深夜「私だけの最愛よ。私はこの人がいないと生きていけない」
弘一「親友さ。たった一人のね」
真夜「からかい甲斐のある義兄さまよ」
晴夜「頼りになる人だよ。あの人以上の父親を答えろって言われても無理なくらいに」
深珠「しっかり話を聞いてくれるわね。頭ごなしに否定してこないから話しやすいの」
達也「手放しで尊敬できる人です…俺は、いつかあの背中に追いつけるだろうか」
深雪「世界一のお父様です!」
そして言うまでもなく──
『最強』
今回から追憶編ならぬ沖縄動乱編が始まります
めんそ〜れ沖縄
『達也』
頭上から父の優しい声が降ってくる。六歳の頃の自分はベッドに座らされ、父のそばには白衣を着た母と数人の一族の者たち。
そして父が俺の頭をその温かな掌で包み、額をコツンと合わせる。
『……父さん?』
『よく聞くんだ達也。お前のその力は決して悪いものじゃない…力の使い方は人それぞれだ。良いことにも悪いことにも使える、それが魔法なんだ』
そう語り聞かせる父の目はとても穏やかなもので。合わさった額から自分の内側へと何かが流れ込むのを知覚した時には、父は体を離していた。
そして近寄ってきた母が自分を台に横たえ、掌を翳す。
『大丈夫よ達也。私たちは皆、貴方を愛しているわ…それを忘れないで』
寝かされた自分に深夜が声を掛ける。そして周りにいた一族の人たちもまた「大丈夫だよ」「怖くないからね」と声を掛けた。そして意識が闇に沈む間際──
『ではこれより、達也君の魔法演算領域拡張、及び仮想演算領域の設置を開始する…決してミスの無いように』
そんな声が聞こえた。
達也は知らないだろう、この実験は達也に多くの恩恵を齎したことを。
けれどその実験に対し、深夜がその美しい顔をグチャグチャにして元造に泣き縋ったことも。あの子を傷付けないでと懇願したことも。
万が一にも達也の感情が消えるような事態になれば、龍郎がそれを肩代わりするために魔法を仕込んでいたことも。
何も知らない。それで良い。何も知らぬまま、全ては秘されたまま歪むはずだった息子は日々を生きれば良い。
それこそが龍郎と深夜の願いなのだから。
□
「……様。……兄様。達也お兄様?」
耳元で聞こえるその声に達也は閉じていた瞼を開く。最初に飛び込んできたのはこちらを覗き込む妹の顔だった。
「深雪……」
「はい。よくお眠りになられてましたねお兄様。そろそろお着きになりますよ」
「ああ……」
まだ重い瞼を持ち上げつつ、首をコキコキと鳴らして身体を起こす。そんな兄の横に座っていた深雪はペットボトルのお茶を差し出しながら長兄と長姉に目を向けた。
「ああ、起きたんだね達也」
「もう少し寝ていてもよかったのに」
「わ、私余計なことをしてしまいましたか…?」
「そんなことはないから安心していいよ」
不安がる深雪の頭を晴夜が撫でる。
と、革張りのシートに腰掛けていた母が振り向いてこちらを見た。
「あら。起きたの達也。おはよう」
「おはよう母さん。父さんは──」
そんな達也に母は身体を少しずらして横の席を見せる。そこには深い眠りに落ちる父の姿があり、頭を母に預けていた。
なるほど、だから母の機嫌がすこぶる良いわけか。
『間もなく、当機は那覇空港に着陸します──』
機内アナウンスが流れる。エコノミークラスの方では今頃降りる準備を始めているだろう。
「龍郎さん、龍郎さん起きて。もうすぐ着くわ」
「ん〜…あと半日…」
「そんなに寝たら逆に体調を崩すでしょう…はい起きる!」
深夜の白魚の掌が龍郎の両頬をペチンと叩く。その痛みで目を覚ました龍郎は深夜に一言礼を言って身体を起こした。
「ありがとう…ああ、おはよう皆」
「おはよう父さん」
龍郎の挨拶に達也が返す。
そうして飛行機は那覇空港に到着した。
□
「晴夜、荷物は持ったか?」
「持ったよ」
家族それぞれの荷物を二台のカートに分けて運ぶ龍郎と晴夜。
少し先では深夜、深珠、達也、深雪が並んで歩いている。
「確か穂波さんが先にいるんだっけ?」
「ああ。先に行って準備をすると張り切っていたな」
お父様!晴夜お兄様!と深雪の呼ぶ声がして、二人とも少しペースを速めて合流した。
「もう、私たちの荷物は自分で持つと言いましたのに…」
「そんなことを言わず甘えておけ。子供なんだから」
「じゃあ父さん、僕も父さんの子供だよね?」
「そうだがお前は身体が出来上がっているだろう」
晴夜のからかい混じりの言葉は一刀両断される。不公平じゃないか?と思いながらも晴夜は大人しくカートを押す。そんな兄を不憫に思ったのか達也がこっそり近付いて耳打ちしてきた。
「兄さん、俺も少し持つよ」
「あら。駄目よ達也。兄さんはこう言っていても父さんの役に立てるのが嬉しいんだもの」
「黙ってくれ深珠」
「はいは〜い」
達也の頭に手を置いた深珠が鈴を転がすような声で笑う。そんな妹を睨みつけ、司波家長男はため息をこぼした。
車を走らせることしばらく。一行は恩納村瀬良垣にある別荘に到着した。
せっせと荷物を背負った龍郎は家族の後をついていく。
緩やかな坂を登ったところで扉が開き、穂波が顔を覗かせた。
「奥様、旦那様、晴夜くんたちも。お待ちしておりました。冷えた麦茶と紅茶をご用意してありますよ」
「それじゃあ麦茶を貰おうかしら。皆もそれでいい?」
「助かる」
晴夜の返答に頷いた深夜はちょうど合流した龍郎に目を向けた。
「もう。晴夜にも持たせれば良かったでしょう」
「俺がしたいからしてるんだ」
「意地っ張りね」
「癖なもので」
玄関を通り、各々の荷物を渡しながら龍郎は息を吐く。そそくさとソファに座り、外を歩きたいという深珠と深雪を穂波が嬉々として日焼け止めを塗るために連れ出すのを見守った。
「晴夜、達也。二人ともついて行ってあげなさい」
「分かった…僕らも準備しよう達也」
「ああ」
男子二人も別室に向かい、居間には龍郎と深夜の二人だけとなる。
そして立ち上がった深夜が龍郎の隣に座り直し、肩に頭を預けた。
「甘えん坊さんだな」
「いけない?」
「そんなことはない」
妻の行動に苦笑しつつもやめさせる素振りない。長年連れ添ってきたが故の信頼か。
「それではお父様、お母様。行ってまいります」
「行ってらっしゃい。お昼には帰っておいで」
出かける子供たちを見送り、龍郎は空にディスプレイを投射する。
そこには拳銃型CADの図面が映されていた。
「新しい『スター・モデル』*1の開発案なんだが…筆頭株主様はどうお考えかな?」
「開発コストに対しての元は取れているわけだし推し進めても良いんじゃないかしら。スター・モデルに関して世間の反応は上々なのだし」
「そう言ってくれるとありがたい」
自信作なんだ、と龍郎は自身も愛用するスター・モデルの一つ、銃身が長いロングタイプのCAD『スターゲイザー』をくるりと指に引っ掛けて回した。
銀のボディが輝く銃身には青い星型の花を咲かせるブルースターと黒い薔薇が彫られ、グリップには四葉を咥える龍のマーク。
これらは全て深夜が龍郎の為に一から手掛けたデザインである。
当初、龍郎はデザインしたそのままを使おうとしていたのだが、折角龍郎が新しいCADを使うのだからとデザイン面を深夜が受け持ったのだ。
その時の熱量と来たら、如何に自分が龍郎の為に何かをしたいということを本人の前で小一時間朗々と語られては首を縦に振るしか出来なかったというもの。
「俺はとても愛されているらしいな」
「あら、ようやく気付いた?」
「ずっと昔から気付いてるよ」
頭を預け見上げてくる深夜の髪を指で掬う。それに深夜は気持ちよさそうに目を細め、さらに頭をグリグリと押し付けてきた。
「この後出掛けないか?」
「二人きりで?」
「ああ」
それに深夜は花が綻ぶように笑う。最近は子供たちや仕事のあれこれで二人きりで出掛けるということをあまりしていなかった。たまには良いだろうと一人ウンウンと頷いた。
空に投射されている図面を指先でスイスイと操作し、一つ一つのパーツの設定値を見比べていく。
「前回と比べたら安定した数値になっているわね」
「牛山さんたちの成果だ」
一通りのデータを確認してからディスプレイを閉じ、ソファに深く沈む。穏やかな日差しがリビングを柔く照らす…とはいえ本土と比べたら強い日差しであることに変わりはない。
穂波が持ってきた麦茶のお代わりを飲みながら龍郎はこの後の予定について思考を回すことにした。
ブルースター:『幸福な愛』『信じ合う心』『星の精』
星の貴方、どうか幸せでありますように
黒い薔薇:『永遠に滅びることのない愛』『貴方はあくまで私のもの』
ずっとずっと愛しています。けれどどうか忘れずに。貴方は永遠に私だけのもの
これだけ呪術パロをしてるんだから本家本元の呪術の方も書いてみたいなと思う今日この頃