Nocturne Reaper   作:Spica@お星

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蒼星、飛びます。(わりといつも飛び回ってる)


空へ

三十分後。

 

煤けた格納庫の奥から、輸送機が引き出された。美しい機体ではなかった。

 

外板は継ぎ接ぎだらけで、左の翼には過去に焼けた跡が残っている。後方格納庫には、荷物を積むためではない固定架が無理やり組み込まれていた。肩、背部、腰、脚部、義手基部を押さえるための金具が、輸送機の後部フレームへ直接繋がれている。

 

人を乗せる場所ではない。

 

推進器を固定する場所だった。

 

それでも、空へ向かうための形をしていた。

 

「完成である!」

 

赤男爵が胸を張る。

 

「正確には、飛べる形にしただけだ」

 

Ju87が操縦席の横で淡々と言った。

 

「完成と言うには粗い」

「魔王、士気を下げるな!」

「現実を言っただけだ」

 

椒は輸送機を見上げ、顔をしかめた。

 

「これ、本当に飛ぶのか?」

「飛ぶ」

 

Ju87は即答した。

 

「綺麗には飛ばない」

「そこは言わなくていいんだよ」

 

凍星は白杖フィエルティジムを握りながら、後方格納庫の固定架を見ていた。どう見ても、人を乗せるための場所ではない。蒼星は何も言わず、その固定架の前に立った。

 

赤男爵が火属性弾を二つ差し出す。

 

「地上の死神、貴官に渡す弾はこれだけである」

 

蒼星は受け取った。赤い魔力が、弾の内側で小さく揺れている。

 

「二つ」

「一発目は離陸補助。二発目は山越え。三発目はない」

 

Ju87が言った。

 

「予備は?」

 

凍星が聞く。

 

「必要ない。俺の計算に狂いはない」

「外れたら?」

 

椒が問う。Ju87は操縦席へ乗り込みながら答えた。

 

「外れない。蒼星というユニットは、そんなミスはしない」

「ユニットって……」

 

赤男爵は機内へ積まれた弾薬箱を叩いた。

 

「安心したまえ!銃座用に各属性弾も積んである!火、風、氷、雷、土!空を行く以上、撃つものがなくては浪漫が足りん!」

 

「気分で積んだだけだ」

 

Ju87が横から切り捨てた。

 

「備えである!」

「半分は趣味だ」

「浪漫だ!」

 

椒が弾薬箱を覗き込む。

 

「……使うことになる気がして嫌なんだが」

 

凍星も小さく息を吐いた。

 

「同感だね」

 

蒼星は火属性弾を星天の側面へ当てた。金属の装甲が小さく開く。そこには、拳銃の弾倉にも似た細い装填口があった。

 

蒼星は一発目の火属性弾を押し込む。

 

かちり、と硬い音がした。

 

続けて二発目。

 

弾丸が溝を滑り、内部の回転機構へ収まる。星天の奥で、歯車が一段噛み合うような音が鳴った。

 

《装填》

 

視界の端に、短い表示が走る。

 

蒼星は星天の指を一度開き、握る。

 

内部で弾倉が回転し、一発目が薬室へ送られるように位置を変えた。星天の手首側で、小さな撃鉄のような部品が起きる。右腕の奥に、火属性の熱が灯る。

 

火属性弾、二発。

 

蒼星は短く息を吐いた。

 

「入った」

「なら固定する」

 

赤男爵が言った。蒼星は頷き、後方格納庫の固定架へ背を預けた。

冷たい金具が肩を押さえる。背部の固定具が黒白の修道装に噛み合い、腰、脚部、義手基部の順に固定されていく。最後に、星天の砲口が機体の軸へ合わされた。

 

「痛むか?」

 

椒が聞いた。

蒼星は固定具を確かめるように、星天の指を一度開いて握る。

 

「問題ない」

「問題ないことはないだろ……」

「不自由はある。でも、間に合わせるには必要なこと」

「そりゃあそうだけどよ」

 

椒は納得していない顔のまま機内へ入った。凍星も白杖フィエルティジムを握り、それに続く。赤男爵は補助席に乗り込み、弾薬箱を叩いた。

 

「各属性弾、積載確認!これで空の不測にも対応可能である!」

「気分で積んだだけだ」

 

操縦席のJu87が即座に切り捨てた。

 

「備えである!」

「半分は趣味だ」

「浪漫だ!」

 

赤男爵は胸を張ったが、Ju87はもう相手にしていなかった。計器を確認し、操縦桿に手を置き、足元のペダルを踏み込む。

 

輸送機の魔力炉が低く唸った。

 

格納庫の外から、鉄翼飛行団の面々が機体を押し出していく。車輪が石畳を噛み、やがて焼け焦げた滑走路へ乗った。

 

何度も失敗した跡が残る、焦げと抉れだらけの直線。綺麗でも、安全でもない。それでも、空へ向かうための道だった。夜明け前の空はまだ暗い。東の端だけが、わずかに白み始めている。

 

Ju87が短く言った。

 

「搭乗確認」

「椒、乗った」

「凍星、乗った」

「赤男爵、搭乗完了である!」

 

蒼星は後方格納庫の固定架の中で、星天の砲口を機体軸に合わせた。

 

「蒼星、固定完了」

「一発目は、俺が言うまで撃つな」

 

Ju87の声が、操縦席から飛ぶ。

 

「早ければ機首が跳ねる。遅ければ滑走路を食い切る」

「分かった」

「合図は一つだ」

「撃て?」

「そうだ」

 

蒼星は星天の指を握る。右腕の奥で、火属性弾が小さく熱を持った。

 

赤男爵が叫ぶ。

 

鉄翼飛行団(アイゼン・フリューゲル)、緊急出撃!」

 

Ju87の声が重なる。

 

「滑走開始」

 

輸送機が、走り出した。最初は鈍い。

 

重い機体が、土を削るように前へ進む。車輪が跳ね、外板が震え、後方格納庫の固定具が蒼星の身体を強く押さえつけた。

 

風が来る。

速度が上がるにつれて、夜明け前の冷気が刃のように蒼星の頬を叩いた。

 

滑走路の終端が近づく。輸送機は、まだ浮かない。

 

Ju87の声が飛んだ。

 

「一発目」

 

蒼星は息を止めた。星天の奥で、火属性弾が薬室へ送られる。

 

「撃て」

 

蒼星は短く答えた。

 

「撃つ」

 

星天の砲口が、機体の後方へ向いた。

火属性弾が薬室の奥で赤く脈打つ。次の瞬間、右腕の内部で撃鉄めいた機構が落ち、圧縮された火の魔力が砲口へ流れ込んだ。

 

爆発。

 

輸送機の後方で火が弾け、赤い尾を引く推進力となって機体を押し出す。

 

固定具が悲鳴を上げた。

 

肩、背中、腰、脚、義手基部。五点で押さえられた蒼星の身体に、火属性弾の反動が叩き込まれる。黒白の修道装が負荷を受け、後部フレームが軋み、輸送機全体が前へ跳ねた。

 

「ぐ――」

 

蒼星の息が詰まる。だが、砲口は逸らさない。

 

Ju87の計算通り、火の噴射は機体の軸に沿って走り、重い輸送機を無理やり滑走路の終端へ押し込んだ。

 

車輪が地面を蹴る。

滑走路の端が迫る。

焦げた土が途切れ、その先に谷が開く。

椒が機内で叫んだ。

 

「浮け浮け浮け!」

 

赤男爵が吠える。

 

「飛べ、我が鉄翼!」

 

Ju87は操縦桿を引いた。

 

「上がれ」

 

輸送機の機首が持ち上がる。一瞬、腹が地面を擦るような音がした。次に、車輪が空を噛んだ。

 

地面が離れる。輸送機が、飛んだ。いや、落ちていないだけかもしれない。

それでも確かに、機体は滑走路を越え、谷の上へ飛び出していた。

 

風が一気に強くなる。後方格納庫の開いた隙間から冷気が叩き込み、蒼星の髪を乱した。固定具が身体に食い込み、星天の砲口からはまだ赤い熱が揺れている。

 

「一発目、完了」

 

蒼星が言った。

Ju87は短く返す。

 

「確認。噴射角、許容範囲」

「許容範囲ってなんだよ!」

 

椒が機内で壁にしがみつきながら叫ぶ。

 

「生きているという意味だ」

「もっと安心できる言い方しろ!」

 

赤男爵は笑っていた。

 

「ハハハハ! 見たか! 我らが鉄翼は地上の常識を置き去りにした!」

「まだ滑走路を離れただけだ」

 

Ju87が即座に言う。

 

「これから谷を抜ける」

 

輸送機は高度を上げすぎなかった。

 

山肌の影へ滑り込み、川沿いに機体を傾けながら進む。翼の先が木々の梢を掠めそうな距離だった。少しでも判断を誤れば、枝に裂かれる。岩肌に腹を擦る。風に流されれば、そのまま谷へ落ちる。

 

それでも、Ju87の操縦はぶれなかった。

 

低い。

速い。

危ない。

けれど、迷いがない。

 

凍星が窓の外を見て、顔をしかめた。

 

「木が近いんだけどな」

「当たっていない」

 

Ju87が返す。

 

「当たってからじゃ遅いだろ!」

 

椒の声に、赤男爵が楽しそうに笑った。

 

「空の洗礼である!」

「地面の洗礼になりそうなんだよ!」

 

蒼星は後方固定架の中で、二発目の火属性弾を意識した。

 

まだ撃たない。

 

一発目の熱が右腕の奥に残っている。星天の内部機構が冷えきっていない。肩口には鈍い痛みがあるが、固定具は持っている。アルベリッヒが繋ぎ直した星天と黒白の修道装が、反動を身体全体へ逃がしていた。

 

痛みはある。けれど、使える。なら問題ない。

 

輸送機は谷筋を走るように飛ぶ。空を飛んでいるのに、空が広くない。

 

左右は山肌。

下は川。

上はまだ暗い夜明け前の空。

 

その細い隙間を、煤けた翼が抜けていく。

 

Ju87が前方を見たまま言った。

 

「次、山越え」

 

凍星が息を呑む。

 

谷の先。

 

黒い稜線が、夜明け前の空を塞ぐように立っていた。

 

山だ。

 

空へ続く壁のように、輸送機の進路を塞いでいる。

 

迂回すれば間に合わない。越えるしかない。

 

だが、輸送機は重い。三人と装備を乗せ、後方に蒼星を固定した機体は、通常の推力だけでは上がりきらない。山肌は近づく。木々の黒い影が、機体の腹を掴もうとするように迫ってくる。

 

Ju87の声が飛んだ。

 

「二発目、準備」

 

蒼星は星天の指を握った。

右腕の奥で、二発目の火属性弾が薬室へ送られる。

かちり、と内部機構が噛み合った。

 

火属性弾が赤く灯る。

 

肩口に熱が這い上がる。昨日の痛みが、奥から呼び起こされるように疼いた。固定具が黒白の修道装に食い込み、背中、腰、脚、義手基部をまとめて輸送機の後部フレームへ縛りつける。

 

逃げ場はない。

撃てば、反動は全部ここへ来る。それでも、蒼星は砲口を逸らさなかった。

 

「準備完了」

 

Ju87は返事をしない。

操縦桿を押さえ、機体をまだ上げない。

谷底を舐めるように飛ぶ。

 

川面が近い。岩肌が近い。木々の先端が、翼の下を掠める。

 

椒が機内で叫んだ。

 

「おいおいおい、近い近い近い!」

 

赤男爵が笑う。

 

「恐れるな! まだ当たっておらん!」

「当たってからじゃ遅ぇんだよ!」

 

凍星は窓の外を見て、白杖フィエルティジムを握りしめた。

 

「……本当に、ぎりぎりまで上げない気か」

「上げれば見つかる」

 

Ju87の声は低く、揺れなかった。

 

「速度を殺すな。高度を無駄にするな。山の腹へ突っ込む直前で、機体を持ち上げる」

「正気かよ!」

 

椒の叫びに、Ju87は答えない。山肌が迫る。

 

輸送機の影が、木々の上を走る。

機体の先端が、黒い稜線へ向かって突っ込んでいく。

 

まだ上げない。

まだ。

まだ。

 

蒼星の視界に、山肌の岩が見えた。

 

近い。

近すぎる。

その瞬間、Ju87の声が落ちた。

 

「撃て」

 

蒼星は答えた。

 

「撃つ」

 

二発目の火が、夜明け前の空を裂いた。

星天の砲口から、赤い閃光が噴き出す。

 

ただの炎ではない。

 

圧縮された火属性の魔力が、輸送機の後方で爆ぜ、巨大な火柱となって機体を押し上げた。爆音が谷に反響し、山肌を震わせ、川面を叩き割る。夜明け前の暗がりが、一瞬だけ赤く染まった。

 

固定具が悲鳴を上げる。

 

蒼星の身体が、後方へ引き裂かれるような反動を受けた。肩に熱が走り、星天の接続部が焼ける。黒白の修道装が負荷を受け、背中の補助具が沈み、輸送機の後部フレームが軋んだ。

 

それでも、砲口はずれない。

火の尾が、機体の軸に沿って伸びる。

 

輸送機が跳ねた。

落ちるのではない。

上がる。

 

重い胴体が、火に蹴り上げられるように持ち上がる。

Ju87が操縦桿を引く。

 

「上がれ」

 

機首が夜明け前の空へ向く。

山肌が目前に迫る。

 

木々の先端が腹を掠めた。枝が砕け、葉が散り、左翼の端が岩肌すれすれを抜ける。椒が壁に叩きつけられ、凍星が虹色の足場を一瞬だけ床へ展開して体勢を支えた。

 

赤男爵が吠える。

 

「越えろ、我が鉄翼!」

 

輸送機は、稜線へ突っ込んだ。

 

ぶつかる。

そう思った瞬間、機体がもう一段、火に押し上げられた。

 

車輪が木々の先端を蹴る。

胴体が山の影を抜ける。

翼が、稜線の上を滑る。

 

そして。

 

輸送機は、山を越えた。視界が開ける。

 

暗い谷ではない。

夜明け前の空が広がった。

 

東の端から、細い光が差し込んでいる。雲の下を、煤けた輸送機が火の尾を引いて飛び出した。

蒼星は、歯を食いしばったまま息を吐く。

右腕の奥に熱が残っている。

 

肩は痛む。

固定具は軋んでいる。

けれど、二発目は終わった。

 

「二発目、完了」

 

蒼星は後方格納庫の固定架の中で息を吐いた。

 

星天の奥には、まだ火属性弾の熱が残っている。肩に鈍い痛みはある。だが、固定具は持った。黒白の修道装も、星天の接続部も、壊れてはいない。

 

Ju87が計器を見た。

 

「山越え成功。固定具、異常なし」

 

赤男爵が笑う。

 

「ハハハハ! 見たか! 我輩の計画は完璧である!」

「完璧ではない。運が良かっただけだ」

「魔王、今は褒めたまえ!」

 

椒が後方格納庫へ顔を出す。

 

「蒼星さん、生きてるか?」

「生きてる」

「無事か?」

「痛い」

「無事じゃねぇじゃん」

「動ける」

「それを無事って言うな」

 

凍星が固定具に手をかける。

 

「解除する。蒼星さん、力を抜いて」

「うん」

 

肩、背部、腰、脚部、義手基部。

 

五点の固定具が順に外されていく。最後に星天の基部を押さえていた金具が外れると、蒼星の身体がわずかに前へ傾いた。椒が咄嗟に支える。

 

「おっと」

「ありがとう」

「本当に無茶苦茶だな、この運び方」

 

蒼星は後方格納庫から機内へ戻った。

右腕の奥に熱が残っている。けれど、もう撃つ必要はない。

 

山は越えた。その時だった。

 

ぽつり、と。

 

輸送機の外板に、水滴が当たった。

 

次に、もう一つ。

さらに、いくつも。

 

夜明け前の空に、雨が降り始めた。凍星が窓の外を見る。

 

「……雲は薄い」

 

椒が顔をしかめる。

 

「じゃあ、何の雨だよ」

 

外板に当たった雨粒が、じゅう、と嫌な音を立てた。赤男爵の表情が変わる。

 

「毒雨……!」

 

Ju87が操縦桿を握り直した。

 

「捕捉された」

 

空の青が、揺れた。雲ではない。風でもない。

 

空そのものを海のように泳ぐ、巨大な影。

半透明の鰭。流れる触角。蒼と銀の身体。夜明け前の光を受けて、毒々しいほど美しく輝く龍。

 

凍星が低く呟く。

 

「蒼海漂龍《グラウクス》」

 

赤男爵が叫ぶ。

 

「ブルードラゴンの特殊個体!属性は毒、水、風、雷!半実体の間は物理が通らん!」

「説明は後だ」

 

Ju87が機体を傾ける。

 

「来る」

 

グラウクスの触角の間に、青白い光が集まった。

 

雷。空気が震える。

雨粒が一瞬だけ宙で止まったように見えた。次の瞬間、青白い閃光が輸送機へ向かって走った。Ju87が操縦桿を倒す。機体が横へ滑る。だが、避けきれなかった。雷の魔法が、左舷を掠める。

 

轟音。

 

左翼の補強板が吹き飛び、魔石管が破裂した。翼の付け根から青白い火花が散り、輸送機が大きく傾く。

 

椒が壁に叩きつけられる。

凍星が白杖フィエルティジムを床へ突き、体勢を支えた。

 

赤男爵が叫ぶ。

 

「左舷翼、損傷!」

 

Ju87は操縦桿を押さえ込む。

 

「揚力が死んだ。このままでは落ちる」

 

蒼星は、破損した左舷を見た。翼は完全には千切れていない。だが、次に攻撃を受ければ折れる。

 

蒼星は短く言った。

 

「ハッチを開けろ」

 

椒が振り返る。

 

「は?」

「ハッチを開け」

「蒼星さん、何してる!」

 

蒼星は星天の指を開き、左手から死糸を伸ばす。

 

「繋ぐ。迎撃は二人に任せた」

 

凍星の表情が変わる。

 

「蒼星さん、それは――」

「落ちるよりいい」

 

椒が歯を食いしばった。

 

「またそれかよ」

 

それでも、椒はハッチへ向かった。

凍星は白杖フィエルティジムを構え、風を抑える準備に入る。

 

「椒、開けろ。私が風を抑える」

「分かった!」

 

ハッチが開く。

 

轟音。

 

毒雨を含んだ風が、機内へ叩き込まれた。凍星の魔力が走り、吹き込む風の流れをわずかに逸らす。その一瞬で、蒼星は迷わず外へ出た。

 

死糸が走る。

左舷翼の破断面。

胴体の支柱。

裂けた補強板。

残ったフレーム。

それらを縫うように、糸が絡みついていく。

 

蒼星は機体外装に星天の指を食い込ませ、風に身体を持っていかれながら、死糸を引いた。

 

「持て」

 

それは翼へ向けた言葉なのか。自分へ向けた言葉なのか。分からない。だが、左舷翼は完全には折れなかった。Ju87が操縦桿を握り直す。

 

「まだ飛ぶ」

 

赤男爵が吠えた。

 

「飛べ、我が鉄翼!」

 

その背後で、グラウクスが再び青白い雷を纏う。赤男爵は叫び終えると同時に、銃座へ飛び込んだ。

 

「弾を寄越せ!空の相手は我輩の領分である!」

 

凍星が弾薬箱を開け、属性弾を掴む。

 

「雷でいいか?」

「ヤヴォール!まずは雷だ!半実体の龍には、派手な挨拶が要る!」

「気分で撃つなよ!」

 

椒がハッチ脇から叫ぶ。

 

「気分ではない!制空権確保である!」

 

赤男爵は銃座に雷属性弾の弾帯を叩き込んだ。魔石機構が噛み合い、給弾機が唸る。がちり、と初弾が薬室へ送られた。

 

「さあ、蒼海漂龍《グラウクス》!我が鉄翼を追うというなら、空戦の礼儀を教えてやろう!」

 

赤男爵が引き金を引く。

銃座が吠えた。

だだだだだだだだだだっ――!

 

青白い雷光を纏った属性弾が、機関銃のように連続で吐き出される。空薬莢の代わりに、焼けた魔石片が銃座の横から弾け飛び、機内の床を跳ねた。

 

雷の弾線が、夜明け前の空に青白い縫い目を刻む。

半透明の蒼い龍へ向かって、鉄翼飛行団(アイゼン・フリューゲル)の銃座が火を噴いた。




今回は短め?

蒼海漂龍《グラウクス》
分類:龍種
属性:毒・水・風・雷
弱点属性:火・土
準弱点:聖/光
耐性:水・風・雷
無効:毒・麻痺

通常の龍のように翼で羽ばたくのではなく、半透明の鰭や触角を揺らしながら、空中を泳ぐように移動する。

細長い身体は蒼、銀、白を基調としており、光を受けるたびに水面のような揺らぎを見せる。鰭は薄く透け、触角は風の中でたなびき、遠目には空に漂う美しい海洋生物のようにも見える。

だが、その美しさとは裏腹に、存在するだけで周囲へ毒雨を降らせる危険個体。

幻想的な外見に反して、毒・水・風・雷の属性を操る、極めて厄介な龍種の一体である。

基本特性
通常時の蒼海漂龍《グラウクス》は、半実体状態。
この状態では、基本的に物理攻撃が通らない。通常物理攻撃などはすり抜けるか、効果が大幅に低下する。ただし、一定量の魔法攻撃や属性攻撃を与えることで実体化する。

実体化すると、物理攻撃が通るようになり、弱点である逆鱗と心臓を狙えるようになる。
その代わり、攻撃性も増す。

毒雨
蒼海漂龍《グラウクス》は、存在しているだけで周囲に雨を降らせる。
この雨は普通の雨ではなく、毒を含んでいる。触れた対象は継続ダメージを受ける。輸送機の外板に当たれば腐食し、PLに触れれば毒状態になる。

半実体状態:毒雨が降る。物理攻撃が通りにくい。

実体化状態:毒雨が止む。物理攻撃が通る。弱点を狙える。

攻撃手段

通常時は毒雨による継続ダメージが中心。
雨そのものがフィールドダメージのように機能する。


毒雨を槍状に変えたり、水刃として飛ばす。


空中機動と妨害に使う。


触角の間に雷を集め、直線状に放つ。

弱点
弱点は、逆鱗と心臓。ただし、半実体状態では狙えない。
実体化させてからでないと、攻撃が通りにくい。

逆鱗は首元、または胸元にある特殊部位。心臓は胴体の奥にある核のような部位で、実体化時に青白く脈打つように見える。

HPが三分の一を切ると、蒼海漂龍《グラウクス》は変化する。
全身の色が毒々しく変わり、半実体化が完全に解ける。この段階からは常時実体化状態になる。
色は、通常時の蒼や銀ではなく、紫、緑、黒を混ぜたような毒そのものの色へ変化する。この段階から、毒ブレスを使用する。

毒ブレス
HP三分の一以下で使用する毒ブレスは、通常毒ではない。
麻痺、猛毒、防御力ダウンを含む混合毒。
直撃すると、継続ダメージだけでなく、行動阻害と耐久低下を同時に受ける。PLに当たれば非常に危険。

HP三分の一以下になると、通常攻撃にも毒効果が混じる。爪、尾、体当たり、水刃、雷撃などに、以下の効果が混ざる。

・麻痺
・猛毒
・防御力ダウン
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