【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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チカラとヒトと

結論から言って一夏はギリギリSHRに間に合ったが、廊下を走った事がバレて出席簿をありがたく頂戴していた。

千冬さんの授業が終わり、今は二限目。

山田先生は、遅れている俺たちに合わせ注釈が書かれているページに至るまで説明してくれている。

クラスの皆に申し訳なく思う反面、頑張らねばと気を引き締める。

無論、分からない部分は放課後に補填してもらう。

 

「➖➖と、言うわけでISは本来宇宙空間における活動を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能を補助する役割もあり、操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これは➖➖」

 

勉強をしている時にも思ったが、束さんはこれを十代で完成させたのだ。

世界で束さんしか造ることができないISコア。

これを量産する為に世界各国が血眼になるのも理解できる。

そして恐らく束さんは、ISを作り上げ世界が変わった時にこう思った筈だ…『こんな筈ではなかった』と。

山田先生が説明した通り、本来は遥かなる宇宙を目指して開発された道具だ。

無限軌道を行く者(インフィニット・ストラトス)…開発者は遥かなる星々の輝きに憧れ、無限の星の海への船出の手助けとなるべく作ったのにも関わらず、世界は……。

だが、星の海への旅路か…折角乗れるのだ、目指してみても構わんよな?

等と考えていたら腕を組んで首を傾げていた様だ。

山田先生が心配そうに見つめる。

 

「銀君、分からないところがありましたか?」

「いや、問題ない。ただ、この授業とは関係が無いが…ISを使って宇宙へ上がる事はできるのか?」

 

もし、星の海を目指すのであればこの点は疑問になる。

現状スポーツや、兵器開発に利用されているISは宇宙開発に使われたと言う話を聞いたことがないからだ。

 

「その事なのですが…IS運用協定…通称アラスカ条約において、宇宙開発にISが利用されることは禁止されています」

「不憫な……」

 

深い溜息と共に肩を落とす。

 

「そう肩を落とすな、銀。これから先、ISが宇宙開発に利用されることが許されることもあるかもしれないからな。今は、授業に集中しろ」

 

後ろから千冬さんの叱咤が飛ぶ。

そうだな、未来はまだ分からん…夢を見ても良い年齢だしな。

 

「すまない、山田先生、織斑先生…続きをお願いする」

 

頑張らねばな。

そこで一人の女子が手を上げる。

 

「先生ー、ISが生体機能を補助するって書いてありますけど…体を弄られてそうで怖いんですけど?」

 

まぁ、確かに怖いだろうな。

生体機能とはつまり、呼吸、心拍数、脈拍、発汗、脳内物質と多岐に渡りISが状況に合わせ最適な状態にコントロールするのだ。

未知の感触に人は恐怖を覚える。

 

「そんなに難しく考える事はありませんよ。そうですね…例えば皆さんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、人体に悪影響がでるわけではないのです、が…」

 

一夏と目があった山田先生は自分が喋ったことに対して段々と頬を赤らめ口をパクパクとしている。

あぁ、残念ながら俺たちは男性用ブラの愛用者ではないのでな。

理解は出来るがしてやれんのだ…女子の花園(こんなところ)では。

クラスが微妙な空気になる中救いの手が差し出される。

 

「んん!!山田先生、授業の続きを」

「は、はい!」

 

千冬さんである…統率者が居ると言うのは何とも助かるもので…一夏は千冬さんのことを狼に例えていたが、なるほど…群れのリーダーか。

サブリーダーがポメラニアンみたいなのはいただけんが。

脳天に衝撃が走る。

 

「銀、授業に集中しろ」

「失礼した」

 

何時の間に後ろに…。

 

「ISに関して大切な事はISに組み込まれている心臓部、ISコアには意識にも似た様な物があり、お互いの対話…つまり操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

意識か…。

不意に昨夜の夢を思い出す。

前世とは無縁の世界だ、あり得ん話だ。

心の中で過る期待を振り払いノートにメモを取っていく。

 

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、パートナーと言った認識をすると良いですね。現役国家代表者の中にはISの声を感じた事があると言う話も聞きます」

 

道具ではなく、パートナーか…認識を改めるとしよう。

 

「せんせー、それは彼氏彼女の関係みたいなものですかー?」

「そ、それは…ごめんなさい、先生経験がないもので…」

 

どうにも空気が甘ったるい…女子校とはこう言うものなのだろうか…隣の一夏は教室の空気にゲンナリとしつつ、何かを考えている。

そうこうしてると、一夏と山田先生は目が合ったのか見つめ合っている。

 

「「………」」

「先生、どうしました?」

「な、な、なんでもありません」

 

手を振り誤魔化す山田先生…なるほど貴女も荊の道を行く者か……。

丁度授業終了のチャイムが鳴りこれ幸いと撤収の準備をする山田先生。

 

「つ、次の時間は空中におけるISの基本制動をやりますからね!」

 

慌てて居るのか躓きかけながら教室を出て行く山田先生に続き、千冬さんがため息まじりに出て行った。

 

 

 

 

休憩と同時に教室を出ていた俺は戻ってきた時に一夏を取り囲む集団と羨ましそうにそれを睨む箒を見つけた。

どうにも箒は素直になれん。

何処ぞの貴族のように肩肘張っている気がする。

一夏が絡むと素直になれてもいないようだしな。

 

「そんな顔をするな篠ノ之」

「生まれつきだ」

 

取りつく島も無いか。

しかし、箒とて姉譲りの美人だからな…笑っている方が良いだろう。

 

「一夏は笑っている女性が好みの様でな…姉と言う事もあるのだろうが千冬さんが笑っていると幸せそうにしている」

「そ、そうか…そうなのか…」

「まずは壁を作るな…クラスに溶け込め…今のままでは味方は居ないしな」

 

どうにもこの少女、クラスに馴染めないでいるのだ…俺が受けていた要人保護プログラムを受けていたという事だし、その影響なのかもしれん。

 

「と、友達の作り方がだな…」

「そんなものは話して笑ってを繰り返せば出来るものだ、努力しろよ乙女」

 

スパァンっと言う音に目を向ければ一夏が千冬さんから制裁を受けていた。

何時の間に…。

 

「とっとと席に着け、授業を始めるぞ」

 

教壇に立つ千冬さんの号令に合わせ慌てて席に着く。

以外と痛いのだ…あの出席簿。

 

「さて、授業の前に…報告だ。織斑と銀に専用機が支給される運びとなった。時間はかかるが学園側で用意する手筈となっている。可能な限り来週の決闘までに用意するので待っていろ」

 

「承知」

「へ?は、はぁ…」

 

一夏だけでなく俺もか…俺の事を『一手』に引き受けると言っていた人物が人物だからな…とんでもない物を渡されそうで怖い。

 

「この時期に専用機!?」

「それって政府からの支援ってことよね…」

「うらやましい わたしもほしいな せんようき」

「どう考えてもモルモット扱いで渡されるものだぞ…これは」

 

女子達の言葉に溜息混じりで答える。

ましてや天災の手が入っていると思っても過言ではない代物…気付かれることは無いようにしているだろうが……火種にならんだろうな?

 

「モルモットってどういう事だよ狼牙?」

「織斑、教科書の六ページ…音読しろ」

 

溜息混じりに理解してない一夏に音読を命じる千冬さん。

勉強不足が祟っているな。

要点を挙げるとこうだ。

 

・全世界でISコアは467個しか存在しない。束さんがコアの量産を拒否した為。

その中で各国に分散されている為、コアの総数は一国辺り少ない個数に制限されている。

 

・専用機はワンオフの為、コアを組み込むと内部データの初期化が簡単には行えない。よって、用意出来る機体数に限りがある。

 

・特異個体である男性操縦者のデータを得る為特別に二機の専用機をプレゼント。但し、ゲテモノ機体でも泣くな。

 

である。

何と無く俺にゲテモノ機体が回ってくる気がする。

 

「理解したか?」

「はい…要点は…」

 

一夏は頷くもののモルモット扱いが確定したのに気付かされて肩を落とす。

 

「そう気を落とすな。ISはパートナーだと山田先生が言っていた…妙な物が来ても乗りこなせればお前に合わせてくれるだろうさ」

「どうにも不安だな…」

 

お前は大丈夫だと思うがな。

 

「先生、篠ノ之さんってやっぱり博士の…」

 

まぁ、其処に食いつくだろうな…同じ苗字だし、今朝の話も大分出回っていると言う事を何故かのほほん(布仏 本音)が教えてくれた。

 

「あぁ、篠ノ之はあのバカの妹だ」

 

束さんをバカと言える人間二人目である。

いや、恐らく俺が二人目だが。

 

「すっごーーい!!このクラスに有名人の身内が二人もいる!!」

「ねぇねぇ!篠ノ之博士ってどんな人なの!?やっぱり天才なの!?」

「と、言う事は篠ノ之さんも天才なのかしら!?今度IS操縦教えて!!」

 

一斉に沸き立つクラスに対して、俺と一夏は複雑だ。

何せ束さんと箒は非常に不仲であり、箒側が拒絶反応を示している為に束さんもどう接して良いか分からない状態なのだ。

 

「わ、私は、あの人とは、違うんだ……すまない……」

 

ほう…必死に堪えたか…どれ、注目先を変えてやるか。

 

「束さんがどんな人かと言う質問に関しては俺が答えよう。アレはな台風だ…身内に対してはな」

 

俺の言葉にクラス全員が此方へと目を向ける。箒は何処か微妙な顔をしている。

 

「認めた人間には、とことん過剰なまでにスキンシップを求めてくる…だろう、織斑先生?」

 

そして千冬さん(群れのリーダー)にバトンタッチ…腹芸は苦手な筈なんだがな。

 

「あぁ、アイツは人付き合いが壊滅的だからな、その反動なのだろう…話しは此処までだ!授業をはじめるぞ!」

 

千冬さんの号令に教室の空気が真剣な物へと変化する。

さぁ、真面目に頑張ろうではないか。

 

 

 

 

「安心しましたわ。訓練機では勝負になりません…わたくしは代表候補生ですから専用機持ちですの」

「はぁ…」

「いや、訓練機のままでも構わんのだがな」

 

千冬さんの授業が終わり休憩時間とになればセシリアが声をかけてくる。

その声は未だに自身の勝利を疑って止まないようだ。

 

「減らず口を…性能の差は如何ともしがたいアドバンテージ…猿以下の鳥頭なのかしら?」

「狼牙をバカにするんじゃねぇよ」

 

気の抜けた生返事をしていた一夏が、先日の一件もあって堪忍袋の緒が切れたのか拳に机を叩きつける。

その音に一瞬怯んだのかセシリアは体を一瞬強張らせ、クラスメイト達は心配そうに此方を遠巻きに見ている。

 

「まぁ!わたくしに対する口の聞き方がまだ分からないのかしら!!」

「何も知らないお前が!狼牙をバカにすんな!」

「そこまでだ、一夏…俺たちの在り方は来週見せ付ければいい…互いの為にならん」

「でも!」

「良いんだ、一夏…お前の怒りは嬉しく思うがな」

 

一夏には俺の半生を教えているし、常に行ってきた俺の鍛錬も知っている。

努力している人間に対する侮辱を許せない。

気持ちの良い性格だが、時に世間では鼻つまみ者にされかねん…なに、三年間で学べば良いだけの事だ。

良い友人を持ったものだ。

 

「オルコット、性能だけがISの決定的差では無い事を授業で学ばなかったのか?」

「何を……」

 

ISは操縦者を理解しようとする。

その上で最適な状態にしてくれると言うのであれば、多少の性能差が何だと言うのだ。

勝てるかどうかは操縦者次第。

勝負事に運は付き物。

世の中、完璧と絶対は無いものなのだ。

 

「分からなければそれはそれで今は良いだろう…だがな、今のオルコットは自身のパートナーの事に気付いていないようでな」

 

自身の力しか信じていない者は回りが見えない…力を振るう者は理性的でなければならない。

それは、他ならぬ自身を切り裂く諸刃の剣だからだ。

 

「それに言ったはずだ…優雅たれと。下々の言葉に流されるなよ?」

 

微笑を浮かべ肩をすくめれば、セシリアは何も言わずに席へと戻った。

これでどう転ぶかは分からん。

本音を言えば俺たちが勝つ確率は限りなく低いだろう。

操縦者の差は経験値の差と言う事だ。

代表候補生に選ばれると言う事は並大抵では出来ん事らしい。

で、あれば操縦時間も自ずと差が出る。

操縦時間=経験値だ…何処ぞの変態企業のゲームばりの無理ゲーだな。

だが、始める前から諦めたくはない。

それこそ、互いの為にならない事なのだからな。

 

 

昼休み…俺は対して空腹でも無かったため誘ってくれた一夏に断りを入れ、ノートと色鉛筆を手に花壇へと足を運んでいた。

手入れが良く行き届いているのか、色とりどりの花が咲き誇っている。

ある一角に至っては、ちょっとした薔薇園の様になっており目を楽しませてくれる。

 

「ふむ……」

 

今回は白い薔薇に目が止まり、それを描く事にする。

昼休みは一時間もあるので何とかなるだろう。

ノートを開き色鉛筆で薔薇を表現していく。

光の加減と影に気を付け、薔薇を描いていると後ろで誰かが覗いている事に気が付いた。

 

「何か?」

「あ…その…ごめんなさい!」

 

何とも気弱な雰囲気ではあるが、姿はあのイタズラ好き(更識 楯無)にそっくりだ。

眼鏡をかけていて、楯無を一回り小さくしたような……。

俺の顔が怒っているように見えたのか頭を下げた後脱兎のごとく逃げ出してしまった。

 

「おやおや、失恋ですかな?」

「まさか…驚かしてしまっただけのようだ」

 

女生徒とすれ違う様に入ってきたのは壮年の用務員だ。

 

「君は今年入ってきた銀君だったね…私は轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)です。よろしく」

「よろしく頼む…轡木さんも休憩に?」

「いえいえ、薔薇の剪定ですよ」

 

ハサミをちらつかせ笑みを浮かべる轡木さん。

 

「そう言う銀君はどうして此処に?此処は女生徒でも中々来てくれない場所なのですが…」

「俺は絵を描きに…此処に来ないのは勿体無い気がするな」

「絵ですか…拝見してもよろしいですかな?」

「どうぞ…描き途中だが」

 

ノートには今まで描いてきた物もあり、轡木さんは楽しそうに眺めてくれている。

画家冥利に尽きると言うものだ。

 

「見事ですね…邪魔をしてはいけない。私のことは気にせず、どんどん描いてくださいね」

「ありがとうございます」

 

頭を深く下げ礼を述べれば気持ちの良い笑い声を上げ轡木さんは作業を始めた。

俺も時間ギリギリまで粘るとしよう。

 

春の麗らかな日差しの中、男二人やりたい事をやっていた。

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