Nocturne Reaper   作:Spica@お星

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赤咎焔星《アストラ・ギルティア》

合一魔法(ユニゾンレイド)を発動します▼

 

『神代魔法:赤の咎』を《装填》。

 

星天から、焔が溢れた。

 

赤い。けれど、熱くはない。咎を炙り、原罪を焼き、星を落とすための焔。

 

蒼星の右腕が、炎になったように揺らぐ。星天の装甲の隙間から、赤い焔が漏れ出す。

 

それに応えるように、機構が変形した。肩口の装甲が開き、奥から瑠璃色の炎が揺らめく。

 

赤の咎。

 

星天の瑠璃の星火。

 

二つの炎が、蒼星の右腕の内側で噛み合っていく。

 

火属性弾の熱とは違う。もっと古く、もっと重く、もっと逃れようのない火。

 

神代の処刑火。

 

凍星の『赤の咎』が、星天の内部へ流れ込んでいる。

 

本来なら術式として落ちるはずだった焔が、神装兵器の記録領域へ触れ、火属性弾と噛み合う。

 

その瞬間、蒼星の視界に文字が走った。

 

星辰、罪を照らす刻。我は裁きの軌道に立つ。

 

隠れし罪業よ、星下に顕われよ。積もりし咎よ、焔の座に晒されよ。

 

赦しを乞うな。悔いを語るな。

 

そのすべては、既に星が見届けた。

 

蒼星は息を吐いた。自分の言葉ではない。

 

星天の奥から浮かび上がる、神代の記録。けれど、その文言は確かに、蒼星の右腕を通っていた。

 

我、星の罪を炙るもの。

我、原罪を焼き尽くすもの。

我、咎人の名を炎に刻むもの。

 

星天よ。

 

神代の記録を開け。赤き咎を焔と成し、

焔を星と成し、星を、穿つための弾丸と成せ。

 

がちり、と。

 

星天の内部で、弾倉が回るような音がした。薬室へ送られたのは、ただの弾丸ではない。

 

神代の咎。

星を落とすための弾丸。

 

罪業を顕わにせよ。咎を焼け。

命脈を貫け。その果てに、悔いよ。

 

蒼星は砲口を逸らさない。

 

嵐の向こう。毒々しく変色した蒼海漂龍《グラウクス》の胸奥で、青白い核が脈打っている。

 

狙う場所は、一つ。

 

我は星を穿つ弾丸なり。

我は咎を焼く執行の焔なり。

 

蒼星は星天を向けた。

 

「穿つ!!」

 

星天が火を吐いた。

 

赤い閃光が、嵐を貫く。

 

白い魔法陣の内側から落ちる焔と、星天から放たれた火が重なり、圧縮され、ひとつの星になる。

 

赤く焼けた咎の星。

 

その外側を、瑠璃と赤の焔が覆う。

 

嵐が割れた。毒雨が蒸発し、雷が弾け、風が押し潰される。

 

合一魔法(ユニゾンレイド)赤咎焔星(アストラ・ギルティア)

 

星を穿つ弾丸となった赤き咎の焔星が、蒼海漂龍《グラウクス》の核へ落ちた。

それは、弾丸が肉へ突き刺さるようなものではなかった。

 

緑色の宇宙から落ちた焔と、星天から放たれた火が、グラウクスの胸奥で脈打つ青白い核へ重なった瞬間、空そのものが赤く裂けた。

 

毒々しく染まった龍の身体が、大きく仰け反る。

 

咆哮が上がる。

怒りではない。

痛みとも違う。

 

咎の焔が核の内側へ入り込み、そこから全身へ赤い亀裂を走らせていく。胸へ、鰭へ、触角へ。毒雨を生み、風を纏い、雷を散らしていた身体が、内側から形を失っていく。

 

燃えているのに、煙は出ない。

砕けているのに、灰も落ちない。

 

焼かれているのは肉ではなく、蒼海漂龍《グラウクス》という存在そのものだった。

 

「……通った」

 

凍星が、かすれた声で呟いた。

 

白杖フィエルティジムを握る手は震えている。神代魔法の行使。そこへ蒼星の星天が重なった結果、術式は凍星の理解を超えた形へ変わっていた。

 

だが、結果だけは見える。

 

赤咎焔星(アストラ・ギルティア)は、グラウクスの核を確かに貫いていた。

 

毒雨が止む。

雷が砕ける。

風がほどける。

嵐が、消えていく。

 

赤男爵が銃座にしがみついたまま、目を見開いた。

 

「ハハ……ハハハハハ!見たか、魔王!これぞ星を穿つ一撃である!」

「黙れ。機体を戻す」

 

Ju87は操縦桿を押さえ込んだまま、短く言った。

 

輸送機はまだ空にあった。

 

ただし、飛んでいるというより、墜ちる方向を無理やり選ばされているような状態だった。左舷翼は死んだまま、外板は焼け、尾翼は震え、機体のどこかで配管が破裂する音が続いている。

 

それでも、嵐は消えていた。

 

グラウクスの身体は、空の中で崩れていく。赤い亀裂が全身を走り、鰭がほどけ、触角が光の粒になって散る。毒を含んだ雨雲も、風も、雷も、核を焼かれた龍の崩壊に巻き込まれるように消えていった。

 

最後に、青白かった核が砕けた。

 

赤い焔が内側から弾け、グラウクスの輪郭が朝の空へ溶けていく。

 

蒼星の視界に、表示が走った。

 

蒼海漂龍《グラウクス》を討伐しました▼

 

■■神■■■■■■■■■■に認められました▼

 

神装兵器《星天》の記録領域が拡張されます。

接続深度が更新されました。

魔力伝達効率が上昇しました。

反動処理補正が更新されました。

 

合一魔法(ユニゾンレイド)赤咎焔星(アストラ・ギルティア)の情報を記録します。

 

登録情報を《焔星》へ圧縮します▼

 

《焔星》が《星天》に登録されました。

 

「……登録」

 

蒼星は小さく呟いた。

 

その直後、身体が落ちた。

 

赤咎焔星(アストラ・ギルティア)を撃つために、蒼星は機体から離れすぎていた。

 

星天の砲口にはまだ赤い残光が残っている。右腕は動く。だが、重い。肩から背中にかけて、神代の焔を通した反動が鈍く沈んでいた。

 

それでも、さっきまでとは違う。

 

痛みはある。負荷もある。けれど、星天が蒼星の動きを拒まない。接続部の奥で軋んでいた引っかかりが、わずかに薄れている。

 

蒼星は落下しながら、輸送機を見た。

 

遠い。

 

けれど、届かない距離ではない。

 

落ちる線。

届く線。

死ぬ線。

 

その隙間に、踏める場所を探す。

 

死線踏破(デッドライン・ウォーカー)

 

蒼星は空を踏んだ。

 

一歩。

 

蒼い閃光が走る。

 

二歩。

 

空を足の裏で掴み、蹴る。

 

三歩。

 

輸送機のハッチが近づく。

 

椒が身を乗り出していた。凍星も、白杖フィエルティジムを床へ置き、片手を伸ばしている。

 

あと一歩。蒼星は足を出した。

 

だが、届かない。空を踏む感覚が、そこで途切れる。

 

「蒼星さん!」

 

椒の手が伸びた。同時に、凍星も身を乗り出す。

蒼星は左手を伸ばした。椒がその腕を掴み、凍星が星天の手首を掴む。

 

「引くぞ!」

「うん!」

 

二人が同時に引いた。

 

蒼星の身体が、ハッチへ叩き込まれる。床を転がり、黒白の修道装が擦れ、星天が重い音を立てた。

 

椒が怒鳴る。

 

「届いてねぇじゃねぇか!」

 

蒼星は床に倒れたまま、淡々と答えた。

 

「一歩足りなかった」

「冷静に言うな!」

 

凍星は荒い息を吐きながら、蒼星の腕を離した。

 

「無事です?」

「ギリギリ」

「無事じゃないな」

「動ける」

「それも無事とは言わない」

 

その時、機体が大きく傾いた。

赤男爵が叫ぶ。

 

「左舷が保たんぞ!」

 

Ju87は操縦桿を押さえ込みながら、前だけを見ている。

 

「旧砦跡まであと少しだ」

「あと少しで落ちるぞ、魔王!」

「流石に、無茶をし過ぎた」

 

Ju87が、珍しくそう言った。

 

その言葉だけで、機体が本当に限界なのだと分かった。

 

蒼星は起き上がった。

 

椒が顔をしかめる。

 

「蒼星さん、今度こそ寝てろ」

「寝てる暇なんてないでしょ?」

 

蒼星は短く返し、糸を伸ばした。

 

左舷翼へ。

胴体の支柱へ。

尾翼へ。

歪んだ外板へ。

それだけでは足りない。

 

蒼星は開いたハッチから再び機体の外へ出る。風が叩きつける。黒白の修道装が大きく翻り、星天の指が外装を掴んだ。

 

今度は、翼だけを支えるのではない。機体そのものを縫う。

裂けた外板の縁を結び、浮いた補強板を押さえ、歪んだ尾翼へ糸を通す。風を受けるたびに暴れる左舷翼を、糸の張力でわずかに下げ、機首が流れそうになる瞬間だけ逆側へ引く。

 

操縦の邪魔にならないように。けれど、落ちないように。Ju87の操作に合わせて、蒼星は糸を締め、緩め、張り直す。

 

「俺の操縦に勝手なことをするな」

 

操縦席からJu87の声が飛ぶ。

 

「うるさい。ここで落ちたら、今までの頑張りが無駄になる」

「これは墜落ではない」

「赤男爵と同じ」

「……同じにするな」

 

Ju87の声が、わずかに低くなった。

 

「なら、受け入れろ」

「こちらの指示に従え」

「分かった」

「本当に分かっているか?」

「たぶん」

「信用しない。だが使えるものは使う」

 

蒼星は糸を引いた。

 

左舷翼が風に煽られる。その角度を殺すように、糸を一本締める。機体が沈む。すぐに別の糸を緩め、尾翼へ通した糸を張り直す。

 

Ju87の操縦に逆らわない。だが、足りない部分だけを補う。落ちる寸前の機体を、糸で縫い止めながら空へ戻す。

 

「死神が機体の上にいるのが、嘆かわしい」

「飛べてるでしょ」

「嘆かわしいと言った」

「なら飛ばして」

 

Ju87は短く息を吐いた。

 

「……進路、旧砦跡」

 

壊れかけた輸送機は、蒼星の糸に縫われたまま、朝焼けの空を進んだ。蒼星は糸を引いた。壊れた翼が、ぎしりと鳴る。だが、折れない。機体は大きく傾きながらも、旧砦跡へ向かって進み続けた。

 

雲が切れる。嵐が消えた空の向こうに、旧砦跡が見えた。

 

「見えたぞ!」

 

赤男爵が叫ぶ。だが、次の瞬間、その声から勢いが消えた。

 

「……なんだ、あれは」

 

旧砦跡。連盟と連合がぶつかるはずの戦場。

地図で見たそこには、森と丘陵と、崩れた砦の跡があるだけだった。少なくとも、凍星が示していた地形ではそうだった。

 

だが、今そこには大河があった。戦場を裂くように、巨大な水流が走っている。

 

本来あるはずのない川。

 

ましてや、船を浮かべられるような水量など、どこにも存在しないはずだった。その大河の上を、戦艦が走っていた。

 

「……戦艦?」

 

椒が呆然と呟く。

 

「戦艦だね」

 

凍星も、珍しく声に疲れが滲んでいた。

 

「なんで旧砦跡に大河と戦艦があるんだ」

「知らない」

 

蒼星は機体の上で糸を張り直しながら答える。

 

「こんな奇策、実行する集団を私は知ってる」

「奇遇だな、蒼星さん俺もだ」

「はぁ……十中八九、私たちの古巣が関わってますよこれ……」

 

砲声が響いた。

 

大河を走る戦艦の砲門が火を噴き、旧砦跡の一角へ砲弾が落ちる。土煙が上がり、魔法の障壁が砕け、さらに別方向から火球と雷撃が飛び交う。

 

連盟。

連合。

 

戦場は、すでに混沌だった。

 

「間に合った、とは言えるのか?」

 

椒が顔をしかめる。

 

「少なくとも、まだ終わってない」

 

凍星が白杖フィエルティジムを握り直した。

その時、蒼星がわずかに目を細めた。

 

「……あれ」

 

旧砦跡の上空。

 

戦場の砲撃と魔法が飛び交うその上で、二つの影が浮いていた。

片方は、何かの足場の上に立ち、妙に大きな声で喋って立ち、妙に大きいる。もう片方は、その横で看板のようなものを抱えていた。

 

松林とシジミーだった。

 

「さあ、始まりました旧砦跡決戦!実況は私、松林、そして解説も私、松林でお送りします!」

 

松林は空中に浮かんだまま、大仰に片手を広げた。

 

「さて解説の松林さん、本日の見どころは?」

「はい、やはり注目すべきは連盟と連合、双方の初動ですね」

「なるほど、初動ですか」

「ええ。特に連合側の奇策。これは見事に刺さっています」

「では、現状の流れをどう見ますか?」

「正直に申し上げましょう。このままなら連合優勢。よほどの番狂わせでもない限り、流れは覆らないでしょう」

「おおっと、解説の松林さん、かなり踏み込んだ発言です!」

「いえいえ、現地を見ればそう言わざるを得ません。戦場に本来ないはずの大河! その上を走る戦艦!いやあ、意味が分からない!」

『意味が分からないのに解説しているんですか?』

「そこは勢いです!」

 

シジミーはその横で、黙って看板を抱えていた。

 

「そしてこちら、ジミーさんによる現地看板情報も充実しております!ええ、喋るのは私だけです。ジミーさんは看板担当!役割分担が美しいですね!」

 

松林はそこで、ふと空を見上げた。

 

「……ん?」

 

戦場の上空を、壊れかけの輸送機が突っ切っていた。

 

左舷翼は歪み、外板は焼け、機体の上では黒白の装いを翻す人影が糸を張っている。

松林の声が、一拍遅れて跳ねた。

 

「おっとぉ!?ここで空から乱入者です!なんだあの飛び方は!飛行か!?墜落か!?いや、落ちていなければ飛行理論でしょうか!」

 

自分で言って、自分で頷く。

 

「解説の松林さん、あの機体をどう見ますか?」

「はい。どう見ても限界です」

「なるほど限界!では何故飛んでいるのでしょうか!」

「気合いですね」

「解説になっていません!」

 

松林はさらに目を凝らした。

 

「……待ってください。あれ、見知った顔がありますねぇ」

 

輸送機の上部。糸で機体を縫い止めながら、蒼星が立っていた。

 

「おとめさん!?」

 

シジミーが看板を抱えたまま、びくりと顔を上げる。

 

『蒼星さん!?』

 

「おとめさんです!間違いありません!行方不明扱いだった赤い死神が、まさかの空路で旧砦跡へ帰還!しかも機体の中ではなく上!普通は中に乗るものでは!?いえ、おとめさんなら上でも不思議ではないのか!?いや不思議です!」

 

松林は一人で頷き、一人で首を振った。

 

「そして中には、さつき!奏雨君も確認!これは事件です!これは美談です!これは売れ――おっと、報道です! あくまで報道です!」

 

シジミーがそっと看板を掲げる。

 

『赤い死神、戦場へ帰還』

『優しい赤い死神』

『蒼星夢小説好評発売中』

 

松林は満足げに頷いた。

 

「素晴らしいですね、ジミーさん。商魂と報道精神の融合です」

 

蒼星は、三枚目の看板を見た。

少しだけ目を細める。

頭が痛くなるような内容があった気がした。

 

「Ju87、進路変更。あいつらに突っ込む」

「理由は」

 

操縦席から、短い声が返る。

 

「戦力補充」

「今の機体で余計な重量を増やす理由としては弱い」

「あと、腹が立った」

「そちらが本音か」

「うん」

 

Ju87は一拍だけ黙った。

 

「了解した」

「了解するのかよ!」

 

椒が叫ぶ。

 

「進路上にいる。拾えるなら拾う」

「いや、突っ込むって言ったぞ、今!」

「拾うために突っ込む」

「言い方の問題じゃねぇ!」

 

壊れかけた輸送機が、わずかに機首を変えた。

蒼星の糸が機体の上を走り、左舷翼の角度を無理やり合わせる。外板が軋み、尾翼が震え、森へ向かって落ちかけていた機体が、ぎりぎりのところで空中の二人へ向きを変えた。

 

松林が実況を止めた。

 

「……ん?」

 

シジミーが看板を抱えたまま、ゆっくりと輸送機を見る。

 

『ごんにき、こっち来てない?』

「来ていますね、ジミーさん」

『避ける?』

「あの速さで来られたら、無理ですね、ジミーさん」

 

松林は咳払いをした。

 

「おっと、ここでおとめさん御一行、こちらへ急接近!これは取材対象から取材班への熱烈な逆取材でしょうか!」

 

蒼星の糸が伸びた。

 

「ごん、ジミー。回収する」

「おとめさん、回収という言葉に強制力がありすぎませんか!?」

『蒼星さん、看板だけは!』

「いい加減に喋れ」

「はい……」

 

シジミーは即座に看板を下ろした。松林が隣で感心したように頷く。

 

「ジミーさん、切り替えが早い」

「ごんにきも実況してる場合じゃないって」

「実況者は死ぬ瞬間まで実況を――」

「死にたくないんだけど!」

 

糸が二人を絡め取る。松林は最後まで芝居がかった声を張った。

 

「おっと、ここで取材班、取材対象による強制回収!これは救助か、拉致か、あるいは戦力徴用か!」

「戦力徴用」

 

蒼星が即答した。

 

「言い切った!」

 

次の瞬間、二人の身体が空中で引っ張られた。

 

「うわあああああ!」

「ごんにき、看板!」

「ジミーさん、今は命です!」

 

松林とシジミーが、壊れかけた輸送機の開いたハッチへ飛び込む。

 

正確には、飛び込んだのではない。投げ込まれた。

床を転がった松林が、勢いのまま壁にぶつかる。シジミーは看板を抱えたままその上に落ちた。

 

「ぐえ」

「ごめん、ごんにき」

「大丈夫です、ジミーさん。実況者は丈夫です」

 

椒が二人を見下ろした。

 

「檎さん、しじみさん。何やってんだよ」

「見ての通り、現地実況です、さつき」

「見て分からねぇから聞いてるんだよ」

 

凍星が白杖フィエルティジムを支えに立ち上がる。

 

「ごんさん、じみーさん。戦力として数えるから、動ける準備をして」

「奏雨君、到着早々その扱いは厳しくないですか?」

「この機体、もう落ちるし余裕がないんで」

「それは……なんでぇ?!」

 

松林の声が裏返った。

その答えの代わりに、輸送機が大きく沈む。

 

床が傾き、松林が壁へ滑り、シジミーが看板を抱えたまま座席にしがみついた。

 

「ごんにき、実況してる場合じゃないって!」

「ジミーさん、これは実況しなければならない状況です!現地実況、墜落寸前の輸送機よりお送りしております!」

「いや、だからやめてって!不吉すぎる!」

「やめろ、不吉だろ」

 

椒が大太刀を支えにして体勢を戻す。

 

赤男爵が前方で叫んだ。

 

「魔王!追加の積荷により機体重量がさらに限界である!」

「分かっている」

 

Ju87は操縦桿を押さえ込んだまま、前だけを見ていた。

 

「森へ入る」

「森へ入るって、着陸する場所じゃないですよね?」

 

松林が恐る恐る聞く。

 

「不時着地点だ」

「言い方を変えた墜落では?」

「生きていれば不時着だ」

 

松林は一瞬黙り、それから両手を広げた。

 

「なるほど!解説の松林さん、これはどう見ますか!」

「はい、非常に危険ですね!」

「そのままですね!」

「そのままです!」

 

シジミーが真顔で言った。

 

「ごんにき、現実逃避してないで」

 

その時、機体の上から蒼星の声が落ちた。

 

「黙って掴まって」

 

短い一言。全員が、反射的に近くの支柱や座席へ手を伸ばした。

 

蒼星は機体上部で糸を引く。左舷翼。尾翼。胴体。歪んだ外板。最後に、機体の腹へ糸を通す。

 

森が迫っていた。Ju87が操縦桿を倒す。

 

「衝撃に備えろ」

 

赤男爵が笑った。

 

「総員、着陸姿勢!」

 

椒が即座に言う。

 

「墜落姿勢だろ!」

 

松林が叫ぶ。

 

「旧砦跡決戦、空路突入編!まもなく強制着陸でございます!」

「実況やめろって!」

 

次の瞬間、輸送機は森へ突っ込んだ。




絶対に本人たちはやらないと思う。

赤咎焔星(アストラ・ギルティア)
合一魔法(ユニゾンレイド)によって発動した、蒼星と凍星の複合魔法。

凍星の『神代魔法:赤の咎』、蒼星の神装兵器《星天》、そして火属性弾が同一対象へ寸分の狂いなく重なったことで、システムが三つの効果を一つの魔法として再構成したもの。

『赤の咎』は、火弱点を保有する対象へ特効を持つ神代魔法であり、神代における処刑魔法の一種。ただ燃やす炎ではなく、咎を炙り、罪業を暴き、咎人を火刑に処すための焔である。

《星天》は、星を落とすために作られた神装兵器の一つ。
神代魔法との親和性が高く、『赤の咎』によって生じた神代の焔を受け入れ、火属性弾と噛み合わせることで、術式として落ちるはずだった焔を「星を穿つ弾丸」として再構成した。

星辰、罪を照らす刻。
我は裁きの軌道に立つ。

隠れし罪業よ、星下に顕われよ。
積もりし咎よ、焔の座に晒されよ。

赦しを乞うな。
悔いを語るな。

そのすべては、既に星が見届けた。

我、星の罪を炙るもの。
我、原罪を焼き尽くすもの。
我、咎人の名を炎に刻むもの。

星天よ。

神代の記録を開け。
赤き咎を焔と成し、
焔を星と成し、
星を、穿つための弾丸と成せ。

罪業を顕わにせよ。
咎を焼け。
命脈を貫け。

その果てに、悔いよ。

我は星を穿つ弾丸なり。
我は咎を焼く執行の焔なり。
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