四葉からは逃げられない   作:シャケナベイベー

8 / 8
全話の感想の量が凄くて横転。皆曇らせ好きなんすね〜

今回は短め


バーカ、滅びろ崑崙法院!!

「ふっ!!」

 

 龍郎が飛び出し、『術式解体』で魔法師たちの魔法式を粉砕していく。初手を潰された彼らはたたらを踏み、そこに弘一の『スパーク』と真夜の『流星群』が薙ぎ払う。

 

 しかし如何せん数が多く、煙の向こうから龍郎たち目掛けて飛び出してくる。

 

「楽にしてあげる」

 

 そこに深夜の精神干渉系統魔法が突き刺さった。洗脳されているのなら、より強い精神干渉で上書きし握り潰せば良い。シンプルイズベスト、実にスマートだ。

 

 とはいえ、その手が取れるのは洗脳された魔法師たちだけで武装魔法師──つまり少し精神を弄って動かしているだけのマリオネット達にはまた別の精神干渉系統のプロセスが必要となる。

 まぁ、尤も──

 

「別にこいつらにそんな慈悲は要らないだろ」

「それは言えてる」

 

 襲撃者なのでそんな面倒な手順を踏むより倒した方が良いのだが。

 龍郎と弘一が武装魔法師たちを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返し着々とその数を減らしていく。

 

「いやぁ、予想以上だ」

 

 ──それを幽寂は舞台上からワイングラス片手に眺めていた。

 

 四葉の姉妹が仕掛けてくる気配は無し。手駒たちは着々と処理され、残すは己のみ。

 たかが子供と侮っていたがなに、やはり若者の為せる技というのは素晴らしいものだ。

 

(司波龍郎…サイオン量が多いだけの小僧だと“上”は認識しているみたいだが──ハッ、中々どうして見込みのあるヤツだ)

 

 なんとか全員を倒し終えたらしい四人が幽寂を見上げる。

 残っていたワインを飲み干してグラスを放った幽寂はまたもパチ、パチと気怠げな拍手を勇敢な四人の子供に捧げた。

 

「おめでとう。あれだけの数の木っ端達を片付けるとは、やるじゃないか少年少女? 是非ともうち(崑崙法院)で研究させていただきたいものだな」

「断る」

「おやまぁ冷たいお返事だ」

 

 龍郎の冷酷な声にも幽寂は肩を竦めるだけで飄々とした態度を崩さない。それだけで四人の幽寂に対する警戒度は跳ね上がる。

 得体の知れなさが尋常ではない。

 

「しかしまぁ、若者の力というのは軽視していれば手痛い目に遭う…それは御免なんでな」

「ッ、弘一!!!」

 

 幽寂の目が弘一を捉える。何かされると直感した弘一は咄嗟に障壁魔法を展開しようとして──

 

 

 

 

 

「ガッ、ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?!?!?!!?」

 

 弘一の右眼に血の花が咲いた。

 片目を抑え、弘一が蹲り絶叫を迸らせる。

 

「弘一さん!?」

 

 真夜が悲鳴じみた声を上げて弘一に駆け寄る。深夜もそんな二人に寄り添いながら幽寂を睨め付けた。

 

「おお怖い怖い。ただまぁ、心臓を潰すつもりだったが……流石は次期十師族の当主。片目だけで済ませるとはな」

 

 ケラケラと嗤う幽寂の右手には弘一から抉り取ったのだろう片目が握られている。彼はそれをしばらく掌で転がした後、グシャリ…と握り潰した。

 

「さぁて…次は誰だ?」

 

 幽寂の冷徹な眼差しが他三人を射貫く。その威圧感に真夜と深夜はヒッ…と短い悲鳴を上げ、龍郎はそんな三人を庇うように前に立つ。

 

「ほぉ、次はお前か?」

「そうだ」

「良いねぇ勇気ある若者! 少なくとも逃げ出すヤツよりはよっぽど好感が持てる」

 

 そう言って嗤う幽寂は一見すれば隙だらけ。しかし先程の弘一の目を奪った方法と言い、不可解な点が多すぎる故に中々動けないでいた。

 

「だが…まだ甘いな」

「ッ、なっ!?」

 

 ズンッ…と身体が床に縫い付けられる。それはこの場にいる全員がそうだ。

 

「重力、操作……!!」

「おお、喋るだけの元気はあるか。流石七草家だ」

 

 だが…と言葉を切った幽寂は這いつくばる龍郎の前に膝をついてその頭を持ち上げた。

 

「お前たち三人にとってコイツはよほど大切らしいな?」

「やめて!!!」

 

 深夜が悲鳴を上げる。

 ああ、可哀想な姫君。その反応こそこの小僧がお前たちにとって大切な存在だと肯定してしまっているのだろうに。

 

「司波龍郎。お前に少しばかり興味が湧いた」

「な、にを…!」

 

 這いつくばる龍郎の前に膝を突いた幽寂が龍郎の頭を掴んで持ち上げ、無理やりに目線を合わせる。

 幽寂の紫眼が妖しく光り輝く。

 

「ご存知の通り我々崑崙法院は魔法師研究機関…まァつまり、優秀な魔法師の実験体が欲しかったのさ」

 

 ──凶眼

 

(コイツ、精神干渉、の……!)

 

 ゆっくりと龍郎の意識が沈んでいく。四葉の訓練で精神干渉を防ぐ手立ては確立していたが、この男の扱うそれは四葉本家に勝るとも劣らない力を有していた。

 

 

 

 

 

 

「いやはや、まさかここまで抵抗されるとは……案外オレも侮っていたってことか」

 

 精神干渉により気を失った龍郎を担ぎ上げながら幽寂はそうボヤく。そして未だ重力操作の影響下にいる弘一、深夜、真夜を一瞥して嘲笑した。

 

「さっきも言ったが、上からの命令は四葉の令嬢のどちらかを連れてこいってことだったんだが、オレ独自の判断でこの坊主を実験体にした方が有意義ってことになったんでな」

「何を……!」

「そうカッカするなよ七草弘一。お前の大事な婚約者には傷を付けてないだろう?」

「返せ……!!」

 

 弘一が無理矢理に重力の枷を破り、CADを幽寂に向ける。『スパーク』による放電…及び目晦まし。その隙に弘一は幽寂の背後に回り込んで龍郎に手を伸ばす──

 

「言ったろ。甘いってな」

 

 それよりも早く幽寂が弘一の腕を掴み上げて容易く圧し折った。

 べキャリ…と嫌な音がして弘一がその場にくずおれる。

 

「片目を失くしておきながら良くやるが……邪魔だな」

 

 弘一の身体を蹴り飛ばして壁に打ち付けた後、幽寂はハットを胸に当てて一礼し、舞台の上に上がる。

 

「さて少年少女、今回はお騒がせした。楽しい楽しいパーティーの邪魔をしてしまった非礼を詫びよう」

 

 態とらしく言ってのける幽寂を深夜と真夜が射殺さんばかりに睨みつける。

 

「おっと、無理に動かないほうが身のためだぞお嬢さん?」

「龍郎さんを……返しなさい……!」

「返す? おいおい冗談は止してくれ。こんな素晴らしいサンプルを手に入れたってのに」

 

 恍惚すら混じった声だった。珍しい標本を手にした時のような、無邪気な声音。それは深夜の神経を逆撫でする。

 

「返せと言っているの……!!」

「なら取り返しに来ればいいだろう」

 

 それが出来ないと知っていながら幽寂は平然とそう返した。

 深夜が悔しそうに唇を噛み、幽寂はますます笑みを深め、くるりと踵を返す。

 

「じゃあな若人諸君。精々──苦しみ藻掻け」

 

 高笑いと共に幽寂が龍郎と共に闇夜へと消えていく。

 

 

 

 

 こうして、司波龍郎は崑崙法院の手に落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか。龍郎君が連れて行かれたか」

 

 低い声で四葉家当主たる四葉元造はそう呟いた。

 四葉家がこのパーティーのために香港に用意した拠点の広間には四人の魔法師が一堂に会していた。

 

 四葉元造、四葉英作、七草弘一、七草家当主たる七草弘正。

 

 

 

 交流会会場の結界が破られたのは幽寂が姿を消して数秒後の事だった。

 ようやっとのことで結界を破り会場に雪崩込んだ四葉の魔法師達が目にしたのは血濡れで倒れる弘一と恐慌寸前の深夜とそれを抑える真夜の姿だった。

 

『弘一さんをお願い!!』

 

 駆け付けた四葉の魔法師たちに叫ぶようにそう言った真夜は深夜を抑えるのに精一杯だった。それを理解したが為に彼らの動きは早かった。

 直ぐ様弘一に最大限の治癒魔法を施し、三人を連れて台北の拠点に戻ってきたのだ。

 

「……僕の失態です」

「何を言うんだ弘一!」

 

 弘一の言葉に父、弘正が叫ぶ。彼は息子の負傷を聞いて駆けつけたのだ。

 

「お前は片目を奪われただろう!」

「だとしても、十師族でありながらむざむざ親友を連れて行かれたのは事実だ」

「だが──!」

「そこまでだ弘正。弘一君の気持ちも分かってやれ」

 

 ヒートアップしかける弘正を元造が宥める。

 その時、扉が開いて一人の男性が姿を見せた。

 

「元輔か。深夜と真夜の様子はどうだ?」

「今は二人とも落ち着いています。夢女姉上と七草夫人が傍についておられるので心配は無いかと」

 

 やってきたのは元造の末弟である四葉元輔だった。彼は空いている椅子に腰掛け、険のある表情を崩さず報告を終えた。

 

「一先ず安心と言ったところか。だが──」

「龍郎君の救出の件が片付いておりませんな」

「ああ」

 

 腕を組み、難しい顔をする元造に英作が進言する。

 次期当主筆頭である深夜の婚約者が攫われたとあれば四葉として黙っている訳にもいかない。他所から娶れば良いのでは、と言う輩もいたが元造の一睨みで口を噤んだ。

 

 あれだけ深夜が好いている子なのだ。見捨てるなどあり得ない。

 

「兄上方。今すぐにでも捜索隊を出すべきかと」

「いや、あまりに大勢を動かせば連中に勘付かれる。少数精鋭で叩くべきだ」

 

 元輔の言葉に英作が反論する。下手に大勢で動いて奴らを刺激し、龍郎を殺されでもしたら堪ったものではない。

 その時、弘一がすくっと立ち上がり、深々と元造に向けて頭を下げた。

 

「元造様、お願いがあります……その捜索、僕も同行させていただけないでしょうか?」

「何……?」

「無謀だと言うのは分かっています。ですが、親友を目の前で連れ去られて黙っているようでは、七草の沽券に関わります!」

 

 顔を上げた弘一は強い眼差しで元造を射抜くように見つめる。その目を見た元造と英作、元輔が感心したように声を漏らした。

 

「──私も行かせてください」

 

 その時、よく通る声が扉の方から聞こえた。弘一が驚いたように振り返ればそこには深夜がしっかりと立っていた。

 

「深夜? もう大丈夫なのか?」

「はいお父様。ですから行かせてください」

「待ちなさい深夜。今のお前は冷静ではない。龍郎君が連れ去られたことで不安定だ。それでは魔法を上手く扱えまい」

「だからって黙って待っているのは嫌なんです!!!」

 

 それは血を吐くような叫びだった。普段の深夜からは考えられないほど感情に任せた訴え。それほどまでに、深夜にとっての龍郎は大きな存在になっていた。

 

 大声を出した事で肩を激しく上下させる娘に元造は存外穏やかな声音で話しかけた。

 

「深夜」

「……はい、お父様」

「龍郎君のことは好きか?」

「愛しています」

「危険な目に遭うんだぞ」

「それは弘一さんや、何より龍郎さんがそうです」

 

 元造の言葉にも動じず深夜は堂々と答える。その様子から何かを感じ取ったのか息を吐き出した元造は深夜の頭を一撫ですると英作たちの方に向き直る。

 

「準備が整い次第出発する」

「弘一君、深夜。あまり無茶をしないように」

「分かりました」

「伯父様、真夜のことをお願いしますね」

 

 英作の言葉に二人とも頷く。そして元造は掛けてあったコートを羽織り、冷酷に告げた。

 

 

 

 

「奴らに思い知らせろ──お前たちが何に手を出したのかを」




龍郎:拉致られちゃったけど、真夜じゃないし四葉にとっては幾らでも替えの利く俺が対象だったのでラッキーくらいに思ってる。四葉がブチギレる心配が無くなった……つまり勝ちってことさ

深夜、弘一、真夜:お前(幽寂)を殺す

四葉&七草一同:(態度に出さないだけで)ブ チ ギ レ。崑崙法院野球しようぜ!お前ボールな!!

幽寂:(龍郎を見て)ふっ、おもしれー男……してる。あわよくば新しい魔法師のための標本にしたいとか考えてる。とっても愉快。

崑崙法院:新鮮なモルモットだウッヒョ〜!!なお結末
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