!? ソフィアの奴、ヘリオスの前では猫被りやがって!)
無性に腹が立った俺は、「あのさ!」と二人の会話に割って入った。
「俺、ロイドに用があって会いにきたんだけど!」
「ロイド? 彼なら生徒会室にいるぞ」
「もう中等部の予算会議は終わってるのか?」
「あぁ、中等部は高等部に比べて予算が少ないからな。これから入れ替わりで高等部の予算会議が始まるところだ」
ヘリオスの言葉を聞いた俺は生徒会室の中へ足を踏み入れた。丁度、帰り支度をしている銀髪童顔の少年、ロイドとバッチリ目が合う。
「よぉ、ロイド! 久しぶりだな!」
「イグニス兄ちゃん!? もしかして、またヴァルキリーを壊したの!?」
その言葉を聞いた俺はズッコケそうになった。
「違う違う、ヴァルキリーは壊してねぇから! 今日は別の用があってロイドに会いに来たんだ!」
ロイドは安心したのか、「そうなんだ!」とあからさまに胸を撫で下ろしていた。
「それで僕に用って?」
「口で説明するのが難しいから、一緒に中央格納庫に来て欲しいんだけど……」
「中央格納庫? もしかして、イグニス兄ちゃんのお父さんが乗ってた噂の英雄機が見れるの!?」
ロイドの表情がパッと明るくなった。俺は誇らしくなって「あぁ、そうだ!」と即答する。
「その件で相談したい事があってさ。この後、予定はあるか?」
「あるにはあるけど、マリウス先生に課題を提出してからでもいい? 僕だけ休暇中の課題をまだ出せてなくって……」
ロイドは足元に置いていた機械人形を机の上に置いた。
全長約八十センチメートルほどの機械人形は目が赤く、銀色の毛皮に覆われた狼の姿をしていた。
後ろにいたはずのソフィアとヘリオスもいつの間にか生徒会室に入ってきて、「凄いわね……」と驚きを露わにしていた。
「これ、ロイドが作ったのか?」
「うん! コロニーならともかく、宇宙船で猫や犬を飼うのって、結構ハードル高いでしょ? だから、動物に模した人と喋れるロボットを作ってみようと思って!」
機械人形の電源を入れてみると、『コンニチワ、ロイド。キョウハ、クガツヨッカ、ゲツヨウビ。ガッコウ、イクノ?』と一人で喋り出した。
「学生一人でここまで作り上げるのは大変だったんじゃないか?」
「そうですね。けど、僕の夢はヴァルキリーを自分の手で作りあげることですから。でも、まだ問題もあって……」
キラキラとした目でヘリオスに夢を語るロイドだったが、やがて表情が曇った。機械人形は手足をバタバタさせたまま、いつまで経っても立つ事ができなかったのだ。
「どうしても、一人で立つ事ができないんです。システム的には問題ないと思うんだけど、やっぱりバランスを取れるような姿にした方が良いのかなぁ……」
機械人形を抱き上げたロイドは悩んでいる様子だったが、この時、俺は閃いてしまった。
(この人形に父さんの意識を移せば良いんじゃないか!? そしたら一緒に暮らす事もできるし、機械だから簡単な申請でいい! 全てが上手くいくような気がする!)
機械人形に活路を見出した俺はロイドの手をギュッと握り締めた。
「ロイド、お前は本当に凄い! 天才だ!」
「あ……ありがとう、イグニス兄ちゃ——!?」
俺はロイドの手を引いて、廊下を全速力で駆け抜けていった。
「ちょっ……。は、走るの早っ……!?」
「善は急げって言うだろ!? 早くマリウス先生の所に行こうぜ!」
後ろから「ちょっと、イグニス君!?」とソフィアが機械人形を抱えて走ってきた。更にその後ろから、「イグニスッ! 廊下は走るなって、いつも言ってるだろ!」とヘリオスの大きな声が響き渡った。