ダンジョンに魔虚羅がいるのは絶対に間違っている   作:パクチーダンス

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第二話  コミュ障

 

 ロキ・ファミリアが遠征から帰って五日が経った日のこと。アイズはあの時の出来事を毎日のように思い出していた。

 

(あれは、一体何だったの………?)

 

 その身に刻まれた恐怖。思い出すと腕が震える。アレのことは外では勿論のこと、ホーム内でも話題を出すのは一切禁止とされた。

 

(あの時、私が攻撃していれば、、、、、)

 

 どうなっていただろう。死んでいただろうか。自分一人では勝てなかっただろう。では皆んなとなら? 

 勝てる、とは言えない。それすらも怪しかった。

 

(あんなバケモノが、深層にいたなんて…………)

 

 コンコンッ と部屋をノックする音が聞こえた。

 そして次には、

 

「アイズ〜! 居る〜?」

 

「ティオナ?」

 

 自分を呼ぶ声に、アイズはベッドから起き上がると靴を履き、ガチャッ と音を立てて扉を開けた。

 

「あ、いたいた」

 

 自分を呼んだ声の主であるティオナ、傍には姉のティオネ、そして後ろにはレフィーヤがいた。

 

「ねぇねぇ。これからダンジョンに行くんだけど、

 アイズも行かない?」

 

 ダンジョン。遠征に帰ってから行ってないな、と

 アイズは心の中でそう呟いた。

 

「あんな事があったのに、この子ったらすぐ忘れちゃってさ」

 

「忘れてないよ! 後それ話すの禁止でしょ」

 

「あ、アイズさん。そんな深くにはいかないそうですので、その…………一緒に行きませんか?」

 

 目の前で姉妹が言い合っているのを戸惑うアイズに、レフィーヤはその姉妹の間を縫ってアイズを誘う。

 

「………うん、いいよ」

 

 部屋にいても体が鈍ってしまうばかりだ。あのモンスター?と出会った階層に近づかなければ大丈夫だろう、アイズはそう思った。

 

 アイズはすぐ愛用のデスペレートを腰に装備し、支度を始める。そして幸か不幸か、あの『怪物』との再会は早くも訪れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後『怪物』は『異端児』と呼ばれる者達と出会って、少しはこの場所のことを理解した。そして自分がその『異端児』と呼ばれる『生物』であるらしいことも蜥蜴人(リザードマン)のリドから教えてもらった。

 

「オマエノ ナマエハ、コンドアッタトキニマデニ 

カンガエテオクカラヨ」

 

『怪物』はもっとダンジョンを知りたいと思った。同胞達との空間は『怪物』にとっては心地の良いものだったが、別行動をすることになった。自分はどこから来て、何のために生まれて来たのかを『怪物』は知りたかった。そして今、『怪物』はダンジョンを歩き続けていた。

 

 自分を探すため、それにリドから同胞を探して欲しいという願いのため、『怪物』は今日も歩いていた。

 

 深層は『怪物』にとってなんら苦ではなかった。時に四方を囲まれようとも、自分よりも大きい『敵』と出会そうとも、『怪物』は全てを灰に帰してきた。

 

『………………』

 

 リドから教えてもらった『階層主』なるものは強敵で、仲間達と一緒に挑まないと負けてしまうのだとか。何れは戦ってみたいと『怪物』は密かに思っていた。

 

『怪物』は階層を繋ぐ巨大な穴を発見した。前は似たような場所から飛び降りてマリィと出会った。なら今度は上へと上がってみよう、そんな理由で『怪物』は崖を登ることに決めた。

 

「上層ニイケバ、冒険者トアウカラ注意シロヨナ」

 

 自分達は冒険者に見つかってはいけない存在なのだとか。しかしそれは遅かった。既に出会ってしまったことをリドに伝えると頭を抱えていた。

 

 冒険者。『怪物』は冒険者なる者達に興味を抱いていた。未知への探究。ダンジョン攻略を目的とする命知らずな『生物』。会って会話はできなくとも、近くで観察したかった。あの時出会った冒険者は、どれも強そうな『生物』ばかりだった。

 

 また出会ってみたいと思っていた矢先、『怪物』の願いに呼応するかのように、再会は偶然の産物として起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズ達がいる場所は25階層。この階層を構築するものほぼ全てが蒼色の水晶で出来ており、25階層から27階層は吹き抜け構造になっている。

 

「大丈夫だってレフィーヤ。『アンフィスバエナ』のリポップは三日後だから出てこないよ」

 

「は、はい」

 

『ブルークラブ』、『クリスタル・タートル』、

『クリスタロス・アーチン』『マーマン』

 

 この階層ならではのモンスターを、アイズ達は狩り尽くしていく。レフィーヤを除いたレベル5である彼女らにはこの程度のモンスターなぞ恐るるにも足らなかった。

 

「アイズ! そっち行ったよ!」

 

「うん、任せて」

 

 スキルを使うまでもない。アイズのデスペレートが3体の『マーマン』をものの数秒で片付ける。アイズの流れるような美しい剣技に、レフィーヤは頬を赤らめ「スゴい…」と感嘆する。

 

「レフィーヤ、ボサッとしてないでアンタも戦いなさい!」

 

「あっ、はい!」

 

 レフィーヤは杖に魔力を貯め、詠唱を唱え始める。

 

 

       解き放つ一条の光

 

        聖木の弓幹

 

       汝、弓の名手なり

 

       狙撃せよ、妖精の射手

 

        穿て、必中の矢

 

       【アルクス・レイ】

 

 

 

 レフィーヤの魔法で、最後のモンスターが灰となり消えたことで、アイズ達は一息ついた。

 

「どうする、そろそろホームに帰る?」

 

「そうだねぇ。遅いとママに叱られるしね」

 

 ママというのは、ロキ・ファミリア皆んなのお母さん的ポジションを担うリヴェリアのことである。

 

 そんなアマゾネス姉妹の会話から離れた場所で、

アイズは自分自身の手を見ていた。

 

(ステイタス、あんまり伸びなかったな………)

 

 能力値更新の身体のラグもない。

 

 それもその筈。遠征帰り、ロキにステイタスの更新をしてもらったが、レベル5になってからというもの、成長速度が著しく鈍化してしまった。

 

 今回の遠征も激しい戦闘が幾つもあったというのに、ステイタス値は前回と比べて差程変わることはなかった。アイズは成長の壁にぶち当たっていた。

 

(私は、立ち止まるわけには行かないのに………)

 

 

「アイズ、行くわよ」

 

 アイズが振り返ると、仲間達が自分を待っていた。ティオナが「早く早く〜」と手を振っている。レフィーヤも心配そうにコチラを見ている。

 

「今行く」

 

 そう言ってアイズも仲間達の元へ歩き出した時、それは突然起こった。

 

 

 

 

 

        ゾワァ

 

 

 

 

 

 

 その悪寒が身体中を駆け巡った時、時が止まったかのような錯覚を覚えた。しかし今度は彼女らの復帰は早かった。何故なら、これは二度目だったから。一同は周囲を警戒した。まさか、そんな事が。なんたる不幸か。嘘だと叫びたかった。

 

 ティオナは自身の武器である大双刀を、レフィーヤを守るようにして構える。ティオネもククリナイフを手に取り最大限警戒する。

 

「ッ!? アイズ!?」

 

 アイズにすぐ自分達の方へ来るように叫ぶが、肝心のアイズはある一点を見つめたまま、一歩も動いていなかった。アイズは目が離せなかった。

 

 そう。彼女が見つめていたのは、25階層から27階層にまで続く幅約400mにもなる大瀑布、巨蒼の滝(グレート・フォール)

 

 その滝の中から巨大な影が見えた。落ちてくる水の圧力をものともせず、まるで水遊びを終えたかのように、顔を左右に振りながら姿を現したのは、自分達に恐怖を植え付けた、あの『怪物』だった。

 

 

(どうして、こんな所に…………) 

 

 カタカタと震え出したその腕を、もう片方の腕で押さえ付ける。距離が離れているのに、こうも震えが止まらないものなのか。

 

(まずい。非常にまずいわ………)

 

 ティオネは最悪な状況の中、この場にいる誰よりも冷静に頭が働いていた。もし仮に、あの『怪物』が襲ってきた場合は100%死ぬ。戦うなんて一番の愚策。勝てないと本能が告げている。一刻も早く、あの『怪物』に気付かれずに逃げなければならない。

 

 あの『怪物』は27階層、自分達は26階層にいる。階層は違えど吹き抜け構造であるため、バレる可能性は大。だから地面を這う芋虫のように、そしてゆっくりと動かなければならない。

 

 言葉を発する事なくアイコンタクトで妹のティオナは理解し、静かに頷いた。そしてレフィーヤも、恐怖で目に涙を溜めながらもコクリと頷いた。

 

アイズ、早く来て

 

 ティオネの限りなく小さな声が、アイズの耳に届いた。この激しい滝の音が階層中に響いていても、聞こえたのはレベル5の聴覚故であろう。すぐさま振り向いて小さく頷いた。

 

 逃げなければ。あの『怪物』から逃げなければ。そしてその場から離れる前に、もう一度だけあの『怪物』へと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『怪物』はアイズを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズ達は理解していなかった。いや、それは無理もない話だった。『怪物』は、激しい轟音が鳴り響く滝のすぐ真横に立っていたとしても、その小さな声が拾える程の驚異的な聴覚を有していたのだ。

 

 それはこの階層が吹き抜け構造であった事、そしてアイズ達と『怪物』との距離がたった(・・・)の一階層分しか離れていなかったことに起因する。

 

「!?」

 

 アイズの身体中の穴から汗が吹き出す。

『怪物』が身を屈めた。あれはまさに、これから跳躍する姿勢だった。アイズは走り出していた。

 

「逃げて!!!」

 

『怪物』は飛んだ。恐るべき跳躍力。助走なんて必要ない。『怪物』は軽々とアイズ達との距離を縮めた。

 

 26階層に着地した時には、アイズ達は25階層へと全力疾走している最中だった。

 

「走って!!」

 

『怪物』を背にして走る冒険者達。後ろを振り向くことは許されない。『怪物』は逃げる様をしばらく眺めると、自分の足元にある物を発見した。そして、生に縋り付く冒険者達の後を追いかけた。

 

「「「「!?」」」」

 

 地響きが聞こえてくる。自分達に『怪物』が向かってくるのが分かる。

 

 走る、走る。けど、一体何処まで走ればいいのだろう。そんな事は考えは、死にたくないと走る今のアイズ達の頭には無い。ただひたすらに、走るしか選択肢はないのだから。

 

 

「ーーッ!?」

 

「!? レフィーヤ!!」

 

 

 それは必然。レベル3のレフィーヤには、レベル5のアイズ、ティオナ、ティオネの走る速度に合わせるのには限界があった。

 

 だからレフィーヤが転んでしまうのも、逃げる者の中から脱落者が出てしまうのは当然の結果といえる。

 

 レフィーヤは地面に転がった時、絶望した。このまま起き上がって再び走った所で、逃げる事は不可能だと。近づいて来る足音に、レフィーヤは絶望のドン底にいた。

 

(どうか、逃げて…………)

 

 自分が犠牲になり、その隙にアイズ達が逃げる事ができるのなら本望。だから、レフィーヤは起き上がることをやめた。やめて、その時を待った。死神が来る、その時を。だが、

 

「起きなさい! レフィーヤ!!」

 

 アイズ達はレフィーヤを置いて行かなかった。レフィーヤを庇うように、迫り来る『怪物』に剣を向けていた。恐怖に駆られながらも、誰一人として置いていく選択肢は持ち合わせていなかった。だって、家族なのだから。

 

「勝手に死ぬんじゃないわよ!!」 

 

 その怒号に応えるように、レフィーヤは地面に手をついて起き上がった。レフィーヤはもう一度生にしがみついた。

 

(死にたくない!!)

 

 死にたくない、その一心でレフィーヤは迫り来る『怪物』に杖を向けて戦う意志を示した。

 

(来るなら来い!)

 

(八つ裂きにしてやる!)

 

(絶対死ぬもんか!)

 

(リヴェリア様、私に力を……!)

 

 覚悟を決めた四人は迫り来る『怪物』と対峙する、

と思われたが『怪物』は急に減速し始めた。踵をブレーキに使用し、地面を抉りながらその巨体をアイズ達から約5メートル離れた付近で停止させた。

 

 アイズ達と『怪物』の間に、しばらくの静寂が流れた。一向に襲って来ない『怪物』を前に痺れを切らしたティオナは何を考えついたのか、

 

「こ、こんにちは……………」

 

『…………………』

 

 『怪物』は無言だった。ティオナは今にも恐怖が身体を包み込んでいた。顔を引き攣ってはいたものの、今できる最大限の笑顔を『怪物』に見せた。

 

『…………………』

 

『怪物』は動いた。

 

「「「「!?」」」」

 

『怪物』が動いた瞬間、アイズ達に緊張が走った。やはり来るか、そう思っていた矢先、

 

「あれは………」

 

 レフィーヤは何かを発見した。『怪物』が手にしている袋。あれは、アイズ達がモンスターを倒した後に回収していた『魔石』が入った袋だった。

 

 レフィーヤは『魔石』が入った袋を『怪物』から逃げる際の荷物になるとして投げ捨てたのだった。でも、何故あの『怪物』が持っているのか分からない。

 

『……………』

 

『怪物』は『魔石』が入った袋をアイズ達へ投げた。袋はアイズの足元に落ちて、地面に落ちた拍子に袋の封が開き『魔石』がいくつかこぼれ落ちた。

 

「も、もしかして、落とした物を拾ってくれた?」

 

『……………』

 

『怪物』は何も答えない。『怪物』は踵を返してアイズ達とは逆の方へと歩いて行った。そう、ダンジョンの奥へと。

 

『怪物』としては、数日ぶりに再会した知り合いに歓喜し近づいたに過ぎなかった。怖がらせるなど『怪物』の意図するところではなかった。しかし、やはり自分という存在は冒険者には恐怖の対象であるようだ。

 

 加えて、話すのが苦手な『怪物』は近付いたはいいものの、何を話せばいいのか分からなくて頭を悩ませていたのだ。

 

『怪物』は肩を落とした。『怪物』は何も話せなかったと深層へと帰って行った。

 

 

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