ダンジョンに魔虚羅がいるのは絶対に間違っている   作:パクチーダンス

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第三話 さらなる混乱

 

 アイズ達はホームへと帰還した。命があったことを仲間と喜び合い、すぐさまフィンにあの『怪物』と会ったことを報告した。

 

 ノックもせず、部屋に雪崩のように押しかけて来たアイズ達に目を丸くさせるフィンだったが、彼女達の話を聞いてガレスとリヴェリア、そしてロキを直ちに集まらせた。

 

巨蒼の滝(グレート・フォール)にヤツが?」

 

「うん………」

 

「アレが、中層近くにまで来ていたとは…………」

 

 フィンはアイズ達の報告を、頭の中で整理し始める。そんな中、神ロキは疑問を覚えた。

 

「なぁアイズたん」

 

「何? ロキ」

 

「ソイツは本当に敵なんか?」

 

 どういうこと? と首を傾げるアイズ。

 部屋いる団員の視線がロキ一人に注目していた。

 

「なんや話聞いとったらさ、ただ落とし物を拾ってくれた口下手な奴にしか思えてこやへんのやけど」

 

「ロキは会ったことないから言えるのよ!

 アイツの怖さを知らないから!」

 

 珍しく涙目になって迫ってくるティオネにロキは「分かった、分かったから」と上体を後ろに逸らし宥める。

 

「アイズ、レフィーヤ、ティオナ、ロキの話を聞いて君たちはどう思う?」

 

 肩を掴まれ、激しく揺らされ頭を前後しているロキを横目に、フィンは残る三人が『怪物』に抱いた印象について聞く。

 

「同じです。私、ずっと怖くって…………」

 

 杖を抱くようにして身を震わせるレフィーヤ。

 それにフィンは「ボクもだよ」と微笑んだ。

 

「んーー、私もレフィーヤと同じなんだけど、ロキにそう言われたら、私達が変に怖がってるだけなんじゃないかって思えてきちゃった」

 

 でも怖いけど、と最後に付け足したティオナ。

 

「アイズは?」

 

「私は………」

 

 アイズの視線がフィンから段々と下に向いて、最終的には自分の足元を見る。ちょうどその瞬間、ダンジョン内で『怪物』が自分を見上げていた記憶がフラッシュバックする。

 

 (!?)

 

 思わずたじろぐ。

 

「アイズ?」

 

「………私も、レフィーヤと同じです。あの時の私は、死ぬことを覚悟しました」

 

 そう吐露するアイズの表情は暗く、何処か違う場所を見ているようだった。

 

「………分かった。改めて四人共、無事に帰って来てくれたこと心から嬉しいよ。今日はもうお休み」

 

 リヴェリアは、無事に帰還してくれたことにアイズ達を抱きしめて、部屋から退室させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズが自室へ戻ると、真っ先ににベッドに向かってダイブした。

 

(疲れた………)

 

 肉体の疲労感はない、精神的な話である。魔法を行使したわけでもないのに、彼女は精神疲労(マインドダウン)のような倦怠感に襲われていた。

 

(もう、二度も見逃された…………)

 

 アイズは拳を強く握る。

 爪が皮膚に食い込むぐらいに。

 

(あれは、普通のモンスターとは違う。いや、モンスターなのかも分からないけど…………)

 

 アイズにはある一つの想いがあった。

 

 私は、これからアレと遭遇したらずっと、怯え続けなくてはならないのか。逃げることしかできないのか。幼い少女のように。

 

 モンスターを殺す。『黒竜』を殺す。そう誓った自分が、なんと滑稽なことか。

 

(嫌だ。もう逃げるのは………嫌だ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズ達が去ってから数秒の沈黙が流れた後、部屋の主人であるフィンがそれを破った。

 

「………ロキ、何か情報はあったかい?」

 

「いいや、何もあらへん。

 何も無さすぎて今日もオラリオは平和や」

 

 ロキは何処からか持って来た酒を開けて、グラスに注ぎ込む。

 

「ボクの方も何もない。今日のアイズ達の報告が新しい情報かな。これは、ボクの想像なんだけど……」

 

「なんや?」

 

「アレは、生まれたばかりなのかもしれない」

 

 何度も自分達は深層に潜っているが、出会ったのは前回の遠征が初めてだ。

 

 偶然出会わなかった? いやそれはないだろうとフィンは断じる。あの白い巨体は目立つ。今まで発見されて来なかったのが不思議なくらいだ。

 

 なら考えられることは一つ、アレが生まれたのはつい最近であること。じゃないと目撃情報が一つも上がってこないのが説明がつかない。

 

「ならフィン、このままギルドには黙っていていいのだろうか。アレと初めて出会ったのが私達なら、その危険性を他のファミリアに共有すべきじゃないか?」

 

 リヴェリアの発言に、ガレスも同じ意見のようで頷いている。レベル6の自分達でさえ、相対した時は戦慄を覚えた。第一級冒険者にもなると、戦わなくても相手の力量が分かってくる。アレは勝てないと。

 

 しかし、フィンの意見は彼らとは違った。

 

「…………………いや、秘密にしよう」

 

「何故だフィン。ヤツが襲って来ないという保証は何処にもない。私達に襲いかかって来なかったのは、単なる気紛れだったのかもしれないんだぞ」

 

「そうだね。仮に、ヤツが冒険者を襲った場合、その存在を、脅威を、ロキ・ファミリアが事前に知っていたことなれば、何故教えなかった、と間違いなく非難の的になる」

 

「ならば」

 

 そこまで理解しているなら、なぜ隠蔽する必要があるのだ。隠すことに利がない。

 

「だけどねリヴェリア、考えてみて欲しい。ボク達がヤツの脅威をギルドに知らせ、それをギルドは直ぐに全ファミリアへ通達するだろう」

 

「何を当然なことを」

 

「なるほどな………」

 

 リヴェリアとは違い、ロキはフィンの真意に気が付いた。

 

「フィン、アンタはウチらのファミリアに討伐依頼が来るのを懸念してるんやな?」

 

 フィンは静かに頷いた。

 

「ヤツは階層を自由に移動する。いずれは上層にまで足を運んでくるかもしれない。そうなった場合、冒険者の活動範囲は狭くなるどころか稼業を畳む者も出てくるだろう」

 

「………………」

 

「そして、最終的には、それを防ぐ為に中小規模のファミリアは揃ってボクらに願い出ることだろう。

"あのモンスターを倒してくれ"とね」

 

 隠蔽する事へのリスク。しかし、ギルドへ報告した場合に起きる混乱、最後には自分達それがに返ってくる。

 

「ボクらはオラリオを象徴するファミリアの一つだ。他の冒険者を気にかける必要はあるが、家族と引き換えには出来ない」

 

 フィンの頭の中では、ロキ・ファミリア全戦力で立ち向かっても、あの『怪物』に勝てる見込みは2割も無い。たとえ勝てたとしても、積み重なった仲間の屍を見ることになる。ファミリアの再建は図れない。

 

「それに、これはボクの勘だけど、アレはコチラから何かしなければ襲っては来ないと思うんだ」

 

「納得がいったよ。フィン、お前の判断に従おう」

 

 リヴェリアも、アイズ達の命の方が重い。

 

 だが、あの『怪物』が他のファミリアの冒険者に発見されるのは、もはや時間の問題だろう。何も無いことを祈るばかりだ。

 

 意見が纏まった所で、各々が席を立つが、

 

「あっ、ちょい待てや」

 

 ロキが待ったをかけた。

 

「なんだロキ?」

 

「肝心な事がまだ決まってないんとちゃう?」

 

 リヴェリア、ガレス、フィンでさえも、

 ロキの言う肝心な事が何であるか分からなかった。

 

「分からへんのか? ほら、名前や名前」

 

「名前だと?」

 

 聞き返すリヴェリアに、

 ロキはウンウンと笑顔で頷く。

 

「アレとか、ソイツとか、ハッキリせぇへんねん。自分らが最初に見つけたんやろ?なら名前決めようや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『白宮殿(ホワイトパレス)』。

 

 次産間隔が無く、モンスターが一定の数まで無限に産み落とされる大型空間『闘技場(コロシアム)』が存在する。ここでのモンスター達は、常に互いを殺し合い続けている日常を送っている。

 

 ここは階層主以上の危険度とまで呼ばれており、ここに立ち入ればモンスター達に囲まれて嬲り殺しに遭うのは確実な為、自殺行為にしかならない。

 

『スカル・シープ』『リザードマン・エリート』『ルー・ガルー』『スパルトイ』『オブシディアン・ソルジャー』『ペルーダ』『ウーズ』『バーバリアン』

 

 不幸にもそこへ迷い込んだ冒険者がいたのなら、生きることを諦めて、その身をモンスターに捧げるだろう。第一級冒険者揃いであるロキ・ファミリアの面々でさえも、決して足を踏み入れようとはしない。

そんな場所に、、、、、、

 

 

『……………………………………』

 

 その『闘技場(コロシアム)』の中心に、奴がいた。

 

 アイズ達と再会から数日後、『怪物』は深層最初の階層、37階層に足を運んでいた。

 

 何故こんな場所にいるのか。

 その理由は、単純に憂さ晴らしであった。

 

 

 『スカル・シープ』 足で踏み潰す。

 

 『リザードマン・エリート』 拳で殴り飛ばす。

 

 『ルー・ガルー』 頭部を握力で破壊する。

 

 『スパルトイ』 剣で粉々に切り刻む。

 

 『オブシディアン・ソルジャー』 噛み砕く。

 

 『ペルーダ』 毒針を目にねじ込む。

 

 『ウーズ』 飲む。

 

 『バーバリアン』 蹴飛ばす。

 

 

 会話すらまともに出来ない自分。それと同時に、相手を怖がらせてしまうことへの罪悪感。『怪物』は内に溜まった不満を吐き出すかのように、モンスター達に八つ当たりしているのであった。

 

 既に『適応』は終わっていた。『ペルーダ』の毒針も、『ウーズ』の酸の攻撃も、無害化してしまった。もはやここにいるモンスターなぞ恐るるに足らず。

 

 何度も何度も。生まれては消滅していくモンスター達。『怪物』はこの日から、この『闘技場(コロシアム)』をストレス発散の道具として扱うことに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 遠征から返って3週間が経過した。ロキ・ファミリアはアイズ達を最後に、あの『怪物』とは出会わなくなった。ギルドも他の冒険者も、何も変わっていないところを見るに、まだ発見されていないのだろう。それがフィンには、とても不気味に思えて仕方がない。

 

 あれから深層へと戻って行ったのだろうか。そんな考えが頭をよぎる中、今日も変わらないオラリオ。

 

 そこに、一人の冒険者がダンジョンから帰還し、必死の形相でギルドの窓口に駆け寄んだことで、平和は崩れ去る。

 

「た、大変だ!!!」

 

「ど、どうされたのですか!? ボールスさん!?」

 

 Lv.3冒険者 ボールス・エルダー。

 18階層の『リヴィラの街』の顔役。街の買取り所を営む、左眼に眼帯を付けた大柄なヒューマン。

 

「やばいモンスターが出たんだよ!

 見たこともねぇ、新種のモンスターだ!」

 

 ギルドホールで騒ぐボールス。周りの冒険者もザワザワとしだした。

 

 身体中から汗を流し、喋る今もガクガクと震えているボールスに、窓口の娘はただならぬ事だと感じ取った。

 

「何処で見たんですか?」

 

「25階層だ!あのバケモノ、いきなり水の中から現れたんだ!」

 

 その後も、窓口の娘に説明を続けているボールスを、遠くから見ていた冒険者の一人、ラウルは急いでホームへと走り出した。

 

(まずい! 団長に伝えないと!)

 

 

 

 

「分かりました。直ぐにこの事をギルド長は報告して参ります」

 

 事態を把握した窓口の娘は、ギルドから全ファミリアへの通達へ取り掛かる。

 

「い、いや、ちょっと待ってくれ!。仲間が、俺の仲間が27階層に取り残されてるんだ!」

 

「嘘………」

 

 突如として現れた未知のモンスター。その圧倒的な存在感からくる恐ろしさに、ボールスの仲間の一人が恐怖のあまり攻撃を加えた。そして、その冒険者は足を掴まれ下の階、27階層へと投げ捨てられてしまったのだ。

 

「た、頼む。俺の仲間を助けてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 27階層。『怪物』は頭を悩ませていた。その理由は、目の前で気絶している冒険者にあった。

 

 いきなり攻撃してきたので、『怪物』は思わず手で払いのけてしまった。十分に手加減したつもりであったが、思いの外この冒険者が弱すぎた為に、受け身もとれず下の階層まで落ちてしまったのだ。

 

『……………………………………』

 

 ここに放っておくか。しかしそんな事をしたら、この冒険者はモンスター共に食べられてしまう。『怪物』は気絶した冒険者から離れた位置の、岩に腰掛けて目覚めの時を待つことにした。

 

 最近、何もかも上手くいかないと『怪物』は肩を落とした。話し掛けることもままならず、今回はついに冒険者に手を出してしまった。

 

 リドからは、冒険者とは接触するなと再三言われていたのにだ。このままでは、彼らに申し訳ない。自分の行いのせいで、彼らの『夢』を遠ざけてしまっているのではないか。

 

 この場所は割と気に入ってはいたが、どうやら足を運ぶのは今回が最後となるだろう。 

 

 逃げた冒険者達は何処へ行ったのだろう。仲間を呼びに行ったのだろうか。願わくば、ここへ再び戻ってきて謝罪したい。そして、この冒険者を回収して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長!!」

 

 バンッ! という扉を開ける音と共にラウルがフィンの部屋へとノックもせずに入ってきた。

 

「ラウル、どうし「あのモンスターが現れました!」 !?」

 

 ついに目撃者が現れたかと、フィンはラウルと比べて冷静だった。

 

「何処だ?」

 

「25階層です! 発見者は『リヴィラの街』に拠点を置くボールスさん達です!」

 

「団長!」

 

 ラウルの後ろからもう一人、フィンの部屋に駆け込んできた者がいた。

 

 ラウルと同じロキ・ファミリアの第二軍メンバーであり、Lv.4 冒険者 アナキティ・オータム。

 

「25階層で、あのモンスターが発見されました。そして、冒険者の一人が襲われ、27階層で取り残されているようです」

 

「えっ!?」 「……………」

 

 想定していた中でも、起きて欲しくないことが起きてしまった。今すぐにでも救出作戦が行われるだろう。しかし、

 

(このままでは全滅する………!)

 

「団長、このままでは…………」

 

 アナキティも同様の考えに至ったのだろう。表情が険しくなる。そして、状況はさらに悪化していく。

 

「フィン! 大変だ!」

 

 焦るリヴェリア。彼女の次の言葉は、フィンの度肝を抜くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイズが、ダンジョンに向かってしまった!」

 

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