ヴァルキリー戦記【戦闘中行方不明になっていた父親が人型戦闘兵器になっていたので、元の姿に戻す為に戦い抜く】   作:尾松成也

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第七話 「グルヴェイグ、起動」

『この子がヒビキさんの子供!? めちゃくちゃ可愛いですね!』

『つーか、父親の遺伝子強すぎじゃね? ヒビキ、お前いつから単性生殖できるようになったんだ――ぐぇっ!!』

 

 突然、ベビーベッドを覗き込む男性の首に向かって手が伸びた。伸びた腕には見覚えのある電子回路のタトゥーが刻まれていた。

 

 見間違えるはずがない。これは父さんの腕だ。

 

 物心ついた頃から父さんの両腕には電子回路みたいなタトゥーが入っている。一人称視点から手が伸びた事から、どうやら俺は父さん視点で映像を見ているらしい。

 

『うるせぇぞ、レオ。てめぇの息子もお前に生き写しだろうが』

『ちょっ、ギブギブ……』

 

 ペチペチと腕を叩いてきたオレンジ色の髪をした男性の名前はレオというらしい。父さんと同じく手の甲に電子回路のタトゥーが入っているのが見える。その隣にいた黒髪童顔の男性(?)にも似たようなタトゥーが首の後ろに入っているのが見えた。

 

 このやり取りのお陰で父さんの視点で見ている事を確信した。

 

 俺、〝グルヴェイグ〟の操縦桿を握ったはずなのに、どうして追体験をしてるんだ? もしかして、これが噂の走馬灯ってやつ? 俺、死にかけてんの? んー、いまいち状況が分かんねぇな。

 

 俺の質問に答える人なんているはずもなく、今度は俺の背後からマリウス先生の声が聞こえてきた。

 

『ねぇ、シンラ君。もう名前は決めたの?』

『あぁ! 名前はイグニスにしようと思う! イグニスは俺に似て男前だからな! きっと、俺みたいな凄腕のヴァルキリー乗りになるぞ!』

 

 そう言って機嫌良さそうに赤ん坊の俺を抱っこする。その背後でレオが『性格が父親似にならない事を祈ってるぜ……』とボソッと呟き、父さんがすかさず蹴りを入れていた。

 

 

 ここで、映像が砂嵐になって別の映像に切り替わった。

 

 今度は〝グルヴェイグ〟のコクピットの中にいた。

どうやら、宇宙を飛んでいるらしい。足の間には幼い頃の俺が指をさしながら、『父さん! ニコが飛んでる!』と笑い、モニターに映った〝ヒルディスビー〟に向かって手を振っている。

 

『どうだ、イグニス。ヴァルキリーは怖くないだろ?』

『うん、すっごく楽しい! 僕も操縦してみたい!』

 

 そう言って、幼い俺が操縦桿に向かって手を伸ばす。すると、父さんがすかさず『駄目だぞー』と幼い俺の手を掴んだ。

 

『えー、なんで!?』

『〝グルヴェイグ〟は俺のヴァルキリーだからな。それに操縦桿を握ったら、俺と同じ腕になっちゃうぞ?』

 

 幼い俺はジッと父さんの腕を見る。どういう原理が分からないが、よく見ると()()()()()()()()()()()()()()にも見えた。

 

『おてて、痛い?』

『おー、めちゃくちゃ痛いぞ』

『どのくらい痛いの?』

『父さんでも気を失うくらい痛い!』

 

 父さんは幼い俺を怖がらせる為か、わざと辛そうな顔をした。

 

()()()()()()()()()死んじゃうかもしれないからな。そしたら、母さんが作ってくれた美味しいご飯が食べられなくなるぞ?』

 

 それを聞いた幼い俺は青褪めた顔で『やだ! 絶対に握らない!』と父さんにしがみついていた。

 

『そうだろ? それに〝グルヴェイグ〟に乗らなくたって、イグニスには天才パイロットの俺がついてるからな。お前が危ない目に遭ってる時は必ず俺が助けに行く。これは男同士の約束だ』

 

 そう言って、父さんは小指を出してきた。

 

 幼い俺は約束の仕方をまだよく分かっていないのだろう。『やくそく!』と言いながら、父さんの小指を包むように握っていたのだった。

 

◇◇◇

 

「うっ……」

 

 俺は目を覚ました。どうやら、コントロールパネルに突っ伏したまま気絶していたようである。

 

「いっ!? なんだよ、この酷い痛みはっ!?」

 

 腕がひどく痛んで動けなかった。指を動かそうとする度に激痛が走り、フゥフゥと呼吸が短くなる。それでも、なんとかしようと俺は短い呼吸を繰り返して、ゆっくりと指を折り曲げていった。

 

 痛みに慣れてきた頃、俺はゆっくりと操縦席にもたれかかった。深呼吸をして呼吸を整える。暫く経っても腕がヒリヒリと痛んだ為、念の為に確認しようとスーツを脱ごうとした。

 

 しかし、ハッチの方からドンッ! と一際大きな音が聞こえて、ハッと我に返った。

 

「そうだ、アイツらが襲って来てたんだった! 早く、何とかしないと……」

 

 俺は操縦桿を握るのを一瞬、躊躇ってしまった。

操縦桿を握ったから激痛に襲われたのだ。もう一度、あの激痛に耐えなきゃいけないかもしれない。そう思うだけで、手が微かに震えてしまう。

 

「俺の馬鹿野郎、こんな時にチキンになるな!! あれくらいの痛み、男だったら耐えてみせろ!!」

 

 半ばヤケクソだった。だが、操縦桿を握った瞬間、俺の中で何かが噛み合うような感覚がした。

 

 例えるなら、身体と機体が電気で循環されているような不思議な感覚。まるで、ヴァルキリーを動かす為の機動キーになった気分だ。その証拠に全天周囲モニターも起動している。

 

「ハハッ! どういう原理で動いてるのか分かんねぇけど、これで〝グルヴェイグ〟を動かせるようになったってわけか!」

 

 これで勝てると、俺はニヤリと口角を上げる。

メインモニターには『No.1 BAEL PILOT:SHINRA HIBIKI』と表示されていた。

 

「父さん。少しだけ〝グルヴェイグ〟を借りるね」

 

 ちょっぴり寂しさを胸に秘めながら、俺は〝グルヴェイグ〟を初めて動かしてみた。ずっと動かしてなかったせいか、関節が固くなっている。まるで、さっきまで痛みで動けなかった俺みたいだ。

 

「へへっ、動くのは十年ぶりだもんな。帰ったらメンテナンスしてやるから、今は俺に力を貸してくれ!」

 

 俺はハッチに群がっていた機械達を撃退する為、ゆっくりと身を起こした。すると、敵の動きが乱れ始める。どうやら、〝グルヴェイグ〟が動くとは微塵にも思っていなかったようだ。

 

「さっきは多勢に無勢で攻めてきやがって! お前ら全員、俺が叩き潰してやるから覚悟しろ!」

 

 敵に向かって勢いよく手を振り払った。

小さな機械達が〝グルヴェイグ〟の手に当たった瞬間、プチッ! と弾ける。その感覚が何故か鮮明に伝わってきて、俺は鳥肌が立ってしまった。

 

「なんだよ、今の感触!? まだ同調率はそんなに高くないはずだろ!?」

 

 恐る恐る〝グルヴェイグ〟の手のひらを見てみると、赤い液体塗れになっていた。ゲンナリしてしまったが、気を取り直して前を向く。今は戦闘中なのだ。そんな事を気にしている場合ではない。

 

「とりあえず、今はマリウス先生と合流しよう!」

 

 俺は〝ヒルディスビー〟と白騎士のヴァルキリーがいる場所へ急いで向かった。

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