Nocturne Reaper   作:Spica@お星

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連合会議

とある、連合のエリアの会議室に、連合の主たるメンバーが集まっていた。

 

会議の内容は、連盟と連合で行われる戦争についてだった。

 

旧砦跡。

 

連盟と連合が正面からぶつかると見られている戦場であり、今回の会議はその作戦方針を決定するためのものだ。

 

長机を囲むように、連合側の名だたるギルドマスターたちが座っている。そしてその中には、明らかに連合所属ではない男もいた。

 

月詠マキナ。

 

【月の智慧派】の総括であり、連盟にも連合にも属さない魔法職の頂点の一角。

 

「塩宮、何で部外者の月詠がいる」

 

最初に口を切ったのは、【オオミナト第八艦隊】のギルドマスター、Yo!曽郎だった。軍人じみた姿勢で椅子に腰掛け、腕を組んだまま、遠慮のない視線を月詠へ向けている。

 

「ここは連合の作戦会議だ。観光客を入れる場所じゃねぇぞ」

「月詠さんは私が個人的に雇いました」

 

塩宮は表情を変えずに答えた。

 

「今回は、傭兵兼アドバイザーという立場でいてもらいます」

 

会議室に小さなざわめきが広がる。

月詠はそれを楽しむように、ゆるりと目を細めた。

 

「いやあ、観光客とは手厳しい。我々としては、せめて招かれた客人くらいには扱っていただきたいものですねぇ」

「客人なら茶でも飲んで黙ってろ」

 

Yo!曽郎が雑に吐き捨てる。

 

「戦場に出るなら話は別だ。どこまで使える」

「使える、とはまた乱暴な言い方ですねぇ」

「乱暴で結構。戦争の話だ」

 

月詠は肩を竦めた。

 

「魔法、情報、戦場操作。必要なら、それなりに」

「それなり、ねぇ」

 

Yo!曽郎は鼻を鳴らした。

 

「胡散臭ぇ」

「その点については否定しません」

「否定しろよ」

 

会議室の端で、誰かが小さく突っ込んだ。塩宮が軽く手を上げると、ざわめきは収まった。

 

「月詠さんの立場については、私が責任を持ちます。連合の機密を必要以上に渡すつもりはありませんが、今回の作戦には彼の知見が必要です」

「必要、ね」

 

Yo!曽郎の視線が、塩宮へ戻る。

 

「そこまで言うなら聞く。どう使う気だ」

「その前に、現状の確認をします」

 

塩宮は机の上に広げられた地図へ視線を落とした。旧砦跡を中心に、連盟側の拠点、連合側の本拠地、補給路、進軍経路が書き込まれている。

 

「旧砦跡は中立区域ではありますが、私たちの拠点からは遠い」

 

塩宮が地図上の一点を指す。

 

「普通に兵を進めれば、補給線が伸びます。いくつものポータルを移動すれば、こちらの進軍経路、補給拠点が襲撃される可能性もあります」

「補給が切れりゃ前線は死ぬ」

 

Yo!曽郎が短く言った。

 

「当たり前の話だな」

「はい。さらに問題があります」

 

塩宮は地図上の別の経路へ指を滑らせた。旧砦跡へ向かう主要な進軍経路。その途中に、いくつか印が付けられている。

 

商工会の印だった。

 

「この経路を使う場合、商工会の管理下にある通行地点を通る必要があります」

松林(銭ゲバ)か」

 

誰かが苦々しく呟いた。塩宮は否定しなかった。

 

「商工会は、連盟にも連合にも完全には肩入れしていません。通行料を取ることで、両勢力の消耗と進軍速度の均衡を取っているのでしょう」

「戦争を商売の天秤に乗せてやがる」

 

Yo!曽郎が吐き捨てる。月詠はそれを聞いて、愉快そうに口元を緩めた。

 

「実に商人らしいですねぇ。戦争ですら流通と収支で測る。美しい」

「美しくねぇよ」

「我々は好きですよ、そういうの」

「だからお前は信用したくねぇんだよ」

 

Yo!曽郎の雑な言葉に、月詠は楽しげに肩を竦めるだけだった。

塩宮は話を戻す。

 

「陸路で兵を進めれば、補給線は伸び、金もかかる。複数のポータルを経由すれば、進軍経路も読まれやすくなる。補給拠点を襲撃されれば、私たちは立て直しが難しくなる」

 

塩宮の指が、旧砦跡へ置かれる。

 

「月詠さんの話によれば、商工会は連盟に対して物流を止めています。連盟に重しを乗せた形です」

 

会議室の何人かが、商工会の印へ視線を向けた。

 

「ですが、商工会は私たちの味方になったわけではありません。連合側には通行料を徴収し、さらに旧砦跡までの距離によって補給線が伸びる不利がある」

 

塩宮は静かに続ける。

 

「連盟には物流停止。連合には通行料と補給線の負担。商工会はその二つで、今回の戦争における両陣営のバランスを取っているのでしょう」

 

会議室に沈黙が落ちた。誰も反論しない。それは、塩宮の言葉が正しいからだった。

 

連合は戦えないわけではない。戦力もある。戦意もある。連盟と真正面からぶつかる覚悟もある。だが、戦争は覚悟だけでは行えない。兵を送り、物資を運び、拠点を維持し、次の兵を前へ出す。

 

その流れが止まれば、どれだけ強い前線でもいずれ崩れる。

 

「なら、どうする」

 

Yo!曽郎が低く問う。

 

「通行料を払って正面から行くのか。それとも、ポータルをいくつも経由して、補給線を伸ばしたまま戦うのか」

「どちらも採りません」

 

塩宮は静かに答えた。その声に、会議室の視線が集まる。

 

「道が不利なら、別の道を作ります」

 

月詠が、わずかに目を細めた。

 

「ほう」

 

愉快そうな声だった。Yo!曽郎は眉を寄せる。

 

「別の道だと?」

「はい」

 

塩宮は旧砦跡の地図に指を置いた。

 

「旧砦跡に、河を通します」

 

一瞬、会議室の空気が止まった。

 

誰かが瞬きをする。

誰かが塩宮を見る。

誰かが地図を見る。

 

そしてYo!曽郎が、眉間に皺を寄せて言った。

 

「……確認するぞ」

 

その声は低い。

 

「比喩じゃねぇな?」

「比喩ではありません」

 

塩宮は淡々と答える。

 

「戦場に河を作ります。戦場の近くには海があります。そこから水を引き込み、旧砦跡を水攻めにします」

 

会議室の空気が、わずかに揺れた。

 

「連盟は陸戦を想定している。ですが、戦場そのものが水に呑まれれば、前線の維持は難しくなります。陣形は崩れ、補給路は断たれ、指揮系統にも乱れが出る」

 

塩宮の指が、地図上の海から旧砦跡へと滑る。

 

「その混乱に乗じて、こちらの艦隊を本陣へ一気に突撃させます」

 

数秒の沈黙。その後、Yo!曽郎が口の端を吊り上げた。

 

「馬鹿げてる」

 

だが、その目は笑っていた。

 

「だが、嫌いじゃねぇ」

 

会議室の空気が、わずかに変わった。

 

荒唐無稽な案だった。

旧砦跡は水上戦場ではない。連盟も、連合も、そこを陸戦の舞台として見ている。

 

だが、近くに海がある。ならば、その海を戦場へ引き込む。

 

道が不利なら、道を作る。

陸が不利なら、陸を水に沈める。

 

「水を引くこと自体は可能です」

 

塩宮が視線を向ける。

 

そこに座っていた渚沙が、びくんと体を震わせた。

 

「うぇ!?私ですか⁉」

 

会議室中の視線が、一斉に渚沙へ集まる。

 

渚沙は慌てて背筋を伸ばし、両手を胸の前で小さく振った。

 

「え、えっと、できます!できますけど!その、私だけでやったら旧砦跡ごと連盟の皆さんを沈めちゃいますぅ!私、まだ人殺しにはなりたくないです⁉」

「……分かっています」

 

塩宮は淡々と頷いた。

 

「渚沙さんには、水を呼び込むための起点を作ってもらいます」

「起点……ですか?」

「はい。戦場の近くにある海から水を引き込む。そのための流れの入口です」

 

渚沙は地図を覗き込み、海と旧砦跡の位置を見比べた。

 

「……あー、なるほど。海から水を呼ぶなら……って、無理です!細かい制御とか、そういうの諸々!それに、自慢じゃないですが、フィールドを壊すなら得意ですけど、作るのは無理ですよ!」

「おい、塩宮。こいつ大丈夫なのか」

 

Yo!曽郎が渋い顔で言った。

 

「大丈夫です」

 

塩宮は即答した。

 

「本当にか?」

「渚沙さん一人に任せるなら大丈夫ではありません」

「駄目じゃねぇか」

「ですが、一人ではありません」

 

塩宮の視線が、今度は月詠へ向いた。

月詠は、待っていましたと言わんばかりに口元を緩める。

 

「そこで我々です」

「出た」

 

渚沙が小さく呟いた。

 

「何か嫌な予感しかしないんですけど」

「失礼ですねぇ。今回はとても穏当な提案ですよ」

「月詠さんの穏当って信用できないです」

「我々は傷つきました」

「絶対傷ついてないですよね⁉」

 

月詠は楽しげに肩を竦め、机の上の地図へ指を伸ばした。

 

「お魚さんの言う通り、海から水を呼ぶだけでは足りません。水量を用意しても、それを戦場に留め、流れとして成立させるには別の理が必要です」

 

月詠の指が、海から旧砦跡へと線を描く。

 

「海とは、月に引かれるものです」

 

会議室の空気が、わずかに変わった。

 

「満ちる。引く。押し寄せる。留まる。我々の月の魔法で潮の理を重ねれば、渚沙さんの作る起点へ海水を導き、旧砦跡へ押し込むことができる」

 

「……つまり」

 

塩宮が静かに言う。

 

「渚沙さんが水の入口を作り、月詠さんが潮の流れを与える」

「はい」

 

月詠は笑った。

 

「ただの氾濫ではなく、戦場を横切る河として成立させる。連盟の足元を水で崩し、陣形を割り、補給と指揮を乱す。そして、こちらはその河を進軍路として使う」

「発想が怖い!」

 

渚沙が素直に叫んだ。

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

「褒めてません!」

「お前ら漫才してんじゃねぇぞ」

 

Yo!曽郎が机を指で叩く。

 

「で、実際にできんのか」

「可能です」

 

月詠は即答した。

 

「渚沙さんが起点を作る。そこへ我々が潮の理を重ねる。完全な河川を作るわけではありませんが、戦場改変としてなら成立します」

 

月詠はそこで、愉快そうに目を細めた。

 

「その後、どういった影響が出るかは未知数ですがねぇ」

「おい」

 

Yo!曽郎の眉間に皺が寄る。

 

「今、さらっと聞き捨てならねぇこと言ったな」

「戦場そのものの地形を変えるのです。残留する水属性、月の魔法による干渉。それらが定着すれば、戦争が終わった後も河は残り続けるでしょう」

 

会議室に、別種の沈黙が落ちた。戦争が終われば、戦場は元に戻る。少なくとも、そう考えていた者は多い。だが、この世界はゲームだった。そして今もなお、ゲームだった頃の理を残している。

 

大規模なイベント。

特殊な魔法。

複数のプレイヤーによる戦場改変。

そこにシステムが何らかの意味を見出せば、地形そのものが記録される可能性はある。一度生まれた河が、旧砦跡の一部として残り続ける。あり得ない話ではなかった。

 

「それを先に言え」

 

Yo!曽郎が低く言う。

 

「言いましたよ。今」

「殴るぞ」

「暴力的ですねぇ」

 

月詠は楽しげに肩を竦める。渚沙が青い顔で小さく手を上げた。

 

「あ、あの……それってつまり、私がやらかしたら旧砦跡が水没マップになる可能性があるってことですか?」

「正確には、我々と渚沙さんでやらかす、ですねぇ」

「言い方!」

「責任は分け合うべきでしょう?」

「分け合い方が嫌すぎます!」

 

塩宮はそのやり取りを遮るように、地図へ視線を落とした。

 

「影響が残る可能性は承知しています。ですが、今回必要なのは恒久的な河ではありません。連盟の初動を崩し、本陣へ突撃するまでの時間を稼ぐための戦場改変です」

「結果として河が残ったらどうする」

 

Yo!曽郎が問う。

 

「その時は、その河を前提に旧砦跡の価値が変わります」

 

塩宮は淡々と答えた。

 

「交易路になるか、狩場になるか、防衛線になるか。少なくとも、連合にとって不利だけが残るとは限りません」

 

月詠が楽しそうに笑う。

 

「水属性の残留、月の干渉、戦場跡。新しい魔物、新しい素材、新しいクエスト。いやあ、夢が広がりますねぇ」

「お前、本当に戦争を何だと思ってんだ」

「大規模イベントですかねぇ」

「言いやがったな」

 

Yo!曽郎が吐き捨てる。だが、誰も完全には否定できなかった。この世界では、戦争もまた、システムに記録される出来事になり得る。ならば旧砦跡に河が残ることも、あり得る。

 

「……まあいい」

 

Yo!曽郎は低く唸り、地図へ視線を落とした。

 

「河ができる。流れも作れる。戦場も変わる。そこまでは分かった」

 

指先が、旧砦跡の地図を叩く。

 

「問題は、その上を船が走れるかだ」

 

その一言で、会議室の空気が変わった。

 

【オオミナト第八艦隊】。

 

水上戦力を保有する、連合側でも異色のギルド。本来なら、旧砦跡のような陸戦場で出番はない。だが、戦場に河が生まれるなら話は別だ。

 

「水があるなら、船は出せる」

 

Yo!曽郎は言った。

 

「ただし、戦艦や駆逐艦をそのまま突っ込ませるのは駄目だ。火力が強すぎる。敵を吹き飛ばす前に、戦場ごと壊す。味方も巻き込む。そんな雑な砲撃戦がしてぇわけじゃねぇんだろ」

「はい」

 

塩宮は頷いた。

 

「必要なのは、連盟を焼き払う火力ではありません。前線を割り、陣形を崩し、本陣へ到達するための突破力です」

「なら、機動力が必要になるな」

 

Yo!曽郎は机を指で叩いた。

 

「最高速度で、混乱してる敵陣中央を突破する艦が必要になる。駆逐艦みたいな小さいのはダメだ、人が運べねぇ……それに集中砲火を喰らえば、こっちが沈む」

 

そこで、おずおずと手が上がった。

 

「……あ、あの」

 

会議室中の視線が、今度は恋葉へ向く。

恋葉は小さく肩を跳ねさせ、抱えていた資料を胸元でぎゅっと握った。

 

「す、すみません。今の話なんですけど」

「恋葉さん」

 

塩宮が促す。

 

「そのままの艦を使うのは、たぶん無理です」

 

恋葉は恐る恐る資料を広げた。

 

「火力の問題もありますけど、旧砦跡に作る河は普通の河じゃないので、水深も幅も安定しないと思います。流れも月詠さんの魔法で変わりますし、地形そのものも戦場改変の影響を受けます。だから、普通の艦隊戦とは全然違う運用になります」

 

そこで一度、恋葉は口を閉じた。だが、Yo!曽郎は急かさなかった。ただ短く言う。

 

「続けろ」

「は、はい」

 

恋葉は資料をめくった。

 

「必要なのは、小回りが利く艦じゃありません。むしろ、ある程度大きくて、人を乗せられて、敵陣の中を突っ切っても沈みにくい艦です」

「だろうな」

 

Yo!曽郎が頷く。

 

「速くて、硬くて、人を運べる艦。しかも混乱した敵陣中央をぶち抜けるやつだ」

「はい。なので、駆逐艦みたいな小型艦を主力にするのは危険です。速さはありますけど、輸送力が足りませんし、敵陣中央で集中砲火を受けたら持ちません」

 

恋葉は少しずつ、声に熱を帯び始めた。

 

「逆に、大きすぎる戦艦をそのまま出すのも駄目です。火力が過剰ですし、旋回も難しい。だから、艦の役割を変えます。砲撃戦をする艦じゃなくて、突撃して、敵陣を割って、味方を運び込むための艦にするんです」

 

会議室の視線が、恋葉の資料へ集まる。

 

「まず、改装するのは青葉、古鷹、衣笠。この三隻です」

 

恋葉は資料の一枚を机に置く。

 

「この三隻は、先行して旧砦跡用に調整します。船首と船腹を補強。甲板は人員輸送と接舷戦を想定した形に変えます。前線を割った後、その場で味方が展開できるように、簡易拠点みたいに使える構造にします」

「青葉、古鷹、衣笠か」

「敵を焼き払うためじゃありません。連盟側が防御魔法や結界を張った時、それをぶち抜くために使います」

 

恋葉は資料をもう一枚めくった。

 

「通常砲弾ではなく、防御を破る事に特化した砲弾。徹甲弾を用意します。それともう一つ、拘束魔法をエンチャントした砲弾でできるだけ無力化を図ります。敵の防壁を砕いて、足を止めて、そこへ艦隊が突っ込むための穴を作るんです」

「砲弾を無力化のために使うか」

 

Yo!曽郎が口角を上げる。

 

「はい。水で陣形を崩しても、連盟側が防御魔法で立て直したら突破力が落ちます。だから青葉、古鷹、衣笠は、敵の防御魔法を抜いて、拘束砲弾で動きを止めて、突撃路を開く役です」

 

「重巡が穴を開ける」

 

Yo!曽郎が低く笑う。

 

「そこに主力をぶち込むわけだな」

「はい。それで、新造する艦は……」

 

恋葉は一度、息を呑んだ。

 

「金剛、比叡、霧島、榛名です」

 

その名が出た瞬間、会議室の空気がわずかに熱を帯びた。Yo!曽郎の目が細くなる。

 

「金剛型か」

 

その声には、明らかな納得があった。

 

「速くて、強い艦。敵陣を最高速度でぶち抜くなら、確かにそいつらだな」

「はい」

 

恋葉は頷いた。

 

「ただし、本来の戦艦として作るわけじゃありません。旧砦跡の河を走るための突撃艦です。火力で押し潰すんじゃなくて、速力と耐久と輸送力で敵陣を突破します」

 

言っているうちに、恋葉の声は少しずつ早くなっていった。

 

「金剛、比叡、霧島、榛名は艦隊の主軸になります。敵の前線が水で乱れたところへ最高速度で突入して、中央を割ります。重い一撃を撃つための艦じゃなくて、速くて強い船体そのもので突破口を作る艦です」

 

恋葉は地図上の旧砦跡を指差す。

 

「青葉、古鷹、衣笠が防御魔法を砕いて、拘束砲弾で敵の動きを止める。その穴へ金剛、比叡、霧島、榛名が突っ込む。砲撃で全部を吹き飛ばすんじゃなくて、艦そのものを楔にするんです」

 

「楔か」

 

Yo!曽郎が低く笑った。

 

「いいじゃねぇか。河を作って、そこに金剛型を最高速度でぶち込む。正気の作戦じゃねぇが、嫌いじゃねぇ」

「旧砦跡に河ができるだけでも、連盟側は混乱します。そこに金剛、比叡、霧島、榛名が突っ込んできたら、たぶん、何が起きているのか分からなくなります」

「普通は河ができた時点で分からねぇ」

 

Yo!曽郎が雑に言う。

 

「そ、そうなんですけど!でも、そこで止まらないのが大事なんです。河ができた、じゃなくて、河ができた瞬間に艦隊が走ってくる。考える時間を与えない。それが一番強いと思います」

 

Yo!曽郎はしばらく黙っていた。やがて、低く笑う。

 

「いいじゃねぇか」

 

その声に、恋葉がびくりと肩を跳ねさせる。

 

「えっ」

「綺麗な艦隊戦なんざ期待してねぇ。欲しいのは、泥と瓦礫と敵陣のど真ん中を最高速度でぶち抜く艦だ。速くて、硬くて、人を運べて、敵の度肝を抜ける艦」

 

Yo!曽郎は机の上の地図を叩いた。

 

「金剛型なら文句はねぇ」

 

恋葉は少しだけ頬を赤くし、それでも資料を握り直した。

 

「な、なら、詰めます。青葉、古鷹、衣笠は先行改装。金剛、比叡、霧島、榛名は新造。ただし本来の戦艦ではなく、旧砦跡の戦場改変に対応した高速突撃艦として設計します」

 

「資材はどうする」

 

Yo!曽郎が問う。

 

「商工会から一括で買うのは避けます」

 

塩宮は即座に答えた。

 

「通行料の問題もありますし、艦隊建造の資材まで商工会に握られれば、足元を見て価格を吊り上げられるでしょう」

 

塩宮は地図の横に置かれた別の資料へ視線を落とす。

 

「ですので、複数の商人から分散して買い付けを行います。燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト。必要なものは多いですが、何も商工会だけがこの世界の経済を回しているわけではありません」

 

月詠が愉快そうに笑った。

 

「おやおや。商工会を通さず、別口で艦隊建造の資材を集めると」

「ええ」

 

塩宮は淡々と頷く。

 

「一つの商会、一つの流通網に依存すれば、作戦の意図を読まれます。価格も釣り上げられる。ならば、用途を分け、名目を分け、買い付け先を分散する」

「悪くねぇ」

 

Yo!曽郎が低く言う。

 

「戦争は弾と燃料が切れた方から死ぬ。商工会に首根っこ掴まれるよりはマシだ」

「はい。艦隊は派手ですが、準備は地味に進めます」

 

塩宮の言葉に、恋葉が小さく頷いた。

 

「それなら、調達名目も分けた方がいいです。鋼材は防壁補修用、甲板材は建築資材、魔導部品は結界装置の予備部品、弾薬素材は狩場防衛用……みたいに」

 

言いながら、恋葉の声がまた少しずつ早くなる。

 

「青葉、古鷹、衣笠の改装用と、金剛、比叡、霧島、榛名の新造用でも買い付け先を分ければ、艦の数も誤魔化せます。あと、拘束魔法をエンチャントする砲弾用の素材は、普通の砲弾素材とは別扱いにしないと、数を見られた時に用途を読まれるかもしれません」

「そこは恋葉さんに任せます」

 

塩宮が言う。

 

「はい。……あ、いえ、できる範囲で、ですけど」

 

Yo!曽郎が鼻を鳴らした。

 

「十分だ。商工会に悟られねぇように集めろ。船ができて、弾があって、燃料があるなら、あとはこっちが走らせる」




Q:何で金剛型何ですか?
A:私が金剛型が好きだからです
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