ダンジョンに魔虚羅がいるのは絶対に間違っている   作:パクチーダンス

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マコーラは喋るんだ


原作前
第一話 誕生と出会い


 

 その『怪物』の誕生は、『迷宮(ダンジョン)』にとっても予期せぬ出来事であった。『迷宮(ダンジョン)』は生きている。

迷宮(ダンジョン)』はモンスターを生み出す。モンスターは人類の敵。じゃあアレ(・・)は?

 

 一体何故、何のために生まれてきたのか。

 

 結論は分からない。

 

 人類にも、神々にも分からない。

 

 様々な『奇跡』と『神秘』が重なった結果としか言えない。そう考える他、アレ(・・)を説明出来る術はない。

迷宮(ダンジョン)』はまだまだ謎が多い。『迷宮(ダンジョン)』にあり得ないなんて事はあり得ない。『迷宮(ダンジョン)』は時として、冒険者にも、神にも牙を向く。

 

 そもそもの話、アレ(・・)は『怪物』なのだろうか?

『彼』とも呼べるかもしれないが、しかし『彼』と呼ぶにはあまりにも異形なるその姿。

 

 身長は目視で3〜4mの巨大な大きさで、筋骨隆々な肉体。白っぽい肌。上半身は裸。下半身には白い腰布を巻いており、黒い袴のようなものを履いている。また、右手には剣が握られている、のではなく埋め込まれている?

 

 ここまでの説明なら、まだ『人』と呼んでもギリ許されるかもしれない。

 

 問題はその頭部。本来あるべき目と鼻がなく、そのあるべき部分からは翼のようなものが生えている。何を喋るわけでもなく、ただ剥き出しの白い歯を見せ、コチラに微笑んでいるよう。髪はない。その代わりに、動物の尾のようなものが後頭部から生えている。

 

 明らかに不気味なデザイン。極め付けは天使の輪、のように見える法陣が頭上で浮遊している。

 

 後、先程はアレ(・・)を『彼』と言ったが、そもそも『彼』が正しいのかは、これも分からない。本当は『彼』ではなく『彼女』なのかもしれない。

 

 曖昧な表現ばかりだが、アレ(・・)のことは色々と不明な点が多い。前提として、性別なんて考えるのが間違っているのかもしれない。アレ(・・)には性別なぞ存在しないのかも。

 

 やはり考えるだけ無駄だ。結論は分からない、だ。

 

 あぁ、そろそろアレ(・・)の外見的特徴の説明は終わりにしよう。先程の説明の通り、『迷宮(ダンジョン)』から生まれたアレ(・・)は、『人』でもないし『彼』と呼ぶには性別の確証がない。やはり最初の『怪物』が一番当てはまるだろう。

 

 では、これからアレ(・・)を『怪物』と呼ぶことにしよう。なんなら、もっと他に呼ぶべき相応しい名があったら是非とも教えて欲しい。

 

 何故なら、あの『怪物』を他の怪物(モンスター)達と一緒にするのは、憚られるからだ。

 

 

 

 

 あぁそうだ。肝心なことを忘れていた。今、君たちが頭の中で浮かんでいる『怪物』とこの『怪物』は少し違っているところがある。

 

 

  それは、意思疎通ができるということだ。

 

 

 言葉を話すことができるのかって? さぁ、それは分からない。口があるから多分喋れるとは思うけど、

無口と言うよりかはシャイなんだと思う。

 

 

 なんにしろ、あの『怪物』はその無口故、色々と誤解される場面が多々あるだろうから、許してやって欲しい。

 

 ほら、今だってあのロキ・ファミリア達から、敵意を向けられているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮(ダンジョン)』その深層。壁に突如として亀裂が走る。やがてその亀裂が周りへと伝播し崩壊を始める。その崩壊した壁から『怪物』が誕生した。誕生は劇的なものではない。とても平凡で、他のモンスター同様、ごくありきたりなものであった。

 

 誕生を祝福する者は、この場には誰もいなかった。

 

『…………………………』

 

 その『怪物』はまず周囲を見渡した。

 訂正しよう。見渡したところで全てが闇。ここが何処で、何なのかは『怪物』には分からなかった。

 

『………………』

 

 『怪物』は耳をすませた。声が聞こえてくる。四方から鳴り止まぬ、獲物を求める『生物』の声が。

 

 冒険者が一人で深層に放り出されたなら、精神を病み、発狂し、自ら自殺してしまうだろう場面であるのにも関わらず、『怪物』はとても冷静だった。

 

 まずは、この暗闇に慣れる必要があった。

 

     

         ガコンッ

 

 

 法陣が回転した。それが意味するところは、

 

『………………』

 

 視界がとてもクリアに見えた。明かりがあるわけでない。今までの暗闇が嘘のように地面が、壁が、ハッキリと『怪物』の目には映し出されたのだ。

 

   『怪物』は暗闇に『適応』したのだ。

 

 過酷なこの環境に『怪物』はほんの数秒で『適応』した。目が見えるようになった『怪物』が次にとった行動は、

 

『………………』

 

 歩くことだった。ズンッ ズンッ と確かな重量を地面に感じさせながら、『怪物』はただひたすらに歩いた。『怪物』はこの場所を『知る』必要があった。

 

 何事も、全ての生き物は『知る』ことから始まり、そして『適応』するのだ。

 

 歩く。歩く。ただひたすらに、歩く。

 

 すると前方に、生きている『生物』を発見した。赤く光らせたこの目は、真っ直ぐ『怪物』を捉えていた。

 

 ガルゥゥゥゥゥ!!

 

 その『生物』は『怪物』よりも小さく、四本の足で立っていた。そして『怪物』の足元に噛みついた。明らかに噛み付かれた箇所から赤い血を流しているが、『怪物』は酷く冷静にそれを観察していた。

 

『………………………』

 

 

         ガコンッ

 

 

 そしてしばらくして『適応』が始まった。

『怪物』はその『生物』を『敵』と認識して、右手の剣で突き刺し薙ぎ払った。地面に叩きつけられた『敵』はこの生命活動を失い、灰となって消えた。

 

『…………………』

 

『怪物』は突き刺した時、何か固いものに刺さった感触を感じ取った。それが何なのかはまだ分からない。しかし、それも時間の問題だ。

 

     ヴヴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

 聞こえる。『敵』の声が聞こえてくる。『怪物』はコチラに向かってくるのを感じ取る。 

 

 

          ニタァ

 

 

 ここには沢山の『敵』がいる。何度でも試せばいい。そして『適応』すればいい。

『怪物』は自ら『敵』の方へと歩みを進めていく。

 

 

         ガコンッ

 

 

 再び法陣が回転する。一体何に『適応』したのか。

 『怪物』が受けた傷が綺麗さっぱり消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィン、どうかしたか?」

 

 先頭を歩くフィン・ディムナに声を掛けるロキ・ファミリアの副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴ。先程から下を向いている彼に、心配の眼差しを向けている。

 

(なんなんだ、、、こ、、これは、、、)

 

 一方のフィンは、リヴェリアの心配なぞ届いてはいなかった。自分の親指がかつてない程の疼き、痙攣していることに頭を回すのに精一杯だった。

 

 自分達の遠征任務は終わり、これからオラリオへ帰還する際だというのに、どうしてこんなにも不安が襲ってくるのか。フィンには到底、理解することができなかった。

 

(一体、、何があると言うんだ、、、)

 

「フィン!」

 

 リヴェリアの大声に、ようやくフィンが声を掛けられていることに気が付いた。身体を震わし、声の主であるリヴェリアへと顔を向ける。

 

「フィン…………何だその汗は………」

 

 その指摘でようやく、自分が汗をかいていることにも気が付いた。

 

 異常だ。これはおかしいとリヴェリアはフィンの容態を気に掛ける。

 

「フィン、一体どうしたと言うんだ」

 

「どうしたのリヴェリア、そんな大声出してさ〜」

 

「団長、大丈夫ですか?」

 

 妹のティオナ・ヒリュテの呑気な声とは裏腹に、姉のティオネ・ヒリュテは愛しのフィンの変化に気が付き側に駆け寄る。

 

「フィン?」

 

「あぁ? どうしたんだよフィン」

 

 他のロキ・ファミリア幹部も、フィンの様子がおかしい事に気付く。皆がフィンを囲うように集まる。

 

「何か、嫌な予感がするんだ………」

 

「!? 全隊、一旦止まるぞ!」

 

 すぐさま後方の仲間へ指示を飛ばすリヴェリア。

 フィンの親指の疼きは、皆の周知するところ。

 危険を事前に察知してくれるその親指の疼きに、ファミリアは何度助けられたことか。

 

「皆、周囲を警戒しろ」

 

 リヴェリアの一声で幹部はすぐに周囲を見渡すが、特に何もない。何度も遠征の際に通った道だ。変わったところも見当たらない。

 

「………何もねぇぞ」

 

 皆の気持ちを代弁してベート・ローガがそう告げる。

 

「フィン、何が来るの?」

 

「……分からない。でも、親指が痛むんだ」

 

 疼きに伴い、今度は親指が痛みだした。何か、ナニかが起きようとしている。フィンの不安は既に最高潮に達する。苦痛に顔を歪ませるフィンを見て、一同も不安が押し寄せる。危険信号が鳴り止まぬ中、それは突然現れる。

 

「!? 何か来る!」

 

 最初に気が付いたのはアイズ・ヴァレンシュタインだった。それは偶然。何となく歩いて来た道を見ていた時、『何か』と目が合った気がしたのだ。自分達が通って来た道、その暗闇の奥から、生き物の気配を感じ取った。

 

 すぐさま戦闘態勢へと移り変わる。すぐに獲物を抜いて、姿を現すのを待っていた。

 

 カタカタカタカタカタ

 

(震えている? 私の腕が、、、、)

 

 腕が震える。こんなの、一体いつぶりだろうか。強敵を前にした時現れるこの現象に、アイズは最大限の警戒を暗闇の奥に向ける。

 

「アイズ! 何か見えたの!?」

 

「分からない、、、でも、ナニカが、、、」

 

 アイズが剣を向けるその先、彼らはジッと見つめていた。

 

「ヤベェ………」

 

 聞こえるか分からない、小さな声でポツリと呟いたのはベート。獣人である彼の感覚、その暗闇の奥に何を感じ取ったのか。額に汗をかく。

 

「おい雑魚ども、もっと後ろに下がれ!」

 

 しかしもう遅い。

 

「来た!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

         ゾワァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」

 

 

 ソレ(・・)が姿を現した時、身体中の毛が逆立つような感覚に襲われた。空気が、、、死んだ。

 

 明らかな異形なる姿をしたソレ(・・)に相対した時、彼らは恐怖で動けなかった。レベル5、レベル6の冒険者である彼らが、揃って動きを止めてしまった。

 

『…………………………』

 

 『怪物』はただ彼らを見ていた。観察していた。これほどまで違う肌の色・髪の色・体格・武器。多種多様な『生物』が集まっている光景に『怪物』は興味を示していた。

 

 彼らは『敵』なのか? 

 

『…………』

 

 瞳は赤く光ってはいない。戦って来た奴らと比べて体格は小さい。翼はない。鋭利な爪もない。強靭な顎もない。自分と同じ、二足歩行をしている。もしや、自分と同じ種なのだろうか。

 

 

(何故、、、何故、襲って来ないの!?)

 

 アイズは待っていた。目の前のモンスターが自分に襲いかかってくるのを。今もカタカタと音を立てて震える腕。彼女の瞳孔は大きく開かれ、瞬き一つ許さない状況。しかし、一向にそれが起こらない。

 

(何をしている、、早く、、来い!!)

 

 

(ダメだ! 絶対に手を出してはいけない!!)

 

 フィンはそう判断した。コイツは危険だ。

今まで会ったどのモンスターよりも、どの階層主よりも。コイツだけは、絶対に。

 

「皆、絶対に先に手を出してはいけないよ…………」

 

 こんな状況に陥っているのに、いやこの状況だからこそか。団長として、フィンはとても落ち着いた優しい口調で、そう指示した。

 

 恐怖に駆られる団員達は、フィンの声で冷静さを何とか取り戻そうとするが、それよりも先に『怪物』が動いた。

 

 ズンッ

 

 一歩、動いた。たったそれだけで、冒険者達は息が止まりそうになった。それが一番顕著に現れたのが、『怪物』に一番近くにいたアイズだった。

 

「ーーーッ!?」

 

 彼女は息を止めていた。足が震え出した。

 恐怖に駆られ、脈拍がどんどん上がっている。

 

(来い来い来いこいこいこいこいこいこいこい!!)

 

 いつだ? いつ襲って来る? そんな不安と恐怖でおかしくなりそうだった。

 

 

『………………………………………………………』

 

『怪物』は彼女の表情を観察していた。酷い顔だ。何故そんな顔をしているのか。理由は自分だろうと『怪物』は理解した。

 

 そして、一体何を思ったのだろうか。

 その『怪物』は、わざわざ遠回り(・・・)をした。

 

 アイズの真横を通り過ぎず、努めて壁沿いに歩いて通り過ぎたのだった。

 

        それは『配慮』。

 

 苦しそうだったから。怖がっていたから。可哀想だったから。自分がそうさせてしまったという

『謝罪』。それを行動に移しただけのこと。

 

 通り過ぎて行く。ベートを、ガレスを、ティオネを、ティオナを、リヴェリアを、そしてフィンを。

 

 そして、アイズ達が帰る道のりを『怪物』は歩いていく。すると何を思ったのか、『怪物』は振り返ってフィンを見た。

 

(!?)

 

 ビクッと身体を震わせる。『怪物』に目はついていない。しかし自分を見ていると、そう自覚させられたフィンは、目を逸さず『怪物』と向き合った。

 

『…………………』

 

 この小さな『生物』は声を発していた。指示を出していた。するとこの小さな、自分よりも小さいこの『生物』が、この中で一番偉いのだと『怪物』はそう判断した。

 

 しかしこの『生物』も怯えている。『怪物』はフィンから視線を切って、再び歩き始めた。そして、その姿が見えなくなるまで、アイズ達は動く事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーっぷはぁ!」

 

『怪物』の姿が見えなくなると、フィンは思いっきり息を吸い込んで、そして深く吐いた。バクバクと心臓の鼓動音がうるさい。

 

「何なんだ、、、何なんだあれはぁ!?」

 

「ベート! 静かにしろ!」

 

 ベートの叫びに激怒したのはリヴェリア。今の声で戻ってきたらどうする、という旨でベートを睨みつける。

 

「こ、怖かったぁ、、、」

 

 ティオナがペタンと地面に座り込んだ。それに続いて「もう大丈夫だ」と感じたラウル・ノールド率いる第二軍メンバーも地面に膝をつく。

 

「アイズさん!」

 

 アイズに駆け寄るレフィーヤ・ウィリディス。アイズはその呼びかけに応じず、ただ下を向いていた。

 

(私、、モンスターに、情けをかけられた、、、)

 

 あの行動の理由を、アイズはすぐに理解した。壊れやすい品を丁重に扱うような、そんな気遣いを。

 

「あれは……モンスターだったのでしょうか?」

 

「……………………分からない」

 

 レフィーヤの疑問にアイズは答えられない。

 けど、あれは人類ではない。もっと別の何かだ。

 

「フィン………」

 

「………あぁ、ここで立ち止まってはモンスターの餌だ。皆、次のセーフティポイントまで急ごう」

 

 フィンが立ち上がると、団員達も呼応するようにゆっくりと腰を上げた。だが問題がある。

 

「フィン、アイツがまたいたらどうする?」

 

「……………」

 

 ベートの問いに、フィンは答えられずにいた。今から自分達は、あの『怪物』が通った道を歩かなくてはならない。再び会う確率が高い。

 

 あの『怪物』、レベル7はくだらないとフィンは思う。いや、更にもっと上だと予想される。アレが外に出て来たら、一体どれだけの被害が…………。

 

「どうして襲って来なかったのかな?」

 

「私達を、敵とすら認識してなかったとか?」

 

 姉妹で考察し合っているのを耳にし、フィンは思考に耽っていた。

 

(あの『怪物』に目はついてなかったが、明らかにコチラを観察しているように思えた。圧倒的な存在感はあったけど、向こうに敵意は感じられなかった…………)

 

(普通のモンスター、とは違う。アレには知性があった。新種の、しかも知性のあるモンスター。いやそもそも、あれはモンスターなのか………)

 

「フィン」

 

「!」

 

 リヴェリアに肩を掴まれて、フィンはハッと顔を上げる。

 

「……すまないリヴェリア」

 

「いいんだ。私達もまだ混乱している状況だから」

 

 落ち着け。自分は団長なのだから。団員の顔を一人一人見て、フィンは団長として指示を下す。

 

「隊の変更を指示する。

 ガレスは最前列だ。後ろにティオナとティオネ、

 ベートはガレスに代わって最後尾。

 

 ………ガレス、もしヤツが襲って来たら死ぬ気で攻撃を受け止めてほしい」

 

「了解だ、フィン」

 

 仲間の壁役として自分の役割を理解するガレス。

あの『怪物』の攻撃を受け止められるかは分からないが、やるしかない。

 

「言うまでも無いが、気を緩めるな。

      安心するのはホームに着いた時だ」

 

 無事に家に帰ること。

 それが今のロキ・ファミリアの唯一の願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『怪物』の誕生にいち早く気が付いた者、神がいた。

 

「ぬぅ……!?」

 

「どうしたウラノス?」

 

 神ウラノス。人類に初めて『神の恩恵』を授け、オラリオを創設した最初の神で『都市の創設神』と呼ばれる神。自身はギルド本部の地下の祭壇の『祈祷の間』でダンジョンに祈祷を捧げ続け、彼の神威でモンスターの地上への進出を抑え込んでいる。

 

「『何か』がダンジョンで生まれたようだ」

 

「『何か』とは、モンスターの事か?」

 

 そう問いかけるのは、ウラノスに仕える魔術師。

 実年齢800歳を超える、骸骨の姿、名をフェルズ。

 

「モンスター、かもしれない。

 しかし、これまで感じたことの無い気配だ」

 

「『異端児(ゼノス)」か?」

 

「……分からない。それも違う気がする」

 

「貴方でも分からないことか、神ウラノス。

 もしや、ダンジョンが牙を向いたと?」

 

「………………」

 

 ウラノスは沈黙する。

 答えられる材料を持ち合わせていない。

 

 ダンジョンから生まれ落ちた『何か』。何故こんなにも胸騒ぎがするのだろうか。

 

「何も起きないことを、願うばかりだ」

 

 ウラノスは今日も、祈りを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ロキ・ファミリアは何事もなく帰って来ることができた。あの『怪物』とは会うことは無かった。

 

(それどころか、モンスターと交戦する回数も極端に減っていた。あの『怪物』の仕業だろうか………)

 

 なんにせよ、今考えても結論は出て来ない。フィンはそこで考えるのをやめた。

 

「皆んなおっかえり〜! 待っとったでぇ〜!」

 

 いつもの如く、門では神ロキが待ち構えていた。それをファミリアの幹部はヒョイヒョイと避けるが、ロキは避けられた先にいたレフィーヤに抱きついた。

 

「おかえりレフィーヤ! 相変わらず大きいなぁ!」

 

「キャーー!? ロキやめてぇー!?」

 

 抱きついた拍子に、胸部をこれでもかと弄るロキに、レフィーヤは杖で頭を殴る。いつもの日常に戻ったと、団員達はホッとする。

 

「イ、イタタ、、頭割れるかと思ったで」

 

「ロキ、その辺にしろ。後、話したいことがある」

 

 帰って来たばかりなのにフィンの真剣な表情、空気を読んでロキもふざけた態度をやめる。

 

「何があったんや、フィン」

 

 細い目のロキは、そのまぶたを少し開かせる。

 

「新種のモンスター、と言っていいのかな、、、

          まだボク達も分からないんだ」

 

「…………そうか。なら話は中で聞こか。

    けど改めて、皆んな無事でよかったわ〜!」

 

 主神の安堵の表情に、自分達も笑みが溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『怪物』がロキ・ファミリアと再会しなかったのには理由がある。それは、ダンジョンの階層を繋ぐ吹き抜けた穴に自ら身を投げたからだ。

 

 何故、そんなことをしたのか。呼ばれた気がしたからだ。微かに歌が聞こえて来たのだ。『怪物』はその歌に導かれるように穴に落ちた。

 

 何層まで落ちたのかは『怪物』には分からない。着地の際、二本の足に大きな衝撃が降りかかったが、全くの無傷であった。

 

 そうして歩き続けると、歌が大きくなる。近い。

『怪物』は大きな広間に辿り着いた。そして小さな泉、そこから顔を出している人魚(マーメイド)。歌い手はモンスターだった。

 

「ア、アナタハ、同胞ナノ……?」

 

『…………………』

 

『敵』に誘い込まれたと思った『怪物』は殺意を放ったが、人魚はそれに怯えて岩の陰に隠れてしまった。そして、先程あった『生物』達と同じような言語を発していた。『敵』ではない?

 

「ワ、ワタシ、マリィ。アナタハ……?」

 

 自分は誰かと問われている。しかし、『怪物』には自分が何者なのかを答える術が無かった。

 

『……………………』

 

「モシカシテ、コトバ、ハナセナイ?」

 

 

         ガコンッ

 

 

法陣が回転し、『怪物』は『適応』した。

 

『……ダレ?……………ワタシ、ハ……ダレ……?』

 

『怪物』は言葉を話した。

 

「ツイテキテ。同胞ニ、アワセテアゲル」

 

 人魚は泉の中へ入って行った。自分と同じ種がいるのか。その言葉に『怪物』は従い、泉の中へと入り後に追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の遠征、

 ボクたちは見たことの無い生き物を見た」

 

 会議室にはフィン、ガレス、リヴェリアの古参勢。

 そして主神のロキがいた。

 

「ほう、生き物ね。モンスターとは呼ばんのか?」

 

「さっきも少し言ってけど、モンスターと呼んでいいものか分からないんだ。ボクには、モンスターとは全く異なる『何か』だと思う」

 

「…………どんなヤツなん?」

 

 『怪物』の姿は目に焼き付いている。帰りの道中、絵が上手い団員に描いてもらっていた。それを見たロキの第一声は、

 

「何やこれ? 二本足で立っとるやん!

 それに顔ごっつ怖!? てか上半身裸やん!」

 

「……ロキ、頼むから真面目にしてくれ」

 

 諭すリヴェリアの顔は遠征帰りも相まってか、とても疲れている。

 

「ゴメンゴメン。ほんで? コイツと出会して、皆んなはどうなったん?」

 

「恐怖で動けなかったよ。逃げたくても、その場に黙っていることしか出来なかった」

 

 フィンは親指をさすりながら事実を淡々と述べる。

 

 ロキは驚愕する。ここに描かれているヤツは、そこまでの強者なのかと。オラリオ屈指の、レベル6の三人がそこまでの表情になるなんて。

 

「…………ギルドにはもう言ったんか?」

 

「いや、まだだ。団員達にも口にするなと伝えてる」

 

 すぐに情報規制に入るフィンに、ロキはいい判断だと首を縦に振った。

 

「……分かった。

   ウチは他の神達に探り入れてみるわ」

 

「頼んだよ、ロキ。ボク達もコイツの目撃情報がないか調べてみるよ」

 

「こんなヤツおったら絶対に話題に上がっとるで。今まで冒険者が出会さんかっただけか、あるいは……」

 

 口封じに、殺されたか。

 

「では何故、私達は生かされた? あの時は本気で死を覚悟した」

 

 殺されると思ったが、自分達は殺されなかった。

 

「何にせよ、この場では結論は出てこない。今は皆んなの命があって良かったと思うべきだ」

 

「……そうだな」   

 

 ロキ・ファミリアと『怪物』の出会いは、まだ物語の始まりの序章の、ほんの一部に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リド! 同胞ミツケタヨ!」

 

「オウ、デカシタゾ マリィ! 

 コンドノナカマハ スゲェー デケェナ!」

 

 

 

 

 

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