助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件   作:萩月輝夜

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夏休み…というなの回想編です。
話的には第一高校で事件発生後…5月と九校戦の間であり朔也が四葉に赴いて…の話。

ここで『乙女座』の魔法が登場します。
(ちょっとやりすぎた感があるけど…まぁいいでしょう。)

九校戦編①と少し被って内容に差異があるかもしれませんがほぼ一緒で、と受け取って貰えれば幸いです。

生徒会選挙の話を1本挟んで『横浜騒乱編』に突入しようか迷っているところ。

それではどうぞ!


夏休み編③

西暦二○九五年の八月三十一日。魔法科高校の生徒最後の夏休みの一日になる。

九校戦で十二日を使っていた選手達の休みが延びる、ということはなくそれは朔也達も例外ではなく規定通りの最後の一日となっていた。

 

その最後の日となっている長期休暇での課題の追い込みという学生達がテキストや文章ファイルに泣く泣くかじりつき涙をみる、といった夏の風物詩的な光景が広がっていることだろう。

が、それは一部の生徒であり大半の生徒は真面目に取り組み夏休みの一週間前に終わらせ、あるものは夏休み突入と同時に一瞬で終わらせるなどとするものもいるだろう。

 

「今日は一日ゆっくりしていようかな」

 

転生者である紫ノ宮朔也は当然高校生時代を経験しており後者の手段を取る男だった。

例に漏れず二度目の高校生生活であっても”宿題はさっさと終わらせるもの”というのが魂に染み込んでいるので徹夜し終わらせ夏休みを満喫していた。

 

「しかし…今年の夏は楽しかったな」

 

ふと、思い出すだけでも様々なイベントがあった。

海水浴にウィンドウショッピング、地元の小さなお祭り…とアクティビティに富んだ今年の夏は充実感で一杯であったと自負できる。その要因として確りとした”パートナー”がいた、という一言に尽きるだろう。

 

「朔也さん、コーヒーが入りましたよ」

 

声がした方向…台所の方をみると氷が入った耐熱グラスに挽きたての二人分のアイスコーヒー、それをトレイに乗せて此方へ歩いてくる真夜の姿を視界に捉えて微笑ましい気分にさせられ小さく笑みを浮かべた。

その視線に気がついた彼女は照れ笑いを浮かべてトレイに乗せたグラスを置き朔也が腰かけるソファーの横へ腰を下ろす。

 

「ありがとう」

 

礼を告げてアイスコーヒーに口をつける、好みの渋さであり朔也はコーヒーが好きで真夜は本来紅茶が好きなのだが最近飲み始め(ブラックは得意ではないのでカフェラテにして)二人でコーヒータイムを楽しむ…その前に真夜がエプロンを外すとソコには魅力的な姿がありグラスを先に傾けながら視線を奪われた。

 

「…どうされました?」

 

視線に気がついた真夜が首を傾げる。

ノースリーブの白のカットシャツから見える白い二の腕が眩しく、水色のミニスカートと黒のニーソックスの狭間からちら見えする太股が健康的だが蠱惑的な色気を醸し出していた。

 

「…むぅ」

 

視線が太股に吸い寄せられていたの勘づかれた。

脚を組み直し隣掛ける真夜は妖艶に微笑みを見せている。しかし、動揺することなく逆に彼女の頬に触れて微笑み返すとやり返された、となったのか少し頬を膨らませた。

 

「此方の衣装を褒めてもらっていないのですけど?」

 

「良く似合ってるよ」

 

誤魔化すように告げ、二人は何時ものように仲睦まじくイチャつき始める。ここに深雪と達也がいれば「自重しろこのバカップル」と言うだろう…いや自宅での触れ合いなので生暖かい目で見られるだろうが…さもありなん、と言ったところだろうか。

 

「誤魔化されませんよ?」

 

「本当にそう思ってる。最初から言っているじゃないか。そもそも似合っていなかったらそんなことは言わないよ。真夜さん(素材)がいいからかな、より美しく魅力的に見えるよ」

 

何時もの微笑を標準装備した表情とアルトソプラノの声が熱いセリフを真夜へ投じると、真夜は顔を朱く染め上げていく。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

言い負かされた悔しさなのか顔を朱くするが、それでも嬉しそうにして上目使いで此方を窺い見る真夜の視線を受けて、ふと春先に四葉の屋敷で再会した時の事を朔也は思い出していた。

 

◆ ◆ ◆

 

「誰からの指示かな?もしかして…四葉真夜だったりする?」

 

五月の上旬。

”ブランシュ襲撃事件”が解決し第一高校が落ち着きを取り戻していた頃。

土曜の午前授業が終わり自宅へ戻ろうとしたその時、俺は黒羽姉弟に呼び止められ、厳重にシールドされた漆黒のセダンへ案内されていた。その直前に”四葉真夜”という名前を出したとき二人に緊張の色が走ったのは今でも覚えている。…下手したら彼処で始末されていても可笑しくなかったのだが、それほどまでに俺が真夜に逢いたかったからだろう。

 

連行されたという理由は、恐らく達也が俺の事を「怪しい新入生」として報告したことが理由だろう。

それを受けた真夜が三十数年前に目の前から消えた”紫ノ宮朔也”ではないか?という疑惑と彼の目の前で使用した魔法を真夜が覚えていた外見上の特性が一致していたことで、二人を使いに出して身柄を確保を命じたのだろう。

 

「大人しく従っていただけて助かります、朔也さん。ですが、覚悟だけはしておいてください。私たちが今からお連れするのは、十師族『四葉』の本邸です」

 

文弥が少年らしい硬い声で威嚇するように告げる。彼らにしてみれば伯母である四葉真夜の命令は絶対。

捕縛を命じた対象から”四葉真夜を知っている”風の言葉が口を吐けば警戒、怯えるのも無理はないだろう。

敵視…とまでは行かず警戒、困惑の視線は懐かしさすら覚えていた。

 

(そう言えば、真夜さんに初めてあったとき困惑されてたな…)

 

転生特典で貰った…というか与えられ発動し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)転移魔法(異界解放)で崑侖方院から彼女を救出した直後に、原作開始地点であるこの時代へ飛ばされから数ヵ月漸く、この場所へ辿り着くことが出来た。

 

「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。亜夜子さん。文弥くん。彼女に…真夜さんに再会できると思うと、本当に嬉しいよ」

 

俺のその時の表情は彼女ら曰く、あまりにも優しく、全てを受け入れるような物腰に黒羽姉弟は威圧するタイミングを完全に見失い、顔を見合わせるしか出来なかった。と言っていた。

 

セダンに揺られながら視界を覆われていた俺は漸く黒い目隠しを取られ視界が開けると、そこには『四葉継承編』で見た四葉家本邸の姿があった。雪は降ってはいないが、それだけでも胸に来るものがあった。

 

二人に連れられ正面の門を潜ると本邸の玄関にて一人の老紳士執事…葉山さんが出迎え、俺の顔を見るなり全てを察したように深く、これ迄誰も見たこともないであろう最敬礼を捧げていた。この時から既にこの老紳士は真夜が三十数年間想い続け、何処かで俺の生存を確信して協力的に動いてくれていたのだろう。

 

葉山さんが亜夜子ちゃんと文弥くんから案内を引き継ぎ屋敷の中を暫く歩く。あまり会話はなかったように記憶していたが定かではない。俺が緊張してたというものあったからだ。

 

「此方にございます。少し、お待ちください……”お嬢様”お連れいたしました」

 

程無くして目的場所の扉へ到着した。

暫しの待機をお願いされ、声を掛けその立ち尽くしていた重厚な扉が開かれる。

その内部は陽光が室内を照らす謁見の間…真夜さんの書斎だった。

 

室内には漆黒のドレスに身を包んだ四十代も半ば、五十代に差し掛かろうかという年齢でありながら、その見た目は三十代そこそこにしか見えない妖艶な美女ーーーしかしその面影は嘗て崑侖方院であの恐ろしい悲劇によって、狂うほどの嫉妬と憎悪をもっていた本来の”四葉真夜”ではなく、俺が悲劇を回避し無事救い出し三十数年間待たせ恋い焦がれている少女のまま成長した美女”四葉真夜”その人が豪華な椅子に深く、腰かけていた。

 

「良く来てくださいました。紫ノ宮朔也さん。第一高校での貴方の動向はーーー」

 

冷徹な『夜の女王』を演じ、威厳に満ちた声で話し始めようとする彼女の言葉を、俺は優しく遮った。

 

「あの日から…君を一人にさせてしまったこと後悔しなかった日は無かった。待たせて本当にすまない」

 

そう告げると

 

「ーーーっ、朔也、さん…!本当に、もう…待たせ過ぎですっ」

 

その瞬間、当主として完璧なポーカーフェイスが跡形もなく瓦解していた。

真夜さんの瞳から大粒の涙が溢れだし、彼女は俺の首にしがみつき声を上げて泣きじゃくった。

あの日、誤作動を引き起こした魔法によって彼女の目の前で光となって消えた俺が、あの時の姿のまま本当に戻ってきたのだ。

 

再会してから彼女は俺の元から離れようとしなかった。

当然だろう。俺が目の前でいなくなり三十数年間をただ過ごしていた彼女にしてみれば俺は彼女をずっと放置していた…『釣った魚にエサをあげない』という屑男、殺されても文句は言えないのだが、彼女も同じく一目惚れしたという弱みがあるのか、「離れず抱き締めれば一年ぐらいの罪は許して上げます」と言わた。俺は恥ずかしいと思いながら、甘んじて受け入れていた。

 

その日の夜。

俺たちは本邸の奥の私室で俺は一瞬、しかし彼女にとっては三十数年という果てしない時間が経過していた。

その空白を埋めるように言葉を交わした。

彼女は、あの日俺に救出された後、後の事をぽつり、ぽつりと静かに語ってくれた。

 

「あの日、貴方が私の目の前から掻き消えるようにいなくなってしまった時…私の心には、底知れない大きな隙間が空いてしまいました。姉の深夜が、辛い記憶を和らげる為に精神干渉系統魔法を用いて、私の『記憶』をただの『客観的な経験(データ)』に変えようとしてくれたのだけれど…私はそれを拒否したわ。貴方という存在を失った心は酷く痛んだけど、その痛みこそが、貴方が私を救ってくれた証明だったから。再び貴方に逢える、そう信じていたから…」

 

真夜さんは愛おしそうに俺の手を持ち上げ頬に寄せながら、更に過去の続きを紡ぐ。

 

「あの大事件の直後、私は一時的な重度の『男性恐怖症』になってしまったの。貴方以外の全ての男性の視線や気配が恐ろしくて、まともに会話すら出来なかった。当然、当時決まっていた七草弘一さんとの婚約も、お父様…四葉から申し出をして解消したわ。そんな精神状態では十師族としての婚姻やお役目を務めるなんて到底不可能だったし、何よりも私の心には、命がけで私を助け出してくれた貴方しかいなかったから。それからはずっと…世界への冷徹な壁を築いて、当主や当家を統治してきたの」

 

俺への恋心を維持しながら孤独に一人その玉座を守り弱さを見せずに戦っていたんだ。

寂しげに、けれども何処か誇らしげに微笑む彼女の頭を俺は優しく引き寄せ、その細い肩を抱き締め「すまない…」と小さく呟くと「もう少しだけこうしていたら…許してあげますわ」と返された。

 

真夜の感情が落ち着きを見せた頃、俺は静かに自分がこの世界に本来は存在しない『転生者』であることを告げていた。

 

「信じられないかも知れないけれども、聞いて欲しい。俺があの日…崑侖方院に現れたのは偶然じゃない。」

 

「…どういうこと、ですの?」

 

その一言に真夜は怪訝な、警戒する素振りを見せる。

 

「可笑しいとは思わなかったかい?面識もない少年があの地獄にタイミング良く現れる。驚いてしまうかもしれないけど…………俺はね、前世では普通の会社員だったんだ。そこには…魔法も十師族もない年代を生きていた、平和な別の世界。そして真夜さんが今いるこの世界は、俺の世界では”魔法科高校の劣等生”という『作品』として描かれていたんだよ」

 

「『作品』…?私たちの世界が、ですか?」

 

驚きに目を見開く真夜に、俺は更に言葉を重ねた。

 

「ああ。本来の歴史ーー原作のストーリーでは、君は崑侖方院の魔法師によって心と身体に決して消えない深い傷を負わされて、世界を激しく憎むようになる筈(・)だ(・)っ(・)た(・)。……でもそれを知っている俺は、どんなことをしても助けたかった。君という存在に心奪われていたから。だからこそ俺はどうしても助けたかった。『もしかして…』の世界線になって無駄になるかも知れなかった…けれども俺は神様に頼んで過去のあの瞬間に送って貰ったんだ。高校生の時、初めて買った一冊の小説の物語の中に君の姿を見たときから、俺は君に一目惚れしていたんだ」

 

俺の本音、本心を聞いてくれた真夜は、一瞬呆然としていたが、その後に愛おしさが限界を迎えたようで再び涙を溢れさせ、今度は幸せそうにクスリ、と笑った。

 

「ふふふっ……呆れた。世界を越えて、私を悲劇から救うために死んだ後に地獄へ飛び込んで来てくれたなんて。………やっぱり、私の運命の人は、世界で一番のおバカさんですわね。それに前世がおじさん、なんて今の私とお揃いではないですか」

 

馬鹿馬鹿しいと切り捨てられ激怒させてしまう可能性すらあったが、彼女はそれを受け入れ笑って見せた。

「敵わないな…」となりながら俺は再び真夜の肩を抱いて引き寄せる。

 

「いや、あの時だったら俺の方が年上だから都条例で捕まってると思うよ…」

 

「あら、では今でしたら私が都条例に引っ掛かりますわね」

 

お互いに軽口を叩きあい、尚且つ険悪になら無いじゃれあいのようなものだ。

再び視線が交差して俺たちは微笑みあって、温もりを確かめるように静かに抱き合った。

 

◆ ◆ ◆

 

四葉の当主が結婚する動きを見せる、となればまず動くのは分家だろう。

 

四葉家は原作のように当主一人の意思で動く…というものではない。

分家の意見を取り入れ運営するといったものへ変化していた。

 

案内をしてくれた黒羽姉弟と試されるような手合わせをして圧倒し、彼女たちの魔法に関して助言をしてやると懐かれた。

そして四葉家に滞在していた翌日(無論学校は無断で休んでいる)、俺は屋敷の一室で、分家当主である津久葉家当主(津久葉冬歌)と、黒羽家当主(黒羽貢)の二人と対峙していた。

二人の背後からは四葉家の分家当主にふさわしい、肌を指すような魔法的威圧が放たれている。

 

「朔也殿。貴方が過去に真夜さんを救った英傑であることは彼女本人の口から聞いていることで理解している。勿論貴方が人格者だということも子供たちの報告で」

 

黒羽貢が、冷徹な、しかし一族の将来を憂う真剣な目で俺を射貫く。

 

「ですが、今の真夜様は四葉の絶対的な現当主。貴方に四葉真夜という女性と生涯を添い遂げる覚悟はあるのですか?そして、世界から『アンタッチャブル』と恐れられる”四葉”の名を、共に背負う覚悟が、本当に?」

 

津久葉冬歌もまた、精神干渉系魔法の大家としての鋭い視線で、俺の精神の「揺らぎ」を観測しようとじっと見つめてきた。

だが、俺はふっと、何処までも穏やかに微笑んだ。

その眼差しには、一切の迷いも、恐怖の破片すらもない。

 

「黒羽殿、津久葉殿。お二人が真夜さんを、四葉を想うからこその問い、痛い程伝わりました」

 

俺は真っ直ぐに二人を見据え、優しく、しかし絶対的な確信を込めて言葉を紡いだ。

 

「真夜さんは…俺にとっては世界で一番愛おしく、守るべき”女の子”です。彼女が背負う四葉の重荷が何れ程血塗られたものであろうと、俺がその隣で全て引き受けましょう。例え四葉の名前が世界に拒絶されるのなら、俺がその世界ごと、彼女の盾になる。それこそが、あの日彼女を救った日から…俺の唯一の覚悟です」

 

一切の虚飾の無い、魂に刻まれた覚悟の発露。

 

冬歌は俺の感情の揺らぎが一切の偽りや恐れ、傲慢さがないことを知覚し、感極まったように小さく息を呑んだ。黒羽貢もまた男として愛する女性への一途な想いを汲み取ってくれたのか、深い溜め息と共に警戒を解いた。

 

「…素晴らしい。精神の揺らぎが微塵も存在しません。…貴方ほどの男性にそう言われてしまえば御当主様をお任せするしかありませんね」

 

「ふっ、完敗ですな冬歌殿。いいでしょう。我ら黒羽と津久葉家は貴方を四葉の『若旦那』として全力で指示しよう」

 

こうして、四葉の中でも有力な二つの分家を完璧に味方につける事に成功した。

しかし、冬歌の口から出た話題に貢の表情が強張らせた。

 

「…しかし旦那様が今の御当主とお付き合いする、というのは少々…絵面が…よろしくないのでは、と思うのですが」

 

その最大の問題である『年齢』と『見た目』に関しての事は、何れ程の魔法師であっても変化させることは不可能だ。

そう、普(・)通(・)の(・)魔(・)法(・)師(・)で(・)あ(・)れ(・)ば(・)。俺は有象無象の魔法師ではない。真夜を救い出すために力を得た最(・)強(・)で(・)あ(・)れ(・)と(・)願(・)わ(・)れ(・)た(・)魔(・)法(・)師(・)なのだから。

 

「その事なら…どうにか出来ますのでご安心を」

 

◆ ◆ ◆

 

二つの分家の賛同を得た後、真夜の私室にて、葉山が静かにお茶を淹れながら今後の課題を口にした。

 

「朔也様、津久葉家と黒羽家をお味方に引き入れたのは大きな一歩ですが…他の頑迷の分家(新発田や椎葉など)を納得させるには、更なる『材料』が必要かと存じます」

 

「そうね」と真夜が俺の隣に座り、少し心配そうに眉をひそめる。

 

「彼らは利益と力を重視するわ。貴方が嘗て…私を救ったという『崑侖方院の事実』だけでは、身内贔屓や、過去の遺物として片付けられてしまう可能性があるの」

 

四葉家は実力主義の塊だ。「過去に当主を救った」という情緒的な理由だけでは、他分家を完全に黙らせることは難しい。

 

「わかってるよ。真夜さん」

 

俺は彼女の白く細い手を優しく握り、安心させるように微笑み掛けた。

 

「『崑侖方院で救出した』という過去の実績は、あくまでも俺たちの絆の証。他の分家を納得させるためには、俺自身が『現在の四葉』、そして『十師族の未来』に対して、圧倒的な実利と力を示す必要があるだろうね。(神様から貰った力と原作知識…幾らでもやりようはあるだろう。ただまぁ…原作知識ってのは改編すると世界の抑止力なのかもとに戻ろうとして反発し、事が大きくなる可能性がある…知識は宛になら無い、か…)」

 

だが、それを利用しない手はない。他分家を納得させる為の材料ーー。

それは単なる武力の制圧ではない。此方の世界では真夜は嫉妬に狂う女、ではなく日本の魔法師の行く末を案じる十師族”四葉家”の当主として活動している。

四葉家の悲願である、『魔法師を兵器として扱うことからの解放』を決定付ける達也が、原作で手掛けようとしている恒星炉のシステム作りのサポート、そしてこれから起こるであろう世界規模での他国(大亜連合など)から日本を守り抜く。更には四葉、いや魔法師たちが喉から手が出る程に欲する新たな魔法幾何学の術式提供(光導魔法はこのままでは危険すぎるためグレードダウンした星魂魔法)など、一族全てが平伏せざるを得ない『莫大な利益の誘導と実績』が必要になるだろう。

 

「朔也様なら、必ずや素晴らしい答えを導き出せるでしょう」

 

葉山が目を細め、お茶に誘った黒羽姉弟(勿論学校を休む羽目になって滞在している、亜夜子は呆れ文弥は妙に懐いているので問題なし)は先の事を踏まえて「本当に底が知れない人ね…」「僕たちの出る幕なんて最初から無かったんだね…!」と妙に呆れと尊敬が混ざった眼差しを向けていた。

 

こうして四葉家を訪れ真夜と再会を果たした俺は、黒羽と津久葉という主要分家の二家を偶然とはいえ味方に引き入れることに成功した。そして愛する真夜と結ばれるべく、最初の山場となる『横浜騒乱』の裏で他分家を黙らせるための、次なる一手を模索することを開始する。がその前にやることがあった。

 

◆ ◆ ◆

 

話し合いが終わり真夜の寝室には俺と家主である彼女だけが残り、最後に葉山が淹れていった紅茶が未だ熱を持ち、冷めるにはまだ時間が必要であった。

 

真夜が少し席を外している状況で一人になった俺は部屋を見渡す。調度品が置かれ気品に満ちている室内…だったのだが、一部場にそぐわない茶色の箱がベッドの下からはみ出ているのが見えたからだ。

 

「これ…なんだ…?」

 

黒色の猫のマークが描かれた配達用の箱…クロキャット郵便の箱らしい、それを引っ張り出す。

 

「中身が入ってるな…軽い」

 

取りだしふってみると中身が入っているようだった。送り主は…某洋服の○山?どうしてこんな所から?と思っていると封が切られていたのか中身が溢れ確認したとき言葉を失った。

 

「………は?」

 

トサリ、と音を立てて落ちたのは白のノースリーブのワンピースに緑に白のラインが入ったブレザー…それは第一高校の生徒が着用する女子制服だった。この部屋の主が持っているべきではないもの、それが落下した制服を手に取ると遠くの方からガタリと音が聞こえたのでそちらの方へ視線を向けると、用事を終えて戻ってきた真夜が宇宙猫のような表情を浮かべ固まる。

 

「………………」

 

一刻、いや一時間だったかもしれないほどにチコリ、チコリと大きな古時計が秒針を刻み続けていたが程無くして真夜は顔から火が出るのではないか、というレベルで真っ赤にしアワアワしだし此方へ駆けてきた。

 

「み、見ないでぇ~~~ッ!!」

 

『夜の女王』らしからぬ悠然とした態度ではなく、慌てふためく少女のようなリアクションで俺が手にしていた女子用制服を引ったくりベッドへ着席、抱き締めるようにして此方を涙目で睨んでいた。

 

「み、見ましたの…?」

 

「え、あ…うん」

 

歯切れの悪い言葉に真夜は「あぁ…もう…私のバカ…」と小さく呟いたのを聞いたが、敢えて反応はしなかった。いやしてはいけないと本能的に察した。暫く沈黙が続き、真夜が落ち着きを見せたタイミングで彼女が口を開いた。

 

「わ、笑いたければ笑えばいいじゃない…」

 

「…笑って欲しいの?」

 

「笑ったら『流星群』を撃つわ」

 

ノータイムでのデストロイ宣言に、俺は「やっぱり四葉の当主だな」と関心しながら彼女を宥めるために立ち上がり、腰かけているベッドの横へ移動し声を掛けた。

 

「笑うわけ無いじゃないか。むしろ見たい。と言うか見せて欲しい」

 

「だ、ダメよ!その…少し見栄をはってサイズの小さいのを…胸とお尻がきつくて…」

 

最後は小さくて聞こえなかったが、今の彼女の身体のサイズでは合わないらしい。だが彼女は十分細く女子高生と言われれば俺は信じることが出来た。

 

「でも着れるんじゃないの?」

 

「その…着れるけど…色々と成長しすぎて…って何を言わせるのよっ」

 

(今の状態での制服姿、かぁ…………あっ)

 

ぽかぽか、と胸を叩かれながら今の真夜(四十○歳の年齢で肉体は三十代)が着用した姿を想像したら…それはそれはもう…凄いことになっていた。

 

浮かび上がる二文字『家○』、と。

 

しかし、想像していたのがバレたのか顔を真っ赤にして此方をジト目で見上げている姿が入り、流石に「ははは…」と苦笑を浮かべ回避するしかなかったのだが…俺は彼女へ提案して見せた。

 

「……一緒にその制服を着て、学校生活を送ってみない?」

 

そう告げると呆気に取られた後困ったような表情を浮かべていた。

 

「………ふふ、本当に馬鹿な人。私が一校の制服を着て、貴方と学校に通うですって?幾ら私の身体が若く健康なままで、と言っても限界があるわ。外見は三十代に見えても戸籍も周囲の目も誤魔化しきれないわ。四葉の当主が学校に行くなんて無理な話よ……私があの日、貴方に一目惚れしたと言われてからずっと頑張ってきた。でも…流石に『女子高生』は無理な相談よ、貴方」

 

彼女がどうしようもない、と寂しげに目を細めたのを俺は見逃さなかった。

その細い肩を強く、壊れ物を扱うように優しく抱き締めた。

 

「無理じゃないさ。俺が何のためにここに来たとおもっているの?ここに来た時にも言ったけど…君の未来も、青春も、普通の女の子としての幸せも、俺が全部引っ括めて守るって。それとも聞き方を変えた方が良いかな…『俺と二度目の学生生活を楽しみたくない』か、ってね?」

 

そう告げると真夜は言葉無く少しだけ恥ずかしそうに頷いた。彼女から承諾も得たことだし実行に早速移すことにする。

 

「それなら…俺が君の奪ってしまった”青春”を再び俺が全部あげるよ」

 

そう告げ、俺は真夜に対して十三ある魔法の一つ”乙女座”の力を司る『光導魔法』を発動する。

手にした特化型CADを真夜へ向けると、現代魔法の概念を置き去りにした純白と黄金の想子粒子が吹き出す。それは巨大な純白なドレスと軽装な戦装束を纏った”乙女座”の幻影となって、真夜の肉体を優しく包んだ。

真夜の『情報体』を書き換えていく。

 

『数刻の乙女、最後の正義は女神と共に在る(ヴィエルジェ)』

 

精神干渉・肉体構築・領域干渉を複合した『系統外魔法』

情報次元に登録されている対象の情報体に対し、『もっとも純粋で美しく、心身と共に完全無欠だった十代後半最高状態』を上書き・固定し常時発動型の魔法。世界の理すらも騙す欺瞞魔法だ。

 

「え、なに……ッ身体が…熱い…!」

 

真夜の瞳から一滴の澄んだ涙が溢れ、光の粒子になって空間に溶ける。

次の瞬間、彼女の肉体に劇的な変化が訪れた。

 

妖艶な大人の輪郭がみるみるうちに削ぎ落とされ、しなやかで瑞々しい「十代後半の少女」への身体へ再構築されていく。

肌は産みたての弾力を取り戻し、あの日守りきられた女性としての機能が、嘗てない程健康に脈動していくのを真夜自身がリアルに実感していた。

 

真夜の肉体が細胞、遺伝子、内蔵器官が全レベルで「完全な十代後半の少女」へ巻き戻す。

単に子供返りするのではなく、「乙女の名を冠する偶像」としてもっとも美しいバランスで肉体が固定され、どれだけ激しく動き、万が一に傷を負っても瞬時に「最高の美しさを誇る乙女の姿」へ復元するのだ。

 

「…これが、貴方の魔法?私、本当に学生(あの頃)に…」

 

ベッドから立ち上がって私室の姿鏡に自身を映す。

そこには四葉という呪縛を一切感じさせない、ただただ息を呑むほどに美しい「一人の少女(乙女)が立っていた。

ペタペタと自分の顔に手を当て確認していたが、それが現実であると手に伝わるモチモチの肌が伝えてくれているようだった。

 

自身の姿が十代の瑞々しい少女の姿へ変貌し内蔵器官まで若返った鏡の姿を見て、真夜は言葉を失っていた。しかし、冷徹な四葉の当主としての理性が、すぐに現実的な問題を弾き出す。

 

「…信じられないわ、本当に若返っている。でも、貴方。……四葉家当主としての私の仕事はどうすれば良いの?」

 

少女の姿となった真夜は若干呆然とした様子で俺を見上げ、困ったように眉を寄せた。

 

「私がここで一緒に貴方と一校に行けば、本邸での書類決済も、十師族での会合も、他家系への睨み利かせも全てストップしてしまうわ。四葉の当主は、ただ座っているだけの飾りじゃないの。毎日山のような魔法関連の決済なんかがあるし…表向きはホテル経営なんかの収支報告とかがあるし…それを放り出すわけには…」

 

当主としての激務を思いだし、二度目の高校生活に心を奪われていたが少し現実に戻り掛けた真夜。そんな彼女の慌てぷりを見て、俺は少しだけ悪戯っぽくニヤリと笑ってしまっていた。

 

「大丈夫、その事なら想定済みだよ。ちゃんと別の魔法を用意してある」

 

「……別、の魔法?」

 

『光と影、双つの顔を持つ、魔術師(ジェミナイズ)』を発動すると真夜(大人の姿)が召喚される。

真夜が驚くが大人真夜が「ふふっ、問題ありませんよ私(少女の)」と、いつもの完璧な当主の声色で喋り出した。

 

「真夜さん。こっちが『双子座』の力で呼び出した大人の君は、四葉の屋敷で今まで通りの『当主四葉真夜』として振る舞い、仕事を処理してくれる。そして、貴女自身の意識は完全にリンクしている。こっちの真夜さんも『乙女座』の影響を受けているから周囲からは「いつもの四葉真夜」として完全に認識される。勿論触れられるし、魔法の行使も、四葉当主の威圧感も百パーセント再現してる」

 

大人真夜が「もう一人の私だと思っていただいて結構よ。私(少女真夜)」と補足していた。

目をぱちくりさせて事の大きさに呆然としているようだが問題ないだろう。

 

簡単に説明してしまえば、真夜が二人(大人真夜)と(少女真夜)が存在し、一校で女子高生を楽しむ真夜と執務室で当主をやっている大人真夜の「脳」が、イデアを通じて完全並行同期しているのだ。

少女真夜が学校でノートを取ったり俺と手を繋いでデートを楽しんでいるその瞬間にも、執務室の大人真夜も「全く同じ頭脳のリソースを消費せず」を全く同じ速度で最高精度の決済や四葉の指揮・政治的な判断を同時にこなす。

 

小難しく言ったが、言わば、『一校でアオハルを謳歌するだけで、当主としての仕事が自動的に百パーセントのクオリティで完了する』という真夜にとっては夢のようなチート自動化システムなのだ。

 

「貴女が一校で授業を受けたり。俺と飲み食いしてたり笑っているだけで、その思考データが自動的にあっちの君へノーコストで転写されて、当主の激務を完璧に片付けてくれる。貴女はただ、俺の隣で笑って青春を楽しんでくれればいいんだよ」

 

「っ……あははっ!本当に貴方という人は……!」

 

少女の真夜は、あまりにも理不尽で、けれども自分を心の底から甘やかす為だけに用意された異次元の術式に、遂に吹き出すように笑っていた。

 

三十数年の当主としての重圧が、文字通り「もう一人の自分」へと完全に分散され、彼女の心は信じられない程に軽くなっている。

 

「分かったわ、私の王子様。そこまでお膳立てをしてくれたのなら、四葉の仕事はあっちの私に全部押し付けて…私は貴方の隣で、思いっきり『女の子』を楽しませて貰うわね」

 

少女の真夜は、大人の自分に見守られながら俺の腕にしがみつき、悪戯な小悪魔のように可憐に微笑んだ。

その後、達也と深雪に二人で現れ説明している最中、宇宙猫状態にさせたのは記憶に新しかった。

 

◆ ◆ ◆

 

ふと、回想が終わり目が覚める。どうやら考え込んでいて眠っていたらしい。ぼやける視界の中で上から声が降ってきた。

 

「…漸く起きましたか」

 

「あれ、俺寝てたのか…」

 

「ええ。私の太ももを枕にして気持ち良さそうに寝ていましたのよ?」

 

その言葉の通り真夜の眩しい太ももが枕となってたようだ。外を見ると、既に空は暁に沈もうとしていた。結構な時間眠りに落ちていたらしい。起き上がると、真夜は俺の頭の重さで血行が悪くなった太ももを魔法で凝りほぐしていた。

 

「…ああ、いや。少し春先の事を思い出していて」

 

「四葉のお屋敷での事ですか?…もうあれから何ヵ月も経っているんですのね…ひゃっ」

 

俺は隣に座る真夜を腰を抱いて引き寄せる。突如の事で驚き少し不満げにしている表情を見せるが、次第に嬉しそうな表情に変わっていた。

 

「もうっ」

 

「ごめんごめん。抱き締めたくなっちゃって」

 

「……」

 

真夜は口には出さないが、そろそろ「手を出せ」と視線で訴えてくる。しかし、まだ学生期間中だ。『出来ちゃった』だけは勘弁願いたい。

 

「夏休みも終わりか…いろんな事があったけど」

 

「でも、とても楽しかった」

 

そう満足げに呟く真夜の姿を見て、俺は「ならよかった」と頷いた。

原作では彼女が背負わされていた救い様の無い暗闇はない。今、彼女は間違いなく「ただの女の子」そのものとして青春を謳歌してくれている。

何時か、全てに片がつけば、彼女と本当の家庭を築くんだという誓いが、俺の胸を熱く焦がす。

 

だがーーー。

そんな甘いアオハルに浸っていられる時間にも陰りが見えるだろう。

 

(次は…十月。横浜か……。)

 

俺は部屋にあるデジタルカレンダーに目をやる。

 

『横浜騒乱』

 

大亜連合による部隊による、横浜への容赦なき侵攻テロ。

原作では達也がその規格外の力(マテリアル・バースト)を知らしめ、魔法師の栄光と挫折が始まる引き金となる事件だ。

 

(達也は動くだろう。ストーリー通りに行けば街は救われる。だけど…今回真夜さんと『俺』という異物が紛れている)

 

廃工場で見た”山羊座”、そして九校戦で姿を見せた”蠍座”の術者が見つかっていない。

何かしらの形で関わってくるのを軽視は出来なかった。

 

真夜を不幸にする要素は、この世界の何処にあろうと、俺が全て断ち切る。

転生し崑侖方院での地獄を未遂で終わらせたあの日から俺の願いは、生きる意味は、「真夜を幸せにする」。これだけだ。

 

(せいぜいその不幸すらも俺と真夜さんの結婚材料に利用させて貰う。俺たちの前に立ちふさがる敵は全て排除するだけだ)

 

灼熱と深紫の二色の眼が、未だ見えない敵を捉え焼き付くし呪い殺すが如く睨み付ける。

だが、まだ時間はある。俺は隣にいる少女へ微笑むと微笑み返され、夏休み最後の一日を堪能するのだった。

 

 




感想&評価ありがとうございます。併せ誤字脱字報告感謝です。

高評価とコメントをいただくとやる気倍増します。よろしくお願いします。

九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?

  • 十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
  • 十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
  • 本編(よりは若二十代それで制服を…)
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