助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件   作:萩月輝夜

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番外編です。
さぁ高濃度イチャイチャ空間を味わうといい…!
余談ですが小説ページでAIを利用した朔也と真夜(若)のイメージイラストを掲載してますので補完にどうぞ。

日常デート話です。
九校戦編完結時に大量のコメント&高評価ありがとうございます!
及び誤字脱字報告も併せてありがとうございます。



夏休み編
夏休み編①


熱狂渦巻く九校戦が終わりを告げ一足遅く、競技に参加していた第一高校の生徒達は夏休みに突入していた。

 

嘗ては平均気温が四十度を突破するのが珍しくなかった旧暦だったが第三次世界大戦の影響で世界的に寒冷化した為か真夏の八月でも過ごしやすいという元の経緯を考えると諸手を挙げては喜べない事実があった。

 

がしかし。それでも多くの人々がそんなことを気にせずに平和な日常を過ごしていた。

 

夏休みの期間中のためか多くの人で街中は賑わいを見せ殆どの雑居ビルや複合施設のデパートのテナントには家族連れや高校生の姿が数多く見られ年若い男女がデートをしている姿が見受けられた。

その雑踏に紛れるように朔也も夏休みを利用し駅前の複合施設へ足を運んでいたのだが…彼を知る同級生ならばそのとなりには何時もいる少女の姿が見受けられなかった事に不思議に思うだろう。

 

そんな想像など知らぬ、と言わんばかりに少年は建物が作り出す日陰に入っていった。

 

「三十分前…少し早く来すぎたかな」

 

そんな中で夏の強い日差しを遮る、駅ビルの巨大な強化ガラスキャノピーの下。待ち合わせに指定された柱の影に一人の少年…紫ノ宮朔也が到着していた。

白のTシャツにゆったりとした濃紺のオーバーシャツをジャケット代わりに羽織り下は通気性に富んだ合成パンツの出で立ちと言うシンプルなものだったがその見た目と二色の眼が道行く人々の視線を誘導し注目を集めていた。

 

「(そろそろ目を隠す伊達メガネでも買うべきなんだろうか…でもなぁ)………あ」

 

柱の影に隠れながら時間をどう潰そうか、と考えていると誰かが此方へ向かってくる気配を感じ視線を向けると朔也の意識はそちらにだけ集中してしまっていた。

 

夜空のような漆黒の髪をハープアップに纏め、白の清楚なサマードレスに身を包んだ姿は、街を行き交う誰もが振り返る程に目を引きその名前と存在を知るものが見ればその『若返り』と言う異常事態に驚愕するだろう。

肉体は十六歳程度。しかし精神は四十六歳なのだがその瑞々しい肉体に精神が引きずられていた。

 

柱の影となっていた場所から顔を出すと彼女の顔がパッと華やいで見えた。『夜の女王』としての冷徹な優雅さは何処へやら、彼女はトトトッと可愛らしい少女のように小走りで駆け寄ってくると、勢いそのままに嬉しそうに少年の腕へ自身の色白な細い腕を絡めていた。

 

「お待たせ致しました。ふふっ、今日の私、どうかしら?貴方のために、少し背伸びしたコーディネイトをしてみたのだけれど…」

 

上目使いで覗き込んでくる瞳は、澄みきっていて邪気がない。

だが、至近距離から漂う甘い香りと、腕に伝わる本能を刺激する柔らかい感触に、今日も理性が早くも鋼鉄化《超重装甲》していた。

 

「すごく似合ってるよ。可愛すぎて、周りの男達の視線が痛いぐらいだ」

 

そう告げるとその返答に満足してくれたのか更に腕を絡め密着して見せる少女。

その姿を見た道行く人々(男子)は朔也へ視線で人を殺せるぐらいの嫉妬を向けていた。一方女子は真夜へ羨望の眼差しを向けているが意識の歯牙にも掛けなかった。

 

「あら…。それは、貴方が私だけを見てくれさえいれば、他の有象無象なんてどうでも良いのだけれど」

 

少女…四葉真夜はほんのりと頬を桜色に染めながら、ふふっと満足そうに微笑む。

尤も、独占欲の示し方だけは久々に再会したばかりの真夜を彷彿とさせ朔也は少しだけ背筋を伸ばしてしまった。

 

「ところでなんだけど…どうして待ち合わせにしたの?一緒に行けば良かったのに…」

 

少しの疑問を告げると真夜は少しだけ不満げな表情をして見せた。

その理由を上目遣いに言われてしまった朔也は「ああ…これは俺が悪いな」と全面降伏の姿勢を見せたのはいじらしくそう告げる真夜の表情を見て納得をせざるを得なかったからだ。

 

「だって。待ち合わせして腕を組んで目的地に向かう…その方がデートっぽくなるんですもの」

 

なぜ二人で出掛けることになったのか。それは少し時間を遡る。

 

◆ ◆ ◆

 

「海?」

 

「はい。丁度北山さんのご実家が所有するプライベートビーチに招待されたからどうでしょうか、と言われまして」

 

九校戦が終わり夏休みに入って半ばの辺り。

朔也の住むアパートで茹でて冷水で締めた蕎麦をざるに入れてさぁ、食べるぞと箸で掴んでいた時

 

「海ね…小さい頃に行ったっきりだったな…」

 

「生まれたときから海が身近だったのですか?」

 

「まぁね。(と言っても生前は日本海側だったから海無し県じゃないから関わる機会がない訳じゃないけど…近すぎると珍しくもないってのがな)」

 

そんなことを考えていると真夜が問いかけてきた。

 

「おイヤでしたか?」

 

「いや、そういうのじゃないんだけど…(真夜さんの水着姿…やばくね?)」

 

「?」

 

そう考え視線を向けると真夜は首をかしげた。

正直控えめにいって真夜は美人であり美少女であり水着姿は正直お金を出してでも見たい。しかし今は真夜の恋人は自分なのだからその見る権利は自分にある、と言い聞かせ自分の考えを素直に告げた。

 

「海行きたい。真夜さんの水着が見たいだけだけど」

 

そう告げると真夜は顔を紅く染めて嬉しそうにしていた。

 

「それではデートと行きましょうか。丁度水着を買いに行く良い機会ですから」

 

◆ ◆ ◆

 

「さぁ行きましょう。今年の夏は…貴方との初めての思い出を作れますから。そう、海のための戦闘服(水着)を選びに行かなくては」

 

楽しげに俺を引っ張る彼女に連れられ、お目当ての水着特設フロアへと向かう。

複合施設内でも高級な部類に入る値段帯の店ではあったが多くの女子高生や大学生、カップルがちらほらと見て取れたがやはり総数は女性の方が多くこの場にいる男性陣に同情した。

 

(これは…居心地が…!)

 

特設コーナーがあるフロアへ足を一歩踏み入れると、そこには色とりどりの布地が乱舞していた。

男にとっては少々…どころではないかなりの居心地が悪い空間だった。しかし真夜は、煌びやかな空間に目を輝かせている。

本来であれば彼女は上流階級の人間であり一般市民が利用する(それでもグレードは高いが)施設のテナントのショップを利用するなどとは考えない筈だが…それも今回のデートの一環らしくそう言われてしまえば納得するしかないのだ。

 

「まぁ…!最近の水着はこんなに種類が豊富なのね。色もデザインも、目移りしてしまいそうだわ」

 

”少女”らしく売場のハンガーに掛かった水着を続々と手に取る。

彼女が完全に周囲に溶け込んで気になった水着を吟味?していた。

 

(………可愛い)

 

ティーンエイジャーが選ぶような水着達。

学生指定のようなシンプルなデザインの競泳タイプ、タンクトップにショーパンを組み合わせたタンキニ。

胸元と腰周りに幾重にも甘いフリルがあしらわれた、パステルピンクのビキニ。

恐らくというか十中八九…競泳タイプに関しては胸元がつぶれて大変なことになってこれは不味い。

 

「少し…幼すぎて私には合わないですわね」

 

全体的に似合ってはいたのだが、彼女自身ピンと来なかったのか殆どを売場へ戻し、別の水着を捜索し始めた。

 

「あら…では、此方はいかが?」

 

種類は変わり大人の女性が選ぶ綺麗めな水着。

落ち着いたアースカラーのビキニにハイウエストのボトムを組み合わせたハイウエスト・ビキニ。

前から見るとシンプルだが後ろのクロスストラップが洗練された印象を与えていた黒ワンピースタイプ。

 

少女らしくハンガーに掛かった水着を続々と手に取る真夜。

だが、ある一角ーー所謂、『大人っぽいビキニ』のコーナーに差し掛かった瞬間、彼女の手がピタリと止まる。

そこにあるのは、紐と僅な布だけで構成されたような、露出度の高い漆黒のビキニ…所謂”マイクロビキニ”であった。

 

「………ねぇ、貴方。これをちょっと御覧になって?」

 

真夜がその過激な水着を手に取った。此方を見る彼女の瞳の奥が、羞恥と戸惑いで微かに揺れていた。

 

(こ、これは…!?)

 

それを見た瞬間に俺は脳内で着用した姿を思い浮かべ平常心を装っていたが、非常に不味かった。

似合う、似合わないでのレベルではない。他(・)人(・)の(・)網(・)膜(・)に(・)焼(・)き(・)付(・)け(・)さ(・)せ(・)た(・)く(・)な(・)い(・)と思うほどだったからだ。

 

「嘗ての私なら、これくらい平然と着こなして見せたのでしょうけど……。今の私には、その……少し、布の面積が少なすぎる気がするの。目のやり場に困るでしょう、貴方が」

 

肉体が精神に引っ張られているのか気恥ずかしいようだ。

いや、確かにそれは刺激が強すぎた。しかしーー。

 

「…と言うより、俺以外の男に見せたくない」

 

ポロリ、と思っていたことが不意に口を突く。

本音が口から溢れ落ちると、真夜はぼふっと音がしそうな程顔を真っ赤にしてサマードレスの裾をきゅっと握りしめ、俯きながら消え入りそうな声で呟く。

 

「…ずるいわ。そんな事を急に言うなんて。でも、貴方が着て欲しいと言うのなら着てあげても…良くってよ」

 

正直着て欲しい。しかしこれをお披露目するのはクラスメイトと甥と姪がいる私有地での海水浴だ。

流石にこれは不味すぎる。

 

「これはちょっと不味いかな。刺激が強すぎる」

 

「そ、そう…なら仕方がありませんわね……」

 

そう言われ真夜は選んだ水着の下に隠すように”ほぼ紐と薄布だけの黒のビキニ”を買い物カゴ…ではなく売場へ戻した。

 

「色々目移りしてしまいますね…朔也さんが選んで下さいませんか?」

 

「俺が?…そうだな………(ん…これは……!)」

 

照れ隠しのように今度は朔也へ水着を選ぶようにお願いしてきたので、朔也は周囲を見渡す。

どれが似合うだろうか?と不躾にならないように周囲を見渡すと不意に、『紫』が視界に入った。

 

「これなんかどうだろう…?」

 

指差し真夜に取ってきて貰うと彼女はまぁ、と驚きの表情を浮かべていた。

手にしているそれは四葉家の高貴さを象徴する「紫色」を取り入れた大人の色気溢れるビキニ。

光沢感のあるサテン調の記事を使用したロイヤルパープルのビキニは少女ではあるものの彼女のその豊満な肉体に付随する色気と妖艶さを包むにギリギリ…いや最大限に活かすカットアウト・ビキニだ。

 

「それでは…試着してきますわね」

 

手にした真夜は此方を見て微笑むだけで何も言わなかったのが逆に気になったがお気に召したようで、それに合わせるコーディネイトするために店内を見て周り組み合わせを探しカゴへ入れていき、準備は整ったと言うべきか、試着室へ入りカーテンが締められた。

 

「……(い、いかん。緊張する)」

 

サマードレスを脱ぐ衣擦れの音がやけに耳に響いている。同時に周囲の女性の視線が突き刺さっている気がしてこの時間が長く感じられたが、次に更衣室のカーテンが開かれた瞬間、そんなことがどうでも良くなる程の衝撃に襲われた。

 

「ーーお待たせしました。まずは、貴方が選んでくれた方から…ね?」

 

試着室の厚いカーテン越しに、少しの緊張を含んだ真夜の声が響く。

静かにカーテンが開かれた瞬間、思わず俺は息を呑むこととなった。

 

「……どう、かしら。変、じゃないかしら……?」

 

そこに立っていたのは、端正な美しさと妖艶さが同居し纏っている十六歳の少女だった。

選んだのは、四葉の血統を象徴するような深みのあるロイヤルパープルの水着。だがそのデザインは身に纏う事で予想以上に大人びたものだったが、洗練されたカットアウトのデザインが彼女を鮮烈に引き立てている。

 

正史の凛とした真夜なら、完璧な気品で冷徹に、完璧に着こなしていただろう。

しかし、今の彼女はーー。

 

「あ、あまり見ないで…。やっぱりこのデザインは、今の私には少し早すぎたのかしら。なんだか、落ち着かないのだけれど……っ」

 

真夜は照れくささを隠すように、自身の身体を少し縮こませて試着室の厚いカーテンで体を覆うようにして赤面していた。

肉体に引っ張られているせいなのか、大人びたロイヤルパープルのビキニと「恥ずかしい」と潤んでいる瞳のギャップが、強い印象を与えて俺の心臓を早鐘のように打ち付ける。

 

「……すごく、綺麗だ。紫が真夜さんの髪や肌に映えて…目を奪われる。正直、もっと言いたいけど…これ以上言葉がでない」

 

「ほ、本当に…?気を遣って、お世辞を言っているわけでは、無くて?」

 

飾らない本音を聞くと、真夜は少し緊張を緩め、おずおずと、だけど嬉しそうに視線を合わせてきた。

 

「お世辞なんかじゃないよ。あまりにも綺麗で…言葉を奪われてる」

 

「ふふ、そんな風に言って貰えるなんて…嬉しいわ」

 

自身を取り戻したのか、真夜は嬉しそうに覆っていたカーテンを剥いでその場でくるり、と一回転して見せた。

 

「私ね、この色を選んでくれたとき、本当に嬉しかったの。だってこの紫は”四葉”の色でしょう?貴方が…ちゃんと私《四葉真夜》を一人の女の子(私)としての面影を見てくれているような気がして…」

 

一歩、真夜が試着室から歩み寄ってくる。

彼女は上目遣いで、囁くように呟いた。

 

「ねぇ。この水着、貴方とのプライベートな時間に、大切に着てあげる。……だから、海に行ったら、一瞬たりとも目を離さないでね?」

 

照れ隠しの混じった、だけど確かな熱を帯びた言葉。

十六歳の少女としての純粋さと、無意識に漏れ出る特別な感情に、俺はただ深く頷くしかできなかった。

 

「それに…貴方私に大胆な水着を着て欲しいんですね」

 

そして耳元で不意にウィスパーボイスでそう告げられ、俺は柔和な笑みを維持するのが困難になる程に、目の前の恋人は妖艶に成長しすぎていたのを実感した。

 

そしてその光景を見ていた利用客は水着売場の付近のカフェやフードコートでブラックコーヒーを大量注文し売り切れ続出、前年比の百二十パーセントの売り上げを叩き出した、と言う。

勿論真夜の水着の代金は俺が全額出した。恋人として当然だろう。…しかし値段を見てビックリしたのは言うまでもなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

あの後何着かを選び試着してプチファッションショーをしていた同じテナントの女性水着売場から男性水着売場へ移動し今度は自分の水着選びをすることとなった。

男の方はすぐに選び終わるのでこれだ、と真夜がピンと来たものがあったので、目的のものは買い終わった。その後はウィンドウショッピングへ移行し、色々な場所を見ると言うデートらしいことしていただろう。彼女が「少し見てみたいものがあります」といって数分ほど離れた時間があったが、何を見に行ったのだろうか?聞くのも野暮だろうと判断し、俺も俺で買っておくべきモノがあったので、数分だが別行動をしていた。

 

「ふぅ…。たくさん着替えて、動き回って少し疲れてしまいましたけど…本当に楽しかったわ」

 

合流した後、商業施設の内部にあるお洒落なオープンカフェに行き、ガラス越しに夏の夜空を見渡せる特等席で、真夜は満足げにして嬉しそうに大きなロゴ入りの紙袋を椅子の横においた。

中には先程購入した、あのロイヤルパープルのカットアウト・ビキニとパレオや帽子が底に大切に収められていた。

 

備え付けの端末にそれぞれが注文したかったものをオーダーし終えて一息吐くと、朔也が真夜を労った。

 

「お疲れさま。どれも本当に似合っていたよ」

 

「ふふ…ありがとう。でもお礼を言うのは私の方よ。こうして貴方と普通のお買い物が出来るなんて……今の私にとっては、まるで夢のようだわ」

 

「君が楽しんでくれたのなら良かった」

 

程無くすると注文した商品が目の前に運ばれてきた。

朔也はアイスコーヒー、真夜はベリーのパフェを前に、十六歳らしい無邪気な笑みを浮かべた。

スプーンを手に取り嬉しそうに一口運ぶと、その整った顔立ちが更にとろけるように緩む。

 

「ん……っ、美味しい……ね、朔也さんも一口いかが?」

 

「美味しそうだね。それじゃあ一口貰おうかな…別のスプーンは…っと」

 

「…むすー」

 

確かに美味しそうなベリーのパフェを見て一口欲しくなったので貰うためにスプーンを店員に頼んで持ってきて貰おうと思ったら、目の前の恋人は不満げに少し頬を膨らませていた。

その事に気がつき、店員を呼び出すためのタッチパネルの操作をやめて真夜の方を向いて口を開くと、不満げな表情は満足した微笑みに変わって躊躇いなくスプーンを此方へ差し出してくる。それを拒むことなく受け入れる。

精神が若返っている今の彼女は、等身大の恋人らしい甘え方を無自覚に仕掛けてくるから心臓に悪い。

 

「…ありがとう。美味しいよ」

 

「ふふっ、でしょう?美味しいものは、好きな人と分け合うのが一番だわ」

 

照れずに受け止めると、真夜は満足そうに微笑み今度はアイスティーに口をつけた。

ストローを弄ぶ彼女の指先を見つめながら、ふと思う。肉体の若さに精神が引っ張られ幼くなっているとはいえ、時折見せる一挙手一投足には、四葉の令嬢としての洗練された気品が隠しきれず滲み出ている。そのアンバランスさが堪らなく愛おしい。

 

「それにしても海に行くのは来週のなのね…」

 

グラスの縁越しに、真夜が上目遣いで訪ねてきた。その瞳には、既に当日の期待が爛々と輝いている。

 

「待ち遠しい?」

 

そう問いかけると少し恥ずかしそうに顔を伏せストローを所在なさげに弄ぶと、グラスの中の氷がカラン、と音を立てて転がったその音が彼女の心情を映していた。

 

「そうね…ビーチに行くまで毎日クローゼットを開けて水着を眺めてしまいそうだわ。だって、あのロイヤルパープルの水着は…貴方だけに…最初に見せて、貴方だけに綺麗に思って欲しいのですもの」

 

そう言ってクスりと笑う彼女の背後で、窓から差し込む夏の光が、ほんの一瞬だけ彼女の歓喜の感情に呼応するようにキラキラと歪んだ気がした。

無自覚に漏れ出る強大な魔法の気配。けれども、そこに込められているものは、純粋な十六歳の少女の『恋心』そのものだった。

 

「約束です。もし当日、他の女の子の水着姿に鼻の下を伸ばしたりしたら本当に流星群(お仕置き)ですからね?」

 

トーンを落としたその声には、四葉の血筋らしく絶対的な独占欲が籠っていて。ーー俺はただただ、微笑を浮かべて彼女の手の甲にそっと手を重ね深く頷き呟いた。

 

「他の女の子の水着姿が視界に入るのは許して欲しいかな。でも視線を奪われるのは君の水着姿だけだよ」

 

そう宣言すると真夜は顔を赤くした。

 

◆ ◆ ◆

 

この世界では魔法師と言う人種は国外に出ることを固く禁じられていた。その理由としては、人材資源(魔法の能力)が国外に流出することを恐れた政府による指針だったからだ。

 

そのため国土内のある嘗ては有人島だった無人島を投資家や資産家が買い取りリゾート化、別荘として活用していた。一方で世間世論の其を快く思わない人物達からは「自然破壊」や「成金趣味」と揶揄されるが、実際は人がいなくなった荒れ果てた土地を再利用している。これは国土の有効活用であるのだが…それはさておき。

 

北山家が用意したクルーザーに揺られること数刻…無事に別荘のある聟島列島の内の媒島へ到着した。

別荘へ着くやいなや直ぐ様少年少女達は着替え、一足先に少年達が準備を終えてプライベートビーチへ足を運んだ。

 

「おぉ…海が青いなぁ…」

 

白い砂に照り返すような夏の太陽の日差し、透き通るような青い海。そんな光景を見て純粋に言葉を漏らした。

少女達が波打ち際で黄色い声を上げ素晴らしい水着姿を披露し、少年達は体力自慢で遠泳していた。

そして誰かが持ち込んだのか分からないが見事な丸玉のスイカがあり、スイカ割りをやいのやいの言いながら外し、惜しいところまで行くが、結局はエリカがスイカ割りの棒で斬撃魔法を発動し、見事な等分をして見せていた。

 

「おーい、朔也!真夜!早く来ないとスイカ全部食っちまうぞ!」

 

波打ち際でレオが大きな声を張り上げていると、すかさずエリカが「ちょっとレオ!朔也君と真夜ちゃんが良い雰囲気を出してるのに二人を邪魔して怒られたらどうするのよ!」とばしり、と頭を叩き言い合いを始めるのを見て共に笑みを浮かべ「大丈夫だよ」と合図を出すために控えめに手を振ると二人はいつものようにギャイギャイ言い合ってるようだった。

ここにいる一校の仲間達にとって、俺の隣にいる少女ーー狐坂真夜は、共に第一高校に通う「俺の可愛い恋人」と言う認識である。

 

認識阻害の魔法は一切使っていない。(魔法による物理的な肉体変化を使っていない、とは言っていない)

彼らには純粋に「少し大人びた十六歳の少女」として映っていることだろう。

故に、その正体が『四葉現当主』であることを知っている達也と深雪の二人は、恐怖ではなく、全く別の理由で顔をひきつらせていた。

 

「…真夜さん。冷たい飲み物は如何ですか?………その、お二人の世界に入られるのは結構なのですが…皆さんの前ですよ?少し…自重してくださいね?」

 

トレイから同行する北山家のハウスキーパーから貰ってきたトロピカルジュースを差し出しながら、深雪が酷い遠い目をして密やかに告げてくる。また、ほのか達と戯れていた達也もいつの間にか戻ってきており無表情ながらも(学校でも四六時中ベタベタしていると言うのに、海に来てまでいい加減にしろ)と言いたげな視線を送っているが、真夜はどこ吹く風で差し出された果物がたっぷり入ったトロピカルジュースに口を着けているのを見て、その視線の矛先は此方へ向けられたが、微笑を浮かべ肩をすくめて見せると、二人は諦めたか呆れたかのどちらかの意味合いの表情を見せていた。

 

この世界線の兄妹にとって、若返った真夜は「自分達を理不尽に虐げる恐怖の叔母」などではなく「とにかく朔也にベタ惚れで、隙あらば二人だけで甘い空間を作ろうとする、ちょっと困った可愛い叔母上」だった。

 

「あら、深雪さん。達也さん。私たちはただ、仲良くお話をしていただけよ?ね、朔也さん」

 

真夜はクスクスと鈴の鳴るような声で笑うと、当然のように俺の腕に自身の細い腕を絡め、その豊満な胸を押し付けるように寄り添ってきた。その無防備で邪気の無い甘えっぷりに、深雪は「はぁ……」と小さく溜め息を漏らした。

 

「ちょっと深雪、なに真夜ちゃんに呆れてるのよー?」

 

レオとの漫才?を終えて戻ってきたエリカはクーラーボックスから取り出した麦茶のボトルを飲みながら面白そうに首を傾げて突っ込んでくる。

 

「真夜ちゃんも、学校内にいる時から朔也君とイチャイチャするのも良いけど、あまり見せつけられるとこっちの目が潰れちゃうわ。ほら朔也君!早くその可愛い彼女を連れてあっちの岩影にでも行ってイチャイチャしてきなさいよ」

 

「ああ。それじゃお言葉に甘えて、少し散策してくるよ」

 

エリカの言葉に、待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる真夜。達也は然り気無く美月や幹比古の意識をマリンスポーツへ向けさせ誘導し、俺たちのために完璧な予防線を張ってくれていた。

立ち上がり手を引いて砂浜を後にしようすると背後から深雪の(本当に、これ以上は自重してくださいね…朔也さん)と言う視線が突き刺さったが無視することにした。

 

一校メンバーの視線と気配、声色が完全に遠ざかり大きく突き出した岩壁の影ーー完全に二人きりの空間になった瞬間。

真夜は嬉しそうに俺の正面へ回り込むとその場でくるり、と一回転して見せた。

 

「ーーお待たせしました。皆の前では、貴方に抱き着くのを我慢するのが大変でしたわ。お陰で深雪さんに怒られてしまいましたが…」

 

岩陰の狭い空間で、真夜の強烈な太陽光を浴びた彼女の姿に、俺は改めて息を呑んだ。

 

「ーーー。」

 

羽織っていたケープとパレオを脱ぎその姿が露となる。

彼女が纏っているのはあの時店で一緒に選んだロイヤルパープルのカットアウト・ビキニだ。

抜けるような白い肌に、高貴な深紫。洗練されたカットアウトのデザインから除く細いウエストは、悲劇を回避し、健やかに、そして彼女の持つストイックな精神のお陰か作中でも明言?されていたヒロイン達の中でも言葉を失わせるほどに蠱惑的なラインを描いていた。泳ぐ、よりも魅せるデザインの水着だ。

 

「…どうかしら?エリカさん達には内緒の…貴方だけの為の水着。……その、試着室の時よりも、少し恥ずかしいのだけれど」

 

真夜は、自身の細い腕でそっとお腹のカットアウト部分を隠すようにしながら、上目遣いで見つめてきた。頬を林檎のように赤く染め、潤んだ瞳で感想を待つ様は、世界で一番可愛い最愛の恋人そのものだった。

 

「言葉が出ない。店で見たときよりも、何倍も何十倍も綺麗だ。似合ってる」

 

そう告げると真夜は嬉しさに耐えかねたのか顔を火照らせると、今度は自ら俺の首に手を回し、つま先立ちになって顔を近づけてきた。

 

「ふふ、深雪さん達のあの呆れ顔、少し悪かったかしら。でも仕方ありませんでしょう?私はあの時貴方に救われ、一目惚れして、形は違えど『普通の女の子』として一緒に一校に通って、恋をしていられるのですもの。貴方を…独占したくて堪らなくなってしまうのは、当然の権利よ。待たせた埋め合わせをしていただきませんと」

 

そう最後に告げる真夜の表情は小悪魔的な笑みを浮かべていた。そう言われれば俺は反論のしようがないのだから。

 

「はは…手厳しい」

 

「だから…こうです」

 

愛おしげに細められた彼女の瞳は、十六歳の純粋な輝きと俺に対する深く甘い熱を孕んでいた。

遠くには一校の仲間達が楽しそうしている声が響いていたが、俺は理性に超重装甲(鋼の意思)を付与し破壊されないようにせがむ彼女の願いを叶えるために腰を抱き引き寄せ、その柔らかい唇に、周囲には絶対秘密の、甘い口づけを落とした。

 

◆ ◆ ◆

 

二人っきりの甘い甘い時間を終えて、エリカ達との口裏合わせを完璧に維持したまま、一校メンバーの輪に合流したとき岩影から戻ってきた二人を見て、エリカが「ハイハイ、お熱いことで。二人とも少しは顔のニヤけを隠したらー?」と小突いてくるが真夜は「あら、そんな風に見えますか?」とこれ以上無いほどに可憐で無害な淑女スマイルでエリカの追求を受け流していたが、その後ろで深雪が笑みを浮かべ表情を固まらせたまま(ですから自重してください、と申し上げましたのに…!)と達也の隣で深い溜め息を吐いていた。

 

ずっとイチャイチャしていたわけではなく仲間と共に海水浴を楽しんだ後、戻って着替えた北山家の別荘のテラスで始まったBBQ。

夕暮れの心地よい海風が吹く中、レオとエリカが肉の焼き具合を巡って騒ぎ、雫と美月が楽しそうに野菜を並べており幹比古はそれに巻き込まれ、雫と美月、ほのかが楽しそうに野菜を並べている。

 

そんな賑やかな輪の中で、俺の隣に座る真夜は、すっかり「甲斐甲斐しい恋人」として振る舞っていた。

 

「朔也さん、このお肉、丁度焼けましたわ。はい、あーん…」

 

「ありがとう真夜さん。でも自分でとるから大丈夫だよ?」

 

「ダメです。私が貴方に食べさせて上げたいのですから。はい、あーん」

 

ピュアな瞳でストレートにおねだりされてしまえば仲間たちの前だと言うのに、断る言葉を失ってしまう。彼女の表情が曇る方がよっぽど問題であった。言われるがままに口を動かすと良く焼かれた上質な牛肉が噛み締める度に肉汁が広がる。真夜は「ふふ、美味しいですか?」とこの上ない愛らしい笑顔を浮かべた。

 

その光景を言い合いしながら見ていたレオが反応を見せた。

 

「なぁ…達也。あっちのバカップル、海から戻ってきてもあの調子だぞ?あの雰囲気に当てられて肉が甘じょっぱく感じるんだが…」

 

「…同感だ、レオ。だがあれが彼らの日常だ。諦めて肉を食え」

 

レオが呆れたように肉を咀嚼しているのは空腹には勝てなかったからだろう。

達也はトングを片手に、いつものポーカーフェイスで完全に達観した視線を此方に流している。

 

「ホントよねー。真夜ちゃん、学校の時も朔也君と一緒にいるけど…海に来たら拍車が掛かってない?朔也君、あんまり真夜ちゃんを甘やかしすぎると、将来はワガママなお姫様になっちゃうわよ?」

 

エリカがからかってくるが返ってくる言葉は妙に的が外れたものだった。

 

「まあ…俺だけのワガママなお姫様ならいいかな。振り回されるのは嫌いじゃないし」

 

「いいえ、エリカさん。私は朔也さんの前でしかワガママは言いませんもの」

 

そう告げ腕にしがみつく手を離そうとしない。その惚気に当てられてエリカが「うわぁー!このバカップル!」と叫びを上げて美月に抱きついていた。

 

しかし、朔也の背後でトングを持ってサラダを取り分けていた深雪だけは、違った。

深雪は冷ややか、ではなくもはや「いい加減にしてください」と言う呆れとモヤモヤが限界に突破したジト目だった。いつ一校の仲間達に正体が(主に惚気すぎのせいで)露呈するかハラハラしているのだろう。

 

(本当にごめん深雪。これも真夜さんが可愛いのがいけないんだ…)

 

(ご免なさい深雪さん。でもね?朔也さんがかっこ良すぎるのがいけないのよ?)

 

「……(ピキキッ)」

 

二人がそんなことを思っていると見破ったのか、用意していた果物に霜が付き始めた。

流石にこのままでは深雪の領域干渉でテラスが冷凍庫状態となってしまうので自粛し夏のBBQを楽しむことにすると、深雪も流石に理解してくれたのか干渉力を引っ込めた。

 

(おい、朔也。あまり深雪を困らせるな…後で落ち着かせる俺の身にもなってくれ)

 

隣のテーブルから視線だけで(やれやれ)と伝えてくるのを、俺は苦笑混じりに受け止めるしかなかった

 




長すぎたので分割。

感想&高評価お待ちしております。
コメントをいただけるとモチベーションが上がりますのでよろしくお願いします!

九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?

  • 十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
  • 十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
  • 本編(よりは若二十代それで制服を…)
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