ブラックホールとホワイトホールの性質を思い出した龍郎がその場の思いつきで試したらなんか凄いことになった成果物でもある。
ちなみに維持するために莫大なサイオンを消費するので燃費が悪いことこの上ない。とはいえブラックホールとホワイトホール共々改良の余地がありまくるので龍郎はウッキウキ
USNAからの呼称はそのまま『ビッグバン』
余談だがブラックホールその他を渡した幽寂の行動は混じり気のない100%善意によるもの。私が育てましたと後方親面してる
遅くなってすみませんでした!
「……君も無茶をしたな」
「ははは…ご迷惑をお掛けしました元造様」
四葉本邸の当主の部屋で向かい合う元造と龍郎。元造は腕を組んで些か鋭い目を龍郎に向けている。その眼差しを受け止めながら、龍郎は気まずげに肩を竦めた。
「君が連れ去られたと聞いた時、君のご両親に何と説明すればいいか悩んだ」
「両親に?」
「君の身を預かる身でありながら危険に晒したのだ。謝罪で済むはずがないと覚悟していたのだが……」
あの後、大漢の艦隊を殲滅した龍郎はサイオン枯渇と脳への多大なダメージにより倒れ、病院に運ばれて治療を受けた。ちなみに目を覚ましたのはそれから三日が過ぎた日のことである。両親には泣かれ深夜には殴られた。病人に対する遠慮などない一撃だった、今も痛い。
それに結局のところ、無茶を通したのは龍郎自身だ。龍郎が怒られることこそあれ、元造が頭を下げる理由などない。
「やめてくださいよ。今回は…まあ、俺もだいぶ無茶をしたので。元造様が謝る理由はないでしょう」
「君はやはり自分の評価が低いようだな。少なくとも、過剰な魔法行使を見逃した私に非はあって然るべきことなのだよ」
元造が苦い顔をする。義理堅い人だと改めて思う。本来ならば替えの利く婿など切り捨てても良かっただろうに。あるいは人であると認めさせようとする尊いその精神性がそうさせたのか。
「分かりました、謝罪を受け取ります。でも、どうか気に病まないでください」
「そうしよう…しかし、こうして君と話しているとまるで成人した大人と話しているような気分にさせられる」
ギクリ、と顔が引き攣る。恐らく比喩の一環として挙げたのだろうが龍郎からすれば中々に鋭い指摘であった。
「は、はは…元造様は冗談がお上手でいらっしゃる……」
「大丈夫か? 冷や汗が凄いが」
「だ、だだだだだ大丈夫でございます……」
「本当にどうした……?」
ついに狂ったかと目の前の少年を見る。ややあって落ち着きを取り戻した龍郎は咳払いを一つして気持ちを切り替えると、改めて元造と向き合った。
「それで、その…今回俺がいわゆる『戦略級魔法』を行使した件について国防軍からそちらに接触があったとお聞きしました」
「ああ。彼らはどうやら君を軍に引き入れたいようだな」
気に食わないとばかりに元造は鼻を鳴らす。
相当腹に据えかねているのだろう。若干サイオンが漏れ出ていた。
「どうするかは君に委ねる」
「断っても良いですか? 別に戦略級魔法を使ったから絶対に国防軍に来い、ってわけでもないんですよね?」
「そうだ。そう言うのなら断っておこう」
「お願いします」
実にあっさりと話し合いは終わった。ものの数分である。
その後はお互いに取り留めもない話に終始した。やれどこぞの料理屋が美味かっただの、深夜とは最近どうかね普通ですよだの…そんなありきたりな会話を。
「娘を…深夜を頼む」
「お任せください」
その言葉に龍郎は確かに頷いてみせた。
「それで、何か弁明はあるかしら龍郎さん?」
「なんもないです……」
元造との話し合いを終えた龍郎はすぐさま深夜に連行され、彼女の部屋で正座させられていた。
さながら教師と生徒、叱る者と叱られる者の構図のそれである。
「崑崙法院に拉致されて療養の為にと別荘に移したのに、あまつさえそこで大亜の艦隊を殲滅させるなんて一体何をしてるの!!」
「なんか出来ると思ったから…軍も動けないっぽかったし……」
「周りの大人を頼れば良かったでしょう、なんで全部一人で片付けちゃうのかしら」
突き刺さる絶対零度の視線に龍郎は身を縮まらせる。怖いったらありゃしない。
はぁ…とため息を吐いた深夜は冷や汗を流す龍郎の頭に手を回し、そのまま自身の胸に抱き寄せた。
「えっと…深夜?」
「黙って。不安にさせた罰よ」
これは罰と言えるのだろうかという至極当然の疑問が頭に浮かんだ龍郎だったが、深夜の身体が震えているのを感じ取り、大人しくされるがままになった。
「……怖かったの。死んでしまったらどうしようって…貴方を喪ったら、私はどうしたらいいの……」
それは普段の四葉らしく振る舞う深夜の声ではなく、ただ只管までに愛した人を喪う事を恐れる年頃の少女の声だった。
本来訪れるはずだった大きな悲劇は回避され、世界は何事もなく回り続ける。しかしそれでも小さな悲劇はあったのだ。
「深夜」
「…………なに」
「俺は生きてるよ。今ここにいるし、これからもそうだ。お前の隣でずっと笑っているよ」
その言葉に深夜が龍郎を離してその顔を見る。美しい紅の眼を潤ませ、泣くまいと唇を引き結んでいる。それさえも可愛らしいと思ってしまう自分もまた、いつの間にか彼女に惹かれていたのだ。
(……ああ、そうか。俺は──)
龍郎はここに来てようやく悟った。なぜ、四葉の人たちに傷ついてほしくないと思ったのか。
未来を知っているが故の義務だとずっと思っていた。知っているから見て見ぬふりはできないのだと。
しかし違った。龍郎が本当に見ていたかったのは──
(──彼らに幸せになって欲しかったのか)
そんな、ありふれたごく当たり前の感情だったのだから。
どこまでも身勝手で、それでいてどこまでも純粋な唯一の恒久的な願いこそ、龍郎が彼らに望んだ事だった。
「……ふふ、眠いのなら眠ってしまいなさい、言いたいことはまだ色々あるけど、夜になったら起こすから」
ポンポンと頭を撫でられる。先ほどまで泣きそうになっていた少女の姿はもうそこにはない。それが少し残念なような、ホッとしたような。
一定のリズムで優しく叩かれるその感覚に瞼がゆっくりと落ちていく。
□
「……ん……」
閉じていた瞼を開ける。ぼんやりとした視界の中、うたた寝をしていたのだと思い出した。窓から夕日が差し込み、書斎をオレンジに染めている。
「……懐かしい夢を見たもんだ」
あれから実に十七年もの月日が流れた。その間に何かが大きく変わるということもなく、司波龍郎は今もこうして生きている。
その時、開いていた扉から小さな少女がひょっこりと顔だけを覗かせ、龍郎を見つけるとぱぁっと顔を輝かせてヨタヨタと寄ってきた。
「おとーさま!」
「
足に抱きついてきた長女を抱き上げて膝上に乗せる。黒髪に紅目の母に瓜二つの少女はグリグリと額を愛すべき父に押し付けながら満面の笑みを浮かべている。
「あのね! おかーさまがたつやとみゆきのおせわでいそがしいから、おとーさまのところにきたの!」
「
「にーさまはうるさいもん」
容赦のない物言いに笑ってしまう。あの子はそこまで喧しいわけでもないのだが、深珠からしてみれば煩い部類なのだろう。
龍郎は娘の頭を撫でながら椅子から立ち上がり、深珠を抱き上げて書斎を出た。予想通り、壁際に龍郎の妻の護衛である桜井穂波が控えており、出てきた龍郎に頭を下げた。
「お眠りのご様子でしたのでお邪魔するのはいけないと言ったのですが……」
「良いさ。深珠のことだ、悪意あってのことじゃないだろう」
「みすず、えらい?」
「偉いとも」
父に褒められ、深珠はその形の良い顔をへにゃりと崩し、より強く抱きついた。そして居間に通じる扉を開けば、予想していた通りの光景が広がっていた。
「深夜」
声をかけると同時、扉の開く音に顔を上げた四葉深夜が長女を抱いた龍郎を目にして顔を綻ばせた。そんな彼女の腕にもまた一人の赤ん坊が抱かれ、すぐそばのベビーベッドには眠る赤ん坊を見守る一人の男の子の姿もあった。
「おはよう龍郎さん…と言っても夕方だけれど」
「あ、お父さん!」
革張りのソファに腰掛けたまま柔く笑む深夜と反対に、ベビーベッドを覗いていた長男の晴夜が駆け寄ってくる。
ドン、と軽い衝撃が腰に伝わり深珠が不満げに兄を見下ろした。
「にーさま、うるさい」
「しらなーい!」
妹の抗議など露知らず。晴夜は父に抱き着く。
龍郎は深珠を下ろして晴夜を撫でると、妻のそばに寄った。
「達也と深雪は?」
「二人ともさっきまで泣いていたけど、今はぐっすり寝ているわ」
そう言って腕の中で眠る達也を見る深夜の目は慈愛に溶けている。そんな深夜の姿を微笑ましく思いながら、龍郎はベビーベッドで眠る末子の姿を眺めた。
控えていた穂波が空気を読んで晴夜と深珠の相手をし始める。
「深雪も本当にぐっすりだな」
「よく泣く子だからこうして大人しく寝ているとなんだか不思議な気分だわ」
クスクスと見目秀麗な二人の男女が笑い合う。実に画になる光景だと穂波は毎度の事ながら嘆息した。
そうかそうか、と龍郎は頷きながら携帯端末で家族の写真をパシャリと撮っていく。穂波は慌てて居住まいを正し、晴夜と深珠は無邪気に笑い、深夜はそんな夫を愛おしむように見つめ、達也と深雪は深い夢の中にいる。
一通り撮り終えて満足した龍郎は会社の部下たちに自慢しようと密かに決意しながら端末を懐に仕舞う。
そしてソファに腰掛けた龍郎に深夜が身体を擦り寄せる。そんな彼らに子供たちが駆け寄り、きゃっきゃっとはしゃぐ。
「仕事の方は順調?」
「ああ、部長職にもようやく慣れてきたところだ」
深夜の問いかけに頷いて答える。一年前に
「あまり無茶をしないように。ね?」
「ね?」の一言に凄まじい圧を感じた龍郎はブンブンと首を縦に振った。半分誂い混じりの言葉だったのか、夫の様子に鈴の転がるような笑みを溢した深夜はぐずりだした深雪をあやす為に達也を龍郎に預けて立ち上がった。
父に抱き上げられた達也はその青い目を父に向け、あーあー、と手を伸ばす。
「達也」
名前を呼べば、達也はふにゃりと笑う。それがどうしようもなく愛しいから、龍郎は指先で達也を軽く撫でた。
子供たちの魔法演算領域を解析した英作によれば、龍郎と深夜の子供は例外なく突出した魔法の才能の持ち主である。その中でも達也は際立っており、「この子には世界を破壊する力さえある」と断言した程。
そして龍郎の予想に反し、大多数の一族の人たちは達也を平然と受け入れていた。曰く「龍郎殿という前例がいるのに何を今更」、とのことらしい。喜べばいいやら複雑になればいいやら。
加えて四葉家に大漢がそこまで打撃を与えられなかったというのも大きいだろう。故に彼らは超人思想に囚われず、純粋に産まれた赤子の持つ力を抑え込む術を教えようと息巻いていた。
しかしやはり達也が気に食わない者たちがいるのも事実だ。彼らはそもそも龍郎の事すら気に食わず、『深夜を誑かし種を植え付けた下劣な男』という評価だ。
故に深夜と龍郎の子供たちの事も疎んでいるが、他の分家や本家の者たちに牽制されていること、加えて「夫と子供たちに危害を加えたらその時は私がお前たちを殺す」(意訳)と迎春会で言い放った深夜の言葉もあり、今のところ襲撃に遭うようなことにはなっていない。
「平和なんだかそうじゃないんだか……」
そもそも本家に居続けるのは危険だということでこの屋敷に移ったのだが。しかし原作のそれと比べれば、子供たちの未来はずっと良いものになるだろう。
「……幸せになって良いんだからな」
腕の中の達也と、それ以外の子供たちに染み込ませるように小さく呟く。この子たちは望まれて産まれてきた。少なくとも、龍郎と深夜は望んだ。産まれてくる我が子一人一人を慈しみ、たとえ魔法の才能がなくても幸せになってくれればいいと。
その結果は子供全員が馬鹿みたいな才能の原石として生まれた訳だが。
「龍郎さん、少し良いかしら」
「ああ、今行く」
深夜からの呼び声にソファから立ち上がる。
季節は秋。ここに一つのカーテンコールが訪れ、またすぐに舞台の幕が上がるだろう。
しかし彼はもはや
ならばきっと、その道の果てには無数の幸せと苦難があることだろう。
司波邸:原作の司波家とは違い、四葉本家のそれを模して建てられた和洋折衷の平屋の屋敷。一高入学から魔法大学卒業までは四葉が保有するペントハウスで同棲していた龍郎と深夜だが、大学卒業を機に深夜の強い要望で一から建てられた。龍郎と深夜、子供四人と穂波が暮らしてなお余裕のある広さを保っている。ちなみに龍郎の書斎には『貴婦人と一角獣』のレプリカが飾られており、龍郎曰く「欲しかったから」とのことだが真意を知るのは龍郎のみである
龍郎:第一高校で青春を謳歌した後、魔法大学に進学し卒業。卒業後は原作でそうだったようにFLTに入社した。前世と違い、趣味が本業になったようなものなのでかなり楽しい。戦闘能力も大幅に向上し、一高の同級生に千葉家の嫡男がいたので彼から古流剣術を教わり、武装一体型CADの刀も扱うようになった。青春の傍ら、四葉家からの任務も熟し、深夜、真夜、弘一らと暴れ回った結果、他国から「四魔の死神」と恐れられた。ちなみに龍郎本人も『星を掌握するもの』と畏怖されている。
深夜:身体も壊すことなく幸せの只中にいる。元造が当主の座を退いた後はその座を継ぐ予定。FLTの筆頭株主になったがこれは偏に龍郎の為である
晴夜と深珠:原作には登場しない二人。龍郎と深夜の息子と娘。晴夜は2080年時点で五歳、深珠は三歳。晴夜は龍郎そっくりの見た目で加重系魔法への適性が高い。深珠は深夜そっくりでこちらは深夜譲りの精神干渉系魔法への類稀な才能を示した
達也と深雪:原作と比べて遥かに幸福な未来が待っている。達也に対しても冷遇されることはないので一安心…かと思いきや『分解』と『再成』が達也の演算領域を圧迫しているのでこれを何とかするのが四葉家の最優先事項になった
これにて大漢編終了となります。番外編として短編をいくつか纏めたものと、掲示板回をやった後に原作で言うところの追憶編に入る予定です