TS転生失敗作ちゃんが頑張る話   作:cannolo

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たくさん読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます。残念ながら私は見逃してしまったのですが一時はランキングの二桁台に入っていたらしいです。とても感謝...!


3.ミステリアスヒロイン(仮)

 

能力を使う練習を終えた俺は、人気のない倉庫街の壁へ背中を預けながら大きく息を吐いた。

 

夕焼け空だった。

 

赤く染まった空の下を配送ドローンが飛び回り、遠くでは巨大モニターの広告映像が明滅している。

どれだけ見ても、この世界は現実感が薄い。

 

だが、身体の疲労だけは妙にリアルだった。

 

「疲れた…」

 

ぼそりと呟き、俺は自分の掌を見る。

 

白く細い指。

 

女の手。

 

研究施設で目覚めてからまだ二日も経っていない。

それなのに俺はもう普通に能力を使っている。

 

物を吹き飛ばして。

 

地面を滑って。

 

人を助けて。

 

能力を試して。

 

気付けば、それを当たり前みたいに受け入れ始めていた。

 

「慣れって怖いな」

 

自分で言って少し笑いそうになる。

 

いや、本当に。

普通ならもっと取り乱すべきなのだ。

目覚めたら知らない世界で、知らない少女になっていた。

しかも漫画の世界。

 

冷静でいられる方がおかしい。

 

だが、いつまでも混乱していても腹は膨れないし、寝床も確保できない。

人間、案外どんな環境でも慣れることはできるらしい。

 

ふと、視界の端で巨大モニターが切り替わった。

 

『──未来を、次の時代へ』

 

透き通るような女性の声。

画面いっぱいへ白い都市景観が映し出される。

 

空中輸送レーン。

 

次世代発電施設。

 

医療ドローン。

 

最新式イデア制御デバイス。

 

その中央へ企業ロゴが浮かび上がった。

 

NOVARIS INDUSTRY

 

《ノヴァリス・インダストリー》

 

『人とイデアの共存を支える総合技術企業』

 

『ノヴァリスは新時代の未来を創造します』

 

爽やかなBGM、笑顔の家族、白衣の研究者、ヒーロー支援装備。

どこからどう見ても理想的な大企業だった。

 

だが。

 

「ヘリオス...」

 

自然とその名前が口から漏れる。

 

原作『アステリオン』における最大級の敵対組織。

 

それがヘリオス。

 

そしてノヴァリス・インダストリーは、その表向きの顔だ。

 

医療。

 

都市インフラ。

 

エネルギー事業。

 

ヒーロー装備開発。

 

イデア研究。

 

この世界のあらゆる分野へ食い込んでいる超巨大企業。

テレビをつければノヴァリスのCMが流れる。

病院へ行けばノヴァリス製医療機器が並んでいる。

ヒーロー企業の装備にだってノヴァリスの技術は使われていた。

 

世界そのものへ根を張った企業。

 

それがノヴァリス。

 

そしてその裏側に存在するのがヘリオス。

 

人体実験。

 

人工イデア保持者。

 

能力者兵器。

 

より高位のイデア保持者を作り出すための狂った研究組織。

原作でヘリオスが進めていたのは、《ネクサス計画》。

既存人類を超える、新たな生命を生み出すための研究。

 

現人類と次世代存在を繋ぐ“接続点”という意味でネクサスというらしい。

 

ヘリオスは現在の人類を“不完全な過渡期”として扱っていた。

そして、その先に存在する新たな生命。

それを“セカンド”と呼んでいた。

 

数多のイデアを扱う次世代の人類、そんな意味で使われてたはずだ。

原作でナオも、組織からそう呼ばれていた。

そして今の状況を見る限り、多分俺も。

 

「ちょっとやばいかも...」

 

小さく呟きながら自分の手を見る。

 

白く細い、知らない少女の手。

 

研究施設。

 

実験体。

 

常人よりも強力な身体能力。

 

イデアの複数所持。

 

ここまで揃っていて、自分だけ無関係なわけがない。

俺は恐らく、ヘリオスの実験体だった。

それも、多分ナオと同じ《ネクサス計画》の。

 

だが。

 

そこで一つ、ずっと引っ掛かっていたことを思い出す。

原作で成功体はナオ一人だけだった。

 

なら、俺は何だ?

 

俺は少し考え込み、それから小さく息を吐く。

 

「……多分、この身体自体は失敗作だったんだろうな」

 

原作で描写されていた、水槽の中で眠り続ける実験体たち。

意識も人格もない、死んでいないだけの空っぽの器。湊とナオが施設を脱出する際、建物の崩壊に巻き込まれて消えてしまう命。

本来、この身体もああなるはずだった。

 

そこへ偶然、死んだ俺の意識だけが入り込んだ。

 

だから人格が定着した。

 

その結果、本来なら失敗作だった肉体が、偶然“成功体みたいに成立してしまった”。

 

「そう考えると、一応辻褄は合うのか……?」

 

自分で言いながらもいまいち納得できていない。

だが、その仮説なら色々と説明もつく。

 

本来、成功していたのはナオだけ。

俺は本来ならそこに存在しないイレギュラーだ。

 

「…いや、それはそれで怖いな」

 

もしヘリオスがその事実を知ったら。

間違いなく俺はナオと同じ研究対象になる。

 

考えただけで胃が痛くなり、俺は小さくため息を吐いた。

 

原作でのナオは、ヘリオスから名前すら与えられていなかった。

 

成功体。

 

被検体。

 

管理番号。

 

人間として扱われていなかった。

 

施設から湊とナオが脱出した直後のシーンを、俺は今でも覚えている。

 

戦闘で傷を負った湊へ、ナオが恐る恐る手を伸ばす。

 

淡い光が湊へ灯る。

すると裂けていた傷口が、少しずつ塞がっていった。

 

湊は驚いたように目を見開く。

 

『……傷を治せるのか?』

 

ナオは無言のまま小さく頷く。

それから湊は少し考え込み、ふと口を開いた。

 

『お前、名前は?』

 

返事はない。

いや、答えられなかった。

そもそも名前なんて与えられていなかったから。

その沈黙だけで、湊は何となく察したようだった。

 

『傷を“治せる”から』

 

『それじゃ、ナオだな』

 

『ナオ…』

 

少女が小さく復唱する。

初めて聞く音を確かめるみたいに。

 

『お前の名前だ、思いつきだけどな』

 

湊がそう言うと、少女はぱちりと目を瞬かせた。

 

『なまえ……』

 

その言葉を、ゆっくり噛み締めるみたいに繰り返す。

 

『……ナオ』

 

もう一度。

今度は少しだけ柔らかい声だった。

表情はあまり変わっていない。

 

でも、ほんの僅かに口元が緩んでいた。

それからナオは、自分の胸元へ手を当てる。

大事なものを確かめるみたいに。

 

『わたしの、なまえ…』

 

小さく呟く声は、どこか嬉しそうだった。

 

「……あそこ好きだったな」

 

思わずぼそりと漏れる。

 

原作の湊は不器用だ。

口も悪いし愛想もない。

でも、ああいうところで自然に人を救ってしまう。

だから好きだった。

 

「……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか」

 

俺は小さく頭を振る。

原作知識だって大雑把ではない。

好きだったから、かなり読み込んでいた。

 

展開も伏線もキャラ設定も割と覚えている。

 

だからこそ怖い。

 

この先、どれだけ地獄みたいな展開が待っているのか知っているから。

そして、この世界は能力さえあれば自由に暴れられるような場所でもない。

 

イデアは発現した時点で国への登録が義務付けられている。

 

能力の種類。

 

危険度。

 

出力。

 

犯罪性。

 

それらを検査され、管理される。

 

簡単な能力なら日常使用許可だけで済む。

だが、高出力型や危険性の高い能力は別だ。

 

資格、免許、許可証。

 

それらがなければ公の場での使用は禁止されている。

当然、戦闘利用なんて論外。

未登録イデア保持者による能力使用は普通に犯罪扱いだ。

 

だから原作序盤の湊は顔を隠していた。

正式なヒーローじゃない。

ただの一般人。

そんな人間が街中で能力を使えば、普通に警察案件である。

 

黒いパーカーに深く被ったフード。

それが初期アステリオンの姿だった。

 

後の正式スーツ姿もいいが、個人的にはこっちも好きなんだよな。

なんか素人感というか、必死さがあって。

 

その時、不意に思い出す。

 

「あ」

 

俺は顔を上げた。

確か、そろそろだったはずだ。

灰崎湊が、ヴィランと本格的に戦う事件。

 

原作序盤のエピソード。

 

そこから湊は本格的に戦いに巻き込まれていく。

 

「見るだけなら」

 

ぽつりと呟く。

関わるつもりはない。

本当に見るだけだ。

聖地巡礼みたいなものだった。

 

俺はそんな言い訳をしながら立ち上がる。

 

その時、不意にあることを思い出す。

 

「……そういや靴買わないとだった」

 

能力の練習で滑り回った結果、靴底には綺麗に穴が空いている。

完全に貫通済みだ。

俺は小さくため息を吐きながら歩き出した。

 

ヘリオスだの実験体だの考えていたはずなのに、結局今の俺を悩ませているのは靴代だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方の街は、人の波とネオンで満ちていた。

 

仕事帰りの会社員。

制服姿の学生。

買い物袋を提げた人々。

 

大型モニターではヒーロー企業の広告が流れ、空中を小型ドローンが飛び回る。

 

前世より少し未来的で。

だけど、どこか現実味のある街。

その中を歩いていると、妙に周囲の視線を感じた。

 

「……」

 

いや、気のせいじゃない。

すれ違う人がこっちを見る。

学生グループがひそひそ話している。

 

さっきなんて普通に二度見された。

 

原因は分かっている。

 

ショーウィンドウへ映る自分を見て、俺は小さくため息を吐いた。

 

銀色の髪、淡い緑色の瞳、整いすぎた顔立ち。

 

目立つのは当たり前だ。

普通に歩いてるだけで視線を集めてしまう。

前世では完全に無縁だった現象である。

 

「落ち着かない...」

 

思わずぼそりと漏れる。

昨日よりは慣れた。

慣れたけど、だからといって平然としていられるわけではない。

美少女って大変なんだな、と頭の悪い感想が頭を過った。

 

そのまま俺は視線から逃げるみたいに靴屋へ入る。

能力の練習で穴が空いた靴は流石に限界だった。

歩くたびに妙な感触がある。

 

俺は適当に安めのスニーカーを選び、試着用の椅子へ腰を下ろす。

 

その時だった。

 

店内モニターからニュース速報が流れ始める。

 

『本日未明、湾岸区域にて違法イデア使用による傷害事件が発生──』

 

画面へ映るのは、破壊された道路。

ひしゃげたガードレール。

焼け焦げた車。

ヴィラン犯罪。

 

この世界では日常茶飯事みたいに起きている。

前世では漫画の中の出来事だった。

だが今は違う。

普通に人が死ぬ。

巻き込まれて下手をしたら俺も死ぬ。

 

俺は無意識に視線を逸らす。

 

その時、頭の奥で原作の展開が浮かんだ。

 

「……あ」

 

確か、この辺りだったはずだ。

湊が初めて本格的にヴィランと戦うのは。

 

相手は身体強化系の能力者、違法薬物によって暴走した半グレ崩れの男だった。

 

単純なパワー型だが、身体強化系はシンプルに強い。

速度も耐久も火力も全部上がる。

原作序盤の湊は、割と苦戦していた記憶がある。

 

「…行くか」

 

気付けば口から漏れていた。

 

いや、別に助けに行くわけじゃない。

本当に見るだけ。

原作と差異がないか確認。

 

そんな感じだ。

 

……多分。

 

俺は会計を終えて靴を履き替え、そのまま店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は既に暗くなり始めていた。

 

ネオンが灯り始めた街を、俺は歩く。

原作の記憶を頼りに路地を曲がり、人気の少ない区域へ向かっていく。

 

やがて、遠くから鈍い衝撃音が響いた。

 

「……始まったか」

 

俺は近くの雑居ビルを見上げる。

高さは五階ほど。

工場跡地を見下ろすにはちょうどいい。

 

周囲を見回す、人影はない。

 

俺は小さく息を吐き、路地裏へ入った。

 

コンクリートの壁、薄暗い空間。端の方もゴミ箱からは異臭が漂っている。

 

俺はゴミ箱の脇へ立つと、軽く膝を曲げる。

 

そして。

 

地面を蹴った。

 

身体が一気に浮く。

 

そのまま壁へ足を叩き込む。

 

ドンッ、と鈍い音。

 

踏み込んだ瞬間の勢いをそのままに、身体がさらに上へ跳ね上がる。

 

「おお……!」

 

思わず声が漏れた。

 

二歩、三歩。

壁を蹴る度に身体がどんどん上へ駆け上がっていく。

 

前世じゃ、こんな動き漫画の中だけだと思っていた。

それが今は、自分の身体で普通にできている。

 

風が髪を巻き上げる。

銀色の髪が夜風へ広がり、淡いグレーのコートが大きく翻った。

ロングスカートの裾までふわりと浮き、視界の端で揺れる。

一気に高い場所まで駆け上がっていく感覚が妙に気持ちいい。

 

「ちょっとこれ、楽しい…!」

 

思わず笑ってしまう。

最後に強く踏み込み、俺は屋上の縁へ手を掛けた。

そのまま身体を引き上げ、静かに屋上へ降り立つ。

 

「おぉ…!」

 

小さく呟きながら自分の足を見る。

改めて、自分が人間離れしてしまったのだと実感した。

だが、不思議と嫌な気分ではなかった。

むしろ少しテンションが上がっている。

やっぱこういうのってロマンあるな、と頭の悪い感想が頭を過った。

 

俺は気持ちを切り替え、屋上の端から下を覗き込む。

 

「……おぉ」

 

思わず小さく声が漏れる。

 

工場跡地が一望できた。

 

壊れたコンテナ、錆びた鉄骨、人気のない広場。

 

そして、その中央。

 

巨大な男が暴れていた。

 

筋肉が異常に膨張している。

皮膚の下で血管が浮き、目は充血しきっていた。

身体強化系イデア。

しかもかなり暴走しているようで自我が感じられない。

 

原作通りだった。

 

「クソッ……!!」

 

その男へ突っ込んでいく影。

 

黒いパーカー、深く被ったフード。

 

アステリオン。

 

まだその名前すら持っていない頃の灰崎湊だった。

少し離れた位置で物陰に隠れたナオも見える。

 

男の拳が振り下ろされる。

 

轟ッ、と空気が唸る。

だが湊はギリギリで回避。

地面が砕け、コンクリート片が弾け飛ぶ。

 

「っ……!」

 

湊が反撃の拳を叩き込む。

 

瞬間。

 

拳から青紫色の光が弾けた。

 

夜空へ散る粒子は、まるで星屑みたいだった。

 

青とも紫ともつかない輝き。

 

キラキラと尾を引きながら空気へ溶けていく。

 

未知のエネルギーを操る。

 

それが湊のイデア。

 

現時点での湊は、自分の能力を“身体強化系”だと思っている。

 

実際は違う。

 

湊の本質はエネルギー制御。

 

操作、放出、変換。

 

かなり応用性の高い能力だ。

 

だが今の湊は、それを身体強化にしか使えていない。

だから戦い方も荒い。

 

エネルギーを纏った拳で殴る。

強化した身体能力で押し切る。

そんなシンプルな戦闘ばかりだ。

 

それでも。

 

「やっぱり強いな…」

 

思わず小さく呟く。

 

一撃一撃が速いし、重い。

 

荒削りなのに異様に強い。

男の拳を紙一重で避けながら、湊が踏み込む。

 

青紫色の閃光。

 

衝撃。

 

ヴィランの巨体が吹き飛ぶ。

 

だが。

 

「ガァァァアア!!」

 

男は止まらない、理性が飛んでいる。

薬物で無理矢理強化されたタイプだ。

痛みも恐怖も機能していない。

 

「チッ……!」

 

湊が舌打ちする。

 

その時に不意に湊の体勢が崩れた。崩れた瓦礫に躓いたのだ。

 

そこへ男の腕が振り下ろされる。

 

原作でもここ、割と危なかったな、なんて懐かしむように思い出す。

 

轟音。

 

だが次の瞬間。

 

青紫色の光が湊の腕へ収束した。

火花みたいな粒子が散る。

男の拳を正面から受け止めた瞬間、衝撃が弾けた。

 

空気が震える。

 

アスファルトへ亀裂が走る。

 

「っ……!」

 

湊が歯を食いしばる。

 

重そうだ。

今の湊は、まだ能力をかなり無駄遣いしている。

出力任せに強化しているだけだから燃費も悪い。

 

原作では湊が勝っていたがこうして見ていると、どちらが勝つか予想がつかない。

 

思わず息が漏れる。

 

男の拳を弾き、湊が低く踏み込む。

青紫色の光が足元で弾けた。

エネルギーを爆破して加速を生み出し、その勢いを利用して強烈な蹴りを放ったのだ。

 

次の瞬間。

 

轟音と共にヴィランの身体が吹き飛んだ。

巨体がコンテナへ激突して大きく歪む。

 

そして、男はそのまま崩れ落ちた。

 

「……終わった」

 

俺は小さく息を吐く。

 

やっぱり強い。

原作知識込みでも、実際に見ると迫力が違う。

 

その時だった。

 

ふと、下にいたナオが顔を上げた。

 

俺と同じ銀色の髪が夜風に揺れる。

 

そして。

 

ナオの視線が真っ直ぐこちらへ向いた。

 

「……え」

 

思わず声が漏れる。

距離はかなりある。

しかも俺は屋上の端から隠れるように見ていた。

どうして俺に気づけたんだ?

 

ナオは不思議そうに小さく首を傾げながら、じっとこちらを見ていた。

 

その仕草が妙に原作のナオらしくて、気が抜けてしまう。

 

「いやいや、なんで気付くんだ…」

 

原作でもナオはコピーした能力により感覚が鋭かった。

 

視線、気配、空気の流れ。

そういう些細な変化へ敏感だった気がする。

俺はそのことを失念していたことを後悔していた。

 

その時。

 

ナオが、湊の服の裾を軽く引っ張った。

 

湊が振り返る。

 

そしてナオは、静かにこちらを指差した。

 

「えっ…」

 

俺は思わず顔を引き攣らせた。

 

フードの奥。

 

湊の視線が真っ直ぐこちらへ向く。

 

数秒、沈黙。

 

夜風だけが屋上を吹き抜ける。

 

「……降りるか」

 

俺は小さく息を吐く。

 

原作には極力介入はしたくなかった。自分が原因で未来が悪い方向へ変わることを恐れたからだ。

 

だが、このまま逃げたら何かやましいことがあるのだと思われて、敵だと認定されるかもしれない。

 

ナオと同様に、俺もヘリオスから狙われる可能性が高い以上、主人公である彼と知り合って損するようなことはないだろう。

それに、少なくとも灰崎湊は何も話を聞かずに敵だと断定するような人物ではない。

それは原作を読んでいた俺が一番知っている。

 

湊からしたら俺の存在は不信極まりないだろう。

とりあえず彼の警戒を解いて、どうにか敵じゃないと認識してもらえるように頑張ろう。

 

とりあえずなるようになれ、なんて適当なことを考えながら俺は屋上の縁へ近付くと、そのまま地面へ飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜風が吹き抜ける。

 

俺は屋上から身を投げ出すみたいに跳び、途中で壁を蹴った。

落下の勢いを横へ流し、そのまま地面へ着地する。

コートの裾がふわりと揺れ、少し遅れてロングスカートが脚へ絡むみたいに揺れた。

 

……未だにこの格好だけは慣れない。

前世なら絶対縁のなかった服装だ。

だが最近は、こうして動いた時に邪魔にならないよう自然と身体が動いてしまう。

人間って何事にも慣れる生き物なんだな、と妙なところで実感する。

 

「お前は誰だ」

 

低い声だった。

 

フードの奥から向けられる視線に、思わず息が詰まる。近くで見る灰崎湊は、思っていたよりずっと圧があった。

 

戦闘直後だからか空気が張り詰めている。

 

砕けたアスファルト。歪んだ鉄骨。崩れたコンテナ。ヴィランとの激突の跡がそのまま残る工場跡地の中で、湊は真っ直ぐこちらを見据えていた。

その隣ではナオがこちらを見上げている。

 

どうする、何も考えてない。

 

いや、本当に。

 

見に来るだけのつもりだったから、接触した時のことを一切考えていなかった。

原作のイベントを実際に見てみたい、そんな軽い気持ちで来ただけだ。まさか普通に見つかるとは思わないだろ。

 

黙っていても怪しいとりあえず何か言おうと口を開く。

 

「私は怪しいものではありません」

 

自分でも驚くほど声音は静かだった。焦っているはずなのに妙に平坦で、少し気味が悪い。

 

心臓はうるさいくらい鳴っているのに、表情も声もほとんど揺れない。実験体だからなのか、感情が外へ漏れにくい。

 

そのせいだろうか、湊の警戒が逆に強まった気がした。

 

案の定、湊の視線は冷たい。

しかもナオを背中側へ軽く庇っている。

俺を警戒してのことなんだろうけど、湊とナオの仲が良さそうで原作ファンの俺としては少し感動する。

 

いや、今はそれどころじゃない。

 

「こんな場所で戦ってるイデア保持者を通報もせず、隠れて観察してた奴が怪しくない?笑わせるな」

 

湊が警戒を緩めずに話す。

 

「答えろ、お前の目的はなんだ」

 

「うっ」

 

正論だった。

 

しかも視線が鋭い。話し方にも棘がある。

 

先ほどから警戒心を一切緩めていない。今の状況で「敵じゃない」と言ったところで、素直に信じてもらえるとは思えなかった。

 

まずい。

 

アステリオンはまだ完結してなかったから最終的にどうかはわからないけど、灰崎湊は最新話時点では作中でもかなり上位の方の実力だった人間だ。だがそれ以上に厄介なのは、序盤の時点でも既に普通に強いことだった。

 

ここで敵認定されるのだけは避けたい。

 

本当に。割と切実に。

 

どうしよう。

 

どうしたら警戒を解ける。

 

敵じゃないと伝えたい。できれば自然な形で、警戒されずに。だが、ヴィランとの戦闘を隠れて見ていた時点で、俺の立場はかなり怪しい。

 

こんな状況で信用してもらえるわけがない。

 

「……」

 

そこまで考えた時、不意にあることへ気付く。

 

怪しい。

 

つまり今の俺、客観的に見るとかなり“ミステリアスなキャラ”っぽいのでは?

 

その瞬間、妙な方向へ思考が繋がった。

 

アステリオンには、怪しげな雰囲気を纏った敵キャラは何人かいた。

 

だが、味方側にはそういう立ち位置のキャラがいなかった気がする。

 

例えば。

 

激戦を終えた主人公の前へ、突然現れる謎の少女。

 

意味深な言葉だけを残して去っていく。

 

敵か味方か分からない。

 

けれど、何故か主人公へ助言を与える存在。

 

……それっぽい。

 

かなりそれっぽい気がする。

 

もし上手く立ち回れれば、“正体不明だけど時々助けてくれるミステリアスキャラ”みたいなポジションへ収まれるのでは?

 

徐々に信頼関係を築いていく感じの。

 

よし、完璧だ、多分。

 

いや、結構テンパって変な方向へ走ってる気もするけど、もう勢いで押し切ってなんとかするしかない気がする。

というか、なんとかならないと普通に困る。

 

問題はどうやって空気を変えるかだ。

 

戦闘を見ていた理由を適当に誤魔化す?

 

……無理だ。何も思いつかない。

 

なら、とりあえず話を逸らして時間を稼ごう。

 

「そういえば」

 

沈黙を誤魔化すみたいに、俺は口を開いた。

 

「さっきの戦い、凄かったですね」

 

湊の眉が僅かに動く。

 

「まさか、本来の力を使わずにあそこまで戦えるなんて」

 

その瞬間、空気が変わった。

 

湊の視線が鋭くなる。

 

「…本来の力?」

 

食いついた。

 

俺は内心で少しだけ安堵する。

 

警戒はされたままだったが、少なくとも湊は俺の言葉へ意識を向け始めていた。

 

「ええ、気付いていないんですか?」

 

できるだけ平静を装って言う。

 

湊は何も言わなかった。

 

フードの奥の視線だけが、静かにこちらへ向けられている。

 

警戒は解けていない。

 

それでも俺の言葉を無視できない程度には、興味を引けたらしかった。

 

……いい感じかもしれない。

 

少なくとも、さっきより会話にはなっている。

 

このまま少しでも警戒を逸らせれば。

 

灰崎湊のイデア。

 

それは単純な身体強化能力じゃない。

 

本質はエネルギー操作。

 

操作。

 

変換。

 

放出。

 

本来は、とんでもなく応用性の高い能力だ。

 

だが今の湊は、そのエネルギーを身体強化へ回すことしかできていない。

 

だから戦い方も荒い。

 

力任せに殴り、強化した身体能力で押し切る。

 

それだけでも十分強いのだが、まだ本来の力には程遠かった。

 

原作では、後にヘリオスの幹部と遭遇した時、ナオを守るため無我夢中で戦う中で能力の本質へ辿り着く。

 

エネルギーを物質へ変換し、強靭な装甲として纏う。

 

青紫色の光を放つ近未来的アーマー。

 

どの企業にも属さない非公認ヒーロー、『アステリオン』の誕生だ。

 

……まぁ、その覚醒イベントはまだ先の話なんだけど。

 

ただ、湊は戦闘に関して頭の回転が速い。

 

さっきの一言だけでも、彼はきっと何かを掴む。

原作より少し早く、自分の力へ気付き始めるかもしれない。

展開が多少ズレる可能性はある。

ヘリオスが彼を警戒して、より早い段階で動き出す可能性だって。

 

だが、覚醒後の湊は本当に強いし、そう簡単に負けるような男じゃない。

 

それに、彼が早く強くなる分には困ることなんてないはずだ。

 

湊がゆっくり口を開く。

 

「……お前は、この力の何を知ってる」

 

警戒は消えていない。

 

それでも、その言葉には僅かな焦りが混ざっていた。

 

俺は少しだけ視線を伏せる。

 

どう返す。

 

ここで具体的に説明するのは簡単だ。

 

だが、それをしてしまえば原作からのズレが大きくなる気がした。

 

何より。

 

これは本来、湊自身が自力で辿り着く答えだ。

俺が全て教えてしまうのは彼の成長を妨げてしまう気がする。

 

だから俺は、小さく口を開いた。

 

「そういうのは、自分で掴み取るから意味があるんですよ」

 

夜風が吹く、工場地帯の鉄骨が小さく軋んだ。

 

「これ以上はヒントをあげられません」

 

できるだけ平静に少しだけ含みを持たせるみたいに言う。

 

内心は割と必死だった。

 

だが感情が外へ出にくいこの身体のせいか、表面上は妙に落ち着いて見えるらしい。

 

多分今の俺は湊からするとかなり“意味深な奴”になっている。

 

湊は黙ったまま、こちらを見ていた。

 

以前警戒は解けていない。

 

それでも、さっきまでみたいな一方的な尋問の空気ではなくなっていた。

少なくとも俺の言葉へ意識を向ける程度には、興味を引けたらしい。

 

……よかった。

 

内心ではかなり安心していた。

 

能力について助言したこと。

湊自身の力の可能性を、その先があることを助言したこと。

 

少なくとも、今すぐ敵対する相手ではない、くらいには思ってもらえているかもしれない。

 

そんなことを考えながら、俺は静かに湊を見返す。

 

その時だった。

 

遠くからサイレンが響く。

 

赤色灯の光が工場地帯の壁へぼんやり反射していた。

どうやら戦闘音を聞いた住民が通報したらしい。

セキュリティ部隊が近付いてきている。

 

「……」

 

俺は小さく息を吐く。

 

正直、助かった。

 

このまま会話を続けていたら、どこかでボロが出ていた気がする。

 

「セキュリティが来たみたいですね」

 

できるだけ落ち着いた声で言う。

 

「今日はここまでです」

 

そう言って、近くの三階建ての建物へ視線を向けた。

 

軽く膝を曲げる、そして地面を蹴った。

 

その瞬間、身体が風へ溶け込むみたいに浮き上がる。

勢いを乗せたまま、俺は三階建ての建物の屋上へ飛び移った。

 

風が吹き抜ける。

 

銀髪が夜空へ流れ、コートが大きく翻る。

少し遅れて、ロングスカートの裾がふわりと舞い上がった。

 

「待て!」

 

湊の声が飛ぶ。

 

「お前は何者なんだ! 一体何を知ってる!」

 

俺は屋上の縁で立ち止まり、振り返った。

 

夜風が髪を揺らす。

 

どう返す。

 

少しだけ迷ってから、俺は小さく口元を緩めた。

 

「そんなに焦らなくても、また会えますよ」

 

「……その時は、敵としてか?」

 

警戒はまだ消えていないようだが、最初よりはマシだと思いたい。

 

俺は、静かに首を横へ振る。

 

「それは、貴方次第です」

 

一瞬だけ間を置く。

 

「それでは、また会いましょう。未来のヒーロー」

 

「っ……!?」

 

湊の目が僅かに見開かれる。

 

……なんか今、それっぽかった気がする。

 

そんなことを考えながら、俺はそのまま反対側の路地裏へ飛び降りた。

 

落下の勢いを能力で殺し、静かに着地する。

 

同時に身体を透明化。

 

「よし、逃げよう」

 

小さく呟き、俺はそのまま夜の路地裏へ溶け込むみたいに走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜風だけが残った工場跡地を吹き抜ける。

 

湊は、銀髪の少女が消えた路地裏をしばらく無言で見つめていた。

 

遠くからセキュリティ車両のサイレンが近付いてくる。

赤色灯の光が、崩れたコンテナや鉄骨へぼんやり反射していた。

 

「……逃げたか」

 

小さく呟く。

 

追おうと思えば追えたかもしれない。

 

だが今の湊は、顔を隠した未登録イデア保持者だ。セキュリティへ見つかるわけにはいかない。

 

湊は小さく息を吐き、ナオを連れて歩き出した。

 

「……」

 

脳裏へ、さっきの少女の言葉が蘇る。

 

『本来の力を使わずに』

 

『気付いていないんですか?』

 

『未来のヒーロー』

 

何者かは分からない。

 

だが、只者ではないだろう。

 

まるで、自分のことを最初から知っているみたいな口ぶりだった。

 

「……何なんだ、あいつ」

 

湊は小さく眉を寄せる。

 

銀髪。

 

ナオと似た顔立ち。

 

それだけじゃない。

 

視線の向け方や、感情の出し方がどこか似ていた。

人との距離感を測りかねているような、少し不器用な空気。

普通に喋っているはずなのに、妙に静かで、感情の揺れが上手く表へ出ていない。

 

ナオを見ている時に感じる空気と、どこか似ていた。

 

そして、自分の力について知っているような発言。

偶然現れたにしては、出来すぎていた。

 

「……」

 

その時、不意に“ヘリオス”という単語が脳裏を過る。

 

瞬間、湊の表情が僅かに険しくなった。

もしヘリオスの関係者なら危険だ。

 

だが。

 

「……敵って感じでもなかったんだよな」

 

ぽつりと漏らす。

 

敵なら、もっと別の動きをしていたはずだ。

戦闘中に襲うことだって、ナオを攫うことだってできたはずだ。

 

なのにあいつは、わざわざ自分の力について助言だけ残して去っていった。

 

それに。

 

『それは、貴方次第です』

 

あの言葉も引っ掛かっていた。

 

敵かと聞いた自分へ、あの少女は肯定も否定もしなかった。

 

まるで。

 

自分がどう動くかで、彼女との関係が変わるみたいな言い方だった。

 

「……何者なんだよ、本当に」

 

考えれば考えるほど答えが出ない。

銀髪の少女の姿が頭から離れなかった。

 

その時。

 

くい、と小さな感触が袖へ触れる。

 

振り向くと、ナオがこちらを見上げていた。

 

「ナオ?」

 

「あの人」

 

「ん?」

 

ナオは少し考えるみたいに視線を泳がせる。

 

彼女は感情表現は苦手だ。

だが最近は、以前より少しずつ表情も言葉も増えてきていた。

 

「多分、悪い人じゃないと思う」

 

湊は一瞬だけ目を丸くする。

 

「……理由は?」

 

「なんとなく」

 

「なんだよそれ...」

 

思わず呆れた声が漏れた。

 

ナオは不思議そうに小さく首を傾げる。

 

「でも、嫌な感じしなかった」

 

「……」

 

湊は少し黙り込む。

 

ナオは人の感情へ妙に敏感だ。

コピーしたイデアの影響なのか、相手の感情を読み取ることができる。

 

そのナオが、彼女を警戒していない。

 

それが逆に湊を迷わせる。

 

「敵じゃないなら、なんで隠れて俺たちを見張ってたんだよ……」

 

小さくため息を吐く。

 

「逃げるみたいに消えた理由も分からねぇし」

 

疑問ばかりが増えていく。

 

ナオはそんな湊を見ながら、ぼんやりと呟いた。

 

「あの人、私と一緒だった」

 

「……は?」

 

湊の視線が揺れる。

 

「一緒って、何が」

 

ナオは少し迷うみたいに口を閉じる。

それから、自分を指さしながら小さく言った。

 

「実験体」

 

その言葉に、湊の脳裏へあの場所の光景が蘇る。

 

培養液で満たされた水槽。

 

並ぶ実験体。

 

眠ったまま動かない人間たち。

 

あの少女も、あそこで実験を受けていた存在なのか。

 

もし本当にヘリオスの実験体だったとしたら。

 

湊の脳裏へ、嫌な可能性が浮かぶ。

 

ヘリオスが自分たちを追うために送り込んだ存在。

 

ナオへ近付くための刺客。

 

あの意味深な発言も、自分を揺さぶるためのものだったのかもしれない。

 

だが、同時に別の考えも浮かぶ。

 

もし逆なら。

 

あいつも、自分たちと同じようにあの場所から逃げ出した存在だったとしたら。

 

感情の出し方のぎこちなさ。

 

妙に静かな雰囲気。

 

思い返せば、ナオとよく似ていた。

 

「……」

 

湊は小さく眉を寄せる。

 

分からない。

 

敵なのか、それとも、自分たちと同じ側の存在なのか。

 

ただ一つ確かなのは、あの少女がヘリオスと無関係ではないということだった。

 

その時、不意に、さっきの言葉がまた頭へ蘇る。

 

『本来の力』

 

湊はゆっくり自分の掌を見る。

 

青紫色の光が淡く漏れた。

 

星屑みたいな粒子が夜気へ溶けていく。

 

今まで、この力は身体能力を強化するものだと思っていた。

 

殴る。

 

蹴る。

 

速く動く。

 

頑丈になる。

 

単純だが、それで十分戦えていた。

 

だが。

 

「……使い方が違うのか?」

 

ぽつりと呟く。

 

もし本当に、自分が知らない使い方があるのだとしたら。

 

あいつは、どうしてそれを知っていた。

 

「……」

 

湊はゆっくり拳を握る。

 

青紫色の光が指の隙間から零れた。

だが、それ以上は何も起こらなかった。

 

何が何だか、今はまだ分からない。

 

けれど。

 

あの少女の言葉だけが、妙に頭へ残って離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

「……いや、どうだったんだ今の」

 

コンビニ前。

 

俺はあんまんを片手に、ひとり夜空を見上げていた。

 

透明化を解除した直後は、とにかく逃げ切れた安心感しかなかった。

だが落ち着いてくると、さっきのやり取りが頭の中で再生され始める。

 

『また会いましょう。未来のヒーロー』

 

『これ以上はヒントをあげられません』

 

「……」

 

改めて思い返すと、そこそこそれっぽい気はする。

少なくとも、ミステリアスなキャラっぽさは出せていた……はずだ。

 

多分。

 

俺はあんまんを一口齧りながら、ぼんやり考える。

 

能力についての助言もした。

敵意も見せていない。

だから、少なくとも敵認定はされていない……と信じたい。

 

「いやでも、普通に意味分かんない奴って思われてる可能性あるな……」

 

急に不安になってきた。

 

というか、冷静に考えれば微妙な気がしないこともない。

 

ミステリアスというよりは胡散臭いというか...

 

「……あ」

 

そこで、不意にさっきの会話を思い出す。

 

『……その時は、敵としてか?』

 

湊の問い。

 

それに対して自分は、

 

『それは、貴方次第です』

 

とか返していた。

 

「いや何、貴方次第って……!」

 

思わず頭を抱える。

 

違う。

 

あの時はなんか雰囲気で押し切ったけど、普通に考えたらめちゃくちゃ誤解されそうな返答だった。

 

もっとこう、

 

「敵じゃないです」とか、「少なくとも貴方たちへ危害を加えるつもりはありません」とか、

 

明確に敵意がないってことを言えばよかったのでは?

いやでも、あの空気で何言っても怪しい同じな気もする。

 

もうどうすればよかったのか分からない。

 

「うぅ……」

 

小さく唸りながら、俺はあんまんへ齧り付く。

 

湊に敵認定されるのだけは避けたい。

 

敵になるとただじゃ済まないという理由もあるけど、それ以前に好きな漫画の主人公に嫌われるとかなり傷つく...

 

俺は湯気の立つあんまんを頬張りながら、ぼんやりと夜空を見上げた。

 

青紫色の光を纏い、戦いへ踏み込み始めた未来のヒーロー、灰崎湊。

 

組織から追われる少女、ナオ。

 

そして、原作の始まり。

 

まだ誰も知らないまま。

 

運命だけが、静かに動き始めていた。




投稿する時間ってバラバラより固定した方がいいんでしょうか...

投稿時間を7時か19時で固定しようと思っているのですが、どちらがいいですか?

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