朝起きたら儒烏風亭らでんになっていた。なお、本物は今日も普通に配信している   作:好きな性癖発表ドラゴン

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第15話 実体化組、トレンド入り

 

 

 朝起きて、最初にしたことはスマホを見ることだった。

 

 よくない。

 

 分かっている。

 

 担当Aからは、本家らでん関連のコンテンツ視聴を一時的に控えるよう言われている。

 

 見れば引っ張られる。

 言葉が出る。

 間が分かる。

 文化が漏れる。

 そして、本家側にも何かが届いているかもしれない。

 

 だから見ない。

 

 見ないと決めた。

 

 俺は今、らでん断ち中だ。

 

 いや、言い方が嫌すぎる。

 

 禁らでん。

 

 もっと嫌だ。

 

 とにかく、見ない。

 

 そう思いながらスマホを開いた瞬間、おすすめ欄に切り抜きタイトルが並んだ。

 

『らでん、今日も違和感?』

『らでんの美術トークが刺さる』

『らでん、謎発言「先に説明された気がする」』

 

 俺は即座に画面を伏せた。

 

「見てない」

 

 誰に言い訳しているのか分からない声が出た。

 

 見てない。

 

 タイトルは見た。

 

 でも動画は見てない。

 

 たぶん、セーフ。

 

 この“たぶん”は、かなりグレーだ。

 

 スマホが震える。

 

 避難所の通知だった。

 

 ニコさんから。

 

『おはようございます』

『実体化組、トレンド入りです』

『終わりです』

『いや始まりです』

『どっちにしても嫌』

 

 俺は伏せたスマホを、そっと持ち上げた。

 

 画面を見る。

 

 トレンド欄。

 

 そこに、信じたくない文字が並んでいた。

 

 実体化組

 リアルホロメン

 スーパーぺこら

 白い耳の人

 河川敷らでん説

 

 血の気が引いた。

 

 隠れているつもりだった。

 

 いや、少なくとも隠れようとはしていた。

 

 外出は避けた。

 写真も出していない。

 避難所でも情報管理をしていた。

 担当Aとも繋がった。

 ただいま窓口まで仮運用を始めた。

 

 でも、世間はもう勝手に名前をつけ始めていた。

 

 俺たちは、自分たちの状況すら整理できていないのに。

 

 世界の方が先に、俺たちをジャンル化し始めていた。

 

 避難所は朝から荒れていた。

 

 ぺこさん。

 

『スーパーぺこらって何』

『俺の人生を事件名にするな』

『しかもスーパーって場所情報が雑に残ってるの嫌すぎる』

『販促みたいにするな』

 

 ハジさん。

 

『外出無理だな』

 

 スウさん。

 

『見つけてほしい気持ちはあります』

『でも、こういう見つかり方は怖いです』

 

 ニコさん。

 

『実体化組って言われ始めてる』

『ユニット名みたいにするな』

『デビューしてない』

 

 俺は少し呼吸を整えてから打った。

 

『今後は、目撃されない前提ではなく、目撃された後にどう被害を抑えるかを考える必要があります』

 

 ニコさん。

 

『ラさん、急に危機管理部門』

 

 ぺこさん。

 

『スーパーぺこら危機管理して』

 

 ハジさん。

 

『まずスーパーぺこらをやめろ』

 

 ぺこさん。

 

『俺が言い出したんじゃない』

 

 その通りだ。

 

 本人たちは、何も望んでいない。

 

 それなのに名前がつく。

 タグができる。

 考察される。

 切り抜かれる。

 冗談にされる。

 怖がられる。

 探される。

 

 俺はトレンド欄をもう一度見る。

 

 関連投稿には、真偽不明の画像や動画が並んでいた。

 

 明らかに加工っぽいもの。

 コスプレ写真。

 AI生成らしい画像。

 昔のイベント写真を切り抜いたもの。

 そして、たぶん本当に実体化者かもしれないもの。

 

 混ざっている。

 

 本物と偽物が、ぐちゃぐちゃに混ざっている。

 

 それが一番怖かった。

 

 偽物が増えれば、本物が埋もれる。

 

 でも同時に、偽物が増えるほど、本物を探そうとする人も増える。

 

 担当Aからメッセージが届いた。

 

『SNS上で実体化者に関する投稿が急増しています』

『真偽不明の画像・動画も多く含まれます』

『皆様は関連投稿に反応しないでください』

『自分だと思われる投稿を見つけた場合も、直接否定・肯定しないでください』

『位置情報や家族情報に繋がる投稿を見つけた場合は、こちらへ共有してください』

『公式側でも、無断撮影・詮索・拡散を控えるよう注意喚起を検討しています』

 

 公式側も、もう水面下だけでは済まなくなっている。

 

 ただし、実体化が本物だとは言えない。

 

 言えば、世界がひっくり返る。

 

 でも否定しきることもできない。

 

 だから、ぼかした注意喚起になるのだろう。

 

『タレント本人、関係者、ならびに一般の方への無断撮影・詮索・拡散はお控えください』

 

 たぶん、そういう文面。

 

 でも、世間はそれを見てさらに騒ぐ。

 

 公式が否定しない。

 企画なのか。

 AIなのか。

 コスプレなのか。

 本物なのか。

 炎上商法なのか。

 都市伝説なのか。

 集団幻覚なのか。

 

 言葉が増えるほど、俺たちの隠れる場所は減っていく。

 

 階下から母親の声がした。

 

「悠真、ご飯できたよ」

 

「行く」

 

 俺はマスクをつけて、部屋を出た。

 

 帽子は、もうかぶっていない。

 

 家族の前では、少しずつ隠すものを減らしている。

 

 それでも、マスクだけはまだ外せない。

 

 リビングに入ると、母親が焼き魚を皿に乗せていた。

 

 父親は新聞ではなく、スマホを見ている。

 

 珍しい。

 

 たぶん、例の騒動を見ている。

 

 俺が席に着くと、父親はスマホを伏せた。

 

「見たか」

 

「トレンドなら」

 

「かなり広がってるな」

 

「うん」

 

 母親が不安そうに俺を見る。

 

「悠真のこと、バレたりしない?」

 

「まだ直接は出てないと思う。河川敷らでん説って言葉は出てるけど、写真はたぶんない」

 

「たぶん」

 

「そこは本当にたぶん」

 

 母親は顔を曇らせた。

 

 俺もそれ以上、安心させる言葉を持っていなかった。

 

 焼き魚を一口食べる。

 

 皮の焦げ目が香ばしい。

 

 その瞬間、口が勝手に動きそうになった。

 

「この焼き目、良いですね。焦げというのは単なる失敗ではなく、香りを立ち上げる境界線でもありまして――」

 

 言ってから、俺は箸を止めた。

 

 父親がこちらを見る。

 

「禁らでん中じゃなかったのか」

 

「見てません」

 

 母親が首を傾げる。

 

「見なくても出るのね」

 

「出るのね、じゃないんだよ」

 

 父親が焼き魚を見ながら言った。

 

「漏れてるな」

 

「文化が?」

 

「たぶん」

 

 家族の受け入れ方が、日に日に変な方向に柔らかくなっている。

 

 ありがたい。

 

 ありがたいけど、そこは流さないでほしい気持ちもある。

 

 俺の中で、らでん成分は確実に漏れている。

 

 本家らでんを見ていない。

 

 それなのに、言葉が出る。

 

 対象を見ると、語りたくなる。

 

 料理、器、出汁、焼き目、湯気。

 

 生活の中のものに、勝手に説明の入口が見える。

 

 怖い。

 

 でも、完全に嫌ではない。

 

 それがまた厄介だった。

 

 朝食後、ただいま窓口はさらに忙しくなった。

 

 世論が広がったせいで、実体化者本人たちも焦っているらしい。

 

 新しい相談が来る。

 

 表示名、座れない。

 

『尻尾があって椅子に座れません』

『横座りしています』

『腰が痛いです』

『これ、どうすればいいですか』

 

 ぺこさんがすぐに反応した。

 

『人外勢、家具に負けがち』

 

 ニコさん。

 

『人類の家具、耳・尾・帽子に対応してない』

 

 ハジさん。

 

『座るな』

『いや座らないのもきついか』

 

 俺は返す。

 

『尻尾を無理に折り曲げないでください』

『クッションや丸めたタオルで、尻尾の根元に圧力がかからない姿勢を探してください』

『床に座る場合も、長時間同じ姿勢は避けてください』

『痛みや痺れがある場合は担当Aさんへ引き継ぎます』

 

 座れないさん。

 

『ありがとうございます』

『尻尾を避ける座り方、探します』

 

 ニコさん。

 

『ラさん、人外生活アドバイザーになってきた』

 

『なりたくてなったわけではないです』

 

 次の相談。

 

 表示名、笑い声事故。

 

『笑い声が変わりました』

『家族に「誰?」って言われました』

『笑うのが怖いです』

 

 この相談には、ニコさんが一番早く反応した。

 

『笑うの怖くなるの分かる』

『でも笑っちゃう時はある』

『一人で抱えると余計きついから、まずはここで笑っていい』

 

 少し間があった。

 

 笑い声事故さんから返事。

 

『笑っていいんですか』

 

 ニコさん。

 

『いい』

『変でもいい』

『俺も怖いと笑わせようとして事故る』

『でもここでは、事故っても拾う人いる』

 

 スウさん。

 

『怖い時に笑ってしまうこともあります』

『それで自分を責めすぎないでください』

 

 俺はそのやり取りを見て、少し胸が温かくなった。

 

 ニコさんは茶化す。

 

 でも、笑いの怖さを一番分かっているのも、たぶんニコさんなのだ。

 

 次の相談。

 

 表示名、見たいけど怖い。

 

『本家を見たいです』

『でも見たら変わる気がします』

『我慢すると不安です』

 

 これは、俺にも刺さった。

 

 見たい。

 

 見てはいけない。

 

 見ないと分からない。

 

 見たら変わるかもしれない。

 

 俺はすぐに返そうとして、指を止めた。

 

 これは俺が答えると、少し自分の不安が混ざりすぎるかもしれない。

 

 スウさんが先に送った。

 

『無理に我慢してパニックになるのも危ないと思います』

『ただ、一人で長時間見るのは避けた方がいいです』

『担当Aさんに相談して、短時間・記録しながら・変化が出たら止める形が安心かもしれません』

 

 担当Aも続ける。

 

『本家コンテンツの視聴は、現在慎重に扱っています』

『視聴希望がある場合は、事前に相談してください』

『強い不安がある場合は、視聴しないことだけを目的にせず、不安を下げる方法も一緒に検討します』

 

 見たいけど怖いさん。

 

『ありがとうございます』

『相談してからにします』

 

 窓口は、動いている。

 

 完璧ではない。

 

 混乱もある。

 通知も多い。

 俺の説明は長くなりがちだし、ニコさんは定期的に茶化して怒られ、ぺこさんは耳生活でキレ、ハジさんは走るな係として短文を投げ、スウさんは不安を受け止め続けている。

 

 それでも、動いている。

 

 世界が騒がしくなる中で、俺たちはなんとか小さな場所を保っていた。

 

 午後。

 

 白い耳さんから連絡が来た。

 

『昨日から、本家の声が残っています』

『音ではありません』

『名前を呼ばれているわけでもありません』

『ただ、こちらを認識しようとしている気配があります』

 

 避難所の空気が変わる。

 

 俺はすぐに返した。

 

『今も本家コンテンツは見ていませんか』

 

 白い耳さん。

 

『見ていません』

『でも、耳が勝手にそちらを向くことがあります』

『画面ではなく、どこか遠くの音を拾うように』

『尾も反応します』

 

 ぺこさん。

 

『耳が勝手に向くの分かる』

『めっちゃ嫌』

『耳だけ別人格』

 

 白い耳さん。

 

『はい』

『尾も別人格に近いです』

 

 ニコさん。

 

『耳と尾の会話、実体化者すぎる』

 

 俺はラさんシートの白い耳さんの項目を見直した。

 

 白い耳。

 尾。

 聴覚と嗅覚が鋭い。

 落ち着いた文章。

 本家とのリンクが強い。

 見られている感覚。

 

 候補はある。

 

 でも断定は危険だ。

 

『白上フブキさん系の可能性があります』

『ただし、断定は避けましょう』

『本人確認は公式プロフィール・外見特徴・本家視聴反応を総合して行います』

『本家コンテンツを無理に見る必要はありません』

 

 ニコさん。

 

『ラさん、鑑定士みたいになってる』

 

 ぺこさん。

 

『白い耳界の先輩かもしれない』

 

 ハジさん。

 

『耳界って何だ』

 

 スウさん。

 

『断定しすぎないのは大事ですね』

 

 担当Aにも共有する。

 

 すぐに返信が来た。

 

『本家側でも、複数タレントに軽微な違和感が続いています』

『詳細は共有できません』

『ただし、白い耳さんの報告は重要度が高いと判断します』

『白い耳さんは本家コンテンツ視聴を一時停止してください』

『感覚の変化を時刻付きで記録してください』

 

 続けて、担当Aから全体への注意が来た。

 

『今後、実体化者側から本家側へ、または本家側から実体化者側へ、意識的な接触が起こる可能性があります』

『現時点では、意図的な接触を試みないでください』

『夢・幻聴・身体反応などがあった場合は、すぐに記録してください』

 

 ニコさん。

 

『意識的な接触』

『言葉だけで怖い』

 

 ぺこさん。

 

『こっちから本家に行くとか無理』

『耳だけ先に行きそうで怖い』

 

 ハジさん。

 

『試すなよ』

『絶対試すなよ』

 

 俺は即座に返した。

 

『それ、試せって意味に聞こえるのでやめてください』

 

 ハジさん。

 

『言ってから思った』

 

 スウさん。

 

『誰も試さないでください』

 

 担当A。

 

『本当に試さないでください』

 

 全員が一瞬黙った。

 

 公式からの「本当に」は重い。

 

 夕方になると、俺自身にも妙な感覚が出始めた。

 

 本家らでんは見ていない。

 

 関連切り抜きも開いていない。

 

 トレンドも最低限しか見ていない。

 

 それなのに、言葉が整いすぎる。

 

 母親がコップを置く音。

 

 父親が新聞を折る間。

 

 窓の外で車が通り過ぎるタイミング。

 

 人が話し出す直前の、ほんの短い沈黙。

 

 それが分かる。

 

 誰かが話す前に、空気が少しだけ空く。

 

 そこへ言葉を置きたくなる。

 

 語り出す前の、拍手が来る前の、舞台の静けさのようなもの。

 

 耳鳴りではない。

 

 音でもない。

 

 でも、間が聞こえる。

 

 リビングで、母親が俺を見る。

 

「悠真、疲れてる?」

 

「疲れてるかどうかを言語化するなら、身体的疲労より認知負荷が――」

 

 父親が遮った。

 

「疲れてるな」

 

「はい」

 

 母親が心配そうに言う。

 

「寝た方がいいんじゃない?」

 

「寝ると夢を見そうで怖い」

 

 父親が短く言う。

 

「起きてても変なんだから、寝ろ」

 

「正論が強い」

 

「強くていいだろ、正論なんだから」

 

 母親が温かい飲み物を置いた。

 

「寝られなくても、横になって」

 

「夢見たら?」

 

「起きたら教えて」

 

「それだけでいいの?」

 

「それだけでいい」

 

 父親も言った。

 

「何かあったら起こせ」

 

「夜中でも?」

 

「夜中でも」

 

 その言葉に、少しだけ安心した。

 

 夜。

 

 避難所で、白い耳さんがまたメッセージを送ってきた。

 

『今、こちらを見ている感覚が強まりました』

『本家は見ていません』

『でも、向こうから視線が来ています』

 

 画面を見た瞬間、背筋が冷えた。

 

 俺は本家らでんを見ていない。

 

 それなのに、誰かがこちらを見る前の、あのわずかな沈黙だけが、耳の奥に残っている。

 

 ニコさんが一度だけ送った。

 

『怖』

『ごめん、今回は普通に怖い』

 

 ぺこさん。

 

『耳が反応してる』

『画面閉じてるのに』

 

 ハジさん。

 

『全員画面から離れろ』

 

 担当Aから即座にメッセージ。

 

『全員、画面から目を離してください』

『深呼吸』

『照明をつける』

『水分補給』

『本家関連コンテンツを開かないでください』

『身体反応が強い方は記録のみ行い、会話から一時離れてください』

 

 俺はスマホを伏せた。

 

 照明をつける。

 

 水を飲む。

 

 息を吸う。

 

 吐く。

 

 それでも、何かが近い。

 

 音ではない。

 

 声でもない。

 

 でも、誰かがこちらに顔を向けたような感覚があった。

 

 俺は布団に入った。

 

 部屋の鍵はかけない。

 

 スマホは机の上に伏せた。

 

 本家らでんは見ていない。

 

 切り抜きも見ていない。

 

 関連投稿も閉じた。

 

 それなのに、意識が沈む直前、声がした。

 

 音ではない。

 

 言葉でもない。

 

 でも、声だと分かる。

 

 目を開けているのか、閉じているのか分からない。

 

 俺は、どこか暗い場所に立っていた。

 

 美術館のようでもあった。

 

 寄席のようでもあった。

 

 配信画面の裏側のようでもあった。

 

 壁には何も掛かっていないのに、展示室の静けさがある。

 

 客席は見えないのに、誰かが息を潜めている気配がある。

 

 光の向こうに、誰かがいた。

 

 顔は見えない。

 

 輪郭も曖昧だ。

 

 でも、その声だけは分かる。

 

 儒烏風亭らでんに似た声。

 

 けれど、本物そのものだと断定できない。

 

 俺の中にある“らでんっぽさ”が作った幻なのか。

 画面の向こうの彼女から届いたものなのか。

 それとも、現象そのものが俺に見せているのか。

 

 分からない。

 

 声が言った。

 

「……誰?」

 

 短い問い。

 

 それだけで、胸が詰まった。

 

 答えようとした。

 

 佐伯悠真。

 

 そう言えばいい。

 

 でも、俺は佐伯悠真の記憶をほとんど持っていない。

 

 ラさん。

 

 避難所での名前。

 

 でも、それは仮の名前だ。

 

 儒烏風亭らでんではない。

 

 絶対に違う。

 

 でも、その姿をしている。

 

 その声で喋っている。

 

 その言葉の型が、身体にある。

 

 俺は口を開く。

 

 声が出ない。

 

 光の向こうの声が、もう一度問う。

 

「あなた、誰?」

 

 その声で、俺は目を覚ました。

 

 部屋は暗い。

 

 スマホは伏せたまま。

 

 本家らでんの配信なんて、見ていない。

 

 それなのに、声だけが残っていた。

 

 音ではない。

 

 記憶でもない。

 

 でも確かに、俺に向けられた声だった。

 

 スマホが震える。

 

 俺は手を伸ばし、画面を開く。

 

 白い耳さんから。

 

『今、夢を見ました』

『向こうから、誰かに見られました』

 

 続けて、ぺこさん。

 

『耳が勝手に立った』

『寝てたのに』

 

 ニコさんも、短く送ってきた。

 

『俺も変な夢見た』

『笑えなかった』

 

 ハジさん。

 

『こっちも何か見た』

『説明できない』

 

 スウさん。

 

『誰かに見つけられた気がしました』

『怖いです』

 

 俺は震える指で、返信を打った。

 

『俺もです』

『誰かに、あなたは誰かと聞かれました』

 

 送信。

 

 画面の光が、部屋の中で小さく揺れる。

 

 こちらが向こうを見ていた時代は、終わったのかもしれない。

 

 画面の向こうが、こちらを見返している。

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