助けた女の子に「…責任を取りなさい」と迫られてる件   作:萩月輝夜

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”蠍座”くんは【横浜騒乱編】へワープしました。
真夜様とのイチャつきを味わうが良い…!

誤字脱字報告ありがとうございます。申し訳ありません。
コメント&高評価励みになります!

【九校戦編】は後二話ぐらいで終了予定です。


九校戦編⑥

「随分と頭を悩ませているようだな。”無頭竜”の諸君」

 

「ッ!?だ、誰だッ!」

 

事を進ませる手筈を指示していた男達のリーダー…ダグラス・黄は突如として背後から重厚のある声が聞こえてきたことで心臓を鷲掴みにされた感覚を覚え後ろを振り返ると他のメンバーも釣られた様に声のする方向に視線を向ける。

 

「私だよ。ノックもせずにお邪魔して悪かったな」

 

そこには白い法衣のようなコートを着用し烏帽子のようなもの身に付ける。

目元は目深に被った帽子により見えないが三十代後半の北欧人種でその衣服の下からでもわかる程に筋骨隆々としており中々に奇抜な衣装ではあるのだが…不思議と違和感を覚えなかった。

 

「…あ、貴方か…驚かせないでくれ…それに一体いつから…?」

 

本来ここに立ち入るには自分達の許可が必要であり魔法的な干渉を受けないような作りにしている筈なのに目の前の男性はこの会談の場所へ足を運んでいた。この男性が彼ら”無頭竜”のボスの親友であった。

この場を守る”ジェネレーター”達は突如として出現した男に反応を見せたが見えない威圧感に圧倒されているように見えた…が当の本人はコンビニに足を運ぶかのように軽いものだ。

 

「つい先程な。鍵が空いていたのでノックしたが返答がなかったものでね……そこの料理頂いても?」

 

嘘を吐くな、とこの部屋の誰もが思ったが答えになっていない返答をして彼の意識はまだ湯気が立ち上る豪華な料理が並ぶテーブルに意識が向けられており返答するつもりは一切無いようだ。

 

「あ、ああ…構わない」

 

「では頂くとしよう…紹興酒を貰えるか?」

 

「一番良いのを持ってこさせよう…」

 

四人が卓を囲っているテーブル、黄の隣に陣取り着席すると持ってこさせた紹興酒をグラスへ注ぐ。

それから豪快に…それでいて丁寧に箸を用いて綺麗に咀嚼し酒で流し込む姿は彼が欧米人であることを忘れさせたがメンバーの一人ジェームス・朱がその光景を見て内心で悪態を吐いた。

 

(”バトル・ボード”での渡辺選手の事故は見事だったが…それ以降はなんの手も貸さずにここで飯を集りに来るとはこいつが本当にボスの親友なのか?せっかく投入した”ジェネレーター”も使い潰す…それなら現地の工作員に任せた方がましだったぞ…)

 

北京ダックを口に運ぼうとしていた男の動きが止まり皿へゆっくりと下ろす。視線はジェームズ…ではなく料理に向けられており男は北京ダックを戻した手を今度は箸に持ち変えフカヒレへ手を伸ばす。ホッとしたジェームズだったが男は咀嚼し飲み込み口を開く。

 

「君たちが所有する”ジェネレーター”を喪失させてしまったことは謝罪しよう。私の魔法は少し特別でね…理解してくれると助かる」

 

淡々と謝罪の言葉を述べるがその声色に感情は乗っていない。

フカヒレを流し込むように紹興酒を飲み干し空にすると再び煽ったグラスに並並に酒を継ぎ足し粗雑に置いたグラスからは紹興酒は溢れずに飲み口に張り付くように留まっている。

男は釘を刺すように視線を向ける。

 

「だが、私は君たちの仲間ではない。俺はリチャードに”自由”にしていて良い、と言われている。手を出したのは気まぐれだ。九校戦を妨害し一校を優勝させないと言うのは君たちの仕事だろう?」

 

ボスの名前を突きつけられそう告げられば男達は黙ってしまう他無い。

本来彼を計画に含めていないのだから彼を咎める、と言うのは筋違いだった。

それでも”バトル・ボード”での妨害で見せた手腕は凄まじいものであり確かにそれを切っ掛けとして点数の獲得を減らしていたがあくまでもそれは切っ掛けだけだ。

それ以降彼らが優勝阻止しなくてはならなかったのだが…予想外に一校が独走している。

勝手に割り込んで…と言われれば其までだが。

 

「馳走になった…ああ、そうだ…少し助言しておくが恐らく”氷柱倒し”も一校が三位まで独占するだろう」

 

あれだけあった豪勢な料理は皿を除き空となっていた。高級な紹興酒も数本が空けられており驚くがそれよりもまるでそれが事実であるようなことを告げたことに四人の意識が向く。

 

「!?」

 

「な、なんだと…?」

 

「選手もそうだがエンジニアの能力も高いらしい…このまま第一高校が快進撃を続ければ君たちの首が物理的に飛ぶこととなるだろう」

 

そう告げられ男達は顔を青くする。自分達の末路を想像したからだろうが法衣を来た男は少し思案して立ち上がる。

 

「(ふん…自分が粛清対象となったらこうもなるか)…馳走になった。さて、私は行くが…君たちの検討を祈っている」

 

「なっ…!?き、貴様ッ…此方の”ジェネレーター”を使い潰した上で飯を集りに来ただけだとぉ…?ふざけるのもいい加減にしろッ!」

 

「お、おいジェームス」

 

立ち去ろうとする男にこれ迄の行動の苛立ちが遂に爆発する。

メンバーの一人が”ジェネレーター”に指示して男をテーブルに押し付けようとしてすさまじい速度で後頭部を掴み掛かる。がそれはするり、とすり抜け逆に”ジェネレーター”の頭を掴み食事が置かれていたテーブルに激突し木片が飛び散った。魔法師であっても不意の攻撃に反応することが不可能な程の速度であったにも関わらず余裕で回避して見せたのは彼が魔法師としても実力者であったからであり現に涼しい顔で()()()()()を行っている。

 

「本格的に新人戦の”モノリス・コード”や本戦の”ミラージ”の結果次第では総合優勝してしまうだろうさ。ここで助言だが”モノリス・コード”で仕掛けておいた方がいい。一校を二回戦で敗退させるに持ってこいだ。場所は市街地。対戦相手のCADに”破城槌”でも仕込んでおくといい」

 

そう告げながら男は魔法を発動する。

すると”ジェネレーター”身体情報のエイドススキンを紙屑のように破り鎧を失った頭部はぐしゃり、と血と脳漿が飛び散らさせた。

 

「あ、ああ…」

 

「ふむ…勿体無いことをしたな。まぁいい…精々リチャードに消されぬよう頑張るんだな(独立魔装大隊も動いているという噂だし…ここいらが潮時か)」

 

そう呟くと男達は恐怖と驚きで竦み上がり呻き声を上げるだけだ。

 

(”ソーサリーブースター”と”ジェネレーター”の供給源である彼らを失うには少々惜しい、が威力査定も出来ない幹部に未来はない、な…効率的に俺の”魔法”を発動できるサブタンクになりうるかと思ったが…見当違いのようだ)

 

男達の行く末など法衣の男にとっては毛ほども興味を覚えなかった。

”魔法師”は只自分の欲求を…求める理想の世界の姿を叶えるための崇高な目的の為の小さな致し方の無い犠牲だ。

ビルから立ち去り男は雑踏の中へ消えていった。

 

「な、なんなのだあの男は…?」

 

男が立ち去った後微かに動き出す”無頭竜”のメンバー達は惨状を見て思わず呟く。

最後に視線を向けたその烏帽子の目深に被ったその奥の暗闇に細められた…自分達の組織の象徴でもある幻想種…”竜”のような縦長な眸は黄金に輝いていた事に男達は恐怖していた。

 

◆ ◆ ◆

 

九校戦六日目・新人戦三日目。

”蠍座”と”無頭竜”の妨害は見られず放った”星魂魔法”で警戒しつつその一方で二人は通常運転していた。

 

「真夜さん大丈夫かい?」

 

「人が多くて少し窮屈ね。…でも隣に貴方が居るから大丈夫よ?(体調を気遣ってくれるなんて…私の恋人カッコ良すぎて自慢したいけど…我慢、我慢よ真夜)」

 

「真夜さん…」

 

「朔也さん…」

 

微笑みあって見つめ合う二人の影響で観客席の糖度が急上昇していた。

 

(イチャつきやがって…!)

 

(おい、この浮かれポンチどもを止めろよ生徒会!)

 

(会場が砂糖まみれになるかならないかなんだ、やってみる価値はありますぜ!)

 

(無理だ!もうドクターストップを掛けられているものもいるんだぞ!)

 

「す、すごい…ブラックコーヒーが飛ぶように売れていく…!在庫が死ぬ…!」

 

一方試合会場では深雪の魔法とその衣装を纏った静謐さが支配していた。

 

(場所を…場所を考えてください二人とも!ああ、もうっ!)

 

((((綺麗だけど…えげつねぇ…!))))

 

索敵を【ブレイドラ(サーチ・ドロー要因)】達に任せ朔也と真夜は女子”アイス・ピラーズ・ブレイク”の試合の最中その美貌と魔法で敵陣を蹂躙しているその背後で友人と叔母が砂糖を観客に吐かせまくっているのを後ろで感じておりチョッとした苛立ち込みで敵陣に”灼熱地獄”を叩き込みパーフェクトゲームを行っていた。

 

「またやってるわあの二人…(私も…達也くんとあんな風に…ってなにを考えているの私ッ!?)」

 

一方で圧倒的なワンサイドゲームを確認しつつ眼下にてイチャついている二人の下級生の姿を見て「またやってる…」と想いながら真由美は最近気になる年下の男の子が自分の隣に居る姿を思い浮かべていた。

ただ、彼処までに周囲に砂糖をばら蒔くカップルにはなりたくはない。羨ましい、とは思うが。

 

「空気中の糖分濃度が上がってますね。周囲の人間が糖尿病になるのも時間の問題かと」

 

「え、なにそれ怖い…」

 

深雪側の対戦校控え室に居る真由美達は観客席を見て頭を抱えていた。人目を憚らずイチャついている二人…それを間近に見ている一校生徒からクレームが届いて居た。

 

「まぁそれは冗談として他生徒から『糖分が高すぎてヤバイです』や『あのバカップルを取り締まってくれ』と『どうやったら朔也君みたいなイケメン彼氏を捕まえられますか?』など質問が」

 

「最後の関係ないわよね?絶対願望入ってるじゃない!」

 

極真面目な表情で鈴音が生徒会に投書された意見を述べると真由美が頭を抱える。

この親友は大真面目な表情を浮かべボケをかますことが多々あるからだ。しかし彼女が読み上げたのも事実であり実際に真由美も妹達に「朔也さん達がそこに居るだけで糖度計が壊れる」と言われ否定できない自分が居たと同時に眼下で仲睦まじい?光景に少しの羨ましさを覚えていた。

 

「…会長。ああ言うのやろうとするなら隠れてやってくださいね」

 

「なッ!?な、何を言ってるのリンちゃん!?」

 

自分が考えていたことをズバリ言い当てられ動揺する真由美を鈴音は表情を変えずに告げた。

 

「性格は兎も角…見てくれと血筋は良いのですからもっと言い寄ったら良いですのに…ヘタレですか?」

 

「酷い言われよう!?今性格って言った?性格悪いって言った?…べ、別に達也くんと…」

 

鈴音が不敵な笑みを浮かべる。

 

「ほう?私、”司波くん”とは一言も言ってませんが…」

 

「…………あっ」

 

人の口に戸を立てられない、後の祭りで真由美は口を押さえるが遅かった。

 

「司波くん。結構な朴念人ですからね。今回の手柄でファンが沢山増えてますからぐずくずしてると取られちゃいますよ」

 

「ぐっ…正論が痛い…そんなに私、わかりやすい…?」

 

「少なくとも九校戦会場に向かうバスで衣装に関してのコメントがなかったことに露骨に残念そうにしていれば。あと中条さんや渡辺先輩にはバレバレです」

 

九校戦会場に向かう際に家の用事で遅れた真由美はサマードレスを着用していたのだがその際に待機していた達也に意見を求めたが「…お疲れなのですね」とだけ告げられ作業バスへ乗り込んだのを見て残念そうにして「似合ってないのかな…」と呟くのを隣に座っていた鈴音は見逃さなかった。

 

「わああああああっ…!うぐっ…リンちゃんが苛める…」

 

「私の少ない趣味なので許容してください」

 

「酷くない!?摩利が居ないからって歯止めが聞いてないじゃない!」

 

「渡辺先輩からは『私が居ない代わりに真由美を弄っておいてくれ』と依頼されてますから」

 

親友の裏切りに膝を着く(幻視)真由美。病室で療養している友人を病み上がりしたら仕返ししてやる、と決意した。

 

「摩~利~…!」

 

そんなこんなで深雪の勝負は三度敵陣を灼熱地獄に叩き込んで圧倒的な魔法の差で絶望へ叩き落としていた。

試合は別の選手へ変わってその最中朔也がポツリ、と漏らす。

 

「相変わらずの魔法力…凄まじいなぁ。夏場は冷房要らずだね」

 

無邪気な意見に真夜はクスり、と笑う。

 

「あの冷気を受けたら霜焼けでは済みませんよ?…朔也さんでしたらどう対処して攻略します?」

 

もし仮に出場していたら、と言う話題へ変わっていた。

 

「そうだな…敵の干渉はまぁ俺の場合情報重装甲魔法あるから深雪と同じく振動系統使って防御できるし。氷柱を崩すだけなら雫みたいな共振破壊で問題ないけど…”振動・収束魔法(キャンサード)”があるし…まぁ派手さを演出したいのなら”射手座”を使えば良いけど…あれは威力が大きすぎるからやるなら”振動・加速魔法(サジッタフレイム)”かなぁ…」

 

そう告げると苦笑する真夜。実際にその威力を見たことがあるからだ。

確かに上空から降り注ぐ炎の鏃は圧巻だ。

 

「確かに、ですわね。派手さなら『振動・加速魔法(サジッタフレイム)』が有効ですが…あれも威力がありすぎじゃありません?」

 

「基本、俺の魔法って調整難しいんだよね。だから精神干渉系統(セフィロ・アリエス)が便利すぎて…」

 

全ての魔法が文字通り”必殺”の威力を誇るためおいそれと使えない。汎用性が高い精神干渉系を重宝させるのだが…

 

「朔也さんは分家の人たちに精神干渉系の使い手、と認識されていますのよ?」

 

「ええ?嘘…」

 

いつの間にそんな目で見られているのかと朔也は驚いた。

別会場で行われていた”バトルボード”でもほのかが無事決勝戦へ進出し”ピラーズ・アイス・ブレイク”は決勝リーグまで進んだ。

午後からの一校天幕の盛り上がりは凄まじいものだった。

”快進撃”と言うにふさわしい史上初の一位から三位までの選手が第一高校の選手で埋め尽くされていたのだ。

一方で男子も確実に勝てるメンバーを揃えていながら気合いが空回りしミスを多発、初戦敗退すると言う空回りを見せていたが女子は逆で着実に、しかし絶対的に試合を勝利へ進めていた。

午前の予選試合を終えて決勝へ進む三名の一年生とその立役者である達也を天幕…ではなくホテルのミーティングルームに呼び出した真由美は労いの言葉を掛けた後、運営委員会本部からの()()を伝えた。

 

『決勝リーグの順位に関わらず入るポイントは同じ為同率で優勝としてはどうか?』と言うものだった。

これに対して明智英美は前試合のサイオン枯渇により試合が継続できない、と理由で辞退を表明した。

しかし、同率の雫はそれを却下した。

 

『本気の深雪と戦える機会はそうないだろう…だから戦いたい』と言いきった。

 

それを受けた深雪もその挑戦を受けて立つことにしたのだ。

 

『雫がそう望むなら私には断る理由はありません。』と

 

それを聞いていた達也は深雪は負けん気が強い。魔法の勝負事となればなおさらであり避けては通れぬ”激突”であることを理解していた。

 

◆ ◆ ◆

 

(まぁ…この段階でも深雪に勝てる魔法師はリーナぐらいか?)

 

そして行われた新人戦”アイス・ピラーズ・ブレイク”女子決勝戦。第一高校同士の予選で壮絶な魔法を見せたもの同士の試合は観客を超満員にするほどの注目カードであったからだ。

壮絶な魔法のぶつかり合いを演じて雫は共振破壊を仕掛けるが深雪が冷却魔法で防御、抜けないと理解した雫は達也の秘策である禁断の二つ持ちを使い”フォノンメーザー”を用いて今まで崩されなかった深雪の氷柱が破壊された。

一方で深雪も氷柱に対して振動系統魔法である”ニブルヘイム”を用いて一気に冷却、溶け出した水滴に対して”インフェルノ”を発生させ砕く。そこからが次々と雫の氷柱が砕かれ一方的な力の差を見せつけた新人戦”アイス・ピラーズ・ブレイク”優勝は深雪に決定しそして女子新人戦”バトルボード”はほのかが優勝していた。

 

その同時刻。

ホテルに併設されたカフェにて朔也と真夜は向かい合ってお茶をしていた。時間帯は夕方前であり利用客は多くはない。ゆったりとした時間が流れており朔也がモンブランのコーヒーセット、真夜がショートケーキの紅茶セットを注文していた。

 

「分かりきっていたことだけど圧倒的だったな…」

 

「ええ。今の深雪さんは力が制限されているとは言え並みの…優秀な魔法師程度では相手にならないわ。とは言え相手が可愛そうになるレベルでしたが」

 

「目立つようなことさせて大丈夫?」

 

「あの程度で身元がバレるようなしくじりは致しません」

 

「……(ほんとぉ?)」

 

それはそうだ。と納得していたのは原作でも大きな活躍を見せていたのに継承編まで極一部の者しか気がつかなかったのだから。それでもエリカが気がついていたし九島老師…は名前で知っていたのかもしれないことを考えると随分と緩いな、と思っていると真夜がこちらをジト…と見ていたのに気がつき視線を逸らした。

 

「なにか言いたそうですけれど…」

 

「ん?なんでもないよ」

 

「むぅ…」

 

ほほを少しだけ膨らませ「私少し不機嫌です」とアピールしている真夜が可愛くて仕方なかった。

 

「(今ここで頬をつっついて空気を吹き出させたら怒るだろうなぁ…やりたいけどやめておこう)…ははは…あ、少しお手洗いに行ってくるから少し待っていてくれないかな」

 

「はぐらかされた気がしますが…ええ。分かりました」

 

逃げる、と言うわけではないが朔也は会計を先に終わらせるためと手洗いに向かうために立ち上がった。

珍しく自動精算機ではなくカウンターに居る店員へ伝票を見せて会計をするスタイルでこれは経営者である意図が含まれているだろう。

真夜が居る席からはカウンターが観葉植物によって遮られ見えず支払いの場面を見られる心配はない。

会計を無事に終えてお手洗いに入って用を足して手を洗っていると後ろに人の影を感じた。誰かが入ってきたのだろう別の利用客か従業員が立ち寄ったのだろうと深く考えず下を向いて手を洗いながら思案する。

 

(原作通り…バトルボード”と”氷柱倒し”はほのかと深雪が優勝した…となれば”無頭竜”が妨害を仕掛けるのは明日の”モノリスコード”か)

 

森崎達が割りを喰らい達也達が面倒事を吹っ掛けられてしまうが”蠍座”の術者が分からない以上流れに沿って行動するしかないだろう。だが…

 

(”ブレイドラ”達を放っている。のに全く反応がない、ってのはどう言うことだ?魔法が発動している以上”蠍座”は消えていない筈…達也達にはああ言ったが代償が必要なら尚更サイオンを消費して維持している…まさかとは思うがあの”山羊座”のように此方の世界に実在しない…向こうの世界に隠して、いや隠れているのか)

 

だとするのなら探し出すのは至難の技だ。例えるならデッキの奥底に眠っているようなもので堀当てるのは至難の技だ。

 

(攻撃するタイミングでなければダメージを与えられない…引きずり出す為の術式と一撃で破壊する”蟹座”か”射手座”は必要か。だが、ここまで探していない、となると既に術式としての”蠍座”は消滅して術者は引き上げているのか?)

 

捜索網を広げているがここまでして見つからない、となると後者、術は既に解除され放ったものは既に消えているか立ち去っている可能性があった。

 

(捜索は続けるが…無駄骨かもしれないな)

 

用を足して手を洗って水気を飛ばした後トイレを後にし座席へ戻ると既にティーセットを片付け部屋へ戻る支度をしていた真夜と共にカフェを後にした。

 

◆ ◆ ◆

 

(朔也にああは言われたものの此方も警戒しておかなければ…)

 

九校戦七日目。新人戦四日目。

別々に分かれ行われる新人戦女子”ミラージ・バット”と男子”モノリス・コード”。

観客は両者ともに多いが”ミラージ・バット”はその特徴上女子生徒がカラフルなユニタードを翻らせ上空で踊るように得点を競い会う競技のため男の注目を集めやすいのだが…其にしても色ボケした視線が選手、ではなく敵視された警戒する視線が自分に突き刺さっていることに困惑していた。

 

「自分の事になるととんと鈍いんだね司波くん」

 

「鈍い、と自覚しているが里美には分かるのか?」

 

「勿論。新人戦を総なめにした選手のエンジニアと言えば各校の警戒が君に向くのは仕方のないことだよ」

 

「調べてれば誰なんて事は分かりそうなものだが…」

 

「そういうこと。司波くんは今は各校の警戒の的、さ」

 

そう告げていたのは新人戦女子のメンバーである里美スバルだ。先天的な認識阻害のスキルがあるため大仰な喋り方をする少女であり渡辺摩利が歌劇団の男装の麗人とするならば彼女は劇団の美少年役と言えば分かりやすいか。

実力者であり新人戦に選ばれるだけの能力があった。

 

「……」

 

そう言われ達也は苦笑する他なかった。

あまり目立ちすぎると叔母である真夜に釘を刺されてしまうだろう。

 

(それを言うなら人までイチャついている叔母上、というか朔也の方が問題なんだが…ともかくとして)

 

一旦問題を棚上げして置く。ここで手を抜くことは彼を()()してくれている他の人々の信頼を裏切ることとなる。自分を推した真由美に克人、プライドを曲げて入れた服部。自分を慕ってくれているほのかに雫、ある意味で負けることは叔母の前では許されない。そして妹である深雪の前でみっともない姿を見せるのは彼の矜持が許さなかった。

 

”ミラージ・バット”の試合の特徴上日の上がっている日中に行われるのは好ましくない。日差しを遮るために飛行船が遮光スクリーンを展開するほどであり九校戦唯一のナイター試合が行われるほどだ。

正午を回り既に予選が終了し里美スバルとほのかは予選を突破し午後七時から予定される決勝へ進むことが決まっていた。競技で失った体力を回復するために既に二人は休憩を取っており達也も又仮眠を取るためホテルへ戻っていた。宛がわれたホテルの一室で部屋を暗くして体を休めていた達也は昨日”氷柱倒し”の予選の際控え室に向かう際予想外の人物に遭遇したことを思い浮かべていた。

 

「初めまして、かな。三校一年一条将輝だ」

 

「初めまして。同じく三校一年吉祥寺真紅朗です」

 

(まさか三校の一条将輝と吉祥寺真紅郎が出てくるとは…片方は”クリムゾンプリンス”…もう片方は仮説上の基本コード”カーディナルコード”を発見した”カーディナルジョージ”……新人戦であの二人が出てくるのは反則級だな)

 

魔法師として知らぬものはいない”有名人”だ。

実戦経験済みの一条家の跡取り息子と魔法師界の天才…学校行事で出てくるには反則級の二人を相手取る生徒が可哀想になるが達也には関係の無いことだった。

そう呟くのも無理はないのが現に彼らが出場した男子”氷柱砕き”と”早打ち”を優勝しており決勝まで残るのは三校が確定している。同じ一年生でも実力が違っているのだ。

 

(しかし森崎達も今まで一戦も落としていない。二回戦では今まで最下位の四校…取り零すことはないだろう)

 

一校新人戦の行く末を考えながらCAD調整で動かした頭を休ませるため目蓋を閉じ休憩を取る。

その時脳裏に突然押し掛けてきた一条が深雪を見て一言「美しい…」と呟き先に控え室に向かう深雪に目を奪われていたのを不躾に自分で自覚したのか立ち去る深雪へ一礼して見せ再びこっちを見たのを思い出して「こいつ深雪に一目惚れしたな…」と思い出していた。

 

この時、休憩明けにとてつもない無茶振りされるとはこの時の達也は思いもしなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

一方その頃新人戦”モノリスコード”第二試合。

一校森崎チームは危なげなく試合を突破し予測通り第二試合市街地エリアでの第四高校との試合だ。

 

観戦席で二人並んで観戦する朔也と真夜。二人の視線は試合会場と観戦席へ向けられて”星魂魔法”で”蠍座”を警戒するために測定器に引っ掛からない程度に飛ばしている。

しかし、前述した想像が当てはまるのなら既にこの会場に操る術者はいないのかもしれない。

 

試合開始前の独特な緊張感が包む中で魔法の兆候を探るが反応が見られない。

何事もないのか?と思った試合開始前の10カウントの最中、事態は動き出した。

 

視点は変わり試合会場となる廃墟群のビルが立ち並ぶ一室にて森崎達が戦意を漲らせていたその中で開始前のカウントの最中四校選手のとある一人の生徒のCADが起動していた。そう、一人でに。

CADに感染し狂わされたウイルスが犯人だったがそれを彼らは知る由もない。

 

「お、おい…!」

 

「おいばかっ!フライングだぞッ」

 

「違うッ、勝手にCADが!」

 

「なッ…!?」

 

次の瞬間、一つのビルが倒壊し大きく崩れ土煙を上げる。

試合中止のフラッグが上げられ倒壊した場所へ医療スタッフが駆け寄る。それは第一高校の選手が開始地点としていた場所だ。建物内部で使った場合殺傷性ランクがAへ格上げされる”破城槌”が使用されたのだ。

 

呆然とする四校生徒。そしてフライングと魔法を使ったとされる生徒は顔を青くしてその場に立ち尽くす。

彼らの視線の先には一校生徒が開始地点とされた廃ビルへ向けられていた。

 

◆ ◆ ◆

 

結果として四校のフライング、建造物内部で使用すると殺傷性ランク”A”へ引き上げられる魔法”破城槌”を使用したことによる反則行為によって四校は失格、一校は二回戦敗退がほぼ確定となっていた。

今日の事で”モノリスコード”試合自体が中止となった事で驚く各陣営と観客達だったが二人は違う。

戻ったホテルのロビーにある昨日も利用した喫茶店にて会話をしていた。

 

「反応はなかったの?」

 

「はい。”蠍座”の術者はいない、ってことになりますね…」

 

喫茶店の奥座席にて。

 

「そう…彼らには気の毒だと思うけどはっきりしたわね。それにきっと事故の犯人は大会運営に紛れ込んだ工作員ね。検査したCADに”破城槌”をインストール…又は遠隔操作して発動させた…」

 

「ええ。これである意味第一高校が”モノリスコード”を敗退を余儀なくされるでしょう。怪我によって出場不可。四校はインストールを否定するでしょうけど…(そもそも思ったんだがなんで四校に魔法を使わせた?試合に勝たせたくない、ってするなら一校の森崎のCADに細工を仕掛ければ良かったと思うんだが…此ばっかりは所謂”話の都合”…という奴か)」

 

「朔也さんは此から一校がどういう対応を見せるか予測できる?」

 

「事故が起こりましたから”モノリス”自体中止にしたいでしょう。ですけど…恐らく十文字先輩が大会運営に折衝するでしょうね。”此方は巻き込まれた側であり危険行為をしていない。メンバーを選出するから試合を再開させろ”とね」

 

「此方は被害者、だと明確にするのね」

 

「ええ。”バトルボード”からこの方ケチのつけっぱなしですから。会長達も薄々気がついてると思います。出発時の事故と今日の魔法の過剰攻撃…外部組織か優勝させたくない他校が狙っているのでは、と。だからこそ一校上層部は意地でも新人戦…総合優勝したいんでしょう」

 

「”十師族”の権力ね…私もあまり人の事を言えないけれど大変ね。運営も」

 

苦笑する真夜は紅茶のカップに口つけ暖かい香り高い液体を喉へ流し込む。

 

「恐らく会長の事ですからメンバーに達也を選出するでしょう。お気に入りみたいですし」

 

「あら、弘一さんの?…それはそれで面白そうね。誰が選出されると思う?」

 

単純な好奇心だった。真夜は朔也の考えを聞きたかったのだ。そう問われ苦笑する。

 

「…達也は一科生に嫌われてますからE組生徒を選ぶんじゃないのかな。吉田家の息子と西城だと思うよ。女子生徒は参加出来ない筈だから」

 

自分が参加する、とは言わないのねと思った真夜だったが朔也が戦いを好まない性格である事を思い出し少しだけ残念に思ったが彼を衆目の場面に出すのは他の女子に彼のカッコ良さを知られたくない、という独占欲が少し…そうホンの少し働いたからだった。

一方の朔也が達也とレオそして幹比古が活躍する”モノリスコード”を期待して胸踊らせていたが予想外の人物の介入によってその想定は崩されることとなった。

 

◆ ◆ ◆

 

「甘えるな、司波」

 

十文字の重い声がずしり、と響く。それは声だけでなく

午前の”モノリスコード”での事故があったものの新人戦”ミラージバット”は決勝戦を優勝はほのかとスバルがワンツーフィニッシュで独占し無事に今日の競技は終わった…となったが達也はホテル内の割り当てされる会議室へ呼び出され真由美と克人の前に立っていた。新人戦の優勝も狙いたい真由美達上層部は”モノリスコード”優勝へ向け達也の実力を鑑みて参加させようとしていたのだ。

その事に達也は明確にな否定の言葉を向けたが真由美は苦笑いを浮かべるだけで反論しない。それに追撃するように今現在一校が置かれて自分の立場を踏まえて拒絶した。「二科生徒が選ばれれば一科生徒との軋轢を残す」と…。

その言葉にメンバーである一科生徒の先輩達は黙るしかなく達也も断りきれる、と踏んだがそれを許さなかったのは座席に座る十文字だった。

 

「お前は既にチームの一員であり選手とかスタッフに関わらず一年生二百名の中から選ばれた二十一名の一人だ」

 

既にお前の存在は一年生、いや第一高校の生徒に影響を与え無視できない存在になっていると遠回しに言われている気がした。

 

「この緊急事態に際してリーダーである七草がお前を代役として選んだ。チームの一員である以上、その勤めを受諾し、メンバーとしての義務を果たせ」

 

「しかし…」

 

「メンバーである以上リーダーの決定に逆らうな。その判断に誤りがあるならばそれを指摘し阻止するのが俺やここにはいないが渡辺がその役目だ」

 

克人の言葉に達也は一度目を閉じる。

即ち”何があっても責任は俺たち上層部が取るから心配するな”と言っているのだと。

”二科生だということを逃げ道にするな”、”言い訳をするな””弱者の地位に甘えるな”と言われ達也も逃げるのを諦めた…いや立ち向かうことにした。

 

「わかりました。義務を果たします」

 

そう宣言するとその場にいた深雪と真由美が嬉しそうな表情を浮かべて克人がしっかりと頷いた。

その後達也は自分以外のメンバーを確認すると克人は「お前が決めろ」と決定権を自分に委ねてくる…責任逃れとも取れるその言葉だったが目の前の上級生は責任だけは譲らない。

 

「この場で決めるのが好ましいが決められなければ一時間後またここに来てくれ」

 

達也もそう言われ反射的に「いえ、既に…」と答えた。脳内に既にリストアップしていた知り合いがいたが()()()()()()()()()()()()()()ものだったのだが。彼がいれば優勝候補の三校相手に互角以上に戦えるだろう戦力であった。

 

「ではその説得には俺たちも立ち会おう」

 

「誰でもいいんですか?チームメンバー以外でも?」

 

少しだけ悪のりしたくなった達也は思いがけず真由美を困らせるような発言をしていた。

 

「えっ、それはチョッと」

 

「構わん。例外に例外を重ねているのだ。今さら一つ二つ増えたところで問題ない」

 

「十文字くん…」

 

非難の目を向けるが十文字は「今更だろう?」と視線で返すと真由美も黙るしかなった。

許可を得たところで達也は脳内リストアップしていたメンバークラスメイトの吉田幹比古ともう一人の名前を挙げた。

 

「…1-Aの紫ノ宮朔也をメンバーに据えようかと」

 

「お、おいッ司波!」

 

慌てた声を出す服部を制するのは鈴音に手振りで阻止される。

朔也の名前を出した時十文字の口元が少しだけ愉快そうに上がった気がした。

 

「ほう…紫ノ宮か」

 

「ええ。彼なら間違いなくモノリスコードを優勝できると思います。会頭も()()()の筈です。ですが彼は争い…というか戦闘関係に関して消極的です。頼んだところで断られるのが関の山…ですから説得には同クラスメイトの狐坂さんが必須になるかと思います」

 

そう告げる達也の言葉に十文字、真由美、服部、鈴音、あずさが顔を見合わせる。

特に克人は膝を着かせられた相手であると同時にその実力を買っていた。

達也と深雪は別の意味で彼の実力を知っているからこその推薦…巻き込みだったが。

 

「わかった。中条二人をここに呼び出してくれ。確か応援のメンバーとは別に試合観戦にこことは別のすぐ近くのホテルに泊まっていると聞いた」

 

「わ、わかりました!」

 

◆ ◆ ◆

 

「…お断りします(達也ぁ…何巻き込んでるのさ?)」

 

控え室に呼び出された幹比古は驚きながら了承したが朔也は難色を示し明確な拒否を提示した。

選手でもなければサポート…九校戦メンバーでない自分が何故でなくてはならないのか、と示すと真由美は困ったような表情を浮かべ十文字も渋い顔を浮かべた。

 

しかし、ここで形勢逆転が発生する。

 

「朔也さん。試合に出てください」

 

「え、ま、真夜さん?」

 

突如としてホテルへ呼び出され”モノリスコード”へ参加するように命じられた朔也は案の定試合観戦の為断ろうと強い言葉で拒否したが真夜へ達也が何かを耳打ちしたのを見て怪訝な顔をしていると先程の言葉が襲う。

困惑する朔也を他所に真夜は手を取って上目使いで目を潤ませながら懇願する。

 

「私…朔也さんの事何時もカッコいいと思っておりますが…戦いの場で見せる表情を今一度見せて欲しいですわ(朔也さんが無双する場面…見たいですわッ!見てこれこれ私の旦那さまぁ!って自慢しますわ!)」

 

「ぐっ……?!(上目使いはそれは禁止カードだよって言ったよね?)」

 

狭間で揺れ動く朔也を見ながら達也の近くに移動していた真由美が耳打ちする。

 

「ねえ…達也くん。これが秘策?」

 

「ええ。朔也を陥落させるにはお…狐坂さんの協力が必須です。効果てきめんでしょう?」

 

「効きすぎじゃない…?」

 

数分ほど唸っていた朔也だったが「はぁ…」と溜め息を短く吐いて手に取った真夜を見つ視線を上層部メンバーに向ける。

 

「(本当は後ろでポップコーン片手に観戦していたかったけど…仕方ない。レオ、済まない。)わかりました…出ますよ」

 

「え、本当?」

 

「でも条件があります。」

 

一つだけ条件をつけると真夜は首を傾げる

 

「?何かしら」

 

「九校戦の合同後夜祭で真夜さんと一緒にダンスすることを許してくれるなら。です」

 

「ふふっ…なぁんだそう言うことね。喜んで。……会長、朔也さんは快諾してくれましたわ」

 

「え、嘘」

 

「そうか。では頼むぞ。装備に関しては中条が準備する。試合は明日だ」

 

それぞれが返事をしてやる気を見せるが朔也は自分を嵌めた可愛くない甥を少しだけ恨み目に見て溜め息を吐く。

 

「(仕方がない、か…やるからには勝つさ。それと達也あとでお話な?)わかりました」

 

やるからには全力で向かってくる生徒を潰すことを決定した。




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九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?

  • 十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
  • 十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
  • 本編(よりは若二十代それで制服を…)
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