【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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沈黙 夜明け 狩人の舞踏

「死ね、お前はもう良い」

「させると思うのか?」

 

展開維持限界を向かえ、ブルー・ティアーズの消えたセシリアが落下していくのが見える。

マドカは苛立たしげにトドメを刺そうと手に持つBTライフルの銃口を向け、引鉄がゆっくりと引かれる。

しかし、セシリアにエネルギーライフルが届くことは無い。

瞬時加速を用いてセシリアの目の前まで移動して制止、体を引き寄せて『天狼』の防護フィールドで無効化させたのだ。

…ギリギリだったな。

 

「待たせたな…よく頑張った」

「狼牙…さん…っ」

 

セシリアは安堵したように俺の首に抱きつき、体を震わせている。

通常のISバトルではなく、命の取り合いだからな…少女には酷と言う物か。

セシリアの腕から流れる血で銀の装甲が紅く染まっていく。

 

「銀…狼牙…本当に動けるとはな」

「次から水銀弾でも持ってくることだ…ここで墜ちなければな」

 

マドカは大して驚く様子もなく、シールドビットによる体当たりとBTライフルでの牽制を行ってくる。

セシリアを抱えている以上戦闘機動はできんな…。

BTライフルの直撃で、単一仕様能力の維持に使っているシールドエネルギーが徐々に削られていく。

シールドビットには爆薬が仕込まれている…直撃だけは避けなくてはならないため、大味な回避機動になってしまう。

セシリアはISを展開させられない。

セシリアを安全な場所に置いてきた所で、マドカに人質に取られる可能性がある。

そうなれば本当に打つ手が無くなるからな。

 

「狼牙さん、わたくしは大丈夫ですから!」

「悪いが、こうでもしていないとお前が危険なのは分かっているだろう?」

 

俺は笑みを浮かべながら応えてしまう。

逆境だ…こういったピンチだからこそ笑っていなければ、周囲の人物も不安にさせてしまう。

 

「なんでそんな楽しそうなんですの!?」

「ちっ、ちょこまかと…」

 

シールドビットが距離を開けようとした瞬間に、俺は両肩のBT兵器群狼をパージし、展開する。

 

「噛み砕け…!」

 

BT兵器…航空力学やら何やらを無視して飛行するのは、その一つ一つにPICとスラスターを使っているためだ。

つまり、小型のISとも言える訳だな。

そして、もしそんなBT兵器が大容量バッテリーを積んでいたらどうなるのか…。

 

「なっ!?」

 

手に持つヴェント・ルーをマドカに対して突きつけると、群狼は俺の意を理解したかのようにその場から消える。

マドカの一瞬の動揺…シールドビットの動きが鈍った瞬間、次々と噛み砕かれて爆散していく。

なんて事は無い…俺は群狼を常時瞬時加速で運用し、高速で矮星の牙でシールドビットを噛み砕かせているのだ。

 

「どうした…低燃費を念頭に開発された天狼に出来ないわけがないだろう?」

「…無茶苦茶ですわよ…いったいどんな頭してるんですの?」

「ちっ…速すぎる…!」

 

群狼はまるでマドカを嘲笑うかのように瞬時加速を繰り返して突撃を行っていく。

従来のBT兵器では無理な機動だからな…ましてや的が小さいともなれば嫌がらせ以外の何物でもない。

弱点が無いわけでもないが…。

イメージインターフェースによる操作…ISとは別個の機動になるため、想像以上に頭にダメージが来る。

今は無視するが…。

悠々とビルの陰に降り立ち、セシリアを降ろす。

 

「いいか、お前はアリーナへ向かえ…アイツを捕まえなくてはならん」

「で、ですが…」

「酷だが、お荷物が居ては全力を出せん」

「っ…わかり、ましたわ…」

 

悔しそうにセシリアは歯噛みし、俯いてしまう。

言い方が悪いが…あまり考えていたくない…。

マドカの牽制は中々に疲れるからな…。

 

「白、セシリアにナビゲート…俺は仕事をする」

[アイ・サー。ラウラちゃんにエスコートお願いしておくわね]

 

ゆっくりと浮かび上がり、マドカの元へと向かうと漸く群狼を破壊し終えたようだ…時間稼ぎはできたな。

ふぅ、と一息つき槍状のヴェント・ルーを構える。

とっとと束さんに引き渡してしまうか…。

 

「なんだ、女は捨ててきたのか?」

「女を相手するときはサシに限るからな」

 

ぐっと、体に力を入れ瞬時加速で一気に突撃して連続で突きを繰り出す。

マドカは一応見えてはいるようで左手に持ったナイフで槍を受け流しつつ、手早く斬りつけてくる。

装甲が薄く裂ける…シールドエネルギーを無効化している?

槍とナイフ…ましてや至近距離では余計に差がつく。

…すまないな、アランさん。

突き出した瞬間に手を離し、ヴェント・ルーを『捨てる』。

ヴェント・ルーは天狼白曜の拡張領域にしまえないのだ。

 

「こっちの、方が…!!」

「狗が…!!」

 

先ほどと打って変って、一気に距離を詰めて攻勢に転じる。

素手の格闘において何が有利かと言えば、掴み、投げが容易く行える点だろう。

武器もいいが、やはり俺は此方が性に合っている。

 

「さっきよりも動きが良い!!」

「なにぶん玩具を使うのに慣れていないのでな!」

 

振られるナイフに合わせて腕の一式王牙で受け止め、払いながら素早く回し蹴りで蹴り飛ばす。

マドカは痛みに口元を歪めながら、効かないと分かっていてもBTライフルを構えて正確無比な射撃を撃ち込みながら距離を開けようと必死だ。

最大稼動状態の天狼白曜において距離などあって無いに等しいが。

 

「打ち抜く…誰よりも速く!」

「ぐぁっ!!だがっ!!」

 

瞬時加速で開いた距離を一気に踏み抜き、鳩尾に向かって渾身のストレートを叩き込むが、がっちりと腕をホールドされてしまう。

 

「この距離なら、手品も、使えないだろう!!」

 

ごつん、と銃口が頭に突きつけられて至近弾をモロに受けてしまう。

フルフェイスのマスクが衝撃で割れ、右側が外気に晒される。

随分と無茶な戦い方をする。

思わず、凄惨な笑みを浮かべる。

気分が高揚してしまうのが自分でも分かってしまう。

 

「こいつ…頭がおかしいのか!?」

「どうだかなぁっ!!」

 

掴まれた腕の掌から銀閃咆哮を放って拘束を解き、クロスレンジで拳を交える。

マドカも距離を開けては勝ち目が無いことを悟ったのか、ライフルを量子化してナイフ一本で応戦する。

 

「くっ、このぉっ!!」

「それでは俺に届かんぞ…!!」

 

振るわれるナイフの腕を掴み、ビルの壁面に叩き付ける。

衝撃に息が詰まったのか、一瞬だけマドカの動きが止まる。

仕留めるのならば今か…!!

地に叩き付けるために、拳を大きく振り被りマドカの頭に叩き込もうとした瞬間全身が爆炎に包まれる。

お仲間のご登場か。

ウイング・スラスターを振るって纏わりつく炎を打ち払い、攻撃された方向を見つめる。

 

「何故助けた…土砂降り(スコール)

「あら、いらなかったかしら?」

「こんな奴、私一人で充分だ…っ」

 

俺を攻撃してきた新手…顔をバイザーで隠しこそしているが声に聞き覚えがあるな…。

新手の機体は金色の装甲を身に纏い、巨大な尾が着いている。

さながら神話に登場する化け物の類のようだが…。

 

「ねぇ、これ以上は街に被害がでるわけだけど…続ける?こっちは構わないわよ…見ず知らずの命が何人死のうと知ったことではないから」

「……チッ」

 

俺は忌々しげに舌打ちをしてウイング・スラスターをマント状にたたみ込む。

あの機体の攻撃…恐らくプラズマ発火の類だろうソレは、この場では非常に危うい。

それこそ、何人犠牲が出るのか分かったものではない。

 

「物分りの良いワンちゃんは大好きよ。つ・い・で・に…こっちに来る気はないかしら?」

「悪いが首輪つきなんでな、出直してくるといい」

「へぇ…いずれその首輪をとってあげるわ。行くわよ、M」

「…了解」

 

マドカは渋々と言った具合で俺を睨みつけながら離脱していき、充分な距離を稼いだ後にスコールと呼ばれた新手も離脱していく。

その顔には余裕の笑みが浮かんでいる…どうやら追撃されても返り討ちにするだけの自信はあるらしい。

 

「絶対に口説き落としてあげるわ」

「喉笛食い千切られんように気をつけることだ」

 

スコールは艶やかに笑い、俺はただただ不機嫌そうに睨むことだけしかできない。

武装を失い、街を破壊して得るもの無しとはな…。

離脱していくスコールの背を見つめ深く溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

キャノンボール・ファスト、謎のテロリストの襲撃を受ける。

夜のニュース番組はどこもその話題ばかりだ。

諸々の対応は学園とキャノンボール・ファスト主催者であたる事になり、俺達は皆学園へと戻ってきている。

セシリアは、学園の医務室内にある例の拷問器具のお世話になっている。

 

「……」

「……」

 

医療カプセルに入ったセシリアのお見舞いに来た俺は、会話が無いまま二時間ほど椅子に座り込んでいる。

冷たい物言いをしてしまったので謝ろうと思ったのだが、セシリアはふくれっ面でそっぽ向いてしまっているのだ。

 

「セシリア」

「…お荷物に何か御用ですか?」

「いや…すまない…」

 

俺はほとほと困り果ててしまってがっくりと項垂れてしまう。

…気持ちは分からんでもないんだがなぁ…しかし、仕方ないのだ…あの時ばかりはああ言うしか。

 

「…いいです、子供みたいに拗ねているだけですから」

「…本当にすまん」

 

重ね重ね俺は頭を下げ、ほっと安堵する。

一先ず、ゆるしてもらえ…

 

「利き手を怪我してしまいましたし、狼牙さんには暫くわたくしのお世話をお願いしますわ。髪の毛もきちんとセットしてもらいますし、ご飯も食べさせてもらいますわ」

「いや、そのカプセルに一日入っていれば完治すr…」

「ろ・う・が・さ・ん??」

「マム・イエス・マム…」

 

セシリアは青筋立てながら笑っていない笑顔で此方を睨みつけてくる。

実際、コワイ…美人は怒らせないに限るが…。

俺は降参と言わんばかりに両手を挙げて軽く溜息をつく。

 

「分かった、お前の執事だろうがなんだろうがこなしてみせよう」

「言いましたわね…たっぷりと使い潰してさしあげますわ…昼も、夜も…」

「お手柔らかにな…」

 

暫くは不眠不休でこのお嬢様に仕える事になりそうだ…。

椅子をセシリアの近くまで運び座りなおせば、此方を見つめてくる。

 

「どうした?」

「…お父様の声が聞こえたのです。偏向制御射撃をする直前、なのですけども」

「…幻聴、と言う訳でもなさそうだな」

 

セシリアは静かに頷き、天井へと目を向ける。

その目には複雑な感情が見え隠れしている。

折り合いを付け始めたとはいえ、忌み嫌っていた対象なのだから。

 

「とても、とても嬉しそうな声だったのです…わたくしは…何故でしょうか…そんな声を聞いて嬉しくなってしまって…」

「……」

「お父様は…わたくしを赦してくれたのでしょうか…?」

 

優しくセシリアの頭を撫で、静かに頷く。

きっと、父親は手放しで赦していただろう。

たった一人の愛娘なのだから。

 

「もっと、もっとお話できれば…よかったのに…」

「今もお前のことを見守っているかもしれん…言葉を交わさんでも通じるものはあるのだから」

「そうだと…良いですわね…」

 

セシリアは優しく微笑み、小さく溜息を吐く。

銀の福音を相手にしていたときの様な濃い一日だ…疲労も相当なものだろう。

 

「狼牙さん…傍に居ていただけますか?」

「もちろんだとも…目が離せんからな」

 

俺の答えを聞くと安心したかのように笑みを浮かべ眠りにつく。

安らかなその寝顔を見つめ優しく頭を撫でる。

 

「おやすみ、セシリア…良い夢を」

 

 

 

 

 

 

 

おとうさま

おとうさまはどうしてわらっているの?

 

――僕が笑っていると、安心できると言う人がいるからだよ

 

おとうさま

おとうさまはどうしておこらないの?

 

――僕が怒ってしまうと、心配してしまう人がいるからだよ

 

 

おとうさま

おとうさまはわたくしのことすき?

 

――もちろん、愛しているよセシリア

――さぁ、セシリア…ゆっくりおやすみ…いつまでも、僕達は見守っているからね

 






マドちゃん周りは難しい…前回の戦闘で力尽きた感がががが…(吐血
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