助けた女の子に「責任を取りなさい」と迫られてる件 作:萩月輝夜
司波家を後にしたその足で、朔也と真夜はマンションへ戻り直ぐ様黒羽家の当主である黒羽貢へ連絡を入れた。
「これはこれは…真夜さん、朔也さん。如何されました」
通信画面越しに恭しく礼を取る貢に対し、真夜は優雅にソファーへ腰掛け朔也は座らずに傍に立つと本題を切り出した。
「貢さん。夜分遅くに申し訳ないわね。少し黒羽の力を貸して欲しい事案が発生しました」
そう告げると貢の表情が自然と引き締まった。
「何なりとお命じください」
「今日、達也さんの元へ持ち込まれた聖遺物……『瓊勾玉』と『神話神装』を狙って、何者かが動いているわ。恐らくその下手人は横浜市内の港湾部から侵入、あるいは中華街周辺に潜伏している工作員と見て間違いないでしょう。湾口付近の出入り船、および怪しい不法侵入者の足取りを重点的に捜査して貰ってもよろしいかしら?」
横浜は外国人が多い。その事から貢は真夜が指摘する理由も理解できた。次の一言は貢が表情を変えるにふさわしいものだった。
「…恐らく敵は”大亜連合”の工作部隊です」
「…承知いたしました。ただちに家の者に指示を出し、横浜港および関連施設周りの監視を強化させます」
「ええ、期待していますね。今回の件は近々横浜で論文コンペティションが開かれますからね…。それに今回亜夜子ちゃんと文弥くんに関しては調査に加えないようにして頂戴。彼女達も学校がある時間帯ですからね。協力が必要な場合は此方から連絡します。それに手は出さなくて結構よ
貢が真夜の言葉を聞いてその裏の意図を理解して頷いた。
「畏まりました。朗報をご期待ください」
と一礼し貢が映っていたモニターが消える。通信を終えた真夜は、隣に立つ朔也へ視線を向けた。
「これで…一先ずの準備は整いましたね朔也さん」
「ありがとう、真夜さん。黒羽の諜報網があれば、大亜連合の動きも近いうちに捉えられるはずだね」
事件が起こる、とは知っているものの探し出す魔法はない。となれば調査するには黒羽家の動きは非常に有り難いものだった。フリズスキャルブは使ったら顧傑に悟られたりレイモンドという愉快犯が変なことをし出すので当然却下
である。
「………」
「どうされました?」
「いや、貢さん達の方で潜伏先を突き止められるのなら大事になる前にどうにか出来ないかなって…」
「確かに…余計な被害が出ずに済みますしね。達也の『マテリアルバースト』を使わずに済むのならそれに越したこ
とはありませんから」
達也の放った『マテリアルバースト』を切っ掛けに物語は劇的に加速していく。
そもそも大亜連合が攻め行ってこなければ良かったのだが…内心で「本当に余計なことしかしないな。大亜連合」と呟いた。
「敵の規模を知りたいな」
知り得ているものでは揚陸艦一隻にゲリラの集団…二脚戦車と装甲車が多数だった筈、と朔也は思い返す。
しかし、それを知っているだけで人数の把握は出来ていない無いのが実情であり貢の報告待ちだ。最悪もっと増えている可能性すらあるが。
論文コンペ前に阻止出来た場合、侵攻に踏み込むのは勝算がないとなってくれれば良いが…送り込んだ部隊が消された、となれば数に勝る物量をぶつけてくる可能性の方が高いだろう。
ともあれ構成員と拠点が割れるのなら強襲を仕掛け尖兵達を消し去る手段を取った方がいい。首謀者を生きたまま捕らえることが出来れば確固たる証拠が手に入るだろう。「そちらの軍の一部が国内に入り込んで事を構えようと画策していたんだが?」と突きつけられるだろう…シラを切られるかも知れないがそれこそ人物とデータが揃っていれば諸国への信頼感は損なわれ甚大なダメージを与えられるだろう。
…それでも大亜連合が艦隊を集結させて攻め入ろうとするのは避けられないのかもしれないが。
「…だとしても。人手がいるね。貢さんの情報を公安や国防軍の風間少佐の部隊に情報を流せないかな」
「達也経由で風間少佐を経由し国防軍に伝えて貰えば宜しいでしょうか?」
「公安に関しても小野先生を経由して…だね」
「国防軍の交戦派閥に伝われば危機として発端を開くでしょうが…劇物ですわね」
「(ともあれ…備えておいた方に越したことはない、か…)ねぇ、真夜さん?やっぱり安全な」
「朔也さん。その話題は無しでお願いしますね?」
「(やっぱり駄目か…)分かった…もう、この話は無しにしよう」
朔也が言い掛けたのは『安全な所にいて』というものだったが有無を言わさずに遮り拒否された。その声色は取り付くしまもなくそこには怒りや怯えを纏った少女らしい感情を纏っていた
実のところ夏休みの最中に十月の論文コンペの事を話し真夜へ現地へ来ないようにとお願いしていたのだが猛反発。曰く『大切な人を危険な戦場にたった一人で送り出すほど私は薄情な女ですか?』と涙ながらに詰められたのでこの手は封じられた、とそれを認めさせるために…力ずくは論外である。
そんなことは絶対にしたくないので此方から折れることにした。しかし事が起こった場合、無論優先すべきは真夜の安全であるため幹比古達の安全は自分達でどうにかして欲しいと朔也思っていた。
「しかし…何処の遺跡後から出土したんだろうねこれ…しかもいつの間にか俺が呼べば出現するようになるし」
一先ずの目的を置いてソファーに座る真夜の隣に腰掛ける。
『グランシャリオ』の存在を頭の中で思い浮かべると左手に握られており当然の事のように鞘に納められた状態であり、机の上に置いたアタッシュケースの中へ視線を向けると赤色化した鉄塊は姿を消していた。
「カードに入っていたのが”魂”で”鉄塊”の方が本体だったのかな…だとしたら俺がいなかったら起動していない可能性もあったのかも」
まるで某特撮作品の光の巨人のようだな、と一人で納得していると淡く輝く星剣を握っている朔也を見ていた真夜は顔を赤らめ頬に手を当てる。
「それにしても…あの『銀河星剣グランシャリオ』。貴方と共鳴した時の輝き、とても美しかったですわ」
司波家の地下で見せた七つの輝きを持つ星剣を携える朔也の姿はまるで小さな時に呼んだお伽噺の騎士のように勇猛優麗な姿だったことに思い出して恍惚とした表情を浮かべているのを見て苦笑を溢す。
「そんな大したものじゃないけどね。俺もびっくりしたよ…さて、明日からは少しあいつの由来について調べてみようか。まさか、伝承があるとは…(まさかとは此方の世界に異界見聞録があるんじゃなかろうな…?)」
バトルスピリッツのカード能力がどんどん流入してきているのをみてその可能性が沸々と沸いてきた。
少しその可能性も頭にいれておかなければな、と考えていると真夜が声を掛けてくる。
「どういった能力でしたっけ?」
「うん。あ、効果見てみる?」
「良いですか?」
「どうぞ」
腰に納めているホルスターから『ブレイヴ・ホライゾン』のストレージを引き抜き納めていたマガジン式のボックスからデータを引きだしホログラム化して出現させるB8サイズよりも小さいカードの束が出現しそれを真夜へ手渡した。
「…普通にこれが現実で使えるのなら禁じ手では無くて?」
「まぁ、ねぇ…」
真夜に手渡したのは生前に使用していたメインデッキの
デッキのカードが一部露になりその中には今まで使用した”蟹座””双子座””水瓶座””乙女座”……そして未だ見ぬ紫や赤色のカードが隠れている。
「…普通に私のデッキにも欲しいですわね」
能力を見て真夜は少しだけ不満げな表情を浮かべた。
「ちょっと真夜さんのデッキには合わないかな…」
そういって真夜もホルダーに納めている同じく四十枚のデータストレージ兼CAD、その能力の魔法を行使することが出来るようにしていた。
「まぁ、私にはこのカードがありますので」
赤と紫のデッキケースには彼女に似合うだろうという理由で送った
そして、このデータストレージは戦闘以外でも扱うことが出来る。
「朔也さん、この後一戦交えませんか?」
「いいね。お風呂上がったらやろうか」
なんとストレージを実体化すれば実際にカードバトルが出来てしまうのだ。
ルールを説明して既に何度か真夜とはバトルをしていた。コアを使ったリソース管理とカードの組み合わせによる戦略性は彼女の琴線に触れたようで非常に好感触だった。
互いにシャワーを浴びた後に互いにテーブルに向かい合いバトルを行う。
「…これやっぱり、此方の世界でも流行りそうですね」
「確かに。真夜さんが嵌まるぐらいだからね。魔法師は頭の回転が早いからルールの飲み込みは早そうだね…」
制作者や原案者には申し訳ないがこの世界で”バトルスピリッツ”が流行れば目に見える”利益”が発生する。
朔也が実業家としての”実績”が発生しそうなれば四葉分家も真夜との婚約に多少なりとも考慮にはいれてくれそうだった。しかし、彼らが重視するのは”魔法師”としての格なのだろう。
「落ち着いたら企画を進めよう」
「そうですわね」
それはそれとして”バトルスピリッツ”が此方の世界でも流行ってくれればいいな、と朔也は思うのだった。
◆ ◆ ◆
翌日の放課後。
朔也と真夜は、手に入れた(四葉家の威光を用いて強引に所有権・保管権を確保した)聖遺物『グランシャリオ』に関する歴史的記述や伝承を調べるため、第一高校の広大な図書館を訪れていた。
無数のデータ端末と書架が並ぶ静謐な空間を歩いていると、奥にある手狭なコンパートメント(個室閲覧室)の前で、朔也はふと足を止めた。
その場所には二人の男女…論文コンペの資料を探していたはずの達也と、なぜかそこに同席している前生徒会長・七草真由美の姿があった。
真由美は受験勉強か、あるいは「読書の秋」を満喫しているのか、文庫本を手に笑みを浮かべて達也に話しかけている。かつて生徒会長だった真由美が意図的に達也を巻き込んで手狭なワークスペースへ連れ込んでいる姿だった。
「……あらら」
真夜が小首をかしげ、ジト目でその光景を見つめる。
朔也は思わず苦笑いを浮かべ、隣の真夜に小さく耳打ちした。
「やるね達也…いつの間にか真由美先輩とあんな手狭な個室で二人きりになってるぞ」
据え膳…の話題はここだったなと思い出して考えていると真夜がそっと腕を自分の腕に回してきて密着する。
「ふふ、真由美さんも相変わらず達也さんに絡むのがお好きなようですわね。…まあ、私と朔也さんの『糖度』に比べれば、まだまだ青いですけれど」
「そこ張り合うところじゃないからね?」
クスクスと不敵に微笑む真夜の手をそっと取り、朔也たちは達也たちの邪魔をしないよう、静かに別の書架へと足を運んだ。
◆ ◆ ◆
翌日の昼休み直前、校舎の廊下で朔也は達也に呼び止められた。
達也の表情は相変わらずの鉄面皮だったが、その瞳にはわずかに険が宿っていた。
「朔也、少し良いか」
「ん? どうしたの、達也…場所を移動しよう」
近づき、小声で相談するのは聞かれると不味い内容だったからだ。
場所を移動し空き教室に遮音フィールドを形成する。それを確認した達也が口を開いた。
「昨夜、自宅のワークステーションが外部からのハッキングを受けた。防壁は破られていないが、明らかにプロの手口だ。俺たちの周辺を探っている何者かがいる」
「家のサーバーが? …なるほどね。小百合さんが持ち込んだ聖遺物の件と無関係じゃなさそうだね」
それを聞いてやはり来たか、と仕掛けてきたのは大亜連合なのだろうと考えを巡らせた。
「お前の方は大丈夫か?」
大丈夫か、というのは『グランシャリオ』の事だろう。その件に関しては達也が隠れ蓑になっている可能性が高いのだが…。
「此方は達也の家ほど機器が揃ってる訳じゃないよ。それに情報が漏洩するようなことはなにもしてないし」
「そうか…だが気を付けた方がいいぞ」
「忠告をありがたく受け取っておくよ」
達也は静かに頷き、試すような視線を朔也に向けた。
「それで…何か心当たりはあるか? 」
そう問われ朔也は「ふむ…」と顎に手を当てて考えた素振りを見せた後口を開いた。
「…今、貢さんに頼んで横浜周辺を探って貰っている」
「横浜を?」
「ああ。あそこは外国人が多い。『木を隠すなら森の中』ってね…十月頃に不法侵入船がその件に関わっていると俺と真夜さんは見ている。ハッキングを仕掛けてきているのは大亜連合だろう」
「やはりか…」と達也は一瞬、思考を巡らせるように目を細めたが、やがて短く納得したように頷いた。
「…なるほど。執拗なまでの聖遺物の情報を抜き取ろうとするのも理解できる」
「気をつけてね、達也。今回の敵は九校戦のように一組織じゃない。国が相手になるかもしれない」
「…ッ」
「そうならないために尖兵を潰したい。首謀者は生きたまま捕まえたい、ってのは真夜さんの考え。俺も出来るなら穏便に済ませたいけど…そうも行かないかもしれない」
そう告げる朔也の表情は普段の柔らかいものではなく固く苛立ちを含んだモノだった。しかし、それは直ぐに柔らかい冗談を告げる時のモノヘ変化した。
「…それに。真夜さんとの結婚を他分家のご当主様達に認めて貰うために武勲を立てなきゃ。必要の無い戦闘は回避したいけど…向かってくるならやるしかない」
「わかった…お前の方こそ無茶するなよ
「ははは…言うじゃないか。甥っ子」
軽口を叩き合いながら二人は会話を切り上げ食堂へ向かった。
◆ ◆ ◆
達也と共に朔也は真夜と合流し、食堂のいつものテーブルへと向かった。
そこには深雪、ほのか、雫、美月、幹比古、エリカ、レオといった一校のお馴染みのメンバーが集まっていた。
(深雪は達也に言われて食事を先にとるように言われているのと朔也と真夜を監視するため)
「あ、達也さん!朔也さん! 真夜さん! こっちですー!」
ほのかが手を振って二人を呼ぶ。二人が並んで席に就くと、賑やかなランチタイムが始まった。
「それにしても…論文コンペの時期になると学校内も忙しくなるわよねー殺気、と言うかさ」
エリカが日替わりの定食のおかずを咀嚼し飲み込んだ後呆れたように言う。
「警備も強化されるんでしょ?風紀委員会も大忙しでしょうに…レオなんて体力をもて余してるみたいだし貸し出そうか?」
「おいてめぇ!俺を備品みたいに言うな!てか勝手に貸し出すんじゃねぇよ」
「まあまあ。でも本当に、風紀委員の皆さんは大変ですよね」
エリカとレオのお馴染みの言い合いに周りは笑みを浮かべ美月が心配そうに二人を見つめ、ふと疑問を口にした。
「そういえば、朔也さんも風紀委員会に所属していますよね? 朔也さんは、万が一の時、誰を優先して護衛するこ
とになるんですか? やっぱり論文コンペのメンバーの護衛とかですか…?」
「それとも会場警備?」
ほのかや雫も興味津々といった様子で朔也を見る。
風紀委員としての優先警護対象——普通であれば「生徒会役員」や「一般生徒の避難誘導」と答える場面だ。
しかし、朔也は唐揚げを口に運んだ後、ごく自然に、何でもないことのように言い放った。
「ん? 俺が守るのは真夜さんだけだよ」
「「「………………え?」」」
一瞬でテーブルの空気が凍りついた。
朔也の顔には一切の冗談や飾りがなく、完全に「客観的事実」として口にしたような天然さと、心の底からの本心が完璧に混ざり合っていた。
隣に座る真夜は、一瞬驚いたように目を丸くした後、頬をぽっと桜色に染めて嬉しそうに微笑んだ。
「…まあ。朔也さんたら、こんな大勢の前で…嬉しいですわ」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
エリカが頭を抱えて絶叫した。
「出たわよ! 噂通りの糖度計粉砕カップルっ! 『俺が守るのは真夜さんだけ』って、風紀委員の仕事はどうしたのよ風紀委員の仕事は!?というか夏休みの時より酷くなってない?」
「いや…正直真夜さんの安全が最優先なのは俺にとって絶対だからね?」
「堂々と職務放棄宣言しないで頂戴よっ」
「「う、わぁ…」」
美月は顔を真っ赤にして両手で頬を押さえ、隣の幹比古も「ゲホッ、ゴホッ!」と飲んでいたお茶を盛大に吹き出しそうになりながら顔を赤らめている。
「朔也…お前ってやつは、本当にブレないな…」
レオが遠い目をして肩を落とし、ほのかと雫は「相変わらずすごい破壊力…」「うん、流石ね…」と半ば感心したように顔を見合わせていた。
そんな周囲のパニックを余所に、朔也と真夜の周りだけには、今日も変わらず甘く平和で、どこか恐ろしいほどに強固な「二人だけの空気」が流れ続けていた。
それは当然食堂を利用している他学年の生徒達にも影響を及ぼしていた。
その光景を目撃してしまった周囲の生徒たちの惨状は、まさに目も当てられないものだった。
「ぐはっ……! 甘い……甘すぎるぞ、あの二人……!」
「またやったよあのカップル! 誰か……誰か胃薬とブラックコーヒーをくれ……っ!」
他クラスの男子生徒たちが胸を押さえて悶絶し、まるで砂糖を大量に吐き捨てるかのようにテーブルへ突っ伏す。上級生の男子グループからは、嫉妬と怨嗟の混ざった大合唱(内心)が巻き起こった。
(リア充爆発しろーーー!!)
(爆発どころか塵一つ残さず『もげろ』!! 切実に『もげろ』ぉぉぉッ!)
(はぁ……私も朔也君みたいな、迷いなく『君だけを守る』なんて言えちゃうカッコいい彼氏が欲しいなぁ……)
(俺なんて高望みしないから、狐坂さんみたいに綺麗で一途に甘えてくれる彼女が切実に欲しい……切実に…)
女子生徒たちがうっとりと目を輝かせて溜め息を漏らす一方で、男子生徒たちは天を仰ぎ、己の孤独を噛みしめるように深く絶望していた。
まさに食堂全体が二人の放つ圧倒的な甘々オーラに呑まれ、羨望と嫉妬の渦と化す中——。
「……ふふっ」
すぐ近くの席から、鈴の転がるような可憐で、けれど絶対零度よりも冷ややかな声が聞こえた。
声の主は、司波深雪。
彼女は表面上、女神のように完璧で美しい笑みを浮かべていた。しかし、その額にはかすかにぴきりと青筋が浮かび、背後には目に見えるほどの黒く重々しいオーラが渦巻いている。
その姿に流石の達也もビックリしていた。
(……またしても食堂の真ん中で、学園の秩序を揺るがすほどの甘い空間を作り出しましたね……? お兄様が監視役としていらっしゃらないのをいいことに、どこまで『糖度計破砕カップル』の名を欲しいままにすれば気が済むのですか……!)
九校戦のダンスパーティー以降一校の全員に「バカップル」や「一校随一のおしどり夫婦」…「糖度計粉砕カップル」など渾名で呼ばれているのを深雪は知っていた。自分達が四葉だと知られてはならない、と言っているにも拘らず甘い空気を振り撒く伯母達に対して深雪の笑みの奥に秘められた、容赦のない「呆れと怒り」が向けられていた。
その直至近距離に座っていたほのかと雫は、全身の毛穴が収縮するような寒気を覚え、思わずガタガタと肩を震わせた。
「ひっ……!?」「ひぇっ……!」
ほのかはあまりの恐ろしさに手に持っていたスプーンを落としそうになり、雫も冷や汗をダラダラと流しながら固まっている。
「ど、深雪……? お顔はとっても笑ってるけど、雰囲気が……雰囲気がすごく般若みたいになってるよ……っ!?」
「深雪……落ち着いて……いま氷結魔法を解放したら、食堂全体が永久凍土になっちゃう……!」
「大丈夫よ雫、ほのか。私は落ち着いているわ?」
(絶対落ち着いてない…!)(達也さん!なんとかして~!)(いや、この状況の深雪には触れない方がいい…)
二人が必死に宥めようとするのも耳に入らない様子で、深雪はニコニコと引きつった笑みを浮かべたまま、永遠に甘い風を生み出し続ける朔也と真夜をじっと睨み据えていたが当の二人はそんな視線など知らないと言わんばかりに仲睦まじく昼食を取るのだった。
◆ ◆ ◆
朔也は風紀委員会に所属していたが論文コンペのメンバーを護衛するのではなく当日、会場警備のメンバーとして現場入りするため直近の事件に関わることは無く達也がそれを受け持つことになる。
実際に朔也と達也は摩利に呼ばれ風紀委員会本部に呼ばれ論文メンバーとなった達也の実力があれば小遣い稼ぎの程度の暴漢(プロレベルの暗殺者)が来てもなんなく対応できるためそれは受理されたのだった。
(やはり、こうなったか…)
そして当日、放課後、帰りがけに朔也と真夜はその場面に遭遇する。
備品の買い出しに五十里と花音(護衛)と出掛けていたいた最中に視線を感じた達也は見られていることを二人へ指摘すると花音は直ぐ様探し始め達也達を覗き見ていた犯人を追いかける、当然達也は此方を覗き見ていた生徒の事など知らない…だがここではこう記しておくべきだろう。
問題を引き起こす生徒の名前は”平河千秋”…九校戦のエンジニアを務めていた平河小春の妹だ。
だが、先の件は小早川の事故は引き起こされず円満に解決した為この下りもなかった筈なのだが…。
(何が原因だ?達也が論文コンペのメンバーに選ばれたからか…)
一筋縄では行かないのだな、と少しだけ世界の強制力を恨んだと同時にこの世界に転生させた神様と名乗るあの人物の愉快犯の性格に頭を悩ませた。
その一方で事態は進行していた。
「…あの小娘は大丈夫なのか?」
東京・渋谷の雑貨貿易商の雑貨ビル、となっている一室に備え付けられたモニターの中で凶笑を浮かべる千秋をみて中年の男…陳祥山が渋い顔を浮かべていたのは心配からではない。協力者としている彼女の存在を気取られ芋づる式に此方の素性や居場所が割れないかどうかを心配していたのだ。
「あのワゴンや協力者を手配したのは周大人ですので、何があっても我々の存在に結び付くことはないと思われます」
「あの男の仲介か、どこまで信じていいものか…」
このアジトを用意した若者の顔を思い浮かべながら苦々しく呟いた。
ー気に入らないが、信頼するしかない。これが男の偽りざる本心であった。
「…例のレリックの居場所はどうなっている?」
モヤモヤした気分を払拭するために陳祥山は突如として話題を変更すると情報収集に徹していた部下の一人がデスクから立ち上がり報告する。
「ハッ、フォア・リーブス・テクノロジー社から持ち出された形跡はありませんが、現在行方不明となっております」
「ちっ…Four Leaverか。忌々しい名だ。
「是、入念に調べましたがあの四葉とはなんの繋がりの無いことが確認されています。この国では四葉や八葉と言った名称は、魔法関連の企業に好んで使われているようです」
「紛らわしい」
男はその一言を、嫌悪と憎悪を苛立ちを込めて吐き捨てた。しかし、ソコには隠しきれなかった畏怖が滲み出ている。
嘗て、大漢にあり国家の魔法中枢を担っていた崑侖方院…当時の魔法部隊の首脳陣が四葉の若き当主を連れ去り人体実験を行おうとしたそれが四葉家の逆鱗に触れ、極東地区の列島の中にある一族の数人で突入し研究施設は崩壊し政府、軍官僚含め五千人が死亡した”大漢”という国が消滅した悲劇は大亜連合に所属するものならば知らないものはいないからだ。ソコから大陸側の魔法研究は全てが白紙になりどこ国よりも後進的なものになっているのは逆恨み、と言っていいだろうが彼らからしてみれば自国こそが正義だった。
しかし、ここで語弊があるのはその悲劇の引き金となった”崑侖方院”の崩壊に四葉は関わっていない。
実際は真夜に一目惚れした転生した少年がその渦中に飛び込み研究資料、魔法師達を根こそぎ破壊したのはたった一つの魔法によって跡形もなく消し去られた、と言うのはどこにも伝わっていなかったのだ。
当然、陳祥山達大亜連合の兵士達は四葉が引き起こしたもの、と考えている…が指摘できるものは誰もいない。
その”四葉”を名乗る企業であれば警戒しない方がおかしいというものなのだ。だからこそ余計な労力を割かれている状況に陳祥山の苛立っている様子を見て報告する部下は苦い顔を浮かべた。
「…司波小百合の監視を怠るな。先日の夜、彼女が訪れた家の事は何か分かったか」
陳祥山の問いかけを別の部下が答えた。あの家には夫の連れ子がいて共に魔法大学付属の第一高校の一年生、兄の名は司波達也、妹の名は司波深雪という。兄の方は先ほどモニターに映っていた小春の報復対象であった。
「それにその当日別の人物が訪れています」
「誰だ?」
「訪れた人物は二人。同じく第一高校所属の紫ノ宮朔也、狐坂真夜。どうやら友人のようです」
「たしか…奴が気にしていたな…好都合か?」
それを聞いた陳祥山は部下に指示を出して第一高校も活動対象に指定した。続けざまに副官に指示を出した。
「呂上尉」
「是」
「現地で指揮を取れ。周囲を嗅ぎ回っている余所の犬がいるようなら排除しろ。それから李上士、あの男に情報を伝えてやれ。あの若造の元で飯ばかり食っていないで仕事をしろ、とな」
呂剛虎と情報収集を行っている士官へ指示を出して陳祥山は部屋を出ていった。
◆ ◆ ◆
「………」
達也がハッキング対策でデータを物理メディアに移し廿楽へ提出を終えた後、先日の件(真夜達が暴走)したのを受け監視の意味合いも込めて監視してる最中美月の「視線を感じる」という言葉から第一高校が何者かの監視、襲撃を受けるだろうと感じ取った一校メンバーは警戒を強める事に意識を変えていた。
その日の放課後。
生徒会活動も部活動も一段落して久々に全員が揃って帰路へ歩みを進めて学生らしくワイワイと騒ぐのを後ろから見ていた朔也と真夜は背後から来る視線を感じていた。
それに気づいているのは二人だけではなく達也も同じだったようで寄り道して尾行を巻く為の誘い文句に対してメンバーが肯定し帰り道にある「アイネブリーゼ」へ立ち寄る事となった。
店内に入ると他の一般客が利用していた為分かれて座ることとなった。
ソファー席へレオ、エリカ、幹比古、美月が着席しカウンター席には朔也、真夜、達也、深雪、ほのか、雫の順に着座した。本来なら達也が美少女を侍らせている屑野郎だったかもしれないがそれは回避された。
席に着き特製コーヒーを味わっているとマスターと雑談を繰り広げるとエリカがコーヒーを飲み干し音もなくカップをソーサーに着地させると「お花摘みに行ってくる」と言って席を離れた、同時にレオも「お、電話だ」と告げ外へ出ていった。同時に幹比古は机の上で札に何かを書いていた…恐らく人避けの術を展開しようとしているのを見て達也が「程ほどにしておけよ」と釘を指しているのを見た。
(いや、止めようよ達也…)
そう思ったが制止したところで彼らは話を聞かないだろうな、と判断し隣にいる達也へ藤林さんへ魔法記録の消去を頼むように伝えた。認識阻害をしたところで街中に設置された想子センサーには引っ掛かるのだから。
(しかし…ここでジローとか言うおじさんを助けたところで旨味がないんだよな…情報とか持ってなさそうだし)
エリカ達をあしらった後呂剛虎に消されるのを阻止することは出来るがリターンが釣り合わないことを考えて朔也は動かなかった。
そんなことを考えながら真夜と共に店のマスターが淹れたコーヒーを楽しんで程なくするとエリカ達が戻ってきたのを確認した。その表情は悔しげにしているのはまんまと逃げられたからだろう事は想像に固くない。
(これまたエリカ達荒れそうだが…まぁ、そこは自分達でどうにかして貰わなければな)
とそんなことを考えながらカップに残ったコーヒーを飲み干した。
九校戦から真夜様を参加させるとしたらどの年代が良いですか?
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十二歳ぐらい(中学生ぐらい)
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十六歳ぐらい(主人公より少し上お姉さん)
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本編(よりは若二十代それで制服を…)